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番長皿屋敷

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番長皿屋敷

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 ここ、キマクからさほど離れてはいないオアシスの町に、一件の食堂があった。
 豪快な女将さんが一人で切り盛りしている小さな店だが、パラ実の学生たちにはよくしてくれるので人気が高い。
 具体的には、お金のない学生には、学生証を見せるだけで食事をさせてくれるのだ。
 もちろん、無条件というわけではなく、皿洗いなど店の手伝いをするというのが暗黙の了解となっている。厨房では、皿洗いをする番長の厳つい姿がよく目撃されたものだ。
 それゆえ、いつのころからかこの食堂は、番長皿屋敷と呼ばれるようになったのである。
「いらっしゃいませ〜、御注文はなんでしょうか、御主人様ぁ♪」
 ココ・カンパーニュ(ここ・かんぱーにゅ)が、注文票片手に精一杯の愛想を振りまきながら言った。
 最近、浮遊島で中型の飛空艇を手に入れた――けっして、誰かからありがたくちょうだいしたとは言わない。――まではよかったのだが、なにせ古い品物だったので、修理したり内装を整えたりで結構物入りだったのだ。
 世界樹にある宿り樹に果実でバイトしたお金でなんとかまかなえたように見えたものの、調子に乗ってあれこれ可愛い内装を整えたものだから、あっと言う間にすっからかんになってしまった。それでも、喜んでドライブとしゃれ込んだのだが、やはりお腹が空くときはお腹が空く。ちょうどキマク近辺だったので、迷うことなく番長皿屋敷に来たのだった。
 当然、ゴチメイたちが飲食した代金は身体で働いて返すことになる。
「じゃあ、いっちょう、近所にある食堂を全部潰して……」
 実にパラ実らしい短絡思考を示したココ・カンパーニュであったが、ゴチメイ隊の良心回路であるアルディミアク・ミトゥナ(あるでぃみあく・みとぅな)に取り押さえられて、普通にウェイトレスとして働いて返すことになった。
 だが、さすがに一日で返すことなどできず、ここ数日皿屋敷に通い詰めている。
 ならいっそのこと、食堂をゴチメイ色に染めてしまえというので、臨時メイド喫茶に模様替えさせてしまったのだった。ところがこれが大当たりで、皿屋敷は連日満員という盛況となった。もちろん、それに付随して皿洗いやメイドのバイトも増えている。
「負けられないですぅ……」
 柱の陰から顔半分だけのぞかせて、ココ・カンパーニュのメイドらしい姿を見ていた神代 明日香(かみしろ・あすか)がつぶやいた。
 イルミンスールの宿り樹に果実でも、ちゃんとメイドとして働いている姿を見た気もする。
 あのゴチメイが、まともにメイドをしているだなんて……。衝撃を受けるとともに、神代明日香のメイド魂に火がついた。
「腕力では負けるかもしれないですけどぉ、メイド勝負なら勝てるはずですぅ」
 神代明日香は、メイドとしてのライバル心をむきだしにして固く小さな拳を握りしめた
「アトラスの傷跡プレートお待ちどおさまですわ」
 その横を、エイボン著 『エイボンの書』(えいぼんちょ・えいぼんのしょ)が、できあがった料理を片手に足早に通りすぎて行く。アトラスの傷跡プレートとは、チャーハン山の中央に麻婆豆腐を入れた、本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)、入魂の逸品だ。
 ビクトリア朝メイド服というシックな姿のエイボン著『エイボンの書』は、食堂内にひしめくメイドたちの中でもまさに正統派メイドという感じがする。
「あれよ、あれこそがメイドの鑑。ああいう姿をみんなも見習うんだよ!」
 メイド指導と称して勝手に場を仕切っている朝野 未沙(あさの・みさ)が、そばにいたメイドたちに言った。
「あん、いいじゃないの何着てたって。メイドは格好じゃないよ、心なのよ」
 ほとんどアーサー・レイス(あーさー・れいす)に誘拐に近い形で連れてこられた日堂 真宵(にちどう・まよい)が、耳の穴に小指を突っ込みながら言った。彼女のスタイルは、いつもながらのチャイナドレスである。
「そのような格好、メイドとしては邪道です。チャイナドレスなら、もうちょっとこう、裾を短く……」
 朝野未沙が、日堂真宵のチャイナの裾をめくってお端折りにしようとする。
「ちょ、ちょっと……」
「もう大丈夫。後は、その残念な胸のあたりを……。なんなら揉んで大きく……」(V)
「コ・ロ・ス……」
 朝野未沙の一言が、日堂真宵のNGワードにふれた。
「この世で最低最悪のカレーという飲み物飲ますわよ……」
 一触即発になった二人の頭を、何者かががしっとつかんだ。
「はいはい、そこまで。店を壊されちゃたまらないからね」
「あががががが……」
 がっしりとつかまれた頭を握り潰される直前にまでされて、二人が泡を吹いてぶっ倒れた。
「邪魔だから片づけておきな」
 がっしりとした体躯の女ドラゴニュートが、エイボン著『エイボンの書』と緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)に言い渡した。この番長皿屋敷の女将さんであるお菊さんだ。さすがは、このシャンバラ大荒野で蛮族相手に店を構える女将さん、半端ない。
「私たちは、いらなかったみたいですぅ」
 万が一に備えて、魔鎧のリフィリス・エタニティア(りふぃりす・えたにてぃあ)を装着した緋桜遙遠が、ちょっとひきつりながら、エイボン著『エイボンの書』と一緒に朝野未沙と日堂真宵を奧へと引きずっていった。
「ううっ、この姿では重たいですぅ」
 緋桜遙遠は、ゴチックドレス姿だったリフィリス・エタニティアを元の姿に戻すと、朝野未沙の左足を持ってもらった。自分は右足を持って引きずっていく。
「これは、メイドの仕事ではないですぅ」
 リフィリス・エタニティアが、持っていた朝野未沙の左足をぐりゅんと持ちあげて文句を言った。
「しょうがないだろ。魔法少女ハルカちゃんの姿じゃ、力が出ないんだから」
 朝野未沙の右足を横に振って、緋桜遙遠が言い返す。
「また口調が元に戻ってますぅ。だめだめですぅ」
 また右足を振って、リフィリス・エタニティアが言い返した。
「二人共、股裂きしてます。スカートめくれてますし、凄いことに……」
 日堂真宵を引きずっていたエイボン著『エイボンの書』が、顔を真っ赤にして注意した。
「オーウ、カレーの食材なら、そこに積みあげておいてくだサーイ」
 運ばれてきた日堂真宵を見て、アーサー・レイスが言った。
「いや、食材は選ぼうよ」
 さすがに、本郷涼介が止めた。放っておいたら、本気で鍋に押し込んで煮込みそうだ。