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番長皿屋敷

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    ★    ★    ★
 
「それにしても、もっとまっとうな服はなかったの?」
 白い割烹着に三角巾を被ったリン・ダージ(りん・だーじ)が、ちょっと不満そうに言った。
「あたりまえだろ。いくらメイド喫茶だとか言っても、あんなスケスケの格好なんてちっちゃい女の子にさせられるかい」
「ちっちゃくなんかないもん!」
 頭ごなしにお菊さんに言われて、リン・ダージが力一杯言い返した。
「どっちにしろ、うちの制服は割烹着なんだよ。あたしが許可しない服を着ているもんと、着替えを持ってないもんは全部割烹着。いいね」
 有無をも言わさず、お菊さんが言う。
「ううっ、リンさんの服を貸してもらおうと思ったのに……」
 紫月 睡蓮(しづき・すいれん)が、とっても残念そうに言った。
「体型も似ているし、きっと似合うと……」
「ちょっと、あたしの服って、今着てるんだから。脱げって言うんじゃないでしょうね」
 紫月睡蓮の言葉に、リン・ダージがプンプンと怒る。
「私は、マサラさんの衣装が着たかったですのに……」
 プラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)も、がっかりしながら言う。
「はいはい、二人共、人の服なんかあてにしないで、早くこの割烹着を着る。いいね!」
 お菊さんに凄まれて、紫月睡蓮とプラチナム・アイゼンシルトが、渋々渡された割烹着に袖を通していった。
 なんとなく、メイドというよりは、給食のお姉さんと給食当番の小学生という感じだ。もちろん、リン・ダージを含めての話である。
「あの……私たちは……」
「ああ、あんたたちは、とまり木とかいう店からの研修だったね。一応、制服とかいうの預かってるから」
 そう言って、お菊さんが、漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)封印の巫女 白花(ふういんのみこ・びゃっか)に服を手渡した。
「これは……」
 漆髪月夜が広げてみると、アリスドレス風の白と青のエプロンドレスだ。
「ゴチメイさんの服とは違うようですね」
 誰からの贈り物だろうかと封印の巫女白花も小首をかしげた。
「あらまぁ〜。それって、ココさんが宿り樹に果実で着ていた制服にそっくりですぅ」(V)
 ちょうど食堂から戻ってきた神代明日香が、その服を見て言った。
「そう……なの?」
「着てみましょう」
 顔を見合わせると、漆髪月夜と封印の巫女白花は着替えに行った。
「サイズはちょうどいいみたいですね」
「うん……。刀真に見せに……行く」
 封印の巫女白花の言葉に、漆髪月夜がうなずいた。
「それは。うん、なかなか似合ってるな」
 厨房でフライパンを動かす手を止めずに樹月 刀真(きづき・とうま)が言った。パートナーたちをメイド研修に出しているのと同様に、彼自身は厨房で調理の研修を行っている。
「ちょうどいい、馬肉のステーキ ディアボロ風ができあがったから持っていってくれ。ちゃんとお礼は言っておくんだぞ」
 すっかりゴチメイからもらったと思い込んだ樹月刀真が、料理を運んでいく漆髪月夜たちに言った。
「お待たせ……ごゆっくり」
 漆髪月夜が、立川 るる(たちかわ・るる)たちのテーブルに料理をおいた。
「わあい、いつものが来たよー」
 立川るるが、両手にスプーンを持って叫んだ。良雄タウンに遊びに行くたびにここに寄っていたので、彼女的には充分に常連である。もっとも、今日は裏で樹月刀真が調理しているとは思ってもいない。
「うん、後で、ブログに写真載せるんだ。ちゃんと写真撮ってね」
「はいはい」
 ラピス・ラズリ(らぴす・らずり)に言われて、立川るるが携帯で料理の写真を撮った。ラピス・ラズリの方は、自慢の絵を一緒に載せるつもりで、持っていたパラミタがくしゅうちょうに、ささっと得体の知れないデッサンを書いている。
「あの、ありがとうございます」
 ココ・カンパーニュを見つけた封印の巫女白花が、ぺこりと頭を下げた。すぐそばには、アルディミアク・ミトゥナもいる。二人共、白いエプロンドレスを着ているので髪の色以外はあまり差異がない。
「なんのこと?」
 ココ・カンパーニュがきょとんとする。
「この制服……」
 自分たちの着ている服を引っぱって漆髪月夜が言った。胸の部分が、ちょっと大きくぴろーんと開く。
「あら、少し大きかったでしょうか」
 アルディミアク・ミトゥナが、さりげなく言った。
「お姉ちゃんの服を新調するときの型紙でしたから。後で、直してもらってくださいね」
 封印の巫女白花よりは慎ましやかな漆髪月夜の胸を見て、アルディミアク・ミトゥナが言った。
「なんだかよく分かんないけど、もし服パクったんなら、ちゃんと使用料払えよな」
「まあまあ」
 腰に手をあててえらそうに言うココ・カンパーニュを、アルディミアク・ミトゥナが背中を押すようにして連れていった。
「あっ、ココちゃんたちも頑張ってるよね。あたしも頑張るから」
 奧に戻ってきたココ・カンパーニュたちを見て、秋月 葵(あきづき・あおい)が言った。
「別に、無理して私たちのためにバイトまでしなくてもよかったですのに……」
 すまなそうに、アルディミアク・ミトゥナが言う。
「手伝ってくれるって言うんだからいいじゃないか」
 悪びれるでもなく、ココ・カンパーニュが言った。
「うん、気にしなくったっていいよ。困ってるときはお互い様だもん。それに、社会勉強にもなるし。ここは突撃魔法少女リリカルあおいにお任せだよ」
 ヒュンとサイコキネシスで大皿料理を宙に浮かべて運びながら、秋月葵が言った。
「ほら、いいって言ってるじゃない」
「お姉ちゃん……」
 ちょっと疲れたように、アルディミアク・ミトゥナはココ・カンパーニュの肩に両手をかけた。