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第六章 哀しみを拭うもの
「さっびいいい!!! どーなってんだよこれ、ホワイトクリスマスってレベルじゃなくね!? こっちに来た時はこんなにひどくなかったのに……っ」
 視界を閉ざす白と白と白に、土御門 雲雀(つちみかど・ひばり)は思わず叫んだ。
 だがしかし、大きく開けた口に容赦なく飛び込んでくる吹雪に、直ぐに閉口する事になった。
「凍死したくなきゃ俺の傍から離れんなよ。俺の炎もどこまでもつか……ヴォルテールの炎が雪に消されるなんざ笑い話にもならねえがな」
 雲雀のパートナーたる精霊・サラマンディア・ヴォルテール(さらまんでぃあ・う゛ぉるてーる)は炎を操りながら雲雀達を先導していた。
 しかし、森を進む内にその表情が徐々に険しくなっていった。
「なるほどな、こりゃ確かにヘヴィだぜ」
「……サラマンディア?」
「渦巻く力が呪歌……呪詛と化しちまってるな」
「!? サラマンディアは大丈夫でありますか?」
「……んな顔してんな、チビ。契約してるからな、大した事はねぇ。だが、普通にテリトリーを守ってる奴らは一たまりもねぇだろうぜ」
 口調ほど余裕がないのは、雲雀には分かった。
「機械が暴走……最後に機械を蹴ったのがそのルルナって嬢ちゃんってとこか?」
「そうであります」
「詳しい事はわからねえが、吹雪がこのまま続けば確実に一人の嬢ちゃんの命が消えるってのは確かだ。それから……巻き込まれてあいつらも、な」
 基本的に精霊は死なない。
 それでも、例外はあるのだと、サラマンディアは苦く呟いた。
「雪の精霊さんたちとお話するよ! あの変てこな機械のせーだと思うけど、どーしてそんなに暴れるのか尋ねてみる!」
 影野 陽太(かげの・ようた)はパートナーであるノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)の熱意に引かれ、吹雪の中を進んでいた。
 氷結の精霊であるノーンにとって、決して他人ごとではない
「無理しないで下さい」
「だ、大丈夫、だよ」
 だが、進むごとにノーンの調子は苦しげになっていく。
「……歌」
「え?」
「気持ち悪い『歌』が聞こえるよ」
「精霊さんたちが怒っているって……、一体何があったんだろう?」
 ともすれば雪に足を取られそうになりながら、久世 沙幸(くぜ・さゆき)はずっと考えていた。
 機械が暴走していることに原因があるのは、間違いない。
 ただ、その事によってどう苦しんでいるのか、話を聞かせて欲しかった。
「精霊さんだって心を持ってるんだもん」
 怒りで今は話ができない状態かもしれない、けれど。
「でも大丈夫、きっと私の『オープンユアハート▽』できっと心を開いてくれるはず。そうやってなだめてからお話を聞かせてもらうんだもん」
 猛吹雪の只中に立ち、沙幸は両手を広げた。
「ねぇ、精霊さんあなたがこの機械によってどう苦しめられてるのか教えてくれないかな? その原因を取り除いてあげたいんだ。」
「精霊さん!」
 そこに響く幼い少女の、声。
 真一郎やケンリュウガーに守られたルルナに、精霊の悲鳴が大きくなる。
「……ダメっ!?」
 ノーンの制止は僅かに間に合わない。
 自分達を苦しめろ元凶……魔力の元たる存在に、精霊達は反射的に攻撃を仕掛け。
「まったく、とんだクリスマスですねぇ」
 タンっ、と舞い降りた佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)は氷の粒から身を呈してルルナを庇った。
 同様に真一郎がルカルカが、動く。
「……誰?」
「通りすがりのクランプス」
 クランプスの仮面を付けた弥十郎は笑みを含んだ声音で告げた。
「お前が周りに悪いことばかりするから、ニコラウスのおっさんから懲らしめるように言われてきたんだよねぇ」
 ルルナが表情を固くしたのと同時、機械の発する『力』が増した事を感じた弥十郎は、自分の推測が当たった事を悟った。
「やはりね。……難しいかもしれないけど、心を落ちつけて。君の魔力は大き過ぎる……それに感情がそのまま機械に伝わっているようだからねぇ」
「責任を感じて装置を止めるつもりが有るのなら、気持ちをしっかり持ってください。出来るか出来ないかではなく、やる気で行きましょう」
 人間やる気になれば不可能なんてありませんよ、やはりルルナを庇いつつ真人はふっと笑ってみせた。
「それに今日はクリスマス。1年で一番奇跡が起こる日なんですから、奇跡の一つもおこしてしまいましょう」
 つられるようにルルナの表情の強張りが微かに、取れた。
 同時に機械の圧力が僅か、緩む。

「雪の精霊さん、怒るのはわかるんだけど話を聞いて」
 感じ取り、芦原 郁乃(あはら・いくの)は精霊達に懸命に話しかけた。
 空気が痛い。
 凍てつく世界で、ただ思いよ届けとばかりに。
「雪を降らさせられている腹立ちは分かるんだけど、それでいいの? やりすぎはあなた達の将来にかかるんだよ? 雪があまりにひどいと、みんな春を待ちわびる。雪で被害を負うとみんな雪を憎むようになる。それでいいの?」
 首を振りながら、言葉を思いを重ねる。
「……」
 わが身の危険も顧みず必死な郁乃を蒼天の書 マビノギオン(そうてんのしょ・まびのぎおん)はじっと見つめていた。
 もし郁乃に危険が降りかかれば即座に行動出来るように、身構えて。
「あたしにとっては雪がどうかなることより、主の身が大事なのですから」
 それでも、ギリギリまで耐える……郁乃の純粋さを心の美しさを、信じているから。
「わたしはやだよ。雪だって綺麗だし、気持ちいいし、楽しめるし大好きだよ。だけどこじゃ、みんな雪を嫌っちゃうよ」
「そうだよ。せっかく雪で楽しもうと思っていろいろ準備したのに……あまりな大雪で外に出ることもできなかったんだよ。そんなのがっかりです、あんまりです、つまんないです」
 郁乃に続き、荀 灌(じゅん・かん)も言葉を紡ぐ。
 だって本当に、楽しみにしていたのだ。
「私はもっと雪と遊びたんだよ!!」
「わたしが機械から解放するようにお願いするから、その怒りを抑えて、雪を降らせるのをとめて」
 その声が思いが届いたように、吹きつける雪の強さが僅か、弱まる。
 届いた、沙幸もまた必死に声を張り上げた。
「お願い、精霊さんたち、力を貸して!」
 弱まったとはいえ口の中、容赦なく雪が飛び込んでくるが、気にしてはいられなかった。
 言葉というより思いを叩きつける……届けるつもりで。
「今、その『歌』を止めるわ……だから、少しの間でいい、耐えて!」
「真打ちはクライマックスに登場するであります!」
「とりあえず、魔力を散らせるぜ! 感じ取れる、手ぇ空いてる奴は力を貸しな!」
 雲雀とサラマンディアは声を上げ。
「お手伝いします」
 マビノギオンが雷術の準備をする。
 魔力を散らせば精霊達が自由を取り戻す……その力を抑えてくれれば、機械を止めるのが容易になる筈だと。
「ワタシも頑張るから、みんなも……頑張って!」
 沙幸の思いはノーンをも力付けてくれた。
 陽太に支えられたノーンは竪琴を奏でながら、【幸せの歌】を口ずさんだ。
 仲間を宥め励ます為、呪歌をかき消す為に。