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第九章 メリークリスマス!
「改めて……おかえりなさい、ルルナちゃん!」
 にっこりと歌菜に迎えられたルルナは、「……ただいま」ともごもご口を動かした。
「これでクリスマスパーティ始められるね!」
「コラ、なんて顔をしてる。皆、お前の帰りを待ってた。ここがお前の帰る場所だろう?……おかえり」
 羽純は言って、低い位置にあるルルナの頭をそっと撫でた。
「さぁ、パーティを始めましょう!」
 涼とユアが覆いを取ると、魔法のように飾り付けられた部屋が現れた。
「この飾り付けキレイでしょう? これもみんなの力作なんだよ」
 みことがにこにこ言うと、担当した子供たちが得意そうに胸を張った。
 そこに遠慮とか隔意とかは感じられなくて、何よりみことはそれが嬉しかった。
「この料理、みんながルルナさんのために作ったんですよ。ルルナさんに喜んでもらいたいって気持ちを込めながら……」
「とても美味しそうだろう? みんな頑張ったんだぞ」
 ベアトリーチェが指し示した料理に、紫音の掛け値なしの褒め言葉に、子供達の何人かが満面の笑みで頷く。
「うんうん、ね、ルルナ食べよう! ほらほらみんなも」
 ベアトリーチェの料理は美味しいんだよ、美羽に手を引かれルルナはくすぐったそうに、食卓に……食卓を囲む輪へと加わった。
「そういえば、これを……通りすがりのサンタから、プレゼントです」
 クスリと笑みを浮かべて真言が差し出したのは、他でもないクリスマスケーキだった。
「さすが真言!」
「ほらほら、折角のケーキが落ちたら大変ですよ」
 満面の笑みでもって抱きついてくるのぞみをやんわりと制止しながら、真言もまたそっと微笑んだ。
「皆さま、お疲れ様でした」
 ケーキや料理を切りわける紫音や風花の横、翔は皆にお茶を振舞い。
「うわっ美味し♪」
「このケーキに乗った雪だるま、プリンスに似てますね」
「ふむ、拙者には及ばぬが中々の出来ではある」
「真人はどのスープにする?」
「俺はコンソメスープをもらいます……美味しいからって食べ過ぎないで下さいよ」
「えへへ〜、分かってますって♪」
 琳やクロセル、真人達は温かな料理に舌鼓を打ち。
「おじさんは帰るよ。家族が待ってるんでね」
 洋兵は言って、預けておいたケーキの箱を掲げてみせた。
 クリスマスは好きではなかった。
 今も……この胸の疼きが完全になくなる事はないのかも、しれない。
 それでも。
 人は何度でも立ち直れるし、大切なものを得る事も出来るから。
 大切なもの、守りたいものを、増やしていける筈なのだから。
「歌菜? どうした」
 そんな笑顔の洪水の中、ふと羽純は尋ねた。
 何やらパートナーの挙動が不審だったからだ。
「うっうん、あのね、今の……いいなぁ、って」
「今の?……ハァ、仕方ないな」
 もじもじと頬を赤らめ上目遣いで見あげられ、羽純は一つ溜め息をついてから、パートナーの柔らかな髪をそっと撫でたのだった。


「ねぇねぇ、クリスマスのお話して?」
 子供達にねだられたフランツは、「そうですね」と柔らかく微笑み説明し。
「元々は冬至を祝う異教徒の祭りが、キリスト教の受容につれて聖夜、に変容したものなどともいわれてるけど」
「我にはよく分からぬが、それは子等の望む『お話』とは違うのではないか?」
 ケーキを上品に口に運びつつの顕仁の突っ込みに「そうですか?」と小首を傾げた。
 その仕草に笑う子供達。
 つられてルルナの顔にもあどけない笑みが浮かび。
「10歳になったとき、ルルナちゃんはどんな女の子になってたい?」
 ついでレイチェルに問われたルルナは、しばらくじっと考えてから、緩く頭を振った。
「分かんない……そんな事、考えた事もなかった」
 明日とか未来とか、今日を生きる事で精一杯だったから。
「なら、考えてみて下さい。ここでなら考えられると、私はそう思いますから」
「これだけは覚えてて欲しいんや。『誰かから気にかけられ心配されていること』『愛されていること』を感じることができたら、人生半分以上は成功や、ってな」
 今は分からんでもえぇ、泰輔に頭を撫でられながら、ルルナは思う。
 泰輔の言葉の意味はよく分からない。
 だけど、今日……こんな風に頭を撫でられたり抱きしめられたり怒られたり、その度に胸の奥がじんわりする感覚は、イヤではなかった。
 もしかしてこれが「嬉しい」という感情なのかもしれない、と。
「えーっと、子供と遊ぶんなら定番ってあれか? 手を持って回転して、振り回すのでいいんだよな?」
「あたしは大人だって……ひゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
 周に反射的に言い返そうとしたルルナはだが、次の瞬間ぐるぐるされて悲鳴を上げた。
 軽い身体は予想以上のスピードでもって、回転しており。
「へ? 大人? ははは、そういうことはもっとグッと来るちち・しり・ふとももになってから言うもんだぜ。将来いい女になるの期待してるぜ!」
「あ、こら、周くん!定番ってそれどこの知識よ!? 女の子にそんなことしちゃダメっていうか、子供にセクハラっぽい発言も禁止!」
 慌てたレミが両手を腰に当て「めっ!」と叱るが、楽しそうにウィンクする周に悪びれる様子はない。
「最後にはぶつよ!? 杖で!」
「……すんません、ちょっと調子に乗りました」
「ルルナちゃん、大丈夫?」
「……うん。ちょっとビックリしたけど、楽しかった
 文字通り目を回しているルルナは、周囲の子供達から問われ小さく小さく呟いた。
「うん、楽しそう。おじさん、僕もやって!」
「あたしも!」
「よし、ガキ共、一列に並びな。それと、お・に・い・さ・んだぞ!」
「まったく、どっちが子供なんだか」
「……子供でいるのも、そう悪くはないかもしれないわね」
 やれやれと優しく溜め息をついたレミは、頬を染め満更でもなさそうなルルカに気付いて口元を緩め。
「おぅよ。兵士じゃねえんだから、ガキはガキらしく素直に甘えて丸投げすりゃいいんだよ」
 六花はその髪をくしゃりと乱暴に撫でてやった。
「つぁんだーそーく、遊んで?」
「おう、任せとけ」
「ケンリュウガーの決めポーズってどんなの?」
 ヒーロー達も既に子供達にまとわりつかれ、せがまれたり遊びをねだられたりしている様子。
「やっぱ子供は笑顔でなくちゃな」
 子供達と戯れながら周もまた、自然と笑顔になっていた。
「良かったですね」
「……まぁな」
 ザカコにぶっきらぼうに答えるヘル、ルルナを見つめる壮太やオレグ達もまた、とても優しい瞳をしていた。

「正直、あなたには複雑な思いがありますよ」
 夜魅を前に、リュースは言葉通り複雑な表情を浮かべていた。
「でも、それであなたを殺したい訳ではありません。家族を喪う痛みを誰かに経験してもらいたくないから」
「……いいの?」
「では、聞きますが、あなたはお父さんとお母さんがいなくなったら悲しいですか?……答えはあなたの中にあるでしょう?」
 夜魅はコクリと頷いた。
 コトノハやルオシンがいなくなったら、悲しい。
 そして妹か弟……まだ見ぬ命とて、消えてしまったら悲しくて堪らない。
「……ありがとう」
「オレは、両親が既にいません。その悲しみを、あなたにも実感して欲しくない。そういうことですよ」
 ホンの少しだけ険しさを緩め、リュースはルルカへと視線を移した。
 自分と同じように、既にその悲しさを知っている、幼子へと。


「折角のクリスマスです。孤児院の子供達が楽しくパーティーに興じることができるよう、俺たちも微力ながらお手伝いします」
「じゃあ皆、一緒に歌っちゃおう♪」
 陽太に嬉しそうに首肯し、ノーンは竪琴と歌を奏で。
「加わらせてもらいましょうか」
「クリスマスセッションといきますか」
 フランツやオルフェが加わり、場が華やぐ。
「お兄ちゃん、お歌上手!」
「ありがと。……ほら、六花も」
「は? 何で俺まで……ッ!?」
 オルフェを怒鳴りつけようとした六花は、子供達の期待に満ちたキラキラした瞳に気付き、詰まった。
「……俺はこいつと違って歌なんて、上手くないぞ」
「「「うんっ!」」」
 嬉しそうな子供達に手を引かれ、歌の輪に渋々入る六花は耳まで赤くなっていて。
 オルフェは微笑みながら、自らもそっと歌に加わるのだった。
「この子も加えて貰っていいかしら?」
 緋雨の手の平の上、ちょこんと乗った小さな機械。
「これ、なぁに?」
「……小雪って言って、オルゴールなの。素敵な音楽を聞かせて下さいって願うと、音が鳴るのよ」
「おるごーる?」
「小雪って、この機械の名前?」
「ええ、そうよ」
 子供達に嬉しそうに答える、緋雨。
「わしは機械には詳しくないが、あれはよいのか?」
 麻羅に問われたクロードは、「はい」と請け負った。
「緋雨さんが心臓部を発見した時には驚きましたが。でも、そうですね。あの大きさですし危険はありませんよ」
「修理は出来なかったけど、せめて……あの子の願いを叶えて上げたかったの」
 緋雨の眼差しの先、小雪に手をかざす子供達の姿がある。
 奏でられたキレイなメロディー、驚いた顔が鮮やかな笑顔へと変わる。
 見守るオルフェ達の顔もまた、優しい。
「あの子は多分、人を笑顔にする為に作られたはずだから」
「ええ、機械はね。人の幸せを選択を広げる為にあるのよ」
 同意するリーンの顔も嬉しそうだった。
「……あっ、機晶姫!? あれ、いじってもいいですか!?」
「……うふふ、先生。とりあえずそこに座って」
「少し懲りた方がいいようですね」
 しみじみしたと思いきや、部屋の片隅で静かに安置された機晶姫に気付き嬉々とするクロードを、とりあえずリーンとカチェアは政敏を相手にするように、笑顔でやんわりと叱りつけた。

 パーティの片隅、アキラはぐーすか呑気な寝顔を見せていた。
 雪かきがてら、『ホーム』の外にかまくらや滑り台を作る、という重労働の後である。
 ちゃっかりケーキやスープやチキンを堪能したが、さすがに限界だった。
「ふふっ、このままでは風邪を引かれてしまいますよ」
 ミルカ先生にパサリと毛布を掛けてもらいながら。
(「明日、目が覚めた子供達、喜ぶだろうな」)
 温かなまどろみの中、アキラは口元をほころばせた。
「何や隣で幸せそうに寝息立てられたら、かなわんな」
 そんなアキラの近くでは優夏が壁にもたれかかるように脱力していた。
「結局、働いてしまった……計画的に引き篭って印税で生活する俺の夢は遠そうだ」
「14歳でそんなダメ人生考えないでよ……生まれてくる子供が可哀想じゃない」
 フィリーネの言葉にギョッと思わず身を起してしまった優夏は、うふふって感じの笑顔に出会い、ズルズルと更に脱力した。
「そりゃそうか、そんな覚えも予定もないしな」
「まぁでも、とにかく良かったじゃない。心配だったんでしょ?、ルルナが自分と同じような人生を歩くんじゃないかって」
 優夏は答えない。
 ただ、眠ったふりで閉じた目元が少しだけ赤い。
「あたしも……あの子には、あたしと同じ思いはさせたくないわね」
 呟きは、小さく小さく誰の耳にも届かなかった。
 危険な存在として封印されていた過去。
 今のルルナの魔力は安定しているように見える、だから。
「どうかどうか、このままで」
 あの子がこのままこの場所で平和に幸せに暮らしていけますように、フィリーネは心の底からそう、祈った。

「いやぁ、無事に事件が解決して良かった、良かった」
「邪魔ですから、ちゃんと仕事をして来て下さい」
 政敏はパーティ開始早々、有栖川美幸嬢に蹴りだされていた。
「うぅ、寒い」
 空には満天の星。
 明日も良い天気になりそうである。
「子供達、喜びそうだよな」
 『ホーム』の庭に並んだ、雪だるま。
 雪だるま王国の仲間たちが作ったそれらに歓声を上げる子供達が目に浮かぶようである。
 それからアキラが作ったかまくらや滑り台。
 『ホーム』から聞こえてくる、笑い声と歌声。
 ジングルベルのメロディに微笑み、政敏はそっと願った。
「『小雪』。本来の力を貸してくれな」
 やがて、何処からともなく、白い華がふわりふわりと舞い降りてきた。
 政敏は目を細め、祈りを込めて呟いた。
「メリークリスマス」
 誰の上にも等しく柔らかい幸せが降りますように。

担当マスターより

▼担当マスター

藤崎ゆう

▼マスターコメント

 こんにちは、藤崎です。
 皆さんのおかげで子供達は楽しいクリスマスを過ごす事が出来たようです、ありがとうございます!
 ルルナを始めとする子供達はまたどこかでお目みえしたいなぁ、と企んでいますのでその時はまたよろしくお願いします。
 ではまた、お会い出来る事を心より祈っております。