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七草狂想曲

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七草狂想曲

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    ★    ★    ★
 
「今年はよい年になりますように」
 お賽銭を投げ入れてから、宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)は静かに祈った。
 ――リース・アルフィンは結婚が決まったらしいし、つつがない新年と新婚生活を迎えてほしい……。
 ――それから、魔法少女協会のメンバーは、皆頑張って修業してるけど、頑張りすぎて怪我や病気したりしないように……。
 ――そして何よりも誰よりも、十二星華の面々、特にティセラ・リーブラ(てぃせら・りーぶら)には幸豊かな一年でありますように……。
 ――それから、アムリアナ様を守り切れず、エリュシオンに国を好きにされた去年だから、新女王陛下や復活されたアムリアナ様――ジークリンデ・ウェルザング(じーくりんで・うぇるざんぐ)様ってお呼びするべきかしら? ――とともに良い一年を過ごしていただきたい……。
『ナンカ、一ごるだデ、モノ凄クタクサン祈ッテル人ガイルネ』
「うん、こっちも負けてなんかいられないよね」
 手に持った福ちゃん人形と会話を交わしながら、橘 カナ(たちばな・かな)も、なけなしの一ゴルダを賽銭箱に投げ入れた。
「明日はもう新学期。いつの間にか小人さんが和歌とか書き初めとかの宿題をみんなやってくれますように……」
「何を祈ってるッスか!!」
 すぱこーんっと、兎野 ミミ(うさぎの・みみ)がまだ白紙のパラミタがくしゅうちょうで橘カナの頭を叩いた。
「いったーい、何するのよ!」
『ソウヨ、ソウヨ』
 橘カナが、福ちゃんと声を揃えて非難する。
「何を言ってるッスか。あれほど十二月中に宿題を終わらせた方がいいって言ったのに、結局今日まで何もやってなかったんッスね!」
「だって、書き初めとか、和歌なんかはお正月の方が雰囲気でるじゃない」
『ダイタイ、書初メトカ和歌トカ、冬ハ面倒ナ宿題ガ多スギヨネ』
「お正月なんだから、もっとのんびりしたいわよねぇ」
 ねえっと、橘カナが福ちゃんと顔を見合わせる。
「そんなこと言っといて、ずっと寝正月だったッス! 習字用具も持ってきたッスから、後でちゃんとやるッスよ!」
「ううっ」
 珍しく本来の着ぐるみ姿である兎の耳をひくひくさせて強い調子で言う兎野ミミの言葉に、橘カナが唸った。
「なんだかうるさいわね……」
「あっ、すまないッス、うるさかったッスか?」
 宇都宮祥子のつぶやきに、あわてて兎野ミミが頭を下げて謝った。
「いや、あなたたちじゃなくて、なんだか福神社の方から悲鳴みたいな物が聞こえるんだけれど……」
 空京神社の次に、福神社でも初詣をすまそうとしていた宇都宮祥子が、ゆっくりと歩きだした。どうも、福神社の方で、何か尋常ではないことが起こっていると、宇都宮祥子の全感覚が告げている。
「私たちも行ってみよう」
『ウン、ソレガイイヨ』
 橘カナも後を追って駆けだす。
「あっ、こら、待つッス。また厄介事に首を突っ込んで、なし崩しに宿題から逃れようとしてもだめッスよ!」
 兎野ミミは、あわてて橘カナの後を追いかけていった。
 
    ★    ★    ★
 
「はあ、なんだかお正月から神社が騒がしいような……。お参りもすませたし、早く帰ろう」
 なんとなく嫌な予感がして、四谷 大助(しや・だいすけ)がパートナーたちを急かした。
「何急がせてるのよ。そんなんじゃ、落ち着いてお参りもできないじゃない。むにゃむにゃむにゃ……」
 振り袖姿のグリムゲーテ・ブラックワンス(ぐりむげーて・ぶらっくわんす)が、あらためて空京神社の拝殿でお参りをした。
「いったい何をお願いしているのやら……」
 やれやれと言ったふうに四谷大助がつぶやく。
「もちろん、これからもずっと大助たちと一緒に遊んでいられますように……かしらね」
 そう答えて、グリムゲーテ・ブラックワンスが意味深に微笑む。本当はなんとお祈りしたのだろう。
「七乃、マスターのために世界一の魔鎧になってみせます!」
 聞かれもしないのに、四谷 七乃(しや・ななの)が元気に答えた。
「はいはい。じゃあ帰ろ……」
「ちょっと待ったあ!」
 さっさと帰ろうとする四谷大助に、白麻 戌子(しろま・いぬこ)が待ったをかけた。
「なんだ、ワンコも何を祈ったか宣言したいのか?」
「ボクの願い? もちろん、大助の唯一無二の相棒でいられますようにさ。グリムには負けてられないのだよ……。って、そうじゃなくて、おみくじだよ、おみくじ。神社に来ておみくじを引かないでどうするのだ」
「分かった分かった。じゃ、みんなでおみくじ引いたら帰るぞ」
 ぞろぞろと社務所にむかうと、四谷大助たちはそれぞれがおみくじを引いた。
「あら大吉。私だし、当然ね!」
 真っ先におみくじを開いたグリムゲーテ・ブラックワンスが叫んだ。
「負けてないな、ボクも大吉だ。恋愛運が高いようだねー」
 白麻戌子が、負けてはいないと大吉のおみくじを広げて見せた。
「わーい、マスター、見てください! 七乃も大吉です!」
 振り袖を着ている四谷七乃も、ぴょんと跳びはねて喜んだ。
「あれ、どうしたんだ大助」
 一人じーっとおみくじを見つめて無言でいる四谷大助に気づいて、白麻戌子が訊ねた。
「――凶だ。なんでオレだけ……」
「それはまあ、日頃の行いかもしれない」
 うんうんと、白麻戌子が納得してみせる。
「せっかくのお正月なのに、私たちのように晴れ着を着てこないから、運気が変わらないのよ」
 振り袖の袖をこれ見よがしに翻して、グリムゲーテ・ブラックワンスが言った。
「そういえば、ワンコだけ晴れ着じゃないのな」
 今さらながらに気づいたように、四谷大助が白麻戌子に訊ねた。
「ボクには似合いそうもないからねー。それとも、ボクが着てるとこ、見たいのかい?」
 ホーリーローブの胸元をチラリとめくりながら、白麻戌子が言った。
「ワンコは似合うも何も胸がなあ……あっ」
「むかっ。振り袖はもともと胸を締めつけるから関係ないんだぞ」
 地雷を踏んだ四谷大助にむかって、白麻戌子が噛みついた。
「わっ、勘弁してくれ!」
 あわてて、四谷大助は福神社の方へと逃げだしていった。
「待て!」
 追いかける白麻戌子と共に、グリムゲーテ・ブラックワンスと四谷七乃たちも後を追っていった。