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リアクション
第4章 魔剣「絵描きさんと薔薇」
一方、フェンリル・ランドールの方にもハイブリッド羽根突きの参加者がやってきていた。
最初に来たのはスレヴィ・ユシライネン(すれう゛ぃ・ゆしらいねん)とアレフティナ・ストルイピン(あれふてぃな・すとるいぴん)のコンビであった。今日は特にアレフティナの方が張り切っている。アレフティナ曰く、
「ようやくやってきました! 今年は私の年です!」
どうやら自分が兎のゆる族であるだけに、卯年になったのが相当嬉しいらしい。
「そんなわけでやって来ました羽根突き会場! さあランディさん、私と勝負ですよー!」
「ん、そうか。では受けてたとう」
「じゃ俺が治療班として待機させてもらおう。ついでに軽く審判でもやるかな」
アレフティナが羽子板を持ち、スレヴィは両者の間で待機する。
「では先攻は私が行きますね」
「ああ。いつでもいいぞ」
アレフティナに対するフェンリルは、羽子板の向きを変え、まるでハンドアックスのように持つ。羽子板を剣のように扱い、板の細い面で羽根を打つつもりでいるのだ。
「それではいきますよー!」
アレフティナの声と共に羽根が打ち出された。
山なりの軌道を描き、羽根がフェンリルに向かってくる。そこを羽子板で斬るようにして打ち返す。フェルブレイドの修行をしており、剣に愛着のあるフェンリルだからこそできる芸当だ。
「むー、やりますね。っていうか最初のスプレーショットは完全に失敗ですか……」
アレフティナは最初、羽根の位置をごまかす目的でスプレーショットを応用して打とうとした。だが残念ながらスプレーショットは「弾をばらまく」のが特徴のスキルであり、銃の弾丸やそれに類するものが複数無ければどうしても使えないのだ。今回使われる羽根は1つのみ。ここで複数の羽根が使えたならば、おそらくは有効な戦法だったであろう――ちなみに同じ銃器類の技であるクロスファイアは、「摩擦熱」で羽根に「炎」を付与したために使えた、ということになる。
「それではこんなのはどうです!?」
アレフティナは次なる手として、フェンリルが打ち返しにくそうな地点をピンポイントで狙い打つ作戦に出た。レオンのそれと同じ、シャープシューターの応用技である。
「……羽子板は『線』の部分だけではなく『面』も有している」
だがフェンリルはその攻撃も難なく返してしまった。剣のように扱っていた羽子板を「板」として持つことで、いくらシャープシューターを使われようとも打ち返すことは可能になる。
「持ち方にこだわりさえしなければ、拾うことは可能だ」
「むむ〜、結構しぶとい……」
次第にアレフティナに苛立ちの色が見え始める。勝てたら「自分の年だから祝福しろ」と言ってやるつもりでいるのに、これではなかなか勝負がつかないではないか!
「それならば――」
この一撃で決めると言わんばかりに、アレフティナが羽子板を大上段に構える。先ほどアルテッツァ・ゾディアックがレオン相手に見せたクロスファイアの構えだ。
「クロスファイアでとどめです!」
言って飛んできた羽根に摩擦熱を加えて打ち返す。フェンリルも、すぐにでも飛んでくるであろう火花付き羽根に備え、再び「剣」として持つ。
アレフティナの羽子板が羽根に当たる。そこから火花と共にフェンリルに向かう、はずであった。
「……?」
軽い音と共に飛ばされた羽根には何の異常も見受けられない。それどころか、むしろ遅いスピードでフェンリルの方へやってくるではないか。
「フェイントか……!」
アレフティナは確かにクロスファイアの技を知っていた。だがあくまでも「知っていた」だけであり、それを「扱う」ために必要な精神力は、まだ持っていなかったのだ。アレフティナはそれを逆利用した。どうせ使えないのならば、使うと見せかけて驚かせてやろう。必殺技をフェイントに使うのはそうそういるはずがない。
それは確かに成功した。だがフェンリルも負けたわけではない。その身体能力を駆使して羽根の目の前にやってくると、横薙ぎに羽根を打ち返した。
「げげっ!」
これに慌てたのはアレフティナだ。フェイントは成功したが、相手に羽根を打ち返されてしまっては意味が無い!
「うぐぐぐ……! 勝負がつきませんね……! それなら……」
またフェンリルとのラリーを再開し、アレフティナが構える。
「とっておきの技をご紹介いたしましょう!」
「またフェイントか?」
「いえ、フェイントなどではありません! これが私の最大のスキル――」
言ってアレフティナは、指を鳴らした。
「野生の蹂躙です!」
「何!?」
アレフティナの指の音は「合図」だった。フェンリルは身構える。まさかこの場に動物の群れが押し寄せることになるとは!
だが、いくら待っても、動物の群れ特有の地響きは聞こえてこなかった。その代わり彼らの方に向かってくる軽い足音が聞こえてきた。
「……って、なんだあれは」
フェンリルが横を向けば、そこにあったのは、アレフティナが乗っている白馬と、どこから連れてきたのかそれにまたがった「事務員」の姿だった。
何のことはない。アレフティナはスキルと偽って、自分が連れてきた動物を試合に投入したのである。確かに馬に蹴られるなどすれば身体へのダメージは免れない。ある意味では野生の蹂躙とでも言うべきだろうか――ちなみにアレフティナは野生の蹂躙のスキルは持っていない。
だがここで彼らの試合に邪魔が入る。
「熱くなりすぎたからって何を突撃させるんだお前は!」
「ぎゃふん!?」
今度は反対方向からまた白馬が、しかもアレフティナに向かって突っ込んできた。これはスレヴィが乗る白馬である。そしてスレヴィの馬はそのままアレフティナを跳ね飛ばした。飛ばされたアレフティナは自分の白馬に激突し、床を数回転がった後に停止した。
結果、この試合はアレフティナの反則負けとなり、無効試合となった。
「熱くなるのはいいが、技じゃなく乗り物や事務員さんを突撃させるなんて、何考えてんだよまったく」
「とかなんとか言いながら墨汁たらすのはやめてくださいよスレヴィさん!」
「反則やらかした報いって奴だろうがストルイピン! あーあ、新年早々こんなに汚して! おかーさん悲しいわ!」
「自分でやっておいて何言ってるんですか!」
「あ〜、ごめんなランディ。ちょっとコイツ救護所まで連れて行くわ」
「はあ……」
そのままスレヴィはアレフティナを救護所まで引きずっていった……。
挑戦者は後を絶たない。続いてフェンリルの元に冴弥 永夜(さえわたり・とおや)と凪百鬼 白影(なぎなきり・あきかず)がやってきた。
「やあランディ、あけましておめでとう。勝負を挑んでもいいかな?」
「あけましておめでとう。構わない、勝負しよう」
「ありがとう。で、審判はパートナーの白影にやらせたいんだけど……」
「もちろんそれも大丈夫だ」
永夜が白影に審判を頼んだのには理由がある。白影は公正な男で、パートナーが参加するからといって贔屓するようなことは無く、また言い訳や泣き言、脅しを通さない頑固な面がある。だから安心して審判を任せられるのだ。
「まったく、何かと思えばハイブリッド羽根突きで親睦を深めることを決めて、で、自分に審判役の依頼ですか」
開かない左目を閉じたまま、白影が呆れる表情を見せる。
「正月風情があって、しかも面白そうでいいじゃない。いい試合になるよう、しっかりと頼むよ」
「……はあ、やれやれ。では不肖ながら、自分が審判を担当させていただきます。勝負事なので、身内であろうとしっかりと判定させていただきます。言い訳などすれば、まあ容赦しませんのでそのつもりで……」
その宣言に了解した2人は、互いに距離をとり、羽子板を構える。
先攻はフェンリル。彼の「剣」の動きを皮切りに、試合が始まった。
「おっと、さすが魔剣士。打ち方も独特だなぁ」
感心しつつも永夜も打ち返す。まずはスキル無しの普通の打ち合いだ。
「あの太刀筋から考えたら、割と強そうだな……。意外とアルティマ・トゥーレなんか使えたりするのか……?」
永夜のその予想は当たっていた。フェルブレイドであるフェンリルは、実はアルティマ・トゥーレまで使える程度の実力者なのである。
(もしそうなら、このままラリーを続行するのはまずい。必殺技を打たれる前に、速攻で試合を決めた方がいいかもしれないな……)
考えた永夜は、すぐさま実行に移す。自身が羽根を打つ際、そこにサイコキネシスを乗せてカーブを描かせたのだ。
これにはフェンリルも驚いた。先ほどまでまっすぐ打ち合っていたところに、急に変化球が飛んできたのだ。
「くっ……!」
羽子板を「板」にし、フェンリルは何とか打ち返す。
「お、今のカーブを打ち返すのか。じゃあシュートはどうかな?」
「反対方向か!」
フェンリルから飛んできた羽根を、またしてもサイコキネシス上乗せで打ち返し、今度は先のカーブとは逆方向に動かす。その羽根は片腕を限界まで伸ばすことで何とか対応する。
「じゃあ今度はスライダーね」
「くっ、速い!」
次は速球の動きから急に変化する羽根だ。フェンリルは羽子板を縦に振り下ろしてこれに対応する。
「やるねぇ、それじゃシンカーなんかどう?」
「今度は落ちる羽根か!」
サイコキネシスによって様々な動きをする羽根に、フェンリルはいちいち対応し、何とか打ち返すことに成功していた。そしてこれは永夜にとって多大なアドバンテージを生み出していた。フェンリルが変化球に対応することに気を取られているため、スキルを使う間が無いのである。
「曲がったり落ちたり、サイコキネシスとは、かなり便利だな……」
「そうだね、使い慣れるとスポ根マンガもびっくりの球が投げられるよ」
そこへ審判から声がかかった。
「永夜。これはあくまでも羽根突きであって、野球ではないのですが」
「さすが白影、誰もがわかってることをあえてツッコむ。そこにしびれるあこがれる、ってものだよ」
「そうですか……」
会話しつつも永夜とフェンリルは羽根突きをやめない。いや、今の状況は羽根突きというよりも、ピッチャー永夜のサイコキネシス羽根を、バッターフェンリルが羽子板で打ち返していると言うべきだろう。
「さて、そろそろ疲れてきたし、いい加減決めさせてもらうよ。今度は直球だ」
「いいのか、球種を教えたりして?」
「予告ピッチングってやつだよ。これで決まったらかっこいいだろう?」
「それはそうだが……」
だがフェンリルは思い直した。相手がそれで来るのであれば、自分は真っ向から勝負するのみ。
「いいだろう。次はアルティマ・トゥーレ上乗せでホームランしよう」
「そう来なくっちゃ」
言って永夜は羽根を打つとともに最後のサイコキネシスを放つ。
コースはまっすぐ。予告通りだ。だがこうまで予告通りだとかえって不安になる。しかしそれでも、あえて乗ろう。フェンリルは羽子板を「剣」にし、板に冷気を纏わせていく。フェルブレイドの技、アルティマ・トゥーレだ。
「絶好球、もらった!」
「おっと残念。フォークボールだったりして」
「うわっ!?」
フェンリルが羽根を打とうとしたその瞬間、羽がまるで意思を持ったかのように下方向へと落ち、そのまま床に着いた。
この瞬間、永夜の勝利が決まった。
「空振り三振、バッターアウトだね」
「……直球だと予告したではないか」
「ゴメンゴメン、嘘ついた。でもおかしいと思わなかった? 羽が手元にやってくるまでずっとストレートに飛ぶなんてさ」
「…………」
「打った後でずっとサイコキネシスを使ってたんだ。いつでも変化させられるようにね」
「で、俺はそれにまんまと引っかかった、というわけか」
「ま、あくまでも羽根突きだし、これくらいは大目に見てよ」
「……仕方がないか」
対戦相手のフェンリルは一応納得はしたが、白影の心中は複雑だった。
(確かに『打った後でスキルをいくらでも乗せていい』というのは反則ではありませんが、それにしてもサイコキネシスでずっと操作するのは、どうなのでしょうか……)
羽根を常時動かすのは確かにルール違反ではないが、どちらかといえばマナーの面であまり褒められたものではないだろう。とはいえ、これはあくまでも「遊び」。実際の真剣勝負ではないので、多少は大目に見ることにした白影であった。
「さて俺からのバツゲームなんだけど、1つ質問があるんだ。それに答えてほしい」
「わかった。で、質問とは?」
「うん、ランディってさ、魔剣集めが趣味だったよな。それで『今までどんな魔剣を集めたのか』、これが知りたい。羽子板型の魔剣にまで反応するくらいだし、純粋に気になってさ」
「どこからその話を聞いたんだ……。まあいい、答えよう。とは言っても、あまり面白いものではないがな」
魔剣の魅力にとりつかれたフェンリルは、暇があればパラミタを渡り歩き、様々な魔剣を収集している。様々な剣や刀に出会ってきたが、それら全てが「魔剣」と呼ばれる類のものではなく、どちらかといえば「特殊能力つきの武器」という印象の方が強い。
「だから『厳密な意味で魔剣』という範疇で絞り込むと、意外とその数は少ないし、今の自分では扱えない代物の方が多い。少なくとも蒼空学園の購買にある『妖刀村雨丸』『ルーンの剣』『処刑人の剣』は手に入れた」
「なるほど」
「……ああ、そういえば一振りだけ変なものを手に入れたことがあったな」
「ほう?」
「誰がどういう目的で作ったのかわからないが、振った軌跡に合わせてオーラが飛び散るサーベルだ。オーラはまるで薔薇の花びらが舞い散るように見え、浮かび上がったかと思えばすぐに消える。演舞で使うにはもってこいだろう」
「薔薇の花吹雪を演出するための剣か。なかなか面白そうだね」
「ただ、これには1つ欠点があって……」
「ふうん、どんな?」
「……呪いかどうかは知らないが、なぜか薔薇の花を1本口にくわえていないと、握ることすら許されない。かくし芸大会以外では使いたくないな……」
「…………」
えらく微妙な呪いだな……。永夜と白影は同時にそう思った。
「ライオン君やフィリぽんも捨てがたいけども、やっぱここはランドール君かなぁ。ふふ〜ん、私のお願い、絶対に聞いてもらうんだからぁ」
軽くスキップしながら師王 アスカ(しおう・あすか)は目的の人物、フェンリルの元へと歩み寄る。目的はもちろん、ハイブリッド羽根突きで遊ぶためだ。
「おひさ〜、ランドール君」
「ん、ああ、師王か。あけましておめでとう」
「あけましておめでとう。ねえねえランドール君、羽根突きしない? もちろんハイブリッドで!」
「わかった。相手になろう」
2人が距離をとると、そこにテスラ・マグメルがやって来た。もちろん審判役として、である。
「他のところが空きましたので、今度はこちらで審判をさせていただきますね」
「ありがたい。是非とも頼む」
アスカを先攻とし、2人のハイブリッド羽根突きが今始まる。
「いくわよ〜ランドール君! またの名をランラン!」
「なんだそのパンダみたいな名前は……」
そんな試合を遠くから眺めている者がいた。アスカのパートナーのルーツ・アトマイス(るーつ・あとまいす)である。
試合前、彼はアスカからこう頼まれていた。
「試合が終わったら餅が食べたいのよ。作ってくれる?」
そして今ルーツは、その希望を叶えようとしていた。東條カガチの屋台を借りて、本郷涼介に手伝ってもらいながら汁粉を作っているのである。
(まあ羽根突きは我にはよくわからないし、それよりも料理をしている方が楽しいからな)
また、ルーツが汁粉を作ると知った時、涼介は非常に喜んだ。大量に作ったとはいえ、さすがに大人数に配っているため鍋の底が見えそうになっていたのである。
「手伝うことがあったら言ってください。できることならやりますから」
「それは助かる。ちょっと出来具合を見てもらいたいのだが……」
こうして羽根突きの参加者はしばらくの間、1杯の汁粉に困らなくなったのである。
さてアスカとフェンリルの試合はどうなっているのだろうか。
2人の勝負はほぼ互角だった。フェンリルは変わらず羽子板を「剣」として持ち、時折封印解凍を行って力を上げ、羽根を強く打つ。アスカの方も負けてはおらず、羽子板を普通に持ってはいるが、フェンリルとほぼ同じ動きでそれに対抗する。
「互角、か……。なかなかやるな」
「私だって伊達に元魔剣士やってたわけじゃないのよぉ」
フェルブレイドの修行をした事のあるアスカは、フェンリルの動きが何となく理解できていた。だからこそ「ある技」は使わないだろうと予測できたのだ。
(ランランはどっちかといえば基本的に真面目。そこから考えて、まず間違いなく『その身を蝕む妄執』は使わない。どうやら大当たりだったみたいね)
アスカのその予測は当たりでもあり外れでもあった。実はフェンリルは、まだその技を使える程度の実力は持っていないのである。仮に持っていたとしても、よほどの事情でもない限りは使わなかったが。
「仕方がない。ここはひとつ決めるか」
アスカから打たれた羽根にフェンリルは正対した。そして羽子板を両手で持ち、板に冷気を纏わせていく。先ほど空振りして不発に終わったアルティマ・トゥーレを改めて使うようだ。
だが相対するアスカは、それに緊張するどころか逆に笑みを浮かべていた。
(来たわねぇ。それが来るのを待ってたのよ。アルティマ・トゥーレをね)
アスカも羽子板を両手に持ち、板に冷気を纏わせる。それはまさに、フェンリルと同じ技――アルティマ・トゥーレである。
「同じ技でカウンターを狙うつもりか。だが……」
板を上段に構え、やってくる羽根を正確に打ち下ろした。
「その前に決めてしまえば済むことだ!」
打たれた羽根が、羽子板から飛び出した冷気と共にアスカの右側を抜こうと飛翔する。
「そうねぇ。確かに決めてしまえば済むし、全く同じ技じゃあカウンターになるかは難しいわよねぇ」
そんな状況でもアスカは冷静だった。なぜなら自分が今から行うのは、アルティマ・トゥーレだけではないのだから。
「それじゃあ、こんなのはどう?」
口角を吊り上げると、アスカは自身に眠る鬼の力を解放した。結果、155程度のアスカの慎重が170まで伸び、その頭に羽根の形をした4本の角が生えてくる。
「これでお終いよ〜! 鬼神の羽子板円舞!」
その瞬間、フェンリルは戦慄した。まさかアルティマ・トゥーレだけではなく、鬼神力まで使うとは!
「そしてひっさ〜つ! ネオ・アルティマショット!」
「ぐわっ!」
鬼神力によって身体能力が格段に上がった状態でのアルティマ・トゥーレ。それは先ほどのフェンリルの一撃を軽く超えていた。
羽根はアスカの右側を通り過ぎるはずだったが、コース変更を余儀なくされ、フェンリルの足元に派手に着弾した。冷気と着弾の衝撃にあおられ、フェンリルの体が数メートルほど浮き上がり、そのまま床を転がっていった。
「勝負あり。勝者、師王アスカ」
テスラのゲームセット宣言が、遠く響いていた。
「さぁ〜て、バツゲームよ。今すぐやれってやつじゃないから安心してねぇ」
「……何をしろと?」
ひとまず怪我から立ち直ったフェンリルが憮然とした表情を見せる。
「勝った私の命令よ。私と友達になって、1日絵のモデルをしてもらうわ〜」
「モデル?」
「私が普段何をやってるかは大体知ってるでしょ? それに、美しい者は大好きですものぉ」
「負けた以上、従うしかないか……」
こうしてフェンリルはアスカの絵のモデルにされるのであった。
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