First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
Next Last
リアクション
第9章
その影――影龍は、夜魅であった。
夜魅はもともと、不吉な存在として封印されていた過去を持つ。その封印の原因であったのが、負の感情を吸い取って世界を滅ぼすという闇龍の眷属である影龍だった。
夢の世界で夜魅が感じていた不安はこれだった。彼女が感じていた不安は、この世界に充満する負の感情であり、それが彼女の記憶の影龍を呼び起こすきっかけとなってしまったのだ。
ろくりんスタジアムとなった街から更に頭ひとつ伸びた影龍の姿は、誰の目にも止まることとなった。
影龍はすでに活動を開始し、まるで泣きじゃくる子供のような金切り声を上げながら、夢の街を破壊し始めている。
もはや誰にでも分かった、争っている場合ではない。あれを止めなくては。
「あれを見て!!」
「うむ……間違いない……夜魅だ」
それは当然、コトノハ・リナファとルオシン・アルカナロードの目にも止まる。夜魅のパートナーである二人には影龍がどれほど危険な存在か分かっている。ここがカメリアの作りだした夢の中であるとはいえ、あれを放っておいては危険だ。
「夢の中で死んだら……どうなるんでしょう?」
コトノハがぽつりと呟くが、それに答える者はいなかった。
「さて……これはやっかいなことになりましたね」
獅子神 玲は呟いた。影龍が復活したのを見て、さすがに食べている場合ではないと外に出て来たのだ。
その手には誰かの作った骨付き肉がしっかりと握られているが。
骨付き肉をぺろりと平らげ、骨を捨てた玲はごちそうさま、と手を合わせてから七枝刀を取りだした。
「ここが夢の中ならば……頼るべきは物質ではなく、強い意思と鍛え抜かれた技……!!」
目をつぶり、イメージを広げた。相手が巨大だということは、言い変えればこちらの攻撃が当りやすいということになる。
七枝刀が光を帯び、光が長く長く伸びていく。玲は目を見開き、影龍に振り下ろした。
「さあ皆さん!! 私に続いてください!!!」
影龍をも凌駕する長さになった七枝刀によるソニックブレードが炸裂した!
玲の攻撃を受けてもんどりうつ影龍、それが合図だった。
「よっしゃ、行くぜー!!!」
アキラ・セイルーンが乗るクェイルがアサルトライフルを乱射する。さすがにイコンの銃の威力は凄まじく影龍の体のあちこちに大きな風穴が開いていく。
「愛と正義の突撃魔法少女リリカルあおい☆華麗に参上だよっ!!!」
夢の中の街でカメリアを追いかけていた秋月 葵(あきづき・あおい)は華麗に変身した。
そのパートナー、エレンディラ・ノイマン(えれんでぃら・のいまん)も葵の魔法で空を飛びながら、影龍に攻撃していく。
「まったく……イタズラする子は、お仕置きしちゃいますよー!!!」
素早い動きで影龍を翻弄しながらも、葵の光術とエレンディラのサンダーブラストで超高速の連続攻撃!!
「ライトニング・サンダーストーム!!!」
「よし。行くぞ、瑠璃!!」
「うむ、私の正義の拳で叩きのめしてくれる!!」
相田 なぶらは光る箒で高く舞い上がり、木之本 瑠璃は軽身功の素早さでで地面から影龍を攻撃する。
瑠璃は影龍の体の下を駆け抜けつつ、めったやたらに殴りつけた。
「でやぁぁぁぁ!!!」
なぶらは光る箒だ上空から急降下しつつも、両手に握ったナイトの剣、シュトラールで影龍を一直線に切り裂いていく!!!
「とりゃあああぁぁぁ!!!」
刹姫・ナイトリバーと黒井 暦もさすがに応戦の手を止めて、影龍に向かった。
「……どうやらここで休戦のようね、ヨミ」
「どうやらそのようじゃのう。まあ仕方あるまい、わらわとお主の決着はまたいずれ、じゃな」
「仕方がないわね」
す、と。二人は影龍に向かって手を伸ばした。
「刹姫・ナイトリバーの名において命ずる――」
「黒井 暦の古の契約において――」
二人は同時に召喚の呪文を唱えた。もちろん本当はそんな召喚術は知らない。だが、夢の中ならできるはず。
「清らかなる堕天使よ――大いなる闇の国より来たりて、我らの敵を討ち滅ぼしたまえ!!!」
そして、本当に来るから始末が悪い。
空が大きく開いて、白い翼と黒い翼を持つ天使のようなものが降臨し、金と銀の瞳を見開いた。その両手から光術と闇術を同時に駆使し、影龍にダメージを与えて行く。
「これ、現実の世界でもできないかしら……」
と、刹姫は呟くのだった。
上空に突然、炎が上がった。陽桜 小十郎の火術だ。
「ほうほう……これは面白い」
エンシャントロッドを振りかざすと、その巨大な炎は渦を巻き、やがて大きな文字を形作っていく。
それは、火で書かれた『炎』という文字。
「夢の中で書き初めも、オツなものじゃな!!!」
さらにロッドを振りかざすと、炎の文字が砕け、影龍の頭上に滝のように降り注がれる。
それは、まるで大きな花火だった。
☆
「儂はそろそろ行かねばならぬ」
ヴァル・ゴライオンの腕の中にいたカメリアは、そう呟いた。
「――ああ。あれを止めるんだろ?」
「うむ……皆をこの夢に巻き込んだ責任は、儂にある」
「俺も――手伝うぞ」
カメリアは、首を横に振った。
「いや、これは儂の仕事じゃ。どうか……ここで見ていてくれぬか」
「――分かった。それが、カメリアの望みならば」
カメリアはありがとうと一言呟いて、一枚の花びらになった。
「――行くのか?」
皐月は、いつの間にか間近で演奏を聞いていたカメリアに聞いた。
「ああ、そうじゃな。お主の演奏をずっと聞いていたかったが……仕方あるまい」
ふ、と目を伏せるカメリア。
皐月はギターを置き、どこからかサックスを取り出した。演奏できるかわからないが、まあ夢の中だ、何とでもなるだろう。
「カメリア……生きてるとまあ、色々あるだろうけどな、結局はどうにでもなるもんなんだよ。俺が言えた義理でもねーけどよ、やっぱその一日一日を大切に……楽しまなけりゃいけねぇよ」
「……そうじゃな。戻ったら、儂もお主を見習ってみるとしよう……ではな、楽しかったぞ。ありがとうな」
皐月は、手にしたサックスを吹き始めた。一枚の花びらと化し、光を放つカメリアの声が響く。
「最後にひとつ――この曲は何という曲じゃ」
「――スウィングしねーと意味がねぇ」
それは、古いジャズナンバーのアレンジだった。ジャズ特有のスウィングというリズムが、軽快に流れていく。
皐月の演奏を聞きながら、カメリアの花びらは飛んで行った。
見ると、街中に散っていた花びらがそれぞれに光を放っていた。それらはやがて空へと立ち登り、一直線に影龍へと飛んで行く。
「グギャアアアァァァ!!!」
数々の攻撃を受けていた影龍が叫んだ、カメリアの分身が変化した花びらは影龍の喉のあたりに円く突き刺さり、一輪の花のような形を作った。
「――夜魅!!」
コトノハが叫んだ。その花の中心に、影龍に取りこまれた夜魅がいたのだ。
「任せろ!!」
先ほどまでレッサーワイバーンでカメリアの分身と戦っていたエヴァルト・マルトリッツが飛んできた。
「パラミティール・ストライク!!!」
龍鱗化した両手で突き刺さった花びらに向けて則天去私を放つ。すると花びらの刺さった影龍の皮膚が砕け、夜魅がその姿を現した。影龍の内部に取り込まれているようにして、目を閉じている。
「アイン!!」
「朱里、無事か!!」
アイン・ブラウも影龍の存在に気付き、朱里のところに戻ってきていた。その側にはコトノハとルオシンの姿もある。
「夜魅が見えたわ!!」
と、コトノハは再び叫んだ。ルオシンは自らの光条兵器、『エターナルディバイダー』を構えている。
ルオシンとコトノハは叫んだ。
「夜魅ーっ! 早く帰ってきなさーい!!」
その声に呼応して、夜魅の瞳が大きく見開かれた。
「はーーーいっ!!!」
元気良く返事をして、エヴァルトが切り取った部分から勢い良く飛び出す夜魅。コトノハとルオシンのところに着くと、コトノハに抱き着いた。
ルオシンが叫ぶ。
「よし、決めるぞ! 皆の力をここに!!」
エターナルディバイダーを示すルオシン、その声にアインと朱里が応えた。
アインの光術!
「――夢の力を光に変えて!」
朱里の光術!
「――愛の力を光に変えて!」
コトノハの破邪の刃!
「――眩しく輝け、未来の光!!」
4人の力が一つになって、影龍を貫く!!
「エターナル・ハートキャッチ・フラーッシュ!!!」
エターナルディバイダーから放たれたハート型の光線が、影龍の胴体に大きなハートの形の穴を開けた。動きを停止する影龍、その上空にいた秋月 葵がとどめを刺す。
「いくよ、エレン!!」
「はい、葵ちゃん!!」
二人の力を一つに集結する。
「マジカルステッキ、バスターモード!」
葵のマジカルステッキが変化する、力がみなぎっているのを感じた。
そして葵とエレンディラの合体攻撃が夢の街に流星の雨を降らせる!!
「いっくよー! これが私の全力全開!! スターダスト・ストーム、フルバースト!!!」
それはまさしく夢のような光景だった。夜空から次々と降り注ぐ流星の嵐が、影龍を消していく。
流星が収まるにつれ、影龍が跡形もなく消え去っていった。
そうして、夢が終わった。
First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
Next Last