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虹の根元を見に行こう!

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虹の根元を見に行こう!

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「見るからに世間知らずのお嬢様って感じですね。しかも、そんなお嬢様が一人で虹の根本を探すために冒険に出るなんて」
 フェルブレイドの御凪 真人(みなぎ・まこと)は、遠目でシルキスを見ながら、そう呟いた。
「だからアテネ達で一緒に行くんだよ!」
「一度だけ虹の根元を見たことあるけど、地面にくっつかないでポッカリと浮いてるのよね」
「そうなんだ、初めて知ったよ」
「虹の根元には宝が埋まってるって言うけど、ロマンチズムに解釈するなら、そのぽっかり浮かんだ部分にある宝の名前は、希望、ね。見えないからこその不安と、それ以上の姿が見えないからこその無限の広がりがあるのだと思う」
 ジャスティシアの宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)の言葉に、アテネはふんふんと頷いた。
 虹の根元がないことで落胆しないように傍で勇気付けようとだけ考えていたアテネにとって、その考えは納得するものだった。
「彼女、ひょっとして勇気は有るんじゃないですか? 知らない場所に1人で向かおうとする事は十分勇気が有ると思いますけど。それに気付いていないのか、それとも手術の方が怖くて逃げ出しているのか」
「きっとどっちもだよ! だから皆で希望を掘りに行こう!」
 真人の指摘は十分に的を得ていた。
 だからこそ、とアテネは声を張り上げ、拳も突き上げた。
「それで、そんなお嬢様がふらふら歩いてたら、絶好の鴨としてパラ実生に絡まれた、と」
 今ここで話すべきは、彼女の本質でも虹の根元の話でもなく、対策の話なのだ。
 話を聞いていた祥子のパートナーであるシャンバラ人のセリエ・パウエル(せりえ・ぱうえる)が、話題をうまく本筋に乗らせるように切り出した。
「忘れてた! アテネ達でパラ実生を追い払ったけど、きっとまたくるよ! この前のお礼をしにきたぜ、ヒャッハー、って!」
「それじゃあ……」
 と、真人と祥子が切り出そうとした時だった。
「うゅゅっ♪ アテナっ! アテナっ! あいたかった、の♪ いっしょにがんばろー、なの♪」
「うわ、エ、エリーか!?」
 アリスのエリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァ(えりしゅかるつぃあ・にーなはしぇこう゛ぁ)が、視覚外から抱きついてきた。
 アテネは驚くものの、それがすぐにエリシュカだとわかった。
「アネテといっしょ、なの♪」
「エリーといっしょ、なの!」
 頬擦りしてくるエリシュカの真似をしながら、アテネはそれをくすぐったそうに笑って受け止めた。
「はいはーい、アテナと瑛菜おねーちゃんの友達その1ですよ、っと」
 サムライであり、エリシュカのパートナーであるローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)が挨拶に出た。
「おお、アテナではないか。瑛菜の居らぬ所で練習をしておったとは、殊勝な心掛けだの。誰であれ、直向きに奮励する者は愛きものよ」
 同じく、英霊のグロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)も挨拶に出たが、ローザマリアには少し不服だった。
「何か違うなぁ」
「……う、む。あー、アテネと瑛菜の友人其の弐だ」
 察して少し頬を染めながら新たに挨拶を付け加えた。
「御方様、やはりわたくしも……」
「もちろんよ」
「あ、アテネ様と瑛菜様の友人その3になります」
 ハァと溜息を付け加えながら、同じく英麗の上杉 菊(うえすぎ・きく)も挨拶した。
「うゅ、アテネラブのエリーがその4で、ナンバーワン、なの!」
 そして最後には、未だハグし続けこのまま押し倒さんという勢いで、エリシュカが締めた。
「何だか奇怪な依頼文だったけど、ようはパラ実生にまた絡まれる可能性があるのよね。私達は護衛のつもりできたのだけど」
 ローザマリアのその一言が、真人や祥子の全てだった。
 となれば、目的が同じ者同士、手を組まない理由はない。
「シルキスには虹の根元を見届けて欲しい。だから私も協力する」
「そうですね。護衛しつつフォローに回りますか」
 祥子と真人、ローザマリアが見合って1つ意思統一の頷きを見せた。
「では、私は殿を務めます。セリエは上空からお願いしますわ」
「わかりました、お姉さま。ドラゴンライダーとしてひとっ飛びしてきます」
 セリエはレッサーワイバーンを呼ぶと、それに跨った。
「お待ちください。わたくしも共に行きます。それでは、御方様、行って参ります」
 菊はセリエを呼び止めると、小型飛空挺に乗り込み、互いに見合って上空に飛翔した。
「なら俺は護衛に回る人などに話をつけてきます」
 真人が手を挙げてその場から離れ、別の群衆に向かうのと入れ違いで、シルキスとラナ達がやってきた。
「アテネ、私達はどこへ向かえばいいのですか?」
 ラナは今更ながらに、アテネの目的地を聞いた。
 虹を探すのだから、水辺の近くだろうかと推測はしていたが、アテネの答えは違ったものだった。
「キマクの北の平原だよ! ここからちょっと歩いて、それでちょっと森っぽい所歩いて、そしたらそこだよ!」
「北の平原ですか?」
 あまりに道の説明が大雑把すぎて、本当にそこで合っているのかという意味合いも込めて聞き返した。
「北の平原!」
 が、アテネの答えは変わらなかった。
 しかし、意外な反応をシルキスは示した。
「まあ、平原に虹ですか。やはり虹は橋とも言われるくらいですからね」
 シルキスもラナ同様の疑問を抱いたが、予想外の場所だからこそ、信憑性が高まったと興奮したように言った。
「わかりました。その場所まではどのくらいですか?」
「うーん」
 アテネの視線が一瞬、シルキスに移った。
「歩いて3時間……ちょっとくらいかな」
 旅慣れも、歩き慣れてもいないであろうシルキスを考慮して考えたのは明白だった。
 だがヴァイシャリーからキマクまで来たほどであるし、何より多くの仲間がいる。
「わかりました。少し歩くお散歩ですね」
「そうだね、シルキスと虹の根元へお散歩だよ!」
「天気もいいし、素敵だと思いま、ぁっ……」
 吹いた風に飛ばされそうになった帽子に、揺れる淡いピンク色の髪、ドレスの裾。
 全てが旅には不向きだった。
 それを自覚しているのか、シルキスは少し俯き加減に頬を染めた。
 そんな格好でここまできた自分の姿を思い出しているのだろうか。
 いずれにせよ、向かう先は決まったのだ。
「よおし、出発!」
 晴天に透き通るアテネの声で、一向は歩みを始めた。
 隠れた虹の名所――キマク北平原――へ向けて。



 道中はまさに大人数での楽しい散歩、という雰囲気があった。
 暖かい陽光が、少し肌寒い風を打ち消し、歩き続けた身体はポカポカと温かくなり、それは心地良いものだった。
 時折、大きな木が並ぶ道に入ると、まるで森林浴をしているような気分にさせた。
 天気同様、皆の気持ちも快晴だった。
 気付けばシルキスの周りには、彼女を勇気付けようという者で溢れていた。