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第1回魔法勝負大会

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第1回魔法勝負大会

リアクション

 
 

1.大会事務室

 
 
「それで、気絶した生徒たちの保護は、臨時に奧の用具置き場を救護室に割り当てまして……」
「ふむふむですぅ」
「出場選手たちは、他の選手の作戦が見えないように個室に待機させてありまして……」
「うんうんですぅ」
 修練場を改造したベルバトス・ノーム(べるばとす・のーむ)の説明に、エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)がうんうんとうなずく。
 もうしばらくすると、第一回魔法勝負大会が始まる。
 それに合わせて、世界樹の中の修練場は大改造が行われていた。
 床はマジックスライムが埋め尽くしており、敗者が落下するのを今か今かと待ち構えている。このスライムにふれれば、魔法防御用に魔糸を使っている衣服は縫合が解けてバラバラになってしまう。決して服が溶けてしまうわけではないが、ザンスカールやイルミンスールで広く流通している服や下着は魔糸を使っている物が多いので、うっかりするとすっぽんぽんになる。
 もちろん、怪我防止と罰ゲームをかねているとはいえ、若い生徒の裸体を無条件で晒していいというものではない。それに対しては、エリザベート・ワルプルギス校長が学校指定水着を着て対処するようにとちゃんと指導してあった――はずだったのだが……。
「いたいた。校長、ちょっと聞きたいことがあるんだが」
 アーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)に連れられてきた緋桜 ケイ(ひおう・けい)が、エリザベート・ワルプルギスに声をかけた。
「なんですぅ。今、私は忙しいんですぅ」
「いや、なんで、マジックスライムなんかを緩衝材にしたのか、聞いておこうと」
 ちょっとむっとしたような顔のエリザベート・ワルプルギスに、緋桜ケイが訊ねた。
「大丈夫ですぅ。負けてもまだ攻撃しようとかいう不埒者がいると困るのでぇ、負けたらスライムで気絶してもらうのですぅ。あれは私が飼い慣らしてありますからぁ、つかまえた人間をつつみ込んで窒息などさせないですぅ。だいたい、あれは、魔力しか食べませんからあ、人間は食べないですぅ」
 いい考えだろうと、エリザベート・ワルプルギスが言った。魔力や精神力を好んで吸収する性質を持つマジックスライムは、捕獲した者を酸などで溶かさない代わりに、精神力を根こそぎ奪い取って気絶させてしまうのだ。
「でも、魔糸は食べるだろう。そしたら、負けた生徒はすっぽんぽんなんじゃ。これじゃ、風紀委員会とかがもっと騒ぎそうなもんだが……」
「正確には、魔糸を使ったステッチの呪紋が崩れて、魔糸の作る魔法結界が力を失って崩壊するときに、衣服などの縫製を解いてしまうのじゃがな。別に服が溶けてしまうわけではないのじゃ」
 アーデルハイト・ワルプルギスが、説明した。
 ここザンスカールの特産品に、魔糸という物がある。パラミタ蚕などの糸に、魔力を付加して強化した糸だ。糸自体に魔力があるため、これを用いて服を作るときに、特殊な縫合をすることによって魔法防御力を衣服や鎧に付加することができる。ステッチ自体が、ルーンなどを織り込んだ呪紋となっているのである。強力な反面、魔糸は魔力を失うと、反動で簡単に崩壊してしまうという欠点もある。散り散りに切れてしまうのだ。
「だから、すっぽんぽーんが嫌なら、学校指定水着を着ておけと言っておいたですぅ」
 問題ないと、エリザベート・ワルプルギスが言いはった。
「水着関係は、たいてい魔法防御がついておるぞ」
 アーデルハイト・ワルプルギスが、鋭く突っ込んだ。
「……」
「なぜ目を逸らすのじゃ!」
 すっと横をむくエリザベート・ワルプルギスの顔を両手で押さえて正面をむかせると、アーデルハイト・ワルプルギスが怒鳴りつけた。
「素で、忘れておったな」
「だ、大丈夫ですぅ、なんとかするですぅ」
 アーデルハイト・ワルプルギスに言われて、エリザベート・ワルプルギスが、パチンと手を打ち鳴らした。
 とたんに、床に多数の小人の小鞄が現れた。自然とその口が開き、中から小人さんの団体がぞろぞろと現れる。
「全員、控え室に行って、希望する生徒たちの水着を普通の糸で縫い合わせてくるですぅ。急ぐですぅ」
 エリザベート・ワルプルギスの命令一下、小人さんたちが針と糸を持ってわらわらと飛び出していった。
「これで大丈夫ですぅ」
 えっへんとぺったんこの胸をはるエリザベート・ワルプルギスに、アーデルハイト・ワルプルギスがやれやれという顔をした。こんなことで、この大会は無事に済むのだろうか。
「とりあえず、よく報告してくれたのじゃ。他からも同様の問い合わせがあってな、まあ、これでなんとかなるじゃろう」
 アーデルハイト・ワルプルギスは、緋桜ケイを観客席にむかわせると、自分はエリザベート・ワルプルギスと一緒に放送席へとむかった。