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第1回魔法勝負大会

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第1回魔法勝負大会

リアクション

 
    ★    ★    ★
 
「第三試合、駿河北斗選手対、鳴神 裁(なるかみ・さい)選手です」
「どうやらクリムはやられたようだな。俺は負けねえぜ」
 武舞台の上で、駿河北斗が握った両手を眼前で合わせた。まるで見えない鞘から剣を引き抜くような仕種をすると、そこに光術で作りだした光の剣が現れる。実際の剣ではないから切り結んだりはできないが、そこはフェイタルリーパーとしての駿河北斗の矜持である。
「魔法も満足に使えねえで魔法剣士が名乗れるか! 実戦で鍛えた俺の魔法、避けられるもんなら避けてみやがれ!」
「いいねえ、こういう戦いは燃えるよね。来てよ、ドール・ゴールド(どーる・ごーるど)!」
 鳴神裁が呼ぶと、ヤンキーに囲まれて観客席に控えていた魔鎧のドール・ゴールドがヒュンと観客席から姿を消した。
 するんと、鳴神裁が着ていたアイドルコスチュームを肩からすべり落とすと、その下から先ほどまでとあまり変わりのない魔鎧が現れた。青い強化ラインが増え、ちょっと厚みがましている。だが、少し露出も増えたのではないだろうか。
 下に落ちたアイドルコスチュームは、不思議なことにひとりでに動いてたたまれていった。コンジュラーには、そこに青いスライム状のフラワシがせっせと服をたたんでいる姿が見えただろう。
「青いスライム……じゃなかった、青い汁は健康の源。健康促進戦隊ソレンジャイ・ブルー!」
 鳴神裁が名乗りをあげる。
「一撃で決めるぜ」
 駿河北斗が、作りだした光の剣を大上段から振り下ろした、その剣が手からすっぽ抜けたように見える。
「今だわ。我は鳴神。神の鳴動。轟け神鳴の一撃!」
 鳴神裁が、両手に持ったワンドをクロスさせて叫んだ。その交点から発せられた雷光が、パチパチと空中を渡って駿河北斗の背後から襲いかかるが、あっけなくバリアに弾かれた。
 同様に、駿河北斗の攻撃も外れたと思われたのだが……。
 すっと、見えない剣を鞘に収める仕種をすると、駿河北斗がクルリと鳴神裁に背をむけた。どうしてと思った鳴神裁の背中を、真一文字に戻ってきた光の剣が直撃した。
「きゃ、落ち、落ちる、落ちる!」
 空中で両手をバタバタした鳴神裁だったが、それで自身を支えることも、サイコキネシスで回避することもできずにボチャンとドール・ゴールドごとスライムの海に落ちた。
「ひゃぁぁん、らめぇ……はうっ」
「こ、これは。いくら布製だからって、スライムがボクに染みてくる……。ぎもぢ悪……」
 しっとりとスライムに染み込まれてスケスケになりながら、ドール・ゴールドが鳴神裁と共に気絶した。
「勝者、駿河北斗選手!」
 
    ★    ★    ★
 
「第四試合、カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)選手対、ベリート・エロヒム・ザ・テスタメント(べりーとえろひむ・ざてすためんと)選手です」
「イルミンスール魔法学校の校名とエリザベート・ワルプルギス校長の名にかけて、絶対に勝ちます!」
「ようし、頑張るのだ!」
 決意に満ちた足取りで橋を渡っていくカレン・クレスティアにジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)が声援を贈った。
「そんなに気負ってどうするのです。今、テスタメントが神の威光を示してあげましょう。もし、テスタメントに勝つことができましたら、テスタメントの写本の許可を与えましょう」
 武舞台の上にちょこんと立ったベリート・エロヒム・ザ・テスタメントが、大きく手を広げてカレン・クレスティアに呼びかけた。すでにいろいと日堂 真宵(にちどう・まよい)に吹き込まれていて、なんだかんだでこの大会の主旨自体を勘違いしている。
「そんな許可いらないわ。おとなしくスライムの海に落ちてよね」
 身構えたカレン・クレスティアが、炎の精霊の召喚呪文を唱え始めた。
「異界より来たりし我が友よ、その聖なる業火で敵をつつめ!」
 カレン・クレスティアが蒼き炎の杖を掲げると、その先端から吹き出した炎が大きな龍の姿をとって咆哮をあげた。
「そ、そんなものでは、テスタメントは怯みません。このメロンパンを渡すわけにはいきません! 逆に、あなたのメロンパンをいただきます! 光あれ!」
 両手を組んで祈りを捧げながらベリート・エロヒム・ザ・テスタメントが唱えた。どうも、メロンパンを取り合う戦いだと吹き込まれているらしい。
 ベリート・エロヒム・ザ・テスタメントの訳の分からない言葉には耳を貸さず、カレン・クレスティアが目標を杖で指し示した。炎の翼を打ち鳴らして、炎の聖霊がベリート・エロヒム・ザ・テスタメントにむかっていった。右側からその口で一呑みにしようとするが、バリアにふれたとたん、炎の聖霊は弾けるように小さくなって元の世界へと返還されてしまった。
 逆に、上から降り注いだ光がカレン・クレスティアの視力を奪った。
「メロンパンちょうだい、メロンパンちょうだい、メロンパンちょうだい……」
 呪いの言葉のような幻聴が聞こえて、思わずカレン・クレスティアが武舞台からよろけ落ちた。
「はうぅ〜。まだ修行が足りないみたい……。目指すべき所は、遥か遠いよ〜」(V)
 ポチャンとスライムの海にすっぽんぽんのカレン・クレスティアが浮かぶ。
「何をしているのだ」
 あわててジュレール・リーヴェンディが宙を飛んで回収に行く。
 着替えの服でカレン・クレスティアをつつむと、ジュレール・リーヴェンディはSPリチャージを行いつつ、彼女を救護室に投げ入れた。
 その肩をちょんちょんと叩く者がいた。なんだか、急激に力が抜けていく。
 振り返ると、ジュレール・リーヴェンディの前にマジックスライムがこんもりと盛りあがっていた。
「嫌あ〜!」
 なぜか、意識を取り戻したはずのカレン・クレスティアの悲鳴が、背後の救護室の中から聞こえる。いったい中に何があるというのかと思う間もなく、マジックスライムの偽足がぴとっとジュレール・リーヴェンディの額にくっついた。
「勝者、ベリート・エロヒム・ザ・テスタメント選手」
 
    ★    ★    ★
 
「第五試合、エッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)選手対、ニーナ・イェーガー(にーな・いぇーがー)選手です」
「おっ、今度はエッツェルの出番か。頑張ってこいよー」
 椎堂紗月の声援が客席から聞こえる。
「美しい、まるで一輪の薔薇のようだ……しかし、その棘が私に届くことはないでしょうけれどねぇ」
 赤きトーガを纏ったエッツェル・アザトースが、ニーナ・イェーガーを見て、場所柄もわきまえずに口説き始めた。
「なんだあいつは、俺様の玩具に。ニーナ、とりあえず落としとけ」
 虎視眈々とスライムまみれになったすっぽんぽんのニーナ・イェーガーを堪能するという悪巧みに燃えていたスタンリー・スペンサー(すたんりー・すぺんさー)だが、とりあえず今回は応援に回るようだ。
「さすがに緊張しますね……。でも、教わったとおりにすればいけるはずです……。集中、集中……」
 そんなスタンリー・スペンサーを頭ごなしに信じているニーナ・イェーガーは、事前に渡されたイルミンスール制服と、もしものときのためという光学モザイクをぎゅっと握りしめて武舞台の上に立っていた。
「ルールによって縛られる……そんな競技のような戦いも、たまにはいいものです。さあ闇よりも暗き闇を……さしあげよう」
 エッツェル・アザトースがトーガを大きく翻すと、彼の身体から澱んだ闇がまっすぐニーナ・イェーガーにむかって迸った。
「はっ!」
 対するニーナ・イェーガーの方は、素早い動きで突き出した右腕に軽く左手を添えて火球を撃ちだした。ゆったりとしたカーブを描いてエッツェル・アザトースの右側に命中した火球であったが、バリアによって散り散りにされて消えてしまった。
 残念だと思う間もなく、ねっとりとまとわりつくような闇がニーナ・イェーガーにまとわりついた。
「なあに、これ。気持ち悪い……」
 よろめいて、ニーナ・イェーガーがスライムの海に落ちる。
「大丈夫、ちゃんと平気な服着てる……」
 薄れゆく意識の中で安心して大の字にのびるニーナ・イェーガーであったが、実際にはスタンリー・スペンサーの術中に完全にハマっていた。
 嫌な予感がしたのでちゃんとスポーツタイプのブラとショーツを着ておいたまではよかったのだが、あっけなくバラバラになったイルミンスール制服の代わりに、スタンリー・スペンサーに渡されていた光学迷彩がバッチリと胸と股間をピンポイントで隠していたのだった。この場合、ちゃんと着ている下着がぼかされて、まるで何も着ていないかのように衆目には映った。むしろ、すっぽんぽんよりエロい。
「もちっと近くで撮りたいが、まあ、しかたないか」
 隠しカメラで一部始終を記録しながら、スタンリー・スペンサーがつぶやいた。
 さすがに、闘技場を埋め尽くしているスライムなんてものは想定外だ。これを蹴散らしてニーナ・イェーガーを助け出し、一人いろいろ堪能するのは不可能だろう。
「勝者、エッツェル・アザトース選手!」