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イコンVS暴走巨大ワイバーン

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イコンVS暴走巨大ワイバーン

リアクション



【2・非道の三人】

 天真ヒロユキとテオドラのペアは、しばらく天御柱の周りをぐるりと回って捜索を続けていて。今ようやくそのお相手らしき怪しい人々を見つけていた。
 どう怪しいかと言えば。この寒空の中、上空で激戦があるのに逃げもしないで雪の上で談笑しているからだ。これが怪しくないわけがない。
 ふたりが駆け寄ってみれば、全員総合して着ている服が黒一色という少女が三人いた。
 雪の白とコントラストになって、なにやら不穏な気配のする少女たちだが。その前に、黒い布で目を覆っている中願寺 綾瀬(ちゅうがんじ・あやせ)がパートナーの漆黒の ドレス(しっこくの・どれす)を魔鎧化して装備して立っており。なにやら話しているようだった。
 聞き耳を立ててみて、会話が届いてくる。
「これだけの騒ぎの中、平然とされている……いえ、むしろ楽しまれている。それだけで、皆様方が関係者である事は十分に察しがつきますわ」
 綾瀬がそう言うと、黒のサバイバルベストの背からアリスの羽がのぞいている、愛らしさをわざと隠しているような少女が、腰の魔銃カルネイジを構えようと手を伸ばしかけるが、
「……あぁ、身構えないで下さい。私は皆様と争う気はありませんので……私はただの『傍観者』ですの。そう、今はまだ」
「傍観者なんだナ! 今の私たちと同じだゼ! けど、私としては暇で暇でしょうがないゼ! せっかく私らのところに来たヤツも、争う気がないなんて、拍子ぬけぬけだゼ!」
「それはそれは、ご期待に添えなかったようで残念ですわ」
 やけにテンションの高い、翼の部分だけくり抜いてある暴虐王の鎧を着込んだ守護天使少女が、巨大な処刑人の剣をぶんぶん振り回し威嚇している。天使という言葉がこれほど似つかわしくない人物も珍しい。
 綾瀬はとくに動揺しているようすもなかった。もちろん見えていないからではない。今のところ相手に敵意が無いから動いていないのである。
(……綾瀬は相変わらずみたいだけど。本当に平気か心配だわ。とくに、あの娘……)
 魔鎧化しているドレスとしては、いつでも対処できるように心構えをしているが。
 どうにもずっと嫌な感じがぬぐえない。
 その原因は、黒の三人の残るひとりにあった。
 ただのスクールジャージに身を包んでいるその少女。
 目立つ印象が目にも鼻にも耳にも体つきにも、特にはないように思える娘だが。
 けれどひとつだけ異様なのは、ときどき上空を見つめながらケラケラと白い歯を見せて笑う口元だった。それだけが、彼女になにか不気味なものを持たせていた。
 しかしその当人に、綾瀬は平然と近づいていき、
「この騒動。どのような結末を迎えるのでしょうか……巨大化したワイバーンは? 学園はどうなるのでしょうか? ……色々と想像しただけでもわくわくしてきますわ」
「ああ……あなたもそう思いますぅ? あたしも、ワイちゃんの活躍には、期待してるんですよぉ……(喜)」
 話に乗ってきた少女だが。
 目線は綾瀬のほうには向いていない。戦闘から目を離すまいとしているようだった。
 マナーのなってない少女にドレスは内心穏やかでないが、目隠ししている綾瀬は別に構わず。端的に、告げる。
「1つだけ希望を上げさせて頂きますと『つまらない結末』だけは避けて頂きたいところですわね」
「あはは。あたしも同感ですよぉ……二次元も、三次元も、面白くないといけないですからねぇ(頷)」
 ふたりが示す、つまらない結末。
 それが同一のものでないことは、なんとなく互いに感じ取ったが。明言はしなかった。
「それでは、私はこれで失礼いたしまして、離れた場所から拝見させて頂きますね……皆様のお相手も近づいてきているみたいですので、どうかご武運を……」
「これはこれは、どうもご丁寧にぃ(礼)」
 やがて綾瀬は意味深に言い残してその場を離れていった。
 三人とかなり距離が開いたのを確認してから、ドレスが言葉を発する。
「なんだか息が詰まりそうだったわ。綾瀬は平気だったの?」
「そうですわね。自分に正直で楽しいものが好きなところは、私と近しい部分はありましたけれど……間違っても、仲良くなりたいとは思いませんでしたわ」
 素直に嫌悪感をむきだしながら、綾瀬は気を静めつつ天御柱学院の校舎内へと足を運んで。また傍観を続けるのだった。
 そこでふと、ドレスは今更のように疑問を口にする。
「ねぇ、綾瀬。そんな目隠しをしている状態なのに、今起きている出来事を楽しむ事が出来るの?」
 綾瀬は窓枠にもたれて、外を眺めながらわずかに微笑み。
「目に見えるモノが全てでは無いのですよ。こうしていると、姿は見えなくても人々の内面が見えて、とても楽しめますわ」
 なんだか哲学的な理屈を言われて、ドレスもためしに精神を集中してみたものの。
「ん〜……私には全くわからないわ。私は目で見て楽しもうっと(笑)」
「無理はせずに、人それぞれの方法で楽しめば良いと思いますわ」

 そして三人少女のほうには。
 綾瀬が離れたのと入れ替わりに、ヒロユキたちが近づいていて。すると大剣少女が立ち塞がるように仁王立ちしてきた。
「おっと。あんたらは、私らと勝負したい派の人らカ?」
「そっちの答え次第だけどな。単刀直入に聞くけど、巨大化薬を使ったのか?」
「おう! 使ってやったゼ!」
 隠すつもり0%の返答がきて思わず苦笑してしまうヒロユキ。
 それなら話は早いと、テオドラは冷静にあとを続ける。
「私たちとしては解毒薬を調合して、あのワイバーンを止めて欲しいのですけれど」
「無理だナ! 私たちのマスターがせっかく手間かけて行ってる実験、止めてやるわけにはいかないゼ!」
 これまた速攻で答えがやってきた。
「ごちゃごちゃ言うより、男なら剣で止めるべきだゼ! まあ、私はマスターのために止まるつもりないけどナ!」
「俺は男だけど、そっちは女じゃないか」
 呆れるヒロユキだが、なんとなくにくめない感じのする大剣少女とそのまま話していくうちに。
「ずいぶん自分の主人に忠実なんだな。なかなか見上げた心がけじゃないか」
「なぁに、私はそういう性格というだけのことだゼ! 熱く、己の戦いをしないとナ!」
「本当に熱血なんだな。テオドラ。思ったより、悪い奴じゃなさそうだぜ」「え? でも」
「そうダ! 善か悪かなんてのは、ささいなことだゼ! 人間、熱く生きていればそれで十分なんだゼ!」
 わずか二分くらいでなぜか意気投合していた。
 大剣少女は意外とおしゃべりで、放っておけば延々とどうでもいい熱血話をしていきそうな勢いだったが。
「そこのあんた、一体なにしてんのよ」
 ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)が注意をしてきたので止まった。
「話は聞いていたけど。その人たち、今回のことを引き起こした張本人なのよね? 心を許したら危険だわ」
「ああ、でもこいつ意外と話がわかるヤツで――」
 と、ヒロユキがローザマリアのほうへ向いた直後。銃使いの少女のほうが、彼に発砲していた。
 あまりに唐突だったためすぐには誰も頭が追いつかなかった。
「ヒロユキさん!」
「痛っ……いけど。だいじょうぶ、肩をかすめただけだ」
 我に返ったテオドラがかけより、無事がわかったところで銃少女を睨みつける。
 しかし当人は涼しい顔でくるくると指先で銃を弄んでいた。今の行為になんとも思っていないのが伝わってくる。
「まあ、一応説明するとな。ウチらのこと、わかった風に言われんの嫌いなんや。そんだけやから」
「おいおい! せっかく話の途中だったのニ! 邪魔してくれるなよナー」
 大剣少女のほうも、怒ってはいてもまったく発砲を注意しない。もうひとりの少女に至ってはこっちを見てもいなかった。やはり彼女達は全員頭のネジがひとつふたつねじれているらしいと、判断せざるを得ず。
「薬は無理やりにでも調合させるから。はやく傷の手当てを」
 ローザマリアは進言し、ヒロユキたちをこの場から遠ざけた。
 そして戦闘の構えをみせる彼女に、少女連中も攻撃にうつろうとした。が、
 両者が動くより先に、レッサーワイバーンに騎乗したローザマリアのパートナーであるグロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)が両手にウルクの剣を握り、上空より疾風突きを繰り出してきた。
 大剣少女は、翼を大げさなくらいに羽ばたかせながら上昇して回避する。
「わらわの攻撃をかわすとは、不届きなヤツなのだよ。おとなしくやられるべきであろう」
「ぎゃは! なんて一方的なご意見なんだヨ! そういうわけにはいかないっテ!」
 そのまま飛んだまま攻防を続けるふたりに、自分も加わろうかと思いかけた銃使いの少女だが。エリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァ(えりしゅかるつぃあ・にーなはしぇこう゛ぁ)エシク・ジョーザ・ボルチェ(えしくじょーざ・ぼるちぇ)たちが近づいてきたので、すぐに頭を切り替えた。
「んー。アンタらも、この人らの味方なん? なんや戦う雰囲気ビンビンやけど」
「はわ……そ、そうだよ! エリー達が相手をするんだよ!」
「戦う気が満々なのは、私よりむしろそっちではないかと思いま――」
 会話がちゃんと済むより前に、またしても少女は銃弾を放ってきた。いやむしろ、わざと話の最中を狙って攻撃してきたという風に誰の目にも映った。
 しかしさっきの発砲があるので、ふたりも予期していたのかすぐに身体をひねらせて回避し。そのまま隠形の術で身を潜め、隙を伺っていく。
 そして。ジャージ姿の少女と対するローザマリア。
 実は事前にグロリアーナにヒロイックアサルト『Elizabeth The Golden Age』を使わせている。これは自分達の士気を鼓舞し、敵を萎縮させる演説で。
 おかげでなんら怯むことなく対峙できているが。それでも、どうにも相手からの空気に不気味さを感じていた。
「それじゃあ、まあ……あたし達もやりましょうか……面倒ですけど(動)」
「のぞむところよ」
 ステップを踏みながら近づいてきた少女に対し。ローザマリアはスキルの行動予測を使い、かつダッシュローラーで素早く相手の背後をとっていく。そしてそのまま地面に押さえつけていった。怪力の籠手を装備してあるので、これでそう簡単には逃げられない。
(……? なんだ、意外と楽勝だったわね)
 拍子抜けしながらも、ひとまずこのまま他の皆の状況に目をやった。
 上空のグロリアーナは、金剛力によって力を互角にまで引き上げ。連続での疾風突きで切り結びながら、時折レッサーワイバーンによる火炎放射も交えている。
 そうして相手を目まぐるしく動き回らせる事によって疲労を誘う作戦なのだが。
「ははっ、ようやく身体があったまってきたゼ! もっと熱くさせてくれよナ!」
 かなりスタミナには自信があるのか、さっきから相当動き回っているというのに汗ひとつかいておらず。むしろかなり無駄な動きで大剣を振りかぶり、そのまま一息に振り下ろしてくる。
「なら、沸騰するより前に決着をつけてあげるとしようか」
 それでもグロリアーナは臆することなく、左右の剣を交差させ、けたたましい金属音とともにがっちりと受け止めた。
 そのうえそこからスウェーによって交差させた刃の角度を変え、大剣を受け流し。体勢を下に崩させたところで、レッサーワイバーンを飛翔させて上へ回り込む。
「成敗!」
 とどめは両の剣による抜刀術を翼から背中に打ち込んだ。羽を舞い散らせながら、勢いのまま少女は地上に叩き落とされた。雪が多少クッションになったようだが、かなりの衝撃音がした。
(あれならそう簡単には立てないわね。これで、あとひとり)
 最後の銃使いのほうも、決着がつきそうであった。
「エリーたちは、ぜったい負けないんだもん!」
「私は手加減というものが苦手です。そろそろ諦めたらどうですか?」
 従龍騎士の鎧や龍騎士の面で装備を固めたエシクがおもに前に出て、銃弾を引き受け。アリスういんぐで飛行しながら翻弄するエリシュカが、サイコキネシスで銃を奪おうとしていて。おかげで相手は銃を自由に扱えず、歯噛みしているのが見えた。
「あれなら、もう決着はついたも同然ね。あんた達の企みは終わりよ」
 ローザマリアは勝利宣言をして、拘束から抜け出そうともぞもぞしているジャージ少女へ視線を落として。
 少女の頭が、龍に変化しており。今にも腕へ噛みつこうとしているのが映った。
 それはドラゴンライダーのスキル、龍顎咬。
 そのことを思い出した頃には、両腕を噛まれていた。こっちが押さえていた側だったおかげで噛み千切られこそしなかったが、あまりの激痛に意識がとんだ。
 少女は続いて龍飛翔突のスキルでバネのようにいきおいよく跳躍し、グロリアーナの背後に降り立った。
「な、に!?」
 振り返ることはできなかった。
 すでに、背中になにかで斬られた痛みが走り、膝をついてしまったのだから。
「は、はわ……」
「ローザ! ライザ!」
 一瞬の隙をつかれ、あっというまにローザマリア達が倒れたのを見て動揺してしまったエリシュカとエシク。それはふたりの隙にもなってしまい。
 エリシュカは、右の脇腹。エシクは鎧に存在する間接の隙間を撃ち抜かれた。
 撃った銃少女は、痛みでうずくまる彼女たちには目もくれぬまま、ジャージの少女へと歩み寄っていき。
「マスター。ウチらには軽々しくスキル使うな言うといて、自分が真っ先にやらかすなんて、なんかズルない?」
「はははぁ……ごめんなさい……あまりに強く掴まれて……つい、本気になっちゃいました(照)」
 世間話でもするように、談笑しあった。
 そして雪に顔をうずめていた大剣少女も、ゆるゆると立ち上がりながら。
「あいててっテー。はあ、にしてもよくもやってくれたなァ。これ以上攻撃されないうちに、さっさとトドメといくかナ?」
 処刑人の剣を、まずはこちらを睨み続けているグロリアーナへと、振りかぶり。
 まさにその武器の名前どおりに、剣を血に染めようと――
 したところで、藤井 つばめ(ふじい・つばめ)の雅刀とぶつかって鋭い金属音を奏でた。
「なにしてるんですか。本当に、殺す気だったんですか?」
 つばめはこのワイバーン騒ぎをなんとかしようと対策を練っていたところで、彼女達を発見して思わず飛び込んでしまったのだが。
 わずかだけ後悔もしていた。隙をついたというのに、つばめの雅刀は容易く大剣少女によって受け止められており。そこから伝わってくる圧迫感に押し潰されそうになる。
(でも。こうなったらとにかく、やってみるしかないよね?)
 どうにか自分に言い聞かせてはいるものの、三対一というこの状況で、実力に差がありそうな相手にどこまでやれるものか。冷静に考えれば答えは明らかだと言える。
 だがそれでも。事件の真相を握っていそうな彼女たちから背を向けることも躊躇われた。
「誰かが巨大化薬を飲ませたとは聞きましたけど……まさか、みなさんが?」
「そうですけど、それがどうかしましたか(謎)」
 質問によって作戦を練る時間稼ぎでも思ってみたが。
 当たり前のように、なんの疑問も、心の痛みも感じていない口調で返されたため逆に頭に血が上ってくるつばめ。
「どうか、したかですって? あのワイバーンのいのちを……なんだと思っているんですか!」
「ふう……ド定番のセリフにはド定番を返しましょう。ワイちゃんは、あたしのものなんですから。どう扱おうと勝手でしょ(呆)」
「熱血なのはいいことだゼ! でも、あのワイバーンは私らが助けなかったら、どのみち病気で死んでいたんだゼ!」
「アンタ、捨てられとる子犬や子猫見て悲しい思ても飼おうとは思わんタチやろ? 低いレベルのヤツほど、浅い正論言うだけなんやからなぁ。やれやれやわ」
 ほかのふたりもまるで罪悪感をみせない。
 むしろ面白がって馬鹿にしているようで、つばめはもうかなりキレかかっていた。
「論点をすり替えないでください。もう一度聞きますよ? あの子を苦しめて、身勝手に扱って、なんとも思わないんですか?」
「そうですねぇ……思うことがあるとすれば、ただひとつあります(考)」
 うーん、と。少女は一瞬だけ深刻そうに眉を寄せ。

「あんなふうに苦しみもだえてる姿って、すっごい無様で汚らしいですねぇ。吐き気がしますよ(笑)」

 そのあと心底おもしろそうに笑った。
 つばめの視界が真っ赤になった。それは比喩でもなんでもなく、つばめは感情が高ぶると眼の色が変化する。しかしそんな体質がなくても、目の前は染まっていたことだろう。怒りの赤に。
 雅刀に付属させたアルティマ・トゥーレの力だけが青白く輝き、少女達に襲い掛かる。手前にいた大剣少女がすぐに反応して食い止めるが。策も関係なく、怒りのままに斬撃を繰り出しつづけるつばめに、さすがに恐怖心がわいてくる大剣少女。
「うわっ!? な、なんだコイツ? 豹変しすぎだゼ!」
「なに焦っとんねん。ただの特攻や、隙だらけやで!」
 銃少女が、援護の弾丸を撃ち込んでいくものの。つばめはパワードアーマーやパワードヘルム、パワードインナーで武装しているため、そう簡単に倒れそうもなかった。
「はぁ、面倒くさいですねぇ。こういう人が一番イヤなんです……ふたりとも、一旦逃げましょう。戦略的撤退ですよー(決)」
 そう告げ、三人は早々と遁走をはじめていった。