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イコンVS暴走巨大ワイバーン

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イコンVS暴走巨大ワイバーン

リアクション



【9・団結戦2】

 片手で数えられるほどに取り巻きも減ってきたところで、柊真司のイクスシュラウドが前に出ていく。
 巨大ワイバーンに取り付く予定の人員が乗っている機体の護衛を任されている彼は。アサルトライフルで残りの取り巻きを軽く牽制し、怯ませたところで一気に加速して接近した後、最後はビームサーベルで斬りはらっていく。
 機動力を生かした戦術で、迅速にことを運んでいた。
“よし、そろそろいけるな。ヴェルリア。治療するメンバーに合図をしてくれ”
“わかりました”
 精神感応によって対話するふたり。連携をスムーズに行なうため、戦闘中はこの手段をとっている。
「ゲイ・ボルグアサルト。シャーウッド。準備は整いました」
『ああ、了解だ』
『……わかったわ』
 返答がきてすぐに、すでにかなり近距離まで寄せていた両機はそれぞれ巨大ワイバーンめがけて急速に接近をはじめる。
 ここからが正念場。
 取り付いたメンバーと、搭乗者が減って戦力ダウンしたイコンを護らなければ話にならない。真司は殺気看破の警戒を強め、ヴェルリアもレーダーだけでなく目視でも敵位置を確認していく。
“真司。南南西の位置から、二体のワイバーンが接近しています”
“わかった、任せてくれ”

 小ワイバーンを真司たちが撃墜させている一方で。
 巨大ワイバーンの眼前には蒼也のワイバーンが近づいていた。
 危険は高いが、いま邪魔をされるわけにはいかないと、蒼也は優しくゆっくりと声をかけてみる。
「大丈夫だ、俺たちはお前を助けたいんだ」
 蒼也のほうでも獣医の心得を使用し、毒を抜けないかと試してみたものの。やはり暴れようとする姿勢は変わらず、首を振ってこちらを落とそうとしてくる。
「っ。話くらい聞いてくれよ……レーゲンボーゲン、おまえからもなんとか言ってやれ」
 サイコキネシスでわずかに動きを鈍らせ、適者生存を行使してみる。レーゲンボーゲンもなにかを叫んで説得らしいことをやっているようだが。
 どちらも効果がなく、唸りながらこちらを睨むばかり。
「腹は減ってないか? 何が好きだ?」
 それならばと、蒼也は高級食材詰合せ(自称小麦粉入りそば抜き)を見せてみる。
 先の攻防で、食べ物につられていたのは確認済み。もしかしたらという望みを託してみたが、
「グギャァアアアアアアアアア!!!!」
 咆哮の風圧によって、期待も食材も吹っ飛ばされた。
 中のかまぼこも、海老も、パラミタスケスケマンジュガニも落下し、海へと帰っていく。
「くそ、食べ物粗末にしてんなよ……」

 やかましい咆哮に苛立つジガンは、搭乗している晃龍オ―バーカスタム機から、巨大ワイバーンの右腕の関節部めがけアンカーつきのワイヤーロープを打ち出した。
 かなり硬いようなので打ち込めるかどうか不安もあったが、うまく鱗がはがれていた部分に命中し。肉に食い込んだようだった。
「よっしゃあ! ぶっ潰してやるぜ!!」
 それを辿って相手の身体に取りつき、イコン用光条サーベルを構える。
「あははっ! ますたー、がんばってー♪」
 ジガンはかなり頭に血が上っているようだが、パートナーのエメトは彼が満足すればそれだけでいいと考えているため注意はしない。
 もっともジガンも作戦を放棄しているわけではない。こうして暴れることで、相手の注意をこちらに引きつけ、沈静化舞台の道を作るという立派な任務をかなしているのだ。
「おらおらぁ! 俺は逃げも隠れもしねぇ、かかってこいや!」
「きゃー♪ すてきーっ、ますたーっ!」
 腕を叩き切らんとしていくジガンの攻撃は、身体から血が流れ。確実に痛みを伝えていき。巨大ワイバーンも放置していられなくなったのか、腕や翼を振り回し、どうにかふり落としてやろうとするが。
 ジガンは頑なに、巨体にくっついて離さない構えだった。

 そうして皆が様々に奮闘を続けることで、道は徐々に切り開かれ。
 おかげで御剣紫音の乗るゲイ・ボルグアサルトは難なく巨大ワイバーンの背にまで到達できていた。
 紫音はアストレイアを纏い、風が吹き荒れる深緑の背に降り立った。続いてアルスもコックピットから抜け出る。
「よし。風花、あとは俺たちに任せてくれ」
「紫音。頑張っておくれやす。もしなにかがあっても、私がついとること忘れんといて」
 イコン内に残された風花は、名残惜しそうにしながらもその場から上昇していった。
「よし。じゃあ、はじめるか」
「そうじゃのう。悠長にしてもおれん」「我らにすべてはかかっておるのじゃな」
 紫音とアストレイアは顔のほうへと近づきながら、適者生存のスキルを行使する。
 あまり変化はみられなかったが、眼球がわずかにこっちを睨んだように思えた。
「ワイバーン、お前を苦しめるものから助けてやる。俺たちに任せろ」
 声が聞こえていることを確信しながら、紫音は次に龍の咆哮を行なってみる。
 至近距離にいるアルスはあまりの絶叫に耳をふさぎたくなったが、そんなことをして急に身体を傾けでもされたら危険が過ぎるので我慢した。

 紫音が取り付いたのと同じ時。リネンとフェイミィが搭乗するシャーウッドがヘイリーとユーベルが乗ったペガサスを担ぎながら、巨大ワイバーンの真上にまで辿り着いていた。
「よし……ここからは、別行動ね。ヘイリー……ユーベルを、お願い」
「うん。任せておいてよ! シャーウッドを壊すんじゃないわよ、エロ鴉!」
「はーいはい。わかってるから、安心して行ってきてよ」
「いってきますわ、リネン。そちらもお気をつけて」
 リネン、ヘイリー、フェイミィ、ユーベルは互いに言葉を交わし。
 そしてペガサスはイコンの手から離れ、急降下していった。
「よし。それじゃあ……私たちも役目を果たしましょう」
 と、気合いを入れなおしてリネンはメインの操縦席へと目をむけると。
(へー、ここが団長の座ってた席か。うへへ……)
 操縦席にほお擦りし、においを嗅いでいるフェイミィが見えた。
「フェイミィ! こんなときに!」
「わ……ちょっ、冗談だって! 預かった以上は全力でやってやるって!」
 フェイミィは席に座りなおし、操縦桿を握り締める。
 すぐさま機体を降下させ、左翼の付け根近くへと小型ナイフ型のソードを突き立てて機体を固定する。
 そこからはソードと反対の手に構えたクロスボウ型のイコンボウ『SX01アーバレスト』を、左翼めがけて一気に撃ちこんで行く。それはもう派手な勢いでばら撒いた。
 そうすると予定通り、全身を震わせてこちらを振り落とそうと狙ってき始めた。
「よっし。攻撃の手がこっちに向いてきたな」
 すぐに一旦飛翔し、回避に集中するフェイミィ。
 周囲の警戒をしていたリネンも、こちらに近づく影はないので笑みをこぼす余裕があった。そこでふいに思い出す。
(そういえば……出撃前、話にでてた三人組は見当たらないけど……もう誰かが捕まえたのかな? だとしたら、これ以上の妨害はないわね)
 気づけば小ワイバーンも、近くには一匹もいなくなっている。どうやらあらかた掃討できたようだ。
(これであとは、本命のこのワイバーンだけだわ)

 そして。
 ペガサスで腰の辺りに降り立ったふたりは、程なくして前から轟いてきた紫音の龍の咆哮を聞いた。
 事前にした打ち合わせでは、そのあとアルスが清浄化をかけると言っていたので。すぐさま自分もワイバーンの背に清浄化をかけ、薬の影響を取り除こうとしていくユーベル。
「これが、薬や呪いによるものならば……っ!」
 一度や二度で効果があるとは思っていないので、何度も清浄化をかけ続け。一回ごとに容態を確認していく。が、変化があるのかどうかはまだ判断がつかない。
「足りないものは……必要なものは、何ですの……?」
 一旦手を止めて巨大ワイバーンの様子を観察してみるユーベル。
 身体の鱗がところどころ軋みながらはがれ、血を流すさまは見ていて辛い。それでも、博識を駆使してなにか手がかりがないかと観察し続けた。
 その隣で、周辺を警戒しながらヘイリーはやきもきしていた。
 自分にもできることがないかと知恵を振り絞り、
「く……あんたは本当にこんな事がしたいの!?」
 思わず言葉が口から発せられていた。
 語りかけながら、野性の蹂躙、適者生存、荒ぶる力など思いつく限りの魔獣使いのスキルを使って制御できないかと試みる。
「あんたは自由よ、衝動と戦うのよ!」
 それでも、いまだに巨大なるワイバーンは暴走を止めない。