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【カナン再生記】風に舞いし鎮魂歌 ~彷徨える魂を救え~

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【カナン再生記】風に舞いし鎮魂歌 ~彷徨える魂を救え~
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第6章「進む『希望』、待ち受ける『絶望』」
 
 
「皆さん、もうすぐイズルートが見えてくる頃です」
 村から僅かに離れた所、そこを歩く集団の中でティー・ティー(てぃー・てぃー)が地図と現在地を照らし合わせた。
「ふむ、砂漠化が始まる前の地図だからどうなるかと思ったけど、無事に辿り着けそうだね」
「そうだね。でも周りがこんな状況じゃ村はかなり苦しい状態だと思う。出来るだけ急いだ方が良さそうだ」
 隣を歩くのは源 鉄心(みなもと・てっしん)九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)。彼らは西カナンで一番復興が進んでいるポート・オブ・ルミナス付近に滞在していたが、イズルート近辺で発生している疫病の噂を聞きつけ、そしてまた別の理由もあって村へとやって来たのだった。
 特に空京大学で医学部に所属しているローズは今回の事件を特に痛ましく思っていた。それでもまだ生存者がいれば。自分の力が少しでも役に立つのなら。そういった思いが村へと進む足を急がせていた。
 そんな一行の上空を小型飛空艇が通り過ぎようとしていた。その飛空艇は鉄心達の姿に気付いたのか、一度旋回すると次第に高度を落としてきた。そのまま近くに着陸し、乗っていた長原 淳二(ながはら・じゅんじ)ミーナ・ナナティア(みーな・ななてぃあ)がこちらへとやって来る。
「見た事がある姿だと思ったら、やはり皆さんでしたか。この先にはイズルートという村しかありませんが、皆さんもそちらへ?」
「ああ、この辺りで疫病が流行ってると聞いてね。その治療と、少しばかりの物資を持って向かう所なんだ」
「その噂は私達も聞きました。それで淳二と一緒にここまで来たんですけど、同じ考えの方がいらっしゃったんですね」
 同じ思いの者がいた事を喜ぶ。だが、別の場所で同じ噂を聞いたという事は、噂が拡散するほど時間が経過しているという事だった。その事を忘れないようにと気を引き締め、再びイズルートへと歩を進める。
 それから少しした頃、シン・クーリッジ(しん・くーりっじ)が何かの音に気付いた。
「なぁロゼ。変な音が聞こえてこねぇか?」
「変な音? いや……淳二達の飛空艇の音じゃないのかい?」
「そういうのじゃねぇ。何かが砂を掻き分けるような……って、どんどん近くなってるぞ」
 音は次第にシン以外の者にも聞こえてくるようになり、それぞれが警戒を強める。その中で遠くへと気を配っていた冬月 学人(ふゆつき・がくと)が砂塵を巻き上げながら近づいてくる物体を見つけた。
「何だ……? 凄い勢いでこっちへ向かってきてるけど」
「分からねぇけど、さっきから聞こえてる音はあれだぜ」
 小型飛空艇をも超える速度で迫ってくる砂煙。襲撃を予測していつでも武器を抜けるようにして待ち構えるが、近づいてきた物体は直前で速度を落とすとその姿を露わにした。
「あれって鯱? 淳二、砂漠を泳ぐ鯱なんているの?」
「カナンにそういう固有種がいるとは聞いた事はある……けど、実際に見たのは俺も初めてだな」
 更に驚くべきは、その鯱の上に人が乗っていた事だった。移動手段である鯱から降りたニーナ・イェーガー(にーな・いぇーがー)は同じ教導団員である鉄心を見つけると軽く敬礼をする。
「お久しぶりです、源。あなたもイズルートへと急行中ですか?」
「確かにそちらへ向かってはいるが……急行とは穏やかじゃないね。疫病が流行ってる事は知ってるけど、他にも何かあったのかい?」
 鉄心達が村の現状を知らない事を察し、僅かに躊躇する。だが、任務の一環であるが故にニーナは自身が聞いた事実をありのままに伝えた。
「私達よりも先にイズルートへと入った者から教導団経由で連絡がありました。……村は既に砂漠化と疫病で壊滅。そして……その遺体の利用を企むカナン正規軍の死霊術師と現在戦闘中である、と」
「何だって……!」
 
 
 イズルートへと辿り着いた鉄心達を待ち受けていたのは、アンデッドとなった村人達と戦う契約者の姿だった。
「そんな……間に合わなかっただけでなく、こんな状態になっているなんて……」
「これは酷いな……。イコナを置いてきたのは正解だったか……」
 余りの光景に言葉を失うティーと、疫病を警戒して西カナンの病院で留守番をさせているパートナー、イコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)の身を案じる鉄心。
 まずは戦況を把握しようと、彼らは近くで銃を取りながら戦っている少女達へと声をかけた。
「失礼、その軍服、シャンバラ教導団の方ですね。私はニーナ・イェーガー。教導団から連絡を受け、急行して参りました」
「お疲れ様です。私はグロリア・クレイン(ぐろりあ・くれいん)です。あなた方の支援に感謝致します」
「教導団騎兵科の源 鉄心です。済みませんが現在の状況を教えて頂けますか」
 グロリアの口からこれまでの経緯が語られる。志半ばで倒れた者の魂に導かれてやって来た事。辿り着いた時はもう生存者はいなかった事。そして――滅びた村に現れた死霊術師の事。
「……許せない」
 全てを聞いた時、一際強く怒りに打ち震える者がいた。ローズだ。
 ローズは自身の信条として、出来る限りの命を助ける事、必要以上に他者を傷付けない事、この二点を胸に今まで過ごしてきていた。それは例え悪人相手であっても変わる事は無く、目の前に傷ついた者がいるのなら、それが誰であろうとも手を差し伸べてきた。
 そんなローズにとって、命脈尽きた者を利用するなどという行為は許しがたいものであった。それは『必要以上に他者を傷付けない』という自身の信条を揺るがすほどの、それほどの怒りだった。
「済まない、皆。私はその少年の方に行かせて貰う。これ以上……好きにはさせない……!」
「あっ、おい! ロゼ!」
 シンが呼び止めるが、ローズはそのままラウディの下へと向かってしまう。それを追って学人も駆け出した。
(ロゼ……君とは長い付き合いだけど、君が他人に怒りや憎しみを抱いている姿見た事はほとんど無かったと思う。そんな君が怒りに震えるほどのこの状況……気持ちは分かるけど、こういう時こそ冷静にならないと)
 怒りを覚えていたのはローズだけでは無かった。表情には出していないものの、淳二もラウディのやり方に憤りを感じていた。
「俺達もローズさんの援護に向かいます。ミーナ、行こう」
「えぇ。急いで止めましょう、淳二」
「ふむ……こうなると俺とティーも向かった方がいいか……。グロリアさん、キミ達の方は戦力的には大丈夫かい?」
「こちらは問題ありません。アンデッド強化の札を破壊しに向かった方々のお陰で相手の力は弱まってきていますから」
 グロリアの視線の先にはアンデッド達と戦っているエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)達の姿があった。彼らは序盤とは違い、弱体化したアンデッドを前に有利な戦いを繰り広げていた。
「君達が戦う理由は無いんだ。これで……眠ってくれ」
「天よ、どうか彼らに安らぎを……はあっ!」
 エースが、ルイ・フリード(るい・ふりーど)が再びアンデッドを打ち倒す。札無き今、再び立ち上がられようとも押さえ込む事は決して難しいものでは無かった。
「なるほど、こちらは大丈夫なようだね。それじゃあ、俺とティーも向こうの戦いの支援に向かうよ。キミ達はどうする?」
 鉄心がニーナの方を向いて尋ねる。彼女は自身の得物を見せながら近くの丘へと視線を向けた。
「私も向こうの戦闘に。『これ』を使って援護します」
 ニーナの手元にある武器。それは巨獣にも威力が伝わるほどの大口径のライフル銃だった。