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■終


「ヘイズさん……大丈夫ですか?」
 暫しの間二人は、出て行ったアインハルトのことを見守っていたのだったが、意を決してレンジアがそう声をかけた。
「有難う。レンジアが回復してくれたおかげで、もう大丈夫だよ」
 彼の茶色い優しい瞳が、レンジアの青い瞳を正面からのぞき込む。
「いえ、そんな……っ、そうでした、その……」
 言葉を続けながら、根本的な質問を思い出した彼女は、宵闇の星明かりに輝く青い髪を揺らした。緩く波打つ彼女の青い髪は、しかしあるいは窓からのぞく星の光ではなく、モモが増改築したラブホテルに酷似した、薄暗い照明を反射していたのかも知れない。
「さっき諦めるな、って言われたんだよ。そうだよね」
 そんな輝く彼女の髪を、指ですくって耳にかけてあげながら、ヘイズは微笑を返す。
「ごめん、ちょっと遅くなったけど、コレ」
 彼は薄い茶色の髪を揺らしながら、赤いベルベット張りの小箱を、レンジアに対して手渡した。
「え、あ」
 頬を染めながら、レンジアが小箱へと、おずおずと手を差し出す。
 その華奢な指が箱を開けることに逡巡している様子に、ヘイズは肩をすくめた。
「開けても良いかな、僕が」
「あ、は、はい」
 彼女の返答に頷き返したヘイズは、静かに小箱を開けると、中に収まっているペンダントを取り出した。
「綺麗……」
 その銀色の輝きに呟いた彼女に、ヘイズが微笑む。
「つけてもいい?」
 朱くなったまま頷いたレンジアの様子を確認してから、彼はそのペンダントを白い彼女の首の後ろではめようとする。
 そうした行為の動揺を隠すように、彼女は窓の外へと青い瞳を向けていたのだった。


 その頃、レンジアが視線を向けた窓の外では。
 ラブホテルじみた様相の教室を見上げて、千歳達が腕を組んでいた。
 武尊と千歳の言葉により、マルクの名前を吐露し、かつセレンフィリティ達やに促されて真情を吐露しきったイゾルデは、相も変わらず泣きながら、マルクの胸元の服を掴んで暴れている。
「だったら。だったらどうして来てくれなかったのよ!」
「だから携帯を見てなくて」
「じゃあ見てたら来てくれた?」
「あたりまえじゃん。大体さ、本命のチョコを受け取るって言うのは、告白にOKしたのと同じようなもんだよ。だから俺の中ではとっくに、イゾルデは大切な人だよ」
 マルクがそう言ってなだめると、イゾルデがボロボロと涙をこぼしながら小さく頷いた。
「何だか知らないけど、これ以上話を長引かせるのもねえ」
 二人のやりとりを見守っていたセレンフィリティが、アキラの買ってきたツナサンドの包みを手にしながら呟く。
「兎に角、無事に解決したんなら、氷像を何とかしてあげるべきだわ」
 続いた彼女の声に、イゾルデがおずおずと頷きながら、築いていた氷像の数々を元に戻す。


「大丈夫か、ミュリエル!」
 真っ先に響いたのはエヴァルトの声だった。
「なにこれ、怖いですぅ」
 解放された途端、安堵と恐怖が混じった様子でミュリエルがエヴァルトへと抱きついた。
 そんな二人の所行を見ながら、冷静にアキラが呟いた。
「ロリコ――」
 だが彼の言葉が潰える前に、エヴァルトが一同へと振り返る。
「ち、違うッ! 俺はロリコンでもシスコンでもないッ! そりゃまぁ、ミュリエルは大切な妹分だが……種族もアリスだが……違うものは違うッ!」
 そんな彼の声音にイゾルデが困惑するような表情を浮かべる。
「だって、どこからどうみても恋人同士だったじゃない。それにちょっと年齢層が離れて見えるから、結局ロリコンなんじゃ……」
 いつもであれば、ロリコンなどと言った奴には制裁を加えるのがエヴァルトである。だが……凍った後では体の自由がきかない……!
 だから、抱きついてきたミュリエルをなだめるため、頭を撫でてやることで精一杯だった。黒髪を揺らしながら大粒の涙を流しているパートナーの体を抱きしめ、柔らかな髪に静かに触れる。
「確かにそれはロリコンであろうな」
 武尊の頷くような声に、エヴァルトは顔を引き攣らせながら、何とか笑い返した。
「だから違うってッ!! 単純に心配だったんだよ」
 単にミュリエルのことが大切なだけだ、とは続けずに、彼は声を上げる。
「つまりロリコンなのよね」
 マルクに抱きついたまま、涙を拭ったイゾルデが断言する。
「その通りですわ」
 一同に紛れるようにアドルフィーネが周囲を煽る。
「だ、だから」
 しかして彼が返答しようとした直後、その場へアインハルトが走ってきたのだった。
一同の視線が、教員へと向く。
「おい、誰かイズールトを見なかったか?」
 その問いに、皆が目をしばたたかせた。そうして顔を見合わせる。
「やだなぁ、先生。真後ろにいるじゃないですか」
 直後イゾルデを抱き寄せたまま、マルクがそう告げ笑ったのだった。




担当マスターより

▼担当マスター

密巴

▼マスターコメント

ご参加いただいた皆様、およびご観賞いただいた皆様、本当に有難うございます。
密巴です。
今回は、個人的に若干推敲が甘い点がある気もするのですが、地震(3/11)の影響により公開させていただく決意をしました。
私自身は無事なのですが、関東在住のため、今後電気が止まるかも知れません。
また実家が東北地方のため、家族の安否は確認できたのですが、なんともいえない状況です。

そんな中、加筆や推敲をしている際に、頂いた素敵なアクションを拝見して、私はとても元気づけられました。
ですので、稚拙な描写かも知れませんが、私同様素敵なアクションを目にすることで、励みになる方もおられるのではと思い公開を決意いたしました。

お亡くなりになった皆様には、心よりお悔やみ申し上げます。
また被災された皆様にも、本当に、今後の安全をお祈りしております。
こういった時だからこそ、暗くならざるを得ない時だからこそ、私は少しでも多くの人に明るくなっていただければと思います。

って、このシナリオ、学園生活かつ若干ホラーとうたっていたのですが、中身はコメディも含んでおります。
ですので、一息つく時にでも、このシナリオで、一人でも多くの方に、ホッと息をついていただければ幸いです。

なお、ご参加いただいた皆様。
本当に有難うございました!
書きながら楽しい気持ちでいっぱいでした。
また機会がございましたら、何卒宜しくお願い申し上げます。