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占拠された新聞社を解放せよ!

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占拠された新聞社を解放せよ!

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第5章

 契約者は危険?
 蒼空新聞社が鏖殺寺院の一派を占拠した事件で、事件後、空京裁判所で判決が行われた。
 この中で、一派を指揮していた男性は、占拠に対して契約者が行った行為を挙げ、その危険性を指摘した。
 確かに、契約者は常人には計り知れない力を持っているのは事実である。決して、彼らの力に頼り切るようなことがあってはならない。契約者を止められるのは契約者だけ……という状況に、本誌は警鐘を鳴らすものである。(シャンバラ・タイムズ)


「契約者こそが、新たな脅威になり得る……か」
 ヴァル・ゴライオンは、小さく呟いた。
 事件後、寺院の一派を率いていたリーダーの裁判を傍聴したあとである。
 彼は、自らの罪の全てを認め、一切の弁護をしなかった。その代わりに、契約者の行いを痛烈に批判したのである。
「確かに、一理なくもないのう」
 神拳 ゼミナーが呟いた。
「ソルジャーたちにも話を聞いた。彼らが、自分たちよりも強い契約者に立ち向かっていけるのは、自分たちが正しいと確信しているからだという。そう言う者も、居るのだな」
 ヴァルが遠くを見る目で呟く。
「何、やつらが全面的に正しいわけではないように、我らが全て間違っているわけではない。自分と相反するものを飲み込むのも、帝王の器であろう」
 ゼミナーが目を細める。ヴァルは、
「うむ……」
 と、小さく答えた。



 続報です。本日午後、鏖殺寺院が発表した声明によりますと、蒼空新聞社を占拠した一派の行動は、あくまで末端の構成員が行ったものであり、鏖殺寺院全体の意志に沿ったものではない、とのことです。
 これに対し、別の一派はこの行いを支持しており、鏖殺寺院の内部での意見の混乱が伺えます。(空京ラジオニュース)


「いやあ、何だか大変なことになってるね」
「そう言っている場合か。鏖殺寺院の統一性の低さが露呈したのだぞ」
 ジープ・ケネスとエドマンド・ブロスナンもまた、メディアから情報を得ていた。
「いやあ、それだけ、この事件が寺院全体に取ってはあまり意味がないってことさ。もっと重要なことなら、なんとしても意見を統一するはずだからね」
「しかし……」
「一部では、寺院の主張を認める声もあるみたいだけど。やっぱり、新聞社を占拠したってのはまずかったね。次は自分たちが襲われるんじゃないかって気持ちがあるから、表向きは穏当でも、所々トゲがあるように感じられるよ」
「……あの男の考えが、それほど間違っているようには思えなかったがな」
 ぽつりとエドマンドが漏らす。
「正しいか、間違ってるかは大した問題じゃない。聞いてもらえるかどうかさ。そしてそれは、行動によってのみ示される」
「……そうか」
 エドマンドはもの言いたげな視線をジープに向けた。
「……何か?」
「私は、少しお前が信じられなくなりそうだ」
 もちろん、腹をこわすようなものを食べさせられた件でである。
「敵を欺くつもりが、まさか味方だけを欺くことになるとはねー」
「おまえ! ……ううっ」
 まだ調子が戻って来ていないのだ。エドマンドは思わず腹を押さえた。
「さて、これで何か変化があるかな。より忙しくなってくれた方が、ボクとしては都合がいいな」
 ジープはそう言って、またラジオの音量を上げた。エドマンドのモンクは、10年前のヒット曲にかき消された。



 蒼空新聞社を占拠した鏖殺寺院の一派を契約者が鎮圧した事件に関するものとされる投書が、『帽子屋』を名乗る人物から本社宛に送られてきました。
 内容は社内での契約者たちの行動を映した監視カメラの映像であり、ビルの爆破に至る経緯が収められていました。
 ただ、他者による干渉か、ノイズがひどく、証拠として十分なものであるとは言えません。(パラミタ・ニュース・ネットワーク)


「どう、私の記事!」
 胸を張って見せるアスカ・ランチェスター。
「少し手前味噌な気もするけど……まあ、いいでしょう。受け取っておくわ」
 デスクであるトレイシー・イエローは、やや『赤い』記事を、そのまま受け入れた。何せ、今回の事件に関わった契約者たちから、記事を歪めないことを求められているのだ。
「私としては、もっとヒロイックでエレガントな内容のほうが受けると思うのだけど……」
「それが今回の事件の引き金になったんですよ。反省しなさい」
 アスカと同様、記事を入稿しに来ていた卜部 泪が引き留める。
「あ、そうだ先輩、顔を隠してたり、匿名希望の契約者たちの身元を徹底的に調べ上げた方がいいですよね。何せ彼らも解放に尽くした英雄なんだし!」
 名案を閃いた、という表情で手を打つトレイシー。
「それじゃあ、意味がないでしょ! 契約者に頼らざるを得ないからって、単に持ち上げれば良いってもんじゃないのよ」
 次に引き留めたのは、アスカに同行していた藤林 エリスだ。
「分かってるわよ、言ってみただけ。……今回のことで、いろいろ教えられちゃいましたしね」
「いい面ばかりを良いように書いても、必ずそうでない面が存在しますからね。それを伝える私たちが、目を逸らしてしまったらみんなが知ることはできない……」
 泪が呟くように言う。
「そうですね。さあ、続きを書かなきゃ。朝までに仕上げなきゃ、間に合わないわ!」
「あんまり、懲りてないみたいだけど……まあ、よかったのかな?」
「いいんじゃない? 寺院の主張についても、書いてくれるんでしょ? 後は、任せましょ」
 エリスとアスカが肩をすくめて、共に蒼空新聞社を去っていった。



 ……こうして、契約者たちの活躍により、占拠事件は幕を閉じた。
 しばらくの間、メディアの中では契約者のあり方について議論が巻き起こることになる。事件が起きたのが契約者が居たためであるなら、事件が解決したのも契約者によるものなのだ。
 やがて、事件は日々のニュースの中に埋もれ、人々の記憶から忘れ去られていく……
 事件にかかわった、当人たちを除いて。

担当マスターより

▼担当マスター

丹野佑

▼マスターコメント

 本シナリオのリアクション執筆を担当させて頂きました、丹野佑と申します。
 シナリオに参加していただき、あるいはリアクションを読んで頂き、まことにありがとうございます。

 今回は、自分の好きな政治色というか、社会派の雰囲気をもって描かせて頂きました。パラミタの世界で生きている人たちがどのような社会を築き、営んでいるのか、これからも描いていきたいと思います。

 特に印象的だったのは、自分なりの主張を鏖殺寺院に(つまり、マスターである自分に)ぶつけてきてくださったアクションが多かったことです。
 手段や反応、細かい事についてはMSとして書く事ができますが、そのキャラクターがなぜこのシナリオに参加し、何を目的としているのかについては、書かれていなければ想像するしかありません。
 動機や目的を大切にしたアクションをかけていただき、大変嬉しく思いました。

 なお、何人かの方に称号、コメントを送らせていただいて居ます。

 最後になりましたが、重ねて、ご参加頂いた皆様、ありがとうございました。
 もし機会があれば、またマスターを務めさせて頂ければと思います。