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占拠された新聞社を解放せよ!

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占拠された新聞社を解放せよ!

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 そのとき、契約者がとった意外な作戦とは!
 かくして、ビルの内部へと踏み込んだ契約者たち。彼らがここでとった作戦とは、実に意外なものだった。
 ……が、その影響で内部の設備投資のため、多大な出費をすることになった新聞社のことも考えて欲しいものだ。


 突撃により、一階部分が制圧された。これに対する鏖殺寺院の反応は、上階へと撤退し、改めて守りを固めることだった。
「手堅いやり方だ。波状攻撃にも耐えてみせるってわけか」
 対策本部、レン・オズワルドが報告を受けて小さく呟いた。
「もう少し事態を進めておきたかったが……仕方ないか。向こうが何を仕込んでるか分からない。次の手を打つぞ」
 意識を集中し、テレパシーを飛ばす。あるチームへの作戦開始の指示だ。
 同時、
「よっし、監視カメラに侵入できたわ。まだ乗っ取る事はできないけど、中の状況が……ん?」
 ハッキングを仕掛けている水心子 緋雨だ。乗っ取ったカメラの中をのぞき込んで、小さく首をかしげた。
「どうした?」
 レンが問いかける。いやあ、と緋雨は頬を掻き、
「命令を無視して突っ込んでる人たちが居るみたいね」

 階段を駆け上がり、フロアへと単身突入した空京稲荷 狐樹廊(くうきょういなり・こじゅろう)は、一斉に向けられる銃口にもひるまず、金色の瞳でにらみ返した。
「自分たちがしたことへの覚悟くらいは、できているでしょうね? 手前の炎舞、とくとご覧じろ!」
 狐樹廊の足下から炎が噴き上がり、その全身を包む。
「撃て! 進ませるな!」
 ソルジャーたちが一斉に引き金を引く。ばらまかれるのにも似た銃撃が、一斉に狐樹廊へと飛来する!
「っだあ、もう、めんどくせえ!」
 飛び来る銃弾を、輝くブーメランが弾き落とした。放ったのは、アストライト・グロリアフル(あすとらいと・ぐろりあふる)である。
「危ないところだったわね」
 ふたりに追いついたリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)が言う。チッ、とアストライトが舌打ちした。
「俺はこういう越権行為は嫌なんだよ、今ので終わり、これ以上の手出しはしないからな」
「十分です。今度こそ、行きますよ!」
 炎を身に纏い、狐樹廊が一気に突き進む。銃弾では防ぎきれないと見たソルジャーたちは、手近なデスクを蹴り上げて防壁とし、後ろへ下がる。
「逃がさないわよ!」
 リカインがその背へ向け、激しい咆吼を上げた。歌姫の猛烈な声量が響き、ビルを震わせる。
 ソルジャーたちがその響きに倒される中、ここで予想もつかないことが起こった。
 すなわち、震えと狐樹廊の炎による温度上昇を、ビルのシステムが「災害」と認識したのである。
 報知器が鳴り響き、避難勧告のアナウンスがビルの中に流れた。
『繰り返します。落ち着いて避難してください……』
 スプリンクラーが作動し、水をまき散らす。
「お、おや?」
 狐樹廊がいかにも意外、という声を漏らす。
 ソルジャーたちは、上階に避難していた。
 これにより、レンがさらに頭を抱えることになったのは言うまでもない。



 (社説)人質保護のあり方とは
 捕らえられた社員たちを救ったのは、教導団のマーゼン・クロッシュナー、およびゴットリープ・フリンガーらの一団であった。
 彼らの作戦は先ほどの記事に比してもさらに激しく、大がかりなものである。しかし、彼らを取材していた記者はおらず、その作戦の詳細は明らかではない。
 奇跡的に人的被害を出しはしなかったが、大穴の空いたオフィスで仕事をする我々の立場にも立って欲しいものである。
 さて、ここでは今回の事件を反省として、捕らえられた非戦闘員をどう扱うかについて……


 ……かくして、無茶な作戦が敢行されていた。このことはビルを占拠した鏖殺寺院に意外な影響をもたらしていた。
 すなわち、統制された作戦を展開している彼らにとって、各々の戦略を重視する契約者たちの戦い方は理解しがたいものであり、混乱を呼び起こしていたのだ。
 そして極めつけとなったのが、人質救助に際して行われた作戦である。

「……制圧できましたぞ。連中、かなり浮き足だっておりますのう」
 天津 幻舟(あまつ・げんしゅう)が、フロアを守っていた数人のソルジャーを打ち倒した。目下、ソルジャーたちの配備は、契約者の突入を食い止めるための下階と、リーダーの居る上階に別れているらしい。そのすぐ下であるこの階は、ほとんどノーマークと言って良い。
 こじ開けられたエレベーターの扉から、数人の男女がフロアに潜入する。マーゼン・クロッシュナーとゴットリープ・フリンガーの率いる一隊である。
「誰にもつけられていないな?」
「問題なく。マスコミは適当に撒いておきました」
 マーゼンの問いに、早見 涼子(はやみ・りょうこ)が答えた。この作戦は隠密行動が原則だ。記者に張り付かれていたら、それが元で敵に知られてしまうかも知れない。情報分析官として、その手の作業は得意である。
「それじゃあ、はじめるよ」
 アム・ブランド(あむ・ぶらんど)が、懐から使い魔であるコウモリを放つ。それはエアダクトの中に入り込み、わずかな音だけを立てて上階へと向かっていく。
 コウモリはゆっくりとダクトを進み、下をのぞき込む。そこには、ソルジャーたちに囲まれた人質たちの様子がはっきりと見えた。
「場所は、このあたり。範囲は……」
 小さな声で、アムが指示を飛ばす。それに合わせて、ゴットリープが天井に印をつけていく。
 確認するようにゴッドリープが視線を向けると、アムは小さく頷いた。
「よし、はじめるぞ。準備はいいか?」
 ゴッドリープの問いかけに、皆が一斉に頷く。
 数分後、ゴッドリープは天井に円状に配置された爆弾の起爆装置を作動させた。
 ドンッ! と、鋭い爆発音。アムの使い魔が見張る上階では、その爆発により、人質たちが集められていた一角の床が陥没し、マーゼンらが居る階へと落下するのが見えた。もちろん、その床にはエアマットが敷かれている。がれきや他の人質とぶつかって打ち身くらいなら起こすかもしれないが、大したケガではないだろう。
 この予期せぬ作戦にも、ソルジャーたちの反応は早い。何かが起きたのだと判断すると同時、突然床に空いた穴から銃口を突き出して下階の侵入者を排除しようとしたのだ。
「くらえ、本能寺忍法!」
 本能寺 飛鳥(ほんのうじ・あすか)がその穴に向け、催涙弾や閃光弾を一斉に投げ込んだ。上階で光が閃き、一瞬遅れてしびれ粉が飛び散る。ひるんだ隙に、マーゼンと幻舟、飛鳥が上階へと飛び込み、彼らを打ち倒していく。
「あなたたちの確保は、別のグループに任せる手はずです。僕たちは、ここを!」
 ゴットリープは縛られたままの人質に告げ、援護のために上階へ向かっていった。
 エレベーターの縦穴を通って幻舟が偵察し、場所を確保。アムが使い魔を用いて状況を確かめ、ゴットリープが爆破によって人質を床ごと下階に落とす。即座にマーゼンや飛鳥らが人質の見張りに当たっていたソルジャーたちを撃退する。マスコミの行動に備えて、涼子が対応するという念の込みようである。
 見事な行動力と大胆な作戦である。ただ、ビルにも相応の被害が出たことを除けば、だが。



 仮面のヒーロー現る!?
 人質と鳴っていた新聞社の社員を守るために戦う契約者たちのもとに、新たな助っ人が現れた。
 彼は「七篠 類(ななしの・たぐい)とは無関係の通りすがりだ」と主張しているが、葦原明倫館所属の頤 歪(おとがい・ひずみ)を連れていたことから、明倫館に所属する16歳の地球人で、「な」から始まる名前であると予測されている。とはいえ、取材班の綿密な調査でも、それ以上の情報を得ることはできなかった。
 まさに謎のヒーローと言える。


 催涙弾と閃光弾で初手を抑えたものの、さすがにソルジャーたちは戦い慣れている。すぐに体勢を立て直し、マーゼンやゴッドリープらの猛攻に耐えていた。
「手数が足りませんな。これでは、状況を打破できない」
 マーゼンはそう分析していた。ひとりずつの戦力ではこちらに利があるが、いかんせんソルジャーの得意は集団戦だ。こちらも連携でひけはとらないが、人数が違う。
「では、もう少し助けがあれば……?」
 ゴッドリープが問う。マーゼンは小さく頷いた。
 このやりとりが、隠れて状況をうかがっていた七篠 類を決心させた。
「と、とう!」
 飛び出してきたのは、クイーン・ヴァンガードの強化スーツに身を包んだ男。しかし、その頭はすっぽりとスーパーの袋に覆われている。それが、拳を振り上げて、猛然と敵のただ中に突っ込んでいったのだ。
「な、何じゃっ!」
 驚きの声をあげる幻舟の隣に立ち、戦いはじめたのである。
「お、俺は通りすがりのヒーローだ。七篠 類くんの助けを求める声に応えてやってきたのだ!」
 胸を張って叫ぶ類。
「な、何だ……?」
 その姿に、思わずソルジャーたちの攻撃の手も鈍る。
「そうか、こうして意表を突くためにやったのですね、七篠殿! 我輩も全力で戦うであります!」
 共に身を隠していた頤 歪が類に続いて、剣を振り上げて突っ込んでいく。
 類は無言で、歪の腹を殴った。
「へぶっ!? 何をするであります七篠殿! 戦場で気を抜いてはいかんであります、七篠殿!」
「お、俺はそんな名前ではない!」
「何を言うのでありますか七篠殿!」
 ふたりのやりとりを、両陣営がぽかんと眺めている。
「あれはおそらく、取材を回避するために顔を隠しているのでは」
 小さな声で、涼子が呟いた。
「……ああ!」
 腑に落ちたような声をあげる一同。ソルジャーたちも。
「く……っ! たとえ正体が明らかにされても、謎のヒーローとして、ここを退くわけにはいかない!」
「まだやってるみたいですけど……」
「付き合ってあげて」
 ぽつりと漏らすゴットリープに、なにやら感じるところがあったのか、飛鳥がぽんと肩を叩いた。
 かくして、一度乱れた戦いは再び再開され、ほどなく、マーゼンの読み通り、足りない手数が増えた契約者たちがフロアを制圧することになる。