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あなたの街に、魔法少女。

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あなたの街に、魔法少女。

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●魔穂香さんは、根っからあんなんじゃないって思うんスよねぇ……

 同じ頃、今回の一連の過程の発端となった『魔法少女ツアー』を企画した『INQB』では、何が行われていたかというと――。

「事情は把握している馬口六兵衛くん、この会社、いずれ魔法少女の介入を受けて潰されるよ?」
 『INQB』の社長室を訪れた桐生 円(きりゅう・まどか)の言葉に、指摘を受けた馬口 六兵衛がうーん、と腕を組んで(ぬいぐるみ型ゆる族が腕を組めるのかとかツッコンではいけない)唸り、部屋の外で聞き耳を立てていた社員が「ああ、やっぱりな……」と何かを悟ったような表情を浮かべ、そして馬口 魔穂香はソファでふわぁ、と欠伸をする。
「既にネットの方では、『INQB』がツアーという名目で、人攫いをしてるかのような噂も流れています。お話を聞いた限り、そうではない……んですよね?」
「そんなつもりはなかったッス。むしろこっちの社員が攫われたって言ってもいいくらいッスよ」
 アリウム・ウィスタリア(ありうむ・うぃすたりあ)の問いかけに、六兵衛がムッとした表情で返す。
「だけど、今になってそれを言ったって、もう遅いね。キミらは飛鳥豊美を敵に回したからね。
 ……まぁ、それはいいさ。ボクらはこの会社を、飛鳥豊美のライバルとなってもらうべくやって来たのだから」
「……えっ?」
 円の言葉に、六兵衛が信じられないといった顔をする。外で話を聞いていた社員も、程度の差はあれ同じような顔をする。
「六兵衛さんに聞きたかったんだけど、ツアーをやって、魔法少女が増えたとして、そこからどうするつもりだったのかな? ただ増やすだけ、じゃ続かないと思うんだよ」
 円と一緒に来ていた七瀬 歩(ななせ・あゆむ)の問いかけに、六兵衛は組んでいた手を頭の後ろにやって答える。
「……お恥ずかしながら、その後のことはよく考えてなかったッス。ツアーをやろうって思った理由は、ここじゃ言えないッスけど……」
 言いながら六兵衛が、関心なさげな様子の魔穂香に視線を向ける。その動作だけで何かを察したらしい歩が、言葉を続ける。
「魔法少女は、人の幸せを守るのがお仕事なんだよ。だからまずは、そこからやってみよっ? あたしたちも協力するよ」
「行方不明ということになっている地球人の皆さんを探し当て、事情を説明すれば、イメージも払拭出来ると思います」
「で、頃合いを見計らって、もう一度ツアーを開く。もちろん、ツアーを見直す必要はあるよ。今のツアーははっきり言って詐欺にしかならないからね」
 アリウムと円が、歩に続いて『INQB』立て直しのための計画を口にする。
「な、なるほど……勉強になるッス!」
 うんうん、と頷く六兵衛、外の社員たちも同様にうんうん、と頷く。
「後は、どなたか看板となる魔法少女がいらっしゃるといいのですが」
 アリウムの言葉に、六兵衛は口を開かず魔穂香に視線を向けることで答える。
「ねえ、魔穂香ちゃんって魔法少女なの?」
「魔穂香さんはれっきとした魔法少女ッス。本気を出せば豊美ちゃんにも勝てるって信じてるッス」
「大層な自信だね。それが本当なら、ライバルに相応しいのだけど」

 魔穂香に聞こえないように三人のやり取りが交わされ、そして歩が、魔穂香の元へ歩み寄り、声を掛ける。
「魔穂香ちゃんも、あたしたちと一緒に行ってみない? 一人より皆の方が、きっと楽しいよ」
「あー……ま、気が向いたらね」
 しかし、歩の誘いの言葉に、魔穂香は気乗りしないといった様子でそっぽを向いてしまう。
「魔穂香ちゃん、魔法少女にやりがい感じてないのかな?」
「魔穂香さんは、僕と契約した時からずっとあんな感じッス。でも魔穂香さんは、根っからあんなんじゃないって思うんスよねぇ……」

 魔穂香を見つめる六兵衛の表情は、どこか、娘の素行を心配する親のそれにも似ていた。
「あたしは、無理に変わってとかは言えないけど。……でも、お友達になれるなら、それはとても嬉しいなって思うよ」
「お願いするッス。僕も、やれるだけのことはやるッス」
 歩の言葉に、六兵衛がぺこり、と頭を下げる。外の社員たちからも、「まあ、もうちょっと頑張ってみようかな」といった声がちらほらと聞こえ始めていた。
 協力者の存在が、確実に『INQB』をいい方向へと向かわせようとしていた――。


 ――の一方で。
「おい、まだ契約取れねぇのかぁ!?」
「スンマセンスンマセン、明日までには必ず――」
「おめぇ、もうそれ何回言ったぁ? いい加減にしねぇと、チャック下ろすぞ?」
「ヒイッ!? そ、それだけは勘弁してくださいッス」

 そんな、同情したくなるような、どこか自分の身に思い当たるフシがあるかもしれない光景が繰り広げられているオフィスを――まだこの時は、円と歩に諭される形になった六兵衛が、運営方針を転回させる過渡期で、全ての部署に行き渡っていなかった――一瞥して、月詠 司(つくよみ・つかさ)が廊下に出、パタン、と扉を閉める。
「確かに噂通り、無茶な事させられてますね〜。事態が事態ですし、此れでは何れ、豊美ちゃんに滅殺! されてしまいますね」
「そうよねぇ。……だから、ここでワタシたちが手を貸せば、やり方次第でコロッ、と乗っ取れちゃうかもしれないってワケ♪」
 隣を歩くシオン・エヴァンジェリウス(しおん・えう゛ぁんじぇりうす)の言葉に、司がハァ、とため息をつく。またいつもの『暇潰し』が始まった、そもそもまともに経営する気もないでしょうに、そんな思いを胸に抱く。
「いや、確かに私、『銭湯摩抱晶女』だけどさぁ、流石に乗っ取りとか良くないと思うんだ。うん、平和が一番、だよ」
『シオシオ、ご主人様も困ってるですよ、そんな非常識な事は止めてもっと穏便に行くですよ』
 二人の後ろから、銭湯摩抱晶女 トコモ(せんとうまほうしょうじょ・ともこ)月詠 ヒカリ(つくよみ・ひかり)もシオンの企みを宥めようと言葉をかけ、看板に文字を書いて掲げる。
「あら、残念ねぇ〜。巧く乗っ取ればお金も入るし、旅行の時に盗撮・盗聴・魔法少女の変身シーン――ぁ、こんなシーンね♪」
 言うが早いか、シオンが司の懐から携帯電話を取り出して、目にも留まらぬ速さで操作をした後、ひょい、と放り投げる。
「っと! 何をしたかと思えば、行き成り投げないでくださいよ、危ないじゃないですか――?」
 司が慌てて携帯をキャッチした直後、携帯から光が溢れ、光は司の服を消し去り、間髪入れずに出現した衣装が司の身体に纏われ、いわゆる魔法少女の姿になる。
「……ぇ、ちょ、ハイぃ!? なんでこんな格好にっ」
 何が起きたか分からないといった様子の司を横目に、シオンがふふ、と微笑み、
「……とか見放題なのに、ホンッと残念ねぇ〜」
「きゃる〜ん☆摩抱晶女プリティー・トコモですっ! サービスシーン……ゲフンゲフン、困ってる皆の為に頑張っちゃいますっ♪」
 トコモに視線を向けると、トコモは先程までの態度を一変させて協力を申し出る。
「ちょ、トコモくんまで!? いや待て、ヒカリくんなら――」
『コレも人助けです、頑張って下さいです、ご主人様♪』
 一縷の望みを託して司がヒカリに視線を向けると、しかしヒカリは既にシオンによって懐柔されていた。
「……あぁ、サイデスカ」
 結局、嫌な予感が現実になってしまったなと嘆きながら、司はシオンから今回の計画の概要を聞かされる。それによると、司とヒカリが『INQB』内部に潜り込み事情を探りながら、社員に根回しをして買収を持ちかける一方、シオンとトコモが外で妨害工作を働き、最後にそれらによって生じた責任を社長共に押し付けて会社から追い出し、シオン曰く普通の旅行会社にする、とのことであった。
「……どっちが悪だか分かりませんね。……というかいい加減、変身解いていいですよね? ……ううっ、思い出しただけでも気持ち悪い……」
「やめろよ言うなよ、思い出さないようにしてたのに……オエェ〜」
 二名ほど精神的にノックダウンされながら、ともかく一行は活動を始めるのであった。


「……はい、これで晴れて、ボクとキミは契約完了です。これから、よろしくお願いしますね」
 伊吹 藤乃(いぶき・ふじの)から書類を受け取った『INQB』の社員、高崎 杏里、マスコット名『リリー』が、別の事務担当に書類を渡して、ぺこり、とお辞儀をする。
「ええ、こちらこそ。……それにしても、まさか契約するのに書類を書くとは、思いませんでしたわ」
 微笑を浮かべる藤乃、その姿は彼女の【変装用衣類セット24種】によって、十二星華の一人、ティセラ・リーブラ(てぃせら・りーぶら)にソックリであった。社員からも「……なあ、あれもしかしてティセラじゃね? ほら、十二星華最強って言う」「んなはずねーだろ……いや、確かそういえば、『歌って踊れる魔法少女』やってるんだよな、彼女」なんて噂が飛び交っている。
「ボクたち平社員は、たとえ相手の方が魔法少女としての素質があったとしても、契約で魔法少女にしてあげることが出来ませんからね。それが出来るのは、社長だけです。だから、キミが魔法少女でホント、助かりましたよ。今までフリーで活動されていたんですよね?」
「ええ、そうですわ。最近は魔法少女でも、フリーだとキツイ世の中になってしまわれましたの。ですからわたくしにとっても、今回の話はとても嬉しく思いますわ」
 藤乃がそう答えたところで、リリーが別の社員に呼ばれる。
「あ、今行きます。ごめんなさい、ボク、行ってきますね」
「はい、行ってらっしゃい」
 リリーが遠ざかっていくのを見届けた藤乃の表情に、途端に影が差したかと思うと、懐から携帯を取り出し、匿名掲示板へアクセスを開始する。
(『INQB』は、一部の者を除き契約した者を魔法少女にすることは出来ない』……まずはこれを流しておきますか。
 もちろん、これだけでは終わりませんよ。情報を集められるだけ集めた上で、『豊浦宮』に横流ししますから)

 説明しよう!
 伊吹藤乃は、所有する【変装用衣類セット24種】によって24種類の姿を持つ魔法少女スパイ、『ファントム☆ふじにゃん』である。破壊神ジャガンナートを信仰し、お望みとあらば何でもぶち壊して皆の希望を叶えてきた、フリーの魔法少女である。

(『豊浦宮』所属の魔法少女が、『INQB』の打倒を望んでいるようですからね。その望み、叶えて差し上げましょう、ふふ……)
 書き込みを終え、何事もなかったように携帯を仕舞った藤乃は、戻って来たリリーに作り笑顔を浮かべて微笑む――。


『……というように、ネットの力を駆使しないことには、この先生きのこることは出来ないのヨ。そんなわけだから、INQBのゆる族達には、通信パートナー契約及び、通信魔法少女講座を提唱するネ』
 PCの音声通信を利用しての、キャンディス・ブルーバーグ(きゃんでぃす・ぶるーばーぐ)の提案が『INQB』に届けられる。ちなみにアイコンとして使用されていた画像は、キャンディス曰く、『魔法少女な守護天使をイメージした』とのことであった。
「あ、あのー、提案はいいと思うんですよ、ハイ。ネットの力は無視出来ませんからね?
 ですがウチはあくまで、ぬいぐるみ型ゆる族が契約を果たすという形になってるのでー、その、人の姿になってもらうと困るといいますかー……」
『ええもちろん分かってますヨ、ミーは超大物シャンバラ種族なので、複数の地球人と契約するのだって余裕デス。……でも、マスコットが魔法少女になれたっていいじゃありませんか。『契約している魔法少女がいなければ、自分が魔法少女になればいいじゃない』という格言だってありますネ』
 営業スマイルを浮かべ続けながら応対する社員も、そろそろキャンディスの妄想豊かな発言に堪忍袋の緒が切れそうなご様子である。今背中のチャックを少しでも開こうものなら、爆発したっておかしくない、かもしれない。
「……どうする?」
 音声を切り、カメラの前に『少々お待ち下さい』と描かれた癒し画像を置いて、社員数名が顔を突き合わせ、対応を検討する。キャンディスの提案は一理あるが、肝心のキャンディス自身が少々どころではない問題児に思える以上、安易に提案を受け入れるのも憚られた。
「……よし、ひとまず提案は受け入れよう。その上で、もし契約を取ることが出来たら、その時に報酬を支払うようにするんだ。後、当面必要な設備等は向こうに用意してもらう。そして、『INQB』の名は絶対出さないように徹底させろ。これ以上会社の名を地に下げれば、明日にも俺たちの墓石が立つぞ」
「むしろ、墓を用意されるだけの何かが残ればいいくらいッスね。豊美ちゃんがやって来た日には、骨の一欠片も残らない気がするッスよ」
「無駄口は叩かんでいい。とにかく、そのようにお伝えするんだ」
「了解ッス」

 そして、提案はキャンディスに伝えられ、キャンディスは喜んでその提案を飲み、早速携帯サイトを立ち上げ、先程用いた画像とコメントを載せた。
【わたしと契約して、魔法少女になってください! あなたのアクセス、いつでも待ってるから……♪】

 一方その頃、
「ああ、神よ……」
 百合園女学院では、キャンディスのパートナーである茅ヶ崎 清音(ちがさき・きよね)が、パートナーのしていることなど一切知らないまま、神に祈りを捧げていた。