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あなたの街に、魔法少女。

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あなたの街に、魔法少女。

リアクション

 経験豊富な魔法少女が勉強会を開催する、との触れ込みに、会場に割り当てられた会議室は『INQB』のゆる族でいっぱいになっていた。
(さ〜て、可愛いマスコットはいるかな〜っと……じゃなかった。
 豊美ちゃんは警戒してるけど、一応はちゃんとした会社みたいだし、ここは皆の仕事振りをチェックさせてもらおっかな)
 勉強会を開くことにしたカレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)が、『INQB』のゆる族たちが魔法少女にどんな意識を持っているのかを確認するために、彼らにいくつか質問をしていく。
(……ここでカレンのマスコットを見つけることが出来れば、我のマスコット生活も終わりを告げるのだ。大体、いつも通気性が悪くて後でメンテナンスをする羽目になっておったからの……是が非でもカレンに相応しいマスコットを見つけるのだ)
 部屋の中では、ジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)がある意味自分の立場改善のために、視線を巡らせてゆる族たちをチェックしていた。

「魔法少女に大切なものは何?」
「凄みとドスの聞いた声と腕っ節ッス!」

「魔法少女のマスコットとして求められるものは何?」
「ゴマすりと袖の下と根回しッス!」

 ……しかし、ゆる族たちがあまりに珍回答を連発するので、
「魔法少女は遊びじゃないんだからね!」
 と、カレンに隕石を落とされ、ゆる族たちはぴくぴく、と地面で震えていた。実は、彼らにとってはギャグでもなんでもない至極真っ当な――あくまで自らの知識に則った――回答だったのだが、カレンにはフザケていると思われてしまったようだ。
「あー、申し訳ないッス。こいつら出身がちょっとアレなんで、魔法少女に対して変な意識持ってるッス。体力だけはバカにあるんで、変なこと言ったらバシバシぶっ飛ばしちゃっていいッスよ」
 六兵衛がフォローを入れて、そしてコホン、と仕切り直すように、カレンが魔法少女が社会に及ぼす有益性とそのその存在意義を懇々と説いて回る。とはいえカレンの言っていることは半ばお説教に近かったが、それでもほとんどのゆる族は話について行けず、紙飛行機を飛ばしたりノートに落書きをしては、その都度カレンに隕石を落とされていた。
「もう、みんなだらしないなぁ! ボクに相応しいマスコットはいないの?」
 つい本音をこぼしつつカレンが愚痴ると、視界に、ノートに向かって一生懸命メモを取っているゆる族が映る。カレンが覗き見ると、そのゆる族はちゃんとカレンの発言を書き留めていた。明らかに上手く握れていないペンを懸命に動かしている様に心動かされたカレンが、そのゆる族に声を掛ける。
「ねえ、キミの名前は?」
「あ、ぼ、ボクですか? えっと、ボクは散田 鴉、マスコット名は『ラス』です」
 ノートから顔を上げたラスが、ぺこり、と頭を下げる。ちなみに何故和名なのかは、元々ゆる族が空京の元となった『ゆるヶ縁村』に多く住み、かつそこから日本にしょっちゅう流れ着いていたかららしい。真相は定かではないが、理由の一つとして妥当性があるような気もする話である。
「ふーん、ねえラス君、ボクのマスコットにならない?」
「え、カレンさん、まだマスコットと契約してなかったんですか?」
「うん、色々あってねー」
 マスコットを物色するためとは言えないので、カレンは言葉を濁す。
「えっと……じゃあ、ボクでよければ、よろしくお願いします」
 もう一度、ラスがぺこり、と頭を下げる。


 ――そんな、『INQB』を内部から潰そうとする者たち、あるいは自らの壮大な計画を実現せんと企む者も現れつつ、『INQB』も『豊浦宮』に対抗するように、各地で魔法少女の勧誘と、所属の魔法少女による活動を始めていった。

(わーん、ヤバイよヤバイよ〜、今日中に契約取れなかったら会社クビだよ〜)
 空京の街を、焦りに駆られながら『INQB』の社員、宝街 みやび、マスコット名『ミャビ』が行く。ようやく掴んだ『魔法少女のマスコット』のチャンスを離したくないとばかりに、ミャビが必死な形相で(でもあくまでプリティーな顔つきで)魔法少女の素質がありそうな者を探す。
「ねえ、ボクと契約して、魔法少女になってよ!」
 そして、ミャビがターゲットに定めたのは、誰かを待っているような素振りを見せる、優しそうな線目の顔をした女性、木崎 鈴蘭(きざき・すずらん)であった。
「えっ、魔法少女!? きゃあ〜♪ ついに私も魔法少女になれるのね!」
 契約を持ちかけたミャビを一目見、パアッ、と鈴蘭の表情が晴れる。これは脈アリ、と踏んだミャビが一気に攻勢をかける。
「ボクはキミをずっと待っていたんだよ。キミなら最高の魔法少女になれるって、ボクが保証するよ。
 だからお願い、魔法少女になってよ」
「なるなる♪ はぁ〜、憧れだったわ、肉体系魔法少女!」
「…………え?」
 鈴蘭の言葉に、ミャビが固まった。
「そうよ、魔法少女は打撃系! 敵対者を××して□□して●●な目に遭わせる、撲殺天使!
 ……あぁ、今からワクワクしてきたぜ」
 物騒な台詞を吐き、口調までどこか『その筋』を匂わせるものに変化した鈴蘭を見、ミャビは『地雷を踏んだ』と悟った。
「……あっ、キミ、守護天使だよね? ボクは地球人じゃないと契約出来ないから、ゴメン、今の話は忘れて!」
 即座に、鈴蘭が守護天使であることを理由に(最初は『パラミタ種でもいいや』と思っていたのは隠して)離脱を図ろうとする。
「す、鈴蘭さん……そ、そのゆる族さんは……?」
 だが一足遅く、そこに鈴蘭のパートナー、木崎 宗次郎(きざき・そうじろう)が戻って来る。
「ヒイッ!?」
 ミャビが一目宗次郎を見た瞬間、身体が金縛りに遭ったように動かなくなる。ミャビでなくても、宗次郎の鋭い眼光、周囲に吹き出す瘴気を目の当たりにして、平常心で居られる者は少ないだろう。
「あぁ〜ん宗次郎さ〜ん、実はかくかくしかじかで……」
 うるうる、と目に涙を浮かべて、鈴蘭が事情を説明する。
「そ、そうなんだ……鈴蘭さん、魔法少女になりたいって、ずっと言ってたもんね……。そっか、夢が叶うんだ……」
「そうなのよ〜、でも、私とじゃ契約出来ないって言うの〜。ねぇお願い宗次郎さん、この子と契約して? そしたら一緒に居られるから、契約したことと同じになるでしょ?」
「え、で、でも……」
 未だ固まっているミャビと鈴蘭とを見、宗次郎が戸惑いの感情を(決して表情には出ない)口にする。本当の宗次郎はあがり症で社会不安症で対人恐怖症であり、鈴蘭以外との契約なんて怖くてとても考えられなかった。
(うぅ……で、でも、鈴蘭さんが魔法少女になれるなら……)
 唯一ちゃんと話をすることが出来る鈴蘭のために、宗次郎は怯えながらもミャビの元へ歩み寄り、意を決して口にする。
「……ぼ、僕と契約して、鈴蘭さんを魔法少女にさせろ!!」
「わーん、ごめんなさいごめんなさい、魔法少女にでも何にでもしますから許してください〜」
 カタカタ震えながら泣き出すミャビ、その目には宗次郎が肩を揺らしながら近付き、その耳には「いっぺん魔法少女にするっつっといて、撤回するたぁ、いい度胸してんじゃねぇか。男が二言を違えたらどうなるか、分かってんだろうな?」と聞こえていただろう。……そもそもミャビが男かどうかは分からないが。

「撲殺少女マジカル★スズラン! 歳の事と宗次郎さんの悪口関係は禁句だぞ♪」
 そして、ミャビと契約を済ませた鈴蘭(実際に済ませたのは宗次郎だが)が、魔法少女な名乗りをビシッ、と決める。
「に、似合ってますよ、鈴蘭さん」
「うぅうぅ……」
 そんな鈴蘭を、パチパチ、と宗次郎が褒め、隣でミャビが小さくカタカタと震えていた。


「ほぇ〜、『INQB』のゆる族さん達は、大変なのですねー」
「うっうっ……そうなんですよ、上司はとにかく契約だ契約だって急かしてくるし、社長は自分が契約している魔法少女のことばっかり気にしてるし、その魔法少女は仕事してるところ見たことないし……あぁ、どうしたらいいんでしょう、ボク」
 縁あって話を聞いていた土方 伊織(ひじかた・いおり)の前で、『INQB』社員、空澄 スバル、マスコット名『スピー』が自身の待遇を呪ってむせび泣く。
「僕はてっきり、豊美さんから聞いた通りの悪い人達かと思ってたのですよ」
「確かに、そう思われても仕方ない部分もあります。だけど、ボクたちは決して悪いことしようと思ってたわけじゃないんです。社の方からも、行方不明になっている地球人と同僚の捜索をするようにお達しが来ましたし、みんな反省してると思うんです」
「お嬢様、お言葉ですが、この者の手伝いをしてさしあげるのは如何でしょうか。こちらから一方的に襲いかかってしまった落ち度もございますし」
 二人の会話を耳にしていたサー ベディヴィエール(さー・べでぃう゛ぃえーる)が口を挟む。その言葉を証明するように、スピーの身体のあちこちには擦り傷が出来ていた。
「そ、そうですねー。分かりましたー、お詫びの意味も込めて、僕達が協力するのですよ」
「ほ、本当ですか? あぁ、ありがとうございます。……では早速、魔法少女としての契約を」
「え、ちょ、ちょっと待ってくださいですー。あの、僕、男の子ですよ? だから魔法少女にはなれないんじゃ――」
 手を振って拒否しようとする伊織に対し、スピーがキッパリと言い放つ。
「そんなの関係ありません!」
「あうー、いいんですか、それでいいんですかー!?」

「……はい、契約完了です。これからよろしくお願いします」
 契約を完了し、スピーがぺこり、と頭を下げる。
「はうぅ、なれなくてもいいのにー……でも、お手伝いするって約束しちゃったですし、恥ずかしいですけど、魔法少女頑張りますぅ」
 恥じらいながらも決意を固めた伊織の元へ、どこか嬉々とした表情のベディヴィエールとサティナ・ウインドリィ(さてぃな・ういんどりぃ)がやって来る。
「あぁ、ついにお嬢様が魔法少女に……あの時私が七夕に願ったお願い事が叶ったのですね。
 そこのぬいぐるみ、良くやったと褒めてあげます。これで『魔法少女? マジカルいおりん』のお披露目が出来ますわ」
「はわわ、何ですかその名前ー」
「えっと、『魔法少女? マジカルいおりん』ですね。了解です、書類に追記しておきます」
「か、勝手に登録しないでくださいー」
 伊織の抵抗虚しく、伊織の魔法少女名は『魔法少女? マジカルいおりん』で決定してしまった。
(ふふ、伊織は困ってる者を見捨てられぬからのう……自業自得というものじゃな)
 そう思ったサティナが、ふと思い立ってスピーを呼び、耳元に囁きかける。
「……まさか、伊織の善意に付け込んで、ただ働きとは言わぬよのう? 我は袖の下というものを所望するのだの」
「あ、お給料は出ますよ。でもちょっと今は、財政状態が厳しいんで、支払いが滞ってしまうかもですね」

「ちょ、サティナさん、何話してるんですかー」
 伊織に窘められたサティナが、ふむ、と考えを巡らせる。
(そういえば、『INQB』とやらの内部状況をよく知らぬまま契約と相成ってしまったが、これは探りを入れる必要があるかのう。もしも本格的に豊実の所とぶつかるようなことになれば、色々と面倒だからの。痛い目はぬいぐるみに負ってもらうとしても、黙ったままというのも落ち着かぬ)
 そんなことを思い至ったサティナが、とりあえずは、と思考を切り替え、カメラを手に伊織の一挙一動を撮影する気満々のベディヴィエールに歩み寄る。
「後で我にもこっそりと分けてくれぬか? セリシアにも送ってやろうと思うのだの」
「心得ましたわ。不肖この私、お嬢様のご勇姿を逃さずお納めいたし、ご両親様方にご報告する所存です。
 ああ、ついでにこれらを然るべきメディアに売り込み、『INQB』所属の魔法少女様方はこれほど善い行いをしていると宣伝なさるのもよろしいやもしれませんね」
(はうぅ、また何か嫌な予感がしますー……)
 二人の、本当に実行しかねない勢いで展開される計画に、伊織は今から身震いを感じるのであった。


「ふーん、ナラカに住人がいるって噂は聞いてたけど、まさかそこの住人が魔法少女になりたいなんて、世の中は変わったねぇ」
「まほーしょーじょって凄いんですよね! 人の為になることをしたり、魔法でずばーんと戦ったりするんですよね!
 ボクもそういう風にまほーしょーじょやってみたいんですっ」
「ま、魔法少女になっちゃいけない種族なんて決まってないんだしね。それに、キミみたいな意思を持ってる子を手放すのも惜しい。現実はなかなかに厳しいからね……」
「ゲンジツがリソウとかけ離れているなら、リソウをゲンジツにすればいーのですよ!」
「なるほど、それは一理あるね。ま、そういうわけで、今後ともよろしく」
「よろしくなのですよー」

 一人の魔法少女と一匹のマスコットがそれぞれ、視線を交わし合いぺこり、と頭を下げる。
 魔法少女の方は、雨宮 七日(あめみや・なのか)の身体を借りたツェツィーリア・マイマクテリオン(つぇつぃーりあ・まいまくてりおん)。マスコットの方は、加藤 権兵衛、マスコット名『ゴン』。どうやら霊的存在であっても、魔法少女にはなれるようだった。
「それで、具体的に何をすればいいんでしょー。あと、お仕事あるなら今日から早速やりたいですー。七日さんに「チンタイリョウは一日300万ゴルダです」なんて言われてしまったのでー」
「300万ゴルダって、宝くじでも当たらなきゃ返せない額だね」
「あははー、七日さん、乗り気じゃないみたいで。ボクは一緒に頑張ってほしいって思ってるんですけどねー……」
 ツェツィーリアが、七日に憑依する前に七日から散々、下らない、だの、そんなことして何になるんですか、だの言われたことを思い出して、苦笑いする。
「それでも、元気にいきたいと思います! やればどーにかなりますよねっ!」
「前向きだねぇ。ま、その考え、嫌いじゃないよ。……そうだね、会社からは行方不明者の捜索を指示されてるから、今から行ってみようか」
「はいー!」

(……ひとまず、順調に行っているようだな。っと、オレも行くか)
 一人と一匹が街中に消えていこうとするのを、影から見守っていた日比谷 皐月(ひびや・さつき)が見失わないように追いかける。
 ちなみに今の彼の姿は、うさみみを付けた幼女にしか見えなかった。これならツェツィーリアにもバレないだろうし、読者サービスにもなるだろう……多分。