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貴女に贈る白き花 ~日常と戦いと~

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貴女に贈る白き花 ~日常と戦いと~
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第8章(2)
 
 
「さぁ、かかって来なさい! それとも、それだけいながら女の子一人に怖気づく臆病者ばかりなのかな?」
 主戦場の一角で寿 司(ことぶき・つかさ)が盗賊達を挑発する。乱戦の中、一人で立ちながら強気な発言をする少女に盗賊達が一斉に襲い掛かってきた。
「そうそう、あたしが相手を……してあげるっ!」
 迫り来る相手の武器を短剣で受け止め、そのままへし折る。司が手にしているのは『剣を砕く者』、ソードブレイカーだった。
「なるほど、こうやって無力化するって訳ね。あの時やられてたら危なかった……」
 短剣と盾を駆使して戦いながら、司はそんな事を考える。
 彼女は以前、シンク南の山で起きた動物達の凶暴化事件の際、立場の違いから他の契約者と戦う事があった。その時に相手が使ってきた戦法が今司が行ったソードブレイカーによる武器破壊で、相手の行動のちょっとした違和感を察知してギリギリ助かったものの、危うく自身の大剣をへし折られる所だったのである。
「あたしだってあれから経験を積んでるんだから、この位はやらないとね」
 そのまま敵を引き付ける。そして集まった敵がある程度増えたタイミングで、劣勢を装って一気に後退を始めた。
「逃げる気か、待ちやがれ!」
「やだよ、大勢でないと強気に出られない人達の相手なんてしてられないもんね」
「ふざけた事抜かしてんじゃねぇぞ!」
 頭に血が上った盗賊達が追いかける。ただひたすら走る彼らは司がある地点で若干蛇行した意味に気付かず突進し、突如転びだした。
「だぁっ!?」
「うぉぉっ!?」
「な、何だこりゃ!?」
 荒野に男達の悲鳴が響き渡る。
 彼らの足にはがっちりと喰らいつく虎バサミが。更に後続の何人かも地面と同色の布が敷かれている事に気付かず、次々とトラップに引っかかっていく。全ての仕掛けが発動した事を確認し、キルティ・アサッド(きるてぃ・あさっど)が姿を現した。
「良くやったわ寿。予想以上の喰い付きね」
「キティもいい所に仕掛けてくれたじゃない」
「まぁ喰い付きが良すぎて仕掛けが足りなかったのが予想外だったけど。とりあえず端から黙らせていきましょうか」
「オッケー! だいちゃん達もお願いね!」
「おう!」
 二人がトラップにかかった盗賊達を無力化していく。更に残った敵を片付ける為、篁 大樹九条 風天(くじょう・ふうてん)達が飛び出した。まだ罠が潜んでいないかと警戒する盗賊達に対し、次々と斬りかかって行く。
(全く、今日は今宵を労うパーティーの為に休暇まで取ったのですがね。予約しておいた花の為にも、早く片付けないとなりませんね)
 風天が後ろの坂崎 今宵(さかざき・こよい)をちらりと見る。彼女は白絹 セレナ(しらきぬ・せれな)と共に遠距離からの支援だ。
「殿のお休みを邪魔するとは許せない方々です。姉さま、参りましょう」
「うむ、今宵が腕を揮う時間が無くなっては今日の宴の楽しみが半減してしまうのでな。早急に終わらせるとしよう」
「ご安心下さい。既に仕込みは終わっていますので、帰ってからすぐに取り掛かれます。準備は万全です」
「さすがだな、今宵は……ちなみに油揚げはあるのだろうな?」
「ご安心下さい。きちんと用意してあります。準備は万全です」
「さすがだな、今宵は」
 満足げな笑みを浮かべながらセレナが弓を引く。狙うは敵の持つ飛び道具。放たれた矢が敵の武器を弾き飛ばすと、更に光の閃刃で武器そのものを切り裂いた。
「油揚げが待っているのなら私のやる気も三倍増しだ。所詮は練度の低い盗賊、物の数では無いな」
「えぇ、殿や皆様の為に、私達で出来るだけ数を減らしましょう」
 続けて今宵が二丁拳銃で同じく武器を撃ち落していく。それだけでは無く、奈落の鉄鎖で敵の前衛を鈍らせる事で、風天や宮本 武蔵(みやもと・むさし)の援護も同時にこなしていた。
「はっ!」
「よーし、貰ったぜ!」
 重力に縛られた敵に肉薄して風天が抜刀からの攻撃で斬り付け、武蔵が力を活かした一撃を与える。
「センセー、今日は随分気合が入ってますね。いつもなら今宵に怒られているのに」
「へへっ、宴会なら嬢ちゃんに睨まれずに呑めそうだからな。そいつを邪魔する奴らにゃ指導あるのみよ」
 前衛として相手の攻撃を受け止め、そのまま力で押し返す武蔵。そこに風天の突きが加わり大きく吹き飛ばす。
「なるほど。まぁ真面目に戦う分には今宵も文句は言わないでしょうからね」
「そういう事よ。さぁ大将、それに要に悠美香っつったか、俺達で蹴散らしてやろうぜ!」
 武蔵が共に並び立つ月谷 要(つきたに・かなめ)霧島 悠美香(きりしま・ゆみか)にも檄を飛ばす。二人は要が攻、悠美香が防と担当を分けながら連携して戦っていた。
「宴会……ごちそう……いいなぁ」
「要、集中して!」
 食欲魔人に注意をしながら悠美香がクラースナヤと月光、二振りの剣で数人の攻撃を一手に引き受ける。そして同時に精神感応によって敵に気付かれずに、そして確実に要と意思疎通を図っていた。
(んじゃやりますか。2秒後に頭下げて)
(分かったわ。1……2!)
 要が跳躍し、1秒前まで悠美香の頭があった所を通過してその先の敵に蹴りを入れる。更に力を篭めた肘鉄を隣の盗賊に当て、奥にいる敵数人を纏めて吹き飛ばした。
「暴れると腹が減りやすいんだけどねぇ。出来るだけ早く終わらせるしかないかな。でも……いいなぁ、ごちそう」
「かなり惹かれているみたいですね。目的は普段家事などをしてくれるうちのパートナーを労う為の物なのですが、よければ要さん達も参加されますか?」
 風天の誘いに要が強く反応する。もし動物の耳や尻尾があったらぴくんと立てている事だろう。だが、本当にごく僅かにだけ迷った末、要は静かに首を振った。
「気持ちは嬉しいけど止めとくよ。うちにも普段から世話になってるパートナーが待ってるから、花を渡してやりたいんでねぇ」
「そうですか。それなら帰ってあげた方がいいですね。その為にもまずは、ボク達の手で花を取り返しましょう」
「了解、それじゃどんどん行くとしますか、悠美香」
「えぇ、盗賊達が私達の連携を止められはしないわ。一気に片付けるわよ!」
 
「こいつ! 喰らえやぁ!」
 盗賊の一人が斧を振りかぶる。その攻撃対象である霧雨 透乃(きりさめ・とうの)は右手で斧を横殴りにすると、そのまま身体を捻り、左の裏拳を相手の後頭部に叩き込んだ。
「力任せの攻撃で隙だらけだね。そんなんじゃ当たってあげる方が難しいよ」
 ピンクがかった赤き闘気を両手から出しながら倒れた相手を見下ろす。隣に落ちている斧には、炎を受けて熱の篭っている様子が見て取れた。
「透乃ちゃんったら、せっかくの勝負なのにカウンター重視で戦ってるの? これなら私の勝ちは決まりかしら」
 近くの敵を雷の篭った蹴りで吹き飛ばした月美 芽美(つきみ・めいみ)が寄って来る。二人はどちらがより多くの敵を倒せるか競っているのだが、速さを活かして死角から攻撃を繰り広げる芽美に対して透乃は敢えて相手の攻撃を読んだ上での反撃というスタイルで挑んでいた。その差もあってか、周囲の盗賊達をほぼ倒しきった今の時点では芽美の方が若干数が多くなっている。
「まだ分からないよ……って言いたいけど、肝心の相手がいないとどうしようも無いね。この辺であと残ってるのは……一人か」
 近くにいる最後の盗賊を見る。向こうが攻撃を仕掛けてこないので仕方なくこちらから走り出すと、芽美も競うように併走してきた。
「ちょっと、余裕があるなら譲ってくれてもいいんじゃない? 芽美ちゃん」
「それはそれ、これはこれよ」
「しょうがないね……じゃ、同時って事で」
「その代わりカウントは半分ずつね。行くわよ!」
 透乃が地を蹴り、芽美が空へと跳ぶ。地の炎と天の雷、二つの攻撃が同時に盗賊へと襲い掛かった。
「これでも――」
「喰らいなさい!」
「ぐはっ!?」
 アッパーと跳び蹴りを喰らって錐揉みをしながら飛んで行く。二人はすぐに次の獲物を探して辺りを見回すと、その先では風天達が戦っていた。手前側にいる大樹の姿を見て、透乃はある事に気付く。
「そういえば、大樹ちゃんって魔剣士なんだよね?」
「確かそう言ってたわね。普通の大剣持ってるから全然そう見えないけど」
「ネクロマンサーほどじゃなくても魔剣士って周りにいい印象を与えるクラスじゃないのに、何で選んだんだろうね?」
「そう言われると不思議ね」
「……もしかして、フェルブレイドとフェイタルリーパーを間違えて選んだとか?」
「いや、それはさすがに……ある、のかなぁ……大樹君の頭だと」
 
「って訳なんだけど、何で魔剣士を選んだの?」
「オレのイメージって……」
 透乃達から話を聞き、大樹ががっくりと肩を落とす。とは言え頭が残念なのは事実なので、特に反論はしない。
「あ〜、まぁ俺がフェルブレイドなのは、自分から選んだっつーより、こいつのせいかな」
 大樹が自身の持つ大剣をかざして見せる。
「その剣の? 特に変わった剣には見えないけど」
「ちょっと待って透乃ちゃん。柄の所に窪みがあるわ。まるで何かが嵌ってたみたい」
「本当だ。じゃあもしかして、これも魔剣とか?」
「まぁ魔剣と言うか、魔剣『だった』ってのが正確なんだけどな」
 もともと大樹が持っている大剣は呪われた魔剣だった。とある事情でそれを手に入れた大樹は呪いの力に支配されそうになるが、父や兄弟達、そして後にパートナー契約を結ぶ事となる篁 月夜(たかむら・つくよ)の献身によって助けられ、剣も魔剣としての力を失う事になったのである。
「で、結局こいつは俺がそのまま使う事になったって訳。捨てられない事情もあるからさ」
 そう言って剣を下ろす。実際の所、その辺りの事情を詳しく話し始めたら簡単には終わらない。
「それよりそっちはどうなんだ? グラップラーになった理由とかはあるのか?」
「私はどんな状況でも戦えるようにする為かな。格闘ならあんな心配もしなくていいから」
 透乃が少し先、司が戦っていた方を見る。そこには彼女のソードブレイカーで武器を折られ、戦闘手段を失って捕まっている盗賊がいた。
「それに、せっかく戦うならその感触を実感したいものね」
 芽美が付け加える。その目は既にまだ残っている盗賊達の方へと向いていた。
「って事で、勝負の再開と行きますか、透乃ちゃん」
「そだね。それじゃ大樹ちゃん、また後で」
 二人が敵集団へと駆け出す。それを見送りながら、大樹は敵を捕らえている司達の支援に向かって行った。