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【9班】
「ああ、さっきから騒々しかったのは不良が暴れ回ってたからなんだね」
 と、佐々木弥十郎(ささき・やじゅうろう)は納得をした。
 彼の前には完璧に切られた野菜の数々、問題は鍋がまだ空であることだった。
「一番いい効能の奴を頼む、もちろん即効性でな」
 と、『精神感応』により繋がった佐々木八雲(ささき・やくも)が言う。
「うん、分かった」
 弥十郎は頷くと、早速材料を炒めはじめた。
 先ほどまで躊躇っていたはずの彼が急にてきぱきと動き始め、手伝いをしていた藤林エリス(ふじばやし・えりす)が首を傾げる。
「何かあったの?」
「うん、不良が女の子に絡んだり、喧嘩してるとかで。それなら、不良たちにカレーを食べさせようと思ってね」
 と、何種類ものスパイスをどこからか取出し、調合していく弥十郎。こうして効能を追求するのは良いのだけれど、そのせいでカレーを作ると味がとんでもないことになるのが弥十郎の悩みだった。
 だからこそ、それを不良たちへ食べさせようと八雲は思いついたのだ。
 エリスはアスカ・ランチェスター(あすか・らんちぇすたー)に視線を送った。
「ちょっとあたし、見てこようかしら」
「そうね、私も行くわ」
 と、歩き出す二人。
「女の子二人で、大丈夫でありましょうか?」
 と、彼女たちを見送る大洞剛太郎(おおほら・ごうたろう)。心なしか、そわそわと落ち着きがない。
「ふむ、心配ではあるが大丈夫じゃろ」
 根拠もなくそう返す大洞藤右衛門(おおほら・とうえもん)に、剛太郎は溜め息をついた。
 米を炊く準備は出来ているし、あとは薪を待つだけだから彼女たちの後を追うのも……と、考えたところで藤右衛門に肩を叩かれる。
「ほれ、薪が来たぞ」
 はっとそちらを見ると、戻ってきた八雲が薪をかまどへくべ始めていた。

「女の子と遊びたいんなら、あたしたちが遊んであげるわ」
 と、エリスは不良たちへ声をかけた。身に着けたイルミンスール魔法学校の制服は大きな胸を際立たせ、超ミニにしたスカートから伸びた絶対領域が、これ見よがしに見せつけられる。
 その隣にいるアスカもエリス同様に男を惑わせていた。
 本能に逆らえず、彼女たちに釘付けになる不良たち。
 つかつかと近づいていき、エリスは言った。
「あたし、今カレーに入れるイモをむいていたんだけど……どうやら、先に料理しなきゃいけない腐ったイモが転がってたようね!」
 そして目の前の男の股間にハイキックをお見舞いする。
 それとほぼ同じタイミングで、別の男の急所へ膝蹴りをくらわせるアスカ。
「な、何なんだこいつら――っ」
 可愛らしい外見とのギャップに恐怖を覚え、不良たちが逃げだそうと背を向けた。
 慌ててバイクに駆け寄る彼らの目の前、バイクにぼうっと火が付いた。アリスの『火術』だ。
「嫌がる女の子にしつこく絡むイモ男とか最低よ!」
 と、エリスは『ファイアストーム』を炸裂させた。
「うわあああー!」
 炎の嵐に翻弄され、不良たちは逃げ場を失う。
 そんな彼らへ、エリスとアスカが言い放つ。
「愛と正義と平等の名の下に! 不埒なイモ男どもは、まとめてウェルダンに焼き上げて焼きイモにしてやるわ!」
「女の子たちのラブラブクッキングタイムを邪魔した罰よ! 恋する乙女の怒りを思い知らせてあげる★」
 にっこりと素敵な微笑みを浮かべ、少女たちは不良たちを成敗しにかかった――。

2.

【8班】
「さっきから騒がしいな」
 と、国頭武尊(くにがみ・たける)は呟いた。
 その言葉に神野永太(じんの・えいた)も顔を上げてそちらを見やる。
「見に行った方が良いでしょうか?」
「……そうだな、カレーは任せても良さそうだし」
 と、武尊は準備をしている神和綺人(かんなぎ・あやと)クリス・ローゼン(くりす・ろーぜん)を見た。
「そうですね」
 頷いて永太も、武尊と共にそちらへ向かって歩き出す。
 その様子を横目に見つつ、綺人はじゃがいもを睨むクリスに言った。
「あ、クリスはまな板と調理台を一緒に切っちゃう恐れがあるから、皮むきだけにしてね」
「っ……わ、分かりました」
 傷ついた顔で頷き、じゃがいもを片手に、包丁をもう片方の手に取るクリス。
 じーっと睨むようにしてじゃがいもに刃を入れていく彼女だが、ふいに悲鳴を上げた。
「――ああ! 可食部分も皮と一緒にむいてしまいましたっ!」
 見ると、手の平ほどあったじゃがいもが半分ほど欠けていた。
 そう、クリスはとても不器用だった。過去に調理台を真っ二つにしたり、まな板を千切りにしてしまったことがあるため、先ほどは綺人にひどいことを言われてしまったのだ。
「クリス、それだともったいないよ。気をつけてやってね」
 と、苦笑半分に言う綺人。
「は、はい……」
 クリスはもう一度チャレンジするが、皮をむけばむくほどにじゃがいもは小さくなっていく。食べる部分がなくなりやしないかと心配だ。
 彼女から視線を外して、綺人は大根や蓮根といった根菜を切り始めた。
「他の人には悪いけど、根菜入れないとカレーって感じがしないんだよね」
 神和家のカレーは、どうやら根菜入りが普通らしい。
 だが、それで美味しく出来るのであれば、誰も文句は言わないだろう。それよりも問題なのはクリスの方である。

「……誰のパートナーだか知らないが、面倒な事をしやがって」
 と、武尊は喧嘩の中心と思しき守護天使を睨んだ。
 一時は優勢になった叶月たちだったが、騒ぎを聞きつけた仲間の不良が駆けつけて、騒ぎはさらに大きくなっていた。
「このままだと勝てる見込みはありませんね」
 と、永太。
 すると、薪を拾っていたはずの八木乱之介(やぎ・らんのすけ)が喧嘩に乱入するのが見えた。
「さぁ! 派手に行こうかぁぁぁっ!!」
 と、不良たちを挑発する乱之介。
「あれは同じ班の……」
 と、気づいた永太は思わず苦笑してしまった。
 同じく苦笑するのは滝川洋介(たきがわ・ようすけ)、本当なら喧嘩になんて加わりたくないところだがパートナーが入ってしまっては……。
「俺、平和主義のはずなんだけどなぁ」
 無意識に溜め息をついてしまった。仕方なく薪を足元へ置いては、乱之介を追って中へ。
 出来るだけ負傷している不良を狙い、確実に数を減らしていこうとする洋介。しかし一対一とはいかず、まぐれで一人を気絶させたところで避けることに集中した。
 ふと、パートナーの方に目を向けると、洋介はびっくりした。
「暴れすぎだ、乱之介っ!」
 敵味方構わず好き勝手に暴れる乱之介。慌ててそちらへ走っていくものの、すぐに行く手を塞がれてしまう。
「――くそっ」
 不利だ。
「加勢するしかなさそうです」
 と、呆れたように苦笑しながら、永太も中へ入っていった。
 一方武尊は、一人傍観、否観察をしていた。
 不良たちはいずれも武器を手にしており、人数は十数人……こちらの人数が増えれば相手の本気度も増してくるわけで。
 武尊は『ブランド時計』を使用した。
 双方の動きが鈍くなり、そこへ武尊は『アクセルギア』で加速、不良だけでなく武器を手にした全員の手から、次々にそれらをたたき落としていった。
「素手での殴り合いなら、得物を使ってやるよりはマシだろ」