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脳内恋人バトルロワイヤル!

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脳内恋人バトルロワイヤル!

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【一回戦第七試合】
湯島 茜(ゆしま・あかね)
シャンバラ女王
     VS
クド・ストレイフ(くど・すとれいふ)
ハナ


「右コーナーから『5000年間、誰かを愛せますか? そして悲劇は繰り返される』湯島茜&シャンバラ女王の登場だッ!!! そして左コーナーからは『最高の肥料は愛情ですッ!!!』クド・ストレイフ&ハナが登場だッ!!!」


【茜ターン】
 私は自分が仕えている女騎士の護衛を無事に終え、今晩の寝床である古い宿へと着いた。
 私は女騎士とその従者であるメイドと別の部屋に入ると、一目散に汗や砂埃で汚れた服を脱ぎ捨て、部屋に備えてある小さな湯船へと身を沈ませた。
 湯は初めピリリと皮膚が軽く痺れるほど熱く、徐々に体の奥へとその熱が染み込んでいく。

「ふう・・・・・」

 私は大きく息を吐いた。そして、一日の疲れを癒すためにジックリと入浴する。
 まるで瞑想でもするかのように、目を瞑りながら私は考え事を始めた。それは学のない私にとってはとても扱い切れるようなものではなかったが、厳しい旅を続けているとふと、宇宙の始まりとはどのようなものだろう? などという荒唐無稽な問いを立ててみたくなるものなのだ。
 今日は自分の前世について思いを巡らせた。まあ、そもそも人間に前世というものがあるのかすら正直よく分からない。だが、このようなことを考えたのには訳がある。
 私は元々、女騎士の捕虜であったが、まったく死ぬことを恐れない私に興味を持ったのか、彼女は私を護衛として雇ったのだ。
 女騎士とは何故か話がよく合った。初めは主人と捕虜という関係でありながら、昔からの友人であるかのように親しくなったのだ。
 そこで、私はふと自分が女騎士と前世で知り合っていたのではないか? という風に思うようになった。都合の良い空想だ、と言われればそれまでなのだが、何故か私には予感めいたものがあった。

「入ってもいいかしら?」
 私が湯船につかっていると、部屋の外から声が聞こえてきた。
「かまわない」 と答えると、女騎士が果物を手に持って部屋に入ってきた。そして湯船と部屋を仕切っている垂れ幕の前で彼女は立ち止まる。
「サービスで私たちの部屋に置いてあったのよ。良かったらあなたもどうかしら? この地方の果物は乾季が長いから甘みが実に凝縮されているのよ」
「ありがとう、それは美味そうだ。だが、こういう役目はあのメイドにやらせた方がいいんじゃないか?」
「ふふ、これはアカネの部屋に来るための口実よ」
 そう言うと、女騎士は垂れ幕の隙間から、手に持った丸くて黄色い果物を私に放り投げる。
 私は黙ってそれを受け取ると、一口かじった。
「ふむ、たしかに甘くて美味しいな」
「でしょ、なのにアカネの部屋には置いてないんだから、持ってこないとね」
「私がこの宿の者であれば、豪華な装飾が施された鎧を着た騎士とその従者が泊まる部屋、薄汚れた服を着た護衛が泊まる部屋、どちらを重点的に当たるかは迷いようがないがな」
「ふふ、だけど服や身分のせいで見落としまいやすいだけで、アカネの精神は他の誰よりも気高くて美しいと私は思うわ」
 そう言って、女騎士は目を細める。
「私には出来すぎた言葉がありがたく受け取っておこう」
 女騎士が出て行くと、私は湯船から上がり、用意していた服に着替える。すると、今度は女騎士の従者であるメイドが部屋に入ってきた。

「失礼します」
 メイドはそう言って私の部屋に入ってくると、さきほど女騎士がここで何をしていたか細かく聞きにきた。
「わたくしには幼い頃からあの方に使え、彼女を守る義務があるのです。ですから、どのような些細なことも見落としてはなりません」
メイドは私から情報を聞き出そうとするが、あまり乗り気ではなかった私は生返事を繰り返した。
すると、徐々にメイドの顔は醜く歪んでいき、終いには私を恫喝するような態度で迫って来た。
「一体どうしたの?」
 そこへ女騎士が何事かと様子を見に来た。
 私が今までの流れを説明すると、メイドはこちらを睨み付け、拳をきつく握り締めていた。
「私の大切な友人にどうしてそんなことをするの?」
 女騎士がメイドを問い詰めると、彼女は一転顔面蒼白になって、何とか女騎士に嫌われないようにと話し続ける。
 だが、女騎士はメイドの話を途中で切り上げる。
「気分が悪いわ。私は、今日はアカネの部屋で寝ることにします」
 女騎士がそう言うと、メイドは一瞬何が起きたか分からないという表情し、その後笑いだした。
 そして、テーブルの上にあった果物ナイフを手に取ると、女騎士の胸へ突き立てた。
「大丈夫か?!」
 私は急いで女騎士の下へと駆け寄るが、彼女の胸からは洪水のように止め処なく血が流れ出していた。
「き、貴様! 何をしたか分かっているのか!」
 私は激昂して、メイドを怒鳴りつける。だが、メイドは笑い続け、そして突然狂ったかのように自分の胸にもナイフを差し込んだ。
「ほら、今夜も私と一緒に寝るのですよ」
 メイドは女騎士の方を見ながらそう言うと、バタリと床に倒れた。
 そして、それに合わせるかのように女騎士も私の腕の中で息絶えた。

「うわあああああああああああああああ」
 女騎士が息絶えた瞬間、私には彼女との思い出が走馬灯のように凄まじい勢いで流れ込んできた。
 そして、その中には私の前世の記憶も含まれていた。

 一番最初の記憶。
 女騎士が女王と呼ばれ、私はその時も捕虜であった。
 女王は大臣に裏切られ、亡くなってしまった。私はそのことを悲しみ、悪魔と契約を結んだ。
 何千何万回と転生することによって、再び女王と一緒になるために私は耐え続けることを誓ったのだ。

 私は何もかも全てを思い出した。
 そして、私が決定的に失敗したことを思い知った。
 私は自分の剣を取り出すと、自分の腹を切り裂いた。
 私は女騎士を抱きながら、深い深い眠りについていった。
 次こそ、彼女と一緒に生きて、記憶を取り戻すことを信じて・・・・・・


 アカネのターンが終わっても会場はシーンと静まりかえっていた。
「・・・・・・ノウ恋ってこんな重いゲームだったっけ・・・・・・」
 実況のポツリと呟いた言葉が会場に静かに響き渡った。


【クドターン】
 クドは部活からの帰り道、怪我のせいでサッカーのレギュラーから外された鬱憤をやり過ごそうと、近所の空き地で頭を冷やしていた。
 クドはずっと大会に向けて頑張ってきたのに、練習試合で利き足を怪我して、レギュラーはおろか大会への出場すら怪しくなっていた。
「どうすりゃいいんだよ・・・・・・」
 クドは頭を抱えて、数時間考えていた。だが、一向に答えは出ず、焦燥感だけが頭を支配する。
 そんな時、近所の子供たちが遊んでいたサッカーボールがクドから少し離れた所に飛んできた。だが、彼にはそれを止める気力すらなかった。
(どうせ、俺なんかもうサッカー出来ないんだ・・・・・・)
 勢い良く転がっていくサッカーボールをただ眺めていたクドであったが、その先に見慣れない植物があるのを見つけた。
(なんだ・・・・・・アレ?)
 その植物は一見すると、小さな人間の子供のように見えなくもない形をしていた。そして、サッカーボールがこのまま転がり続ければ、細い管は折れ、二度と起き上がることはないだろう。
 何故かその時、クドはサッカーボールが植物に当たる直前で、反射的に体が動き、ボールを止めていた。
(一体、どうしたんだ俺・・・・・・)
 クドにもよく理由は分からなかった。だが、空き地の劣悪な環境でも健気に生えているあの植物にちゃんと育って欲しい。そう思ったのだ。

 クドは怪我の療養のために空いた時間を利用し、動くほうの足を使って軽い練習をこなしていた。そして、練習を始める前には毎日あの植物に水をやった。

(俺の怪我が治るか、お前に花がつくか、どっちが早いか競争だ)

 そして一ヶ月が経った頃、クドの足の怪我は奇跡的に治り、なんとか大会に間に合った。しかも。以前は利き足だけに頼っていたプレイが、両方の足を意識するようになったせいで改善され、全体的に技術力がアップしていた。

(おーい、とうとう全国大会に行けるぞ!)

 クドは決勝戦でゴールを決め、全国への切符を手に入れると、あの空き地の植物のことを思い出し、まっさきに報告にかけつけた。彼にとって、これは良いジンクスのようなものであった。
 だが、久しぶりにクドが空き地に行くと、あの植物の姿はなかった。
(もしかして抜かれちゃったのか・・・・・・)
 クドは何故か酷くガッカリしながら、帰ろうとした。
(待ってください!)
 後ろからそう呼ばれたような気がして、クドが振り返るとそこには美しい少女の姿をしたあの植物がいた。
「お、お前はあの植物なのか?」
 クドは驚くのも無理はない。その植物は、根っこを足のように使い、ゆっくりとこちらに近付いていたのだ。
(わたし、ずっとあなたの練習を見ていたんです。そしたら歩けるようになって)
 クドの心に植物の声が響いてきた。
 にわかには信じがたい現象であったが、クドはその植物が言うことが信頼出来るような気がした。
 そして、少女はそろりそろりとクドの方に近付くと、パーっと顔を綻ばせた。
「――愛を、ありがとう」


「植物は俺の嫁ッ!!! なんと言おうが植物は俺の嫁ッ!!! 究極のエコをありがとうッ!!!」


【バトルフェイズ】
 どちらも恐ろしく濃いターンが終わり、決着の時が来た。
 茜の頭上には、黄色いフルーツが、そしてクドの頭上にはサッカーボールが浮遊している。
「どちらが勝ってもおかしくない名勝負ですッ!!!」
 実況の言葉を合図のように、二つがぶつかり合う。
 そして、残っていたのは黄色いフルーツであった。


勝者:湯島茜
成績:4勝1敗


【一回戦第八試合】
ルーク・カーマイン
ソフィア・レビー
    VS
ホワイトモンキー
??????????


「右コーナーからは『ヒーローは遅れてやってくる?! ぎりぎり遅刻セーフ野朗!!!』ルーク・カーマインとソフィア・レビーが登場だッ!!! そして左コーナーからは・・・・・・ええと、すいません資料が見当たりません。どうやら急遽来れなくなった選手の代わりに飛び入り参加したよう
です。『全てが謎ッ!』ホワイトモンキーの登場だッ!!!」
「なんだか実況に酷いことを言われた気がしますが、とうとう俺の番ですか・・・・・・。やっぱりいざ本番となると緊張しますね」
 カーマインは自分の喉がカラカラ渇いていくのを感じた。
 だが、その緊張も相手の選手を見た瞬間に吹き飛んだ。
「な・・・・・・ん・・・・・・だと?!」
 カーマインの視線の先には、会場に入る前に目撃したあの猿のような怪人が立っていた。
「あ、あの方も選手だったのですか・・・・・・?」
 カーマインの視線の先には、白く塗りつぶされた猿のようなお面をつけた男が立っていた。そして、こちらを真っ赤な血に染まった目で見つめている。
 カーマインの背筋をゾクゾクと悪寒が走る。
 だが、ここまで引くわけにいかない。
 カーマインは意を決して、ゲームを始めた。


【カーマインターン】
「宇宙の法則を乱すニャンニャ♪ニャン♪悪者退治だニャン♪ニャン♪」
 ソフィアさんが俺と二人きりの時にだけ見せてくれる猫耳モード、これを今度やる演劇のストーリーに組み込むことを提案した時、真面目な彼女に本気で反対された。
だが、どうだろうか? ソフィアさんが主人公を務める女宇宙刑事ソフィアが決め台詞ににゃんをつける度に会場がドンドンと沸いていく。
 普段は実行委員を務めるなど、真面目なキャラであるソフィアさんが可愛い猫耳と語尾ににゃんをつけているからこそ、ビッグバン級の萌えが生まれるのである。
(これで今年度の文化祭出し物No.1はうちがもらいましたね・・・・・・)
 俺は心のうちでそう思いながら、自分の出番である「悪の宇宙海賊カーマイン」の出演時間を確認していた。
(よし、最初の台詞は「よく来たな、宇宙糞雌猫ソフィア。今度こそ、お前を倒して俺のギャラクティカ砲でその肉体を思う存分に・・・・・・」ってアレ? 用意していた台本と全然違いますよ、これ?!)
 俺はキョロキョロと台本を摩り替えた人物を探すと、舞台の上で何故かソフィアさんがこちらを見てウィンクしている。
(あ、あの人やりやがった・・・・・・!)
 そして、正しい台本が見つけたものの、その時には既に俺の出演する番であった。
「よ、よく来たな宇宙刑事ソフィアよ! 今度こそ、お前を倒し緑に溢れた星テラを我が物にしてくれよう!」
(た、たしか大体こんな感じだったはず・・・・・・)
 俺はうろ覚えでなんとか役をこなし、クライマックスシーンへと突入する。

「カーマイン、あなたは本当は悪い人間ではないはずにゃん♪ どうしてこんなことをしてしまったのか教えてくださいにゃん♪」
「俺の母親は寂れたとある惑星のダンサーだった。そこに訪れた一人の男と恋に落ち、母は俺を身ごもったのさ。だが、父親は俺が生まれると母を捨て、どこか別の星へと消えてしまった。そして父の名は・・・・・・マスタング・レビー! そうお前の父親だッ!!!」
「そ、そんにゃ♪ じゃあ、私のお父さんは幼かった頃のあなたを捨て、そのせいであなたは宇宙海賊としてのし上がり、宇宙警察署長の父の信用を失墜させようとしていたのですにゃん♪・・・・・・」
「そうだ、例え俺の妹であるお前が相手であろうと、俺は手加減をするつもりはない。何故なら、お前は俺の妹であると同時に、憎き敵の娘でもあるのだからな!!!」
哀れ、カーマインとその妹ソフィアはお互いを殺しあうことになってしまったのです。もし、父がカーマインの母を捨てていなければ、もしカーマインがもう少し早くソフィアと会っていれば・・・・・・しかし、運命の歯車は回り始めてしまったのです。もう誰であろうと、後戻りすることは出来ません。
「許せとは言わぬ! 妹よ、俺のことを憎み、悲しみ、その怨み辛みを全てぶつけるのだ!」
「そんなことは出来ませんにゃ♪ 私のたった一人の兄弟をここで無くしてしまうなんて、そんな酷いこと到底私には出来ませぬにゃ♪」
「では、俺の心の中に眠っているこのドス黒い瘴気はどうすれば良いというのだ」
「わ、私があなたを癒しますにゃ♪ あなたの心の中の闇を受け入れ、いつまでもあなたの心が平穏になるのを待ちますにゃ」
「その言葉・・・・・・信じてもよいのだろうな?」
「私を信じてくださいにゃ♪ それに私は初めてお兄ちゃんに会った頃からずっと・・・・・・」
「ん? どうしたんだ?」
「にゃ、にゃんでもないにゃ♪」
 ソフィアが後ろ手に隠したのは、兄へのラブ鉱石であった。しかし、血のつながり分かってしまった以上、彼女はこの想いをひた隠しにしながらカーマインと付き合っていなければならない。
 それはとてもとても辛く、もしかしたら今までよりも、ずっと辛いことになるかもしれない。しかし、ソフィアの意思は揺るがなかった。
 宇宙を繋ぐ愛の力――それを彼女は信じているのだ。

「こ、こんなお話でしたっけ?」
 劇が終わった後、カーマインがソフィアに尋ねる。
「ま、面白ければいいんじゃないですか」
 真面目なソフィアだったはずのソフィアがニッコリと笑いかけてくるのを見て、カーマインは猫耳モードの恐ろしさを知った。


「猫耳モード! 猫耳モード! 猫耳モードで〜すッ!!!」
 会場内はしばらく猫耳モード熱唱の異様な熱気に包まれた。


 俺は自分のターンを終えると、対戦相手であるホワイトモンキー選手の方を注視した。
 一体、どんな脳内恋人を繰り出してくるのだろうか?
 ホワイトモンキーはあの不気味な仮面を脱ごうとせず、そのままゆっくりとゲームを始めた。


【ホワイトモンキーターン】
 私は今日もまた彼女に会いに病院へと来ていた。
 私が病室に入っても彼女から返事はない。ただ、これは毎回のことなので特に気にしていない。
 彼女は体中にチューブを繋がれ、命を永らえていた。いわゆる植物状態――それが、今の彼女だった。
 幼少の頃に両親をなくした私は、児童施設に預かれ、そこで私と同じように両親をなくし、毎日のように泣いていたのが彼女だった。
 私はこの時、世界で初めて自分の仲間を見つけた気がした。
 そして、すぐに仲良くなった私たちは年を重ねるごとに、どんどんと深い関係になっていった。
 恥ずかしながら、勉強もスポーツも苦手だった私は、ずっと困った時は彼女に頼りきりだった。彼女は私と違い要領が良く、性格も明るかった。
 だが、そんな私に一つだけ彼女に勝てるものがあった。それがゲームだった。
 私は児童施設に一台だけあったゲーム機にのめり込み、ずっとゲームをプレイしていたいと思った。けれど、一度ゲームオーバーになると別の人間に交代しなければいけなくなる。
 私は後年、ゲームで恐ろしい集中力を発揮できたのはこの時の経験が活きていたからだろう。私は施設の中で一番ゲームの上手い人間になった。
 そして、二番目に上手かった彼女とは、恋人となった後でも頻繁に対戦をしていた。

 そんなある日、私の携帯電話が鳴った。
 彼女が事故にあったという連絡だった。
 私は急いで病院かけつけ、三日三晩の手術の間中、一睡もせず彼女の無事を祈った。
 その願いは半分だけ聞き届けられた。
 彼女は命を取り留めたものの、意識は何日経っても戻らなかった。
 それからというもの、私は彼女の入院費用を捻出するために各地を駆けずり回った。
 しかし、若く身寄りのいない私にお金を貸してくれる人間はいなかった。

 その時、私が一番お金を稼げる職業を探した。
 意外なことにその職業とはプロゲーマーだった。
 特に「ノウナイ恋人バトルロワイヤル!」は、ネット対戦での賭け試合、リアルマネートレードが裏で流行りだし、私はそこで連戦連勝を重ねた。
 だが、決して楽だった訳ではない。常に負けた時の恐怖が付きまとっていた。
 私が連勝を続けるうちに手に入れた「萌えマスター」の称号を狙いに、次々と高ランカーの人間が私に勝負を挑んでくるようになったのだ。
 そして、とうとう恐れていた事態が起きた。
 私はその日、試合に敗れ「萌えマスター」の称号を対戦相手に奪われた。
 私はノウ恋チャンピオンからただのいち高ランカーに格下げし、試合の掛け金はめっきりと減少した。
 その月は貯めていた貯金や生活費を切り崩してなんとかお金を捻出したものの、私はもう二度と負ける訳にはいかなくなっていた。

 そんな時、私はある噂を耳にした。
「ノウ恋で絶対に勝てるようになる方法がある」
 私は藁をも掴む気持ちで、その噂を確かめに行った。
 そして、そこで私にかつてお金をかけてくれていた人間たちにリンチにあった。
「お前のせいで大損だよ、馬鹿野朗!」
 私はそれに必死で耐えた。
 しかし、連中は私に暴行を加えるだけでは気がすまず、ゲーマーの命である目を、私から刳り貫いたのだ。
 私はノウ恋チャンピオンどころか、世界で一番弱いプレイヤーになってしまった。

 しかし、私は死のうとはしなかった。ひとえに病院に残された彼女のことが心配だったからである。
 私は知り合いに頼んで、音で映像を察知する装置をゲーム機につけてもらい、それを使ってノウ恋をプレイするようになった。
 初めはまったく上手くいかなかった。私は執念と彼女に対する愛だけで練習を重ねていった。
 全ては「萌えマスター」の称号を再び手に入れ、彼女の目が覚めるその日まで、俺は戦い続ける。


【バトルフェイズ】
 ホワイトモンキーの話の真偽は分からなかった。
 たしかに、彼のプレイを見ると、目を使っていないのは確かだった。
 だが、彼はそれを感じさせないほど強かった。
 カーマインの頭上に浮かぶ猫耳がホワイトモンキーの仮面がぶつかり合う。
 しかし、残っていたのはカーマインの猫耳であった。
(やはり、目が見えないハンディキャップはきつかったか・・・・・・)
 カーマインはホワイトモンキーに辛くも勝利を遂げた。


勝者:カーマイン
成績:不明


「これにて午前の部は全て終了です。続きは一時間の休憩を挟んで三時からの予定です」
 ホワイトモンキーとの試合後、実況からアナウンスが流れ、会場内の観客は食事やトイレのためにぞろぞろと移動を始める。

「あ、待ってください!」
 カーマインはさきほど戦ったホワイトモンキーに、さきほどの話の真実を聞きたくて、話しかけようとしたが、既に彼の姿はどこかへと消えていた。
「行ってしまいましたか・・・・・・」
 カーマインは残念そうに肩を落とした。