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学生たちの休日7

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学生たちの休日7

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    ★    ★    ★
 
 空京商店街のメインストリートは、今日も人がにぎやかだ。
「私はキッチン用品を買いたいなあ」
「そうだな、クリスには象が踏んでも壊れない包丁とかが絶対必要だ」
 クリス・ローゼン(くりす・ろーぜん)の言葉に、ユーリ・ウィルトゥス(ゆーり・うぃるとぅす)がいらぬ突っ込みをして数メートルほどクリス・ローゼンに吹っ飛ばされた。いつものことだ。
「わたくしは、夏物の小物がほしいです」
 何ごともなかったかのように、神和 瀬織(かんなぎ・せお)が言う。
「じゃあ、空京デパートだね。あそこならみんな揃ってるだろう」
 神和 綺人(かんなぎ・あやと)が行き先を決めると、洋服店の前に転がっていたユーリ・ウィルトゥスを拾って移動を始めた。
「ふふふふ、さすがは未散くんです何を着せてもよくお似合いでございます」
 試着室の中から若松 未散(わかまつ・みちる)が着替えて出てくるたびに、ハル・オールストローム(はる・おーるすとろーむ)がにんまりと悦に入る。
「今日家を出るときにわたくしがお見立てしてお召しいただいた和装ゴチックも最高でございますが、そのお召し物も、いやいやなんとすばらしい。それだけお召し物が引き立つというのは、ひとえにお召しになっている未散くんのすばらしさあってのたまものでございますよ」
 もう、完全にうっとりとした目でハル・オールストロームが褒めちぎる。本当は、この和風ゴス衣装は会津 サトミ(あいづ・さとみ)が若松未散に買った物なのだが。
「うんうん、かわいいよね」
 会津サトミも、若松未散の着こなしは満足なようだ。
「そうかなあ。最初に着ていたのでいいと思うけどさあ」
 いいかげん疲れてきたのか、若松未散はちょっと投げ槍気味だ。
「そう? じゃあ、また着替えないとな。ちょっと、ハル、何こっち見てんだよ。女の子の着替えだぞ、あっちむけ」
「は、はいでございます」
 会津サトミに言われて、ハル・オールストロームがあわてて後ろをむいた。その間に、会津サトミが若松未散を別の試着室へと連れていった。
「どうしたんだよ、サトミン!?」
「しーっ。早く着替えて」
 ちょっと驚く若松未散を黙らせて、会津サトミが素早く着替えさせていった。
「まだですかー?」
「ちょっと待ってろ、今とびきりおしゃれしてるんだからな」
 待ちくたびれたハル・オールストロームに、会津サトミが答えた。
「そ、それは、期待しておりますです」
 本当に期待しながら、ハル・オールストロームがおとなしく待つ。
 その間に、着替え終わった若松未散と会津サトミが、そっと店を抜け出していった。
「ええっと、二人で抜け出してきちゃったけど、ハル、どうしよっか!?」
「大丈夫大丈夫、ほっといたって追いついてくるって。それまで、うるさいの抜きで楽しもっ♪」
 そう言って戸惑い気味の若松未散の手をとると、会津サトミは通りを走りだした。
「おおっと。元気がいい人たちがいますね。それにしても遅いなあ」
 傍を駆け抜けていく若松未散と会津サトミに撥ね飛ばされそうになって、薔薇の花束をかかえた音井 博季(おとい・ひろき)はあわててショーウインドウの前まで下がった。
「ごめーん、待ったあ?」
 息を切らせて、リンネ・アシュリング(りんね・あしゅりんぐ)が走ってきた。
「いえ、今来たところです」
 お約束の台詞を口にして、音井博季がちょっと頬を染めた。
「これ、プレゼントです」
 薔薇の花束を手渡して、音井博季が言った。
「わあ、ありがとう。でも、ちょっと多いかな」
 嬉しそうに受け取りつつ、リンネ・アシュリングが、その中の何輪かをショップの街灯の下の飾りの部分に突き刺した。
「ちょっとおすそ分けだよ。さあ、行こう!」
 そう言うと、リンネ・アシュリングは音井博季をうながした。
「では、少しお店を眺めてからお食事に……」
 一生懸命考えてきた今後の予定を口にしながら、音井博季がリンネ・アシュリングと連れだって去って行く。
「あれっ、こんな所に薔薇の花が。綺麗……」
 ちょうど通りかかった水無月 零(みなずき・れい)が、リンネ・アシュリングが残した薔薇の花を見つけて足を止めた。必然的に、手を繋いで歩いていた神崎 優(かんざき・ゆう)も立ち止まる。
「へえ、ここってブライダルショップだったんだな」
 ショーウインドウの中をのぞいて、神崎優が言った。
「本当だわ。偶然ですね」
 あらためてそのことに気づいた水無月零が、ショーウインドウのガラスにぺったりとくっついて、中に飾ってあった薄紅色のウェディングドレスを見つめた。
「ははっ、この世に偶然はない。あるのは必然だけだ。中に入ってみるかい」
「うん」
 神崎優の言葉に思いっきりうなずくと、水無月零は彼の手を引っぱって中に入って行った。
「あれっ? 二人共、どこに入ってくんだ!?」
 やや遅れて歩いていた神代 聖夜(かみしろ・せいや)が、二人が突然店の中に入るのに気づいた。
そこです。逃がしません。追いかけます」
 陰陽の書 刹那(いんようのしょ・せつな)が、神代聖夜の手を引っぱって店に飛び込んでいった。
 せっかく二人から少し離れていた意味がなくなってしまったと、神代聖夜が思った。
 広い店の中に入って神崎優たちをしばらく探すと、ちょうど着替えた二人が試着室から出てきたところだった。
「待たせちゃった?」
 水無月零が訊ねたが、しばらく神崎優からは言葉が返っては来なかった。
「あ、いや、ごめん。凄く綺麗だよ」
 ウエディングドレスは、白い大柄のレースで薔薇の花を描いたノンショルダーのドレスと、フリルがふんだんについたカスケードスカート。シルクの輝きが、水無月零の守護天使の羽根を艶やかに輝かせている。確かに、見とれてしまう美しさだ。
 神崎優も白のタキシードできっちりと決めていて、まるで結婚式の予行演習といった感じであった。
「へえ、似合うじゃないか」
「聖夜、刹那も……」
 神代聖夜に声をかけられて、今まで忘れていたという顔を神崎優がした。
 ちょっと口をパクパクさせて驚いていた陰陽の書刹那に、水無月零が一緒に着替えようと誘い、彼女と神代聖夜までもが着替えることになった。
「ど、どうかなあ」
 白無垢に着替えた陰陽の書刹那が、しずしずと試着室から出てきた。さすがに一人で着られるものではないので、水無月零のときと同様、店の人が数人がかりで着つけている。
「もったいないから、みんなで写真撮ろうか」
 店員に勧められた神崎優が、ぼーっと陰陽の書刹那に見とれていた神代聖夜に言った。
「お、おう」
 我に返った神代聖夜が、陰陽の書刹那を引っぱってきて、いろいろな組み合わせでツーショットを取ってもらった。
「最後はお姫様だっこで締めだな」
 神代聖夜にそそのかされるままに、神崎優が水無月零をお姫様だっこして写真を撮ってもらった。その後で隣に神代聖夜と陰陽の書刹那がならんで、四人で思い出の一枚を撮った。
 
    ★    ★    ★
 
「やれやれ、ずいぶんと買い込んじゃったねぇ。重くなかったかぁい。はい、これで一休みっとぉ」
 清泉 北都(いずみ・ほくと)が、一人で重い瓶類などを運んだクナイ・アヤシ(くない・あやし)にトマトジュースの缶を手渡した。空京での買い物を終え、ソーマ・アルジェント(そーま・あるじぇんと)と一緒に三人でたくさんの荷物をかかえてきたので、公園で一休みというところだ。
「うーん、大した重さじゃないが、疲れたっつうちゃ疲れたかな。できれば、ジュースよりも、オレ専用の濃い奴もらいたいんだがなあ」
 吸血鬼であるソーマ・アルジェントが、目を輝かせて清泉北都に聞いた。
「最近、恋人からもらってないのぉ?」
 清泉北都の問いに、うんうんとソーマ・アルジェントがうなずく。清泉北都としては、自分の恋人であるクナイ・アヤシに定期的に吸血させているものだから、それは大変だねえと言う気持ちになったようだ。いずれにしても、ソーマ・アルジェントに恋人ができるまでは、たびたび吸血させていたのであまり抵抗はない。
「いいよぉ」
 そう言って清泉北都が腕まくりしようとする。
熱くしてやるぜ
 そこを、ソーマ・アルジェントが定番の首筋にかぷっと牙を突き立てた。吸血するだけであれば指先からちゅうちゅうでもいいわけだが、そこはやはり本格的にいきたい。
 同時に、ちゃんと恋人との関係は良好であるソーマ・アルジェントから見れば、清泉北都とクナイ・アヤシの関係は歯がゆいとしか言いようのないものだったのだ。ここはひとつ、刺激というものを与えてあげるべきだろうと、いらぬお節介に気合いが入ったというわけだ。
 案の定、クナイ・アヤシがもの凄くむっとした顔をしている。
 ソーマ・アルジェントが、これ見よがしに見せつけた。
うっ、くぅ……っ
 クナイ・アヤシの視線に気づいた清泉北都がなぜか顔を上気させる。
 ――おかしい、なんで恥ずかしいんだろう……。
よそ見すんなよ
 ソーマ・アルジェントが、指先でクイと清泉北都の顎をなでた。
 何時間そうしていたのだろうかと錯覚するほどの時間が流れ――もしかしたら、時間が止まっていたのではないだろうか――やっとソーマ・アルジェントが清泉北都を放した。
「私もいいですか」
 ソーマ・アルジェントを押しのけるようにして、クナイ・アヤシが清泉北都に迫った。
本気でいきますよ
「ちょ、ちょっと……」
 かぷっ。
 生返事な清泉北都を半ばスルーするように、ソーマ・アルジェントの噛み傷の上にクナイ・アヤシが唇を押しあてた。守護天使のクナイ・アヤシは吸血などできないのだが、なぜか強く吸って清泉北都の肌に唇の痕を残そうとした。まるで、勝手につけられた印を上書きするかのように……。すでに塞がりかけていたソーマ・アルジェントにつけられた噛み傷が再びわずかに開き、クナイ・アヤシの口の中に無機質な鉄の味を感じさせた。
「あなたとこうしていいのは、私だけにしてください……」
 クナイ・アヤシが、清泉北都の耳許でささやいた。
「なんだか、怪しい雰囲気の人たちがいるよね……」
 人目もはばからないクナイ・アヤシたちを見つけてしまい、リンネ・アシュリングが思わず顔を赤らめた。
「み、見ちゃいけません。さあ、早くあちらへ行きましょう」
 そう言うと、音井博季はしっかりとリンネ・アシュリングの手を握りしめて走りだした。