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WahnsinnigWelt…全てを求め永遠を欲する

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第9章 譲れない理由

「(弥十郎・・・、今更だが・・・リボンをつけた大体の位置が分かるか?)」
 紫煙 葛葉(しえん・くずは)はメモ帳にそう書き、佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)に見せる。
「うん?森が広すぎて、ちょっと厳しいかな。ねぇ、おっさん覚えてる?」
「大まかでいいならな」
 う〜むと唸り、熊谷 直実(くまがや・なおざね)も思い出そうとする。
「150番のリボンはもう少し、東よりだったか」
「(―・・・これだけ広大だと、番号も桁違いだ・・・)」
 位置を聞きながら紫煙がメモをする。
「おそらくこんな位置だったはずだ」
「まぁ・・・全てことが済んだら、皆で一緒に帰ればきっと出られるよ」
 3人でさくっと作った地図を2人に見せる。
「(―・・・もっと早めに、言うべきだったな)」
「方向を間違えなければ大丈夫だと思いますけど」
「森に入ってから・・・6時間以上はかかっているはずだ・・・・・・」
 縮尺不明な地図を身ながら帰るには、何時間もかかりそうだと、紫煙と天 黒龍(てぃえん・へいろん)が嘆息する。
「それにしても、この森の見せる幻影・・・。―・・・見る者のトラウマによるが、一歩間違ったら・・・私たちもああゆうふうに・・・・・・」
 黒龍はタイムウォーカーに乗りながら、美しい花畑の中に埋もれている白骨化した死体を見下ろす。
「(あの彼は幻影だったが・・・。それでも紫煙は“彼”を・・・、・・・そして私もこの手で・・・“彼”を・・・・・・)」
 その者の血が染みついてしまった自分の手の平を見つめる。
「いや・・・、もう考えるまい」
 所詮はただの幻影。
 考えれば考えるほど、森中を漂う香りに再び幻影を見せられてしまう。
 過去に、現実に起こり、今また幻影によって起こったことも現実。
 しかしもう、どちらも全て過去の出来事なのだと、それ以上考えることは止めた。
「―・・・私の前に出るな・・・足手纏いだ。これは命令だ」
 やっと塞がった傷口が広がらないためだが、紫煙を気遣う本心を隠す。
 彼に黙って従い頷くものの、前が無理ならせめて彼の背中を守ろうと剣の柄を握る。
「なかなかつかないね。踏み歩いた感じがする場所はいくつか見つけたけど、魔女なのか他の人が通った跡なのか、分からないなぁ・・・。ちょっと止めてもらえる?」
「分かりました」
「僕たちみたいなのが通らなかった?」
 沢渡 真言(さわたり・まこと)にタイムウォーカーを止めてもらい、人の心、草の心で通ってないか草花に聞く。
「うん、通ったよぉ」
「弥十郎さん、私たちがあの道を通ったか聞いてみてください」
「了解!―・・・ねぇ、向こうの道に、僕たちが行ったところを見たかな?」
「なぁい」
「教えてくれてありがとう♪」
「どうでした?」
「ないってさ」
「その道を行ってみましょう。きっと研究所を破壊しに向かっている人もいるでしょうから。魔女の皆さんを傷つけず捕まえるために、急がないと・・・」
 魔女たちに早く魔法学校に戻ってきて欲しい。
 その思いが一刻も早くたどりつかねばと急かせる。
「沢渡・・・戻る気があるなら、同じイルミン生に・・・刃を向けると思うか・・・・・・?」
「きっと研究を台無しにされて、我を忘れてしまったんですよ。操られているかもしれませんし」
「立場を守るため、問題を無かったことにしたいのなら。・・・奴らは消さねばならんと思うが。それに・・・本当に操られているなら。術にかかっていない者が・・・、術者を追い返していると思うぞ?」
 望みを捨てようとしない真言に黒龍が辛辣な言葉を浴びせる。
「かといって彼女たちの研究を抹消しようとしたのはこっちですし。何も仕掛けなければ、刃を向けられることもありませんでしたから・・・」
「不老不死の研究を許すのか・・・?他の種族を支配し・・・、自分たちが便利に生活するために・・・。パラミタの地を・・・利用されてもいいと?」
「少なくとも・・・魔女さんたちは、誰かを殺したりはしていません・・・。支配するのは賛成出来ませんが、生活の発展のためや争いのない世の中にすることは・・・いけないことだとは思いませんよ」
「フンッ、沢渡・・・考えが甘いな。すでに他の者を実験動物と同じように・・・、扱っているではないか」
「ですが、強制しているようには思えません。それで誰かが死んだわけじゃありませんから」
「―・・・沢渡・・・、だからそれが甘いというのだ。犠牲者が出てからでは・・・、遅いというのが・・・まだ分からないのか!?」
「まだ犠牲者なんて出ていません。どうして消すなんて、簡単に言うんですか!?私は犠牲者が出る前に止めたいんです!!」
「―・・・・・・っ!?」
 普段大人しい彼が突然大声を出し、黒龍は驚きのあまり言葉を失う。
「すみません・・・突然、大きな声なんて出してしまって・・・。でも・・・殺して終わりにするなんてそんな考え・・・私は嫌なんですよ。1つしかない命を奪うなんて、そんなの神でも傲慢だと思います・・・」
「悪い・・・少し言い過ぎたようだ。―・・・そうだな、魔女はまだ・・・誰かの命を奪ったり、どこかの町などを襲撃したわけでもないからな・・・・・・」
「分かってくれて嬉しいです、黒龍さん」
「しかし・・・っ、やつらの研究を認めたわけではないからな・・・!」
 何か負けた気がして、フンッとそっぽを向いてしまう。
「―・・・えぇ、それは分かっています」
「お話中悪いんだけど・・・。ちょっと止めてくれる?」
「あ、はい。分かりました」
「ねぇ、魔女たちを見なかった?」
「見たよぉ〜。すぐ近くにいるはずぅ〜」
「すぐ近く・・・?」
 弥十郎が疑問符を浮かべたように言ったその瞬間・・・。
 ズドドドドォオッ。
 空から光の光線が彼らに向かって降り注ぐ。
「皆さん、その辺に掴まってください!」
「へっ、その辺って・・・うわっ!?」
「ドルイドの魔女がどこかに潜んでいるみたいですね」
 殺気看破で襲撃の気配を察知し、タイムウォーカーを急発進させて崩落する空から逃れる。
「コートやマントで姿を隠そうとしても無駄よ。迷彩塗装しないんじゃ、普通に気づくわ」
「そこの長髪のあんた、私たちへの害意をこんなところで出すなんてね。見つけてくださぁ〜いって、言ってるようなものじゃない。きゃははは♪」
「ウィザードもいるのか・・・。くっ・・・私が呼び寄せたようなものか・・・・・・」
「悪いことばかりじゃないですよ、黒龍さん。むしろいい状況になりましたよ」
 すまないという気持ちと、足を引っ張ってしまったかという情けなさに、歯を噛み締める彼に言う。
「どういうことだ・・・?」
「見回りの魔女さんがいるってことは、研究所が近いってことなんです。ちょっと飛ばしますから、喋らないでくださいね」
 速度を高速にセットして研究所を探す。
「(黒龍・・・)」
「何だ・・・、葛葉。今、あまり喋ると・・・舌を噛みそうになるんだが・・・・・・」
「(髪が顔に当たって痛い・・・)」
 彼の長髪が顔面をべしべしと直撃している苦情をメモ帳に書き見せる。
「手で抑えていてやる。―・・・くっ、・・・・・・舌を噛んでしまったではないか!」
 喋らせたせいだと紫煙を軽く睨みつける。
「どうやら引き離せたようですね」
「沢渡・・・見回りの魔女たちがいるぞ」
「ここから先はタイムウォーカーから降りましょう」
「隠しておくか?」
「そうですね。出来れば森から出る時に、移動手段として使いたいですし」
 直実に隠してもらい、真言たちは研究所を目指し歩き始める。



「血痕があった場所は見つけられましたけど。怪我人はいませんでしたね・・・。さっきの方々のところへ戻るにしても、どっちに行けばいいか分かりませんし・・・」
 また道に迷ってしまうかもと、イナは不安そうにとぼとぼと歩く。
「―・・・足音?誰か近くにいるんでしょうか・・・」
 ガササッガサッ。
 草をかきわける音をたどり、追いつこうと必死に走る。
「見つけました!―・・・あら、直実さんに背負われているあの人・・・。もしかして怪我人!?」
 治療してあげようと駆け寄る。
「傷口は塞がっていますけど、動いたら開いてしまいそうですね。まさか・・・その体で魔女の引き付け役だとかしないですよね?」
「(時と場合による・・・)」
「いけませんっ。派手に動いて出血したらどうするんですか」
 メモ帳に書いた言葉を紫煙に見せられ、キッと眉を吊り上げる。
「(―・・・黒龍の背中を守りたいんだ)」
「どうして皆さん、無理ばかりするんですか・・・」
 こっそりと見せられた言葉に、もはや止めても無駄かとため息をつく。
「仕方ありませんね。念のため、包帯を巻いておいてあげます」
 大量出血してしまわないように応急手当をしてあげた。
「(ありがとう)」
「お礼なんていいですよ。当たり前のことをしたまでです」
「会話は終わりにして。研究所が見えたよ」
「魔女たちが大勢警備していますね・・・」
 弥十郎の声に研究所の厳重な警備を見たイナは、どうすれば十天君と話せるか考え込む。
「もうすぐ他の人も、たどりつく頃かもね」
「ここに隠れていてくれ」
「(了解した・・・)」
 直実に背負われていた紫煙は茂みの中に隠れた。



「幻影が現れたということは、研究所に近づいてきているはずだが・・・」
 どこにあるのか見つけられず、グレン・アディール(ぐれん・あでぃーる)たちは森の中を彷徨っている。
 早く見つけないと・・・という気持ちばかりが焦り、位置のヒントさえ見つけられない。
「(まったく・・・幻影の所為で余計な時間を・・・・・・。余計・・・な・・・時間・・・)」
 自らの幻影に心を折られそうになっているソニア・アディール(そにあ・あでぃーる)を、抱き締めてしまったことを思い出す。
「(・・・はっ!?こんな時に何を考えている俺は・・・!今は研究所を見つけることに集中だ・・・集中・・・)」
 その記憶を封印しようとするかのように、ぶんぶんと首を左右に振る。
 ソニアもまた彼に抱き締められたことを思い出し、ぼーっとした表情で歩いている。
「(―・・・!?こんな事態に私ったら、何を思い出しているんですか。今はあんな素敵なハプニングを思い出している場合じゃありません)」
 今、自分がするべきことを考えるものの・・・。
「(研究所を見つけ出すこと・・・グレンと一緒に居ること・・・十天君の計画を止めること・・・。・・・うん、大丈夫ですね)」
 間に目的とは違うことが、しっかりとサンドイッチされてしまっている。
「―・・・」
 李 ナタはというと、2人から離れたところで様子を見ている。
 何の幻影が出てきたのか知らねぇけど、突然頼りなくなったように感じるぞ・・・、と今までそんなことなかったのにと不安感に襲われる。
 研究所を発見する頃には、いつも通りに戻っているはず・・・と、思っておく。
 グレンの方をちらりと見て、まぁ大丈夫そうかと思い、ソニアの方へ視線を移す。
「(そっとしておこう・・・・・・。触らぬ神に祟りなしだ・・・)」
 ここは俺がしっかりしないとな、と気を引き締める。
「少し聞きたいことがあるんだがいいか・・・?」
 グレンは見回りの魔女が来なかったか、人の心、草の心で小さな花に話しかける。
「うん、いいでしよぉ〜おにぃちゃん」
「ここを魔女が通らなかったか?」
「みたでし〜」
「あたちもみたでし〜」
「グレンさんにはどういうふうに聞こえているんでしょうね?」
「さぁな、俺はそんなメルヘンなこと分かんねぇ」
 興味津々に見ているソニアに、ナタクはそっけない返事を返す。
「待っていればまた来そうだ・・・。待ち伏せしよう」
 魔女を捕縛しようとグレンは茂みに隠れる。
「私は木の上に・・・」
「大丈夫か?落ちるなよー」
「平気です・・・ん〜っ、ふぅ・・・なんとか登りきりました・・・」
「俺も木に登ってと・・・。見晴らしはいいけど・・・背の高い草に埋もれていたら、魔女か他のヤツか分かりづらいな」
「とても薄暗くって、視界もよくありませんからね」
「おっ、来たぜ!」
 きょろきょろと見回りをしている魔女を見つけたナタクが龍飛翔突で奇襲する。
「そんなもの、ディテクトエビルでバレバレよ!」
「ちっ、避けられたか。だが、こいつからは避けられないぜ」
 動けなくさせてやろうと、しびれ粉を撒き散らす。
「きゃああぁあ!?―・・・なぁんて言うと思った?ばぁか♪」
「うおわぁあ!?」
 ブリザードの吹雪で跳ね返され、向かい風に運ばれた粉を吸ってしまう。
「もうっ。何やってるんですか、ナタクさん」
 ヒュッ・・・ドスッ。
 ソニアは鬼払いの弓で魔女の足元を狙い、彼女の逃げ場を無くす。
「ちょろちょろ逃げ回りやがって!」
 痺れてしまった身体を無理やり動かし、草むらを這うナタクが魔女の足をガシッと掴んだ。
「離しなさいよ、このガキ!私の足に触らないでよっ。この変態、痴漢野郎!!」
 ソニアの放つ矢で誘導され、捕まってしまった。
「だっ、誰が変態の痴漢だ!?お前なんか間違っても襲わねぇよ」
 ぎゃあぎゃあと喚き立てる魔女にブチキレそうになるのを耐える。
「じゃあどんな相手だったら?」
「そりゃぁ・・・まぁ・・・あれだ・・・・・・。って、誰が教えるかっ」
「ナタク、その話し・・・後でゆっくり聞かせてもらうぞ・・・」
 サイコキネシスでワイヤークローを操り魔女を捕縛しつつ、詳しく聞きたそうにナタクを見る。
「私にも聞かせてください。じっくりと♪」
「えぇ!?何でそんな流れになるわけ!何か、おかしくねぇか!?」
「いいえ、どこもおかしくないですよ。ウフフッ」
 思いがけない楽しみに、ソニアはニコニコ笑顔になる。
「まずは・・・こいつから、研究所の位置を聞きださないとな・・・」
「特に危険なものとかは持っていないようだぜ。役立ちそうなものもないな」
 何か隠し持っていないか、ナタクが魔女を身体検査する。
「触らないでって、言ってるでしょ!この、変態っ。変態変態変態!!」
「うるせぇえ!好きで触ってるんじゃねぇよ」
「じゃあ、あの彼女なら?」
「―・・・そ、そそそんなこと出来るわけねぇだろ!―・・・って、今のソニアか?」
「さぁ?私、知りません♪」
 どさくさに紛れて聞こうとした彼女は白を切る。
「後のお楽しみがなくなるとつまらないですからね。先に研究所の場所を教えてもらいましょう。言わないなら攻撃させますよ?」
 毒虫の群れで魔女を囲んで脅す。
「どーぞご自由に♪やれるものならやってごらんなさいよ。ていうかぁ、あんた何か苛つてない?森の幻影のせいでしょ?」
「聞いてはいけないことを・・・っ」
「・・・答えないか。なら・・・お前を殺して、他の魔女に聞くことにするか・・・」
 神経を逆撫でされ、本当に攻撃しそうなソニアを下がらせる。
「どうせ撃つ気なんてないんじゃないの?強い害意が感じられないもの」
 銃口を向ける彼にも臆せず、ツンとした態度をとる。
「そんなに知りたいの?」
「あぁ・・・」
「フフッ・・・・・・。いいわ、教えてあげる♪どうせ、あんたたちなんか、何にも出来ないでしょうから」
「何とでも言えばいい・・・。こっちは研究所の場所を、知りたいだけだからな・・・」
「あの木があるところを真っ直ぐ通って、2つの分かれ道の左側を通ればたどりつけるわ。教えたんだから、早く逃がしてよ」
「その前にこいつを飲ましてやる」
「何するのよ!?」
 ナタクに無理やり日本酒を飲まされそうになり、足をばたつかせる。
「ぺっ!」
「ぶわっ、きったねぇえ」
 顔にぶっかけられ、袖でごしごしと拭く。
「だったら眠らせてやる」
「きゃぁああ、誰か助けてー!!痴漢よーーーっ」
「こいつめっ!」
 叫ばれてしまったもののヒプノシスで眠らせ、大慌てで教えてもらった道へ走る。
「くそ、誰かこんなマネをっ」
 その声に気づいた仲間の魔女が、眠ってしまった彼女を助け、急ぎ研究所へ駆ける。