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ローレライの音痴を治そう!

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ローレライの音痴を治そう!

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第四章 聴覚の清浄

「あそこか……」
 源 鉄心(みなもと・てっしん)は双眼鏡から目を離した。 

 その日、ヴァイシャリー湖畔を訪れたのは、イルミンスール魔法学校のリリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)ユリ・アンジートレイニー(ゆり・あんじーとれいにー)。そして百合園女学院のミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)だった。
「リリ様とユリ様がお手伝いを申し出てくださいました。ミルディアさんは……」
「あたしは一緒に練習だよ! よろしく!」
 元気な声で挨拶ながら、右手で敬礼っぽいしぐさをする。
「何か昔っから、『声はいいんだけど音程がねぇ』って言われてて、どうしてもキレイに声が出せないんだよねぇ……」
 ミルディアは思いっきり空気を吸い込むと……
「ボェエェェェエェ〜♪」
 次の瞬間、リリのワルプルギスの書がミルディアの顔面に飛んだ。もちろん正確には‘投げつけた’のだが。
「も、申し訳ない! つ、つい」
 あわてて駆け寄ると、ミルディアを引っ張り起こす。
「あうー、ひどいのは自分でも分かってたけど、こんなのは初めてだよー」
 薬草箱から薬を取り出したリリは、ミルディアのすり傷に塗りつけた。鼻の頭とおでことの2ヶ所。早く乾くようにと、軽く息を吹きかける。
「本当にごめんなさい。跡が残るような傷じゃないと思うけど」
 ユリはバスケットからポットを取り出すと、用意してきた日本茶をミルディアに勧めた。
「うん、もう大丈夫! それより歌を教えてよ」
「それなのだが……」
 リリは一同に向き直る。
「音痴の原因に聴覚の異常があるかもしれない。まずローレライとミルディアの耳の検査をしたいのだが」
 検査と聞いてローレライは難色を示したが、「いいよ」と了解したミルディアから始めることになった。そこでリリはミルディアに目隠しをする。
「聞こえたのと同じ音程で発声するのだ。分かるな」
「はーい」
「よし、ユリ、自慢の4オクターブを頼むのだよ」
「そ、そんなには出ないのです〜」と言いながらも、ユリはきれいな声を低音から高音まで順に響かせる。ミルディアもそれを追って発声する。こちらはおせじにもきれいな声とは言えなかったが、明らかに声が返らない音階がある。
 リリは「うむ」とうなずきながら、籠手型HCに記録した。
「やはりな、所々聞こえにくい周波数があるのだ」
「どういう事なのでしょう?」
「人は耳の奥に蝸牛という器官を持っていて、そこで音を認識しているのだよ。入ってきた音に共鳴するハープのようなものだ。どの弦が共鳴するかによって音の高低が分かるのだが、ミルディアは弦が何本か切れている状態なのだよ」
「切れてるって……、あたしどうかしてるみたいじゃない」
 ミルディアは不満そうに唇をへの字にする。リリは「もう少し待つのだ」と頭を優しく撫でた。
「その弦をつなぐことは出来ないのですか?」
「大丈夫、これだけ分かれば何とかなるのだよ」
 リリは籠手型HCを操作しながら、不安定な音階をチェックする。ミルディアの頭を両手で挟むとスキル清浄化を発動させた。
「これで通った……かな? ユリ、先程の音を頼むのだよ。自慢の4オクターブを。ミルディアは先ほどと同じようにするのだよ」
「そんなに出ないって言ってるのに〜」
 そう言いつつも低音から高音まで発声する。やや不安定ながらも同じ音程を返してくるミルディア。さすがに高音は返せなかったが、結果にリリは満足した。
 実験台?になったミルディアを見て、ローレライも納得する。リリの清浄化で聴覚の異常が改善された。ユリの発声に、か細く不安定ながら同じ音程を返してくるローレライ。
「初めて聞いた音なのだ。修練すればすぐに歌えるようになるのだよ」
「良かったです。本当に良かったのですよ」
 満足げなリリにラナが話しかける。
「ミルディアさんの他にも、何人か練習したいとおっしゃってる方がいるのです」
 学校と名前の書かれた紙を渡す。リリとユリが覗き込む。
「元から上手な方は構わないのですが、何人かの方には同じように試みていただけないでしょうか」
「うむ、よかろう」 

「今日はあれで終わりのようだな」
「私達も帰りましょうか」
 やや離れた丘の上で様子を見ていた源 鉄心(みなもと・てっしん)ティー・ティー(てぃー・てぃー)と話し合っている。彼らに付いては来たものの、遊びつかれたイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)は傍らで眠っていた。
「もっと様子を見ないとわからないが、今のところ危害を加える気はなさそうだな」
「はい、やはり声を取り戻すための目的ですね」
「折を見て、直接アタックしてみよう」