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【新米少尉奮闘記】飛空艇を手に入れろ!

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【新米少尉奮闘記】飛空艇を手に入れろ!

リアクション


   第一章


  1

「確個撃破が確実じゃないか?」
 大岡 永谷(おおおか・とと)の発言に、小暮 秀幸(こぐれ・ひでゆき)は首を傾げた。
 作戦を明日に控えたブリーフィング。場所はシャンバラ教導団の講義室である。
 長机が階段状に配置された室内には教導団のみならず、他校の生徒も多数列席してくれていた。
「というと?」
 進行役として壇上に立つ秀幸がうながすと、永谷は説明を続ける。
「飛空艇に近づく前に、まずガードロボと機晶姫を一体ずつ倒すことを目指す。時間はかかるかもしれないが、警備役を黙らせてから飛空艇に入る方が安全確実だろ?」
「複数人で一体ずつ確実に、というわけですか。確かにそれなら、こちらに人的被害を出すリスクは減らせますね……」
「ある個体に素早く一撃当てて一旦離脱――つまりヒットアンドアウェイで誘い出し、飛空艇から離れたところで撃破。これを繰り返す。まあ一体に攻撃当てても、近くにいる他の個体が反応しないって前提での作戦だ。実際には一体に攻撃当てた瞬間に他の個体も攻撃してくるって可能性もある」
「となると――」
「まずこの作戦の前提が成り立つかどうか確かめる役が必要だな。仮に前提が間違っていた場合、提案者として俺が盾役をやらせてもらうよ。責任持って仲間が離脱するための時間は稼ぐ」
 さらりと言ってのける永谷に、秀幸は内心で舌を巻いた。
 一撃当てて素早く離脱するという作戦上、この初撃を当てる役をあまり多人数で実行することはできない。遠距離攻撃が難しい以上、一体の四方を囲んだとしても同時に攻撃できる人数には限界がある。
 前提が間違っていた場合、盾役を買って出た永谷は必然的に、ガードロボや機晶姫を相手取っての多勢に無勢を余儀なくされる。
 仲間が離脱するまでの時間稼ぎとはいえ、間違いなく命がけだ。それをあっさり請け負える永谷の胆力が秀幸には頼もしく、同時に恐ろしくもあった。
「……危険ですが、よろしくお願いします」
「おう」
 とはいえ、永谷一人に重荷を負わせるわけにもいかない。
 少数の威力偵察班の背後で何人かに待機してもらう。複数個体が威力偵察班に攻撃を加えてきた場合は、待機班による波状攻撃で離脱の時間を稼げるよう、作戦を詰めていく。
 複数の意見が飛び交い、秀幸がそれをまとめていく中、ルーク・カーマイン(るーく・かーまいん)が口を開いた。
「仮に前提が崩れた場合ですけど、ガードロボと機晶姫たちを、一方向――例えば飛空艇の北側に引きつけることは可能ですかね?」
 即答できず、秀幸は慌てて手元のデータに視線を落とす。代わってルークの問いに答えたのはミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)だ。
「ガードロボに限れば可能なはずよ」
 思わぬ方向からの即答だったためか、ルークは眉をひそめる。
「そう言い切れる根拠はなんです?」
「現在現役の、ではあるけど、ガードロボの仕様は頭に叩き込んであるから。飛空艇のガードロボが現役の仕様に近いなら、ガードロボ同士で情報を共有するプログラムが積まれてるはず。襲撃者を一体で相手取るには厳しい相手と判断した場合、他の個体も集まってくる。まあその場合、そもそも大岡くんの提案の前提が崩れちゃうけど」
 ルークの問いは永谷の前提が崩れた場合の話だ。話の文脈上、問題はない。
「大岡くんの前提が崩れるってことは、ガードロボは寮機と情報共有を行っている公算が大きい。なら、仕様が現役に近いと判断しても良いと思うわ」
「現役のガードロボの仕様は頭に叩き込んでいると言いましたね? なら、部品交換でリカバリー可能な範囲の損傷を与えて機能を停止させる方法も?」
 ルークの問いかけの意図を察してか、ミカエラはガードロボの仕様を思い浮かべるように目を閉じ、逡巡する様子を見せた。
 一拍置いて、再び口を開く。
「ええ。一番効率の良い方法で機能を停止させるには、私みたいなアーティフィクサーの専門技術が必要だけど。専門技術がなくても、狙う部位を限定して時間をかければ、同じことは可能よ」
「あの、ルーク殿。ひょっとして……」
 秀幸の声に、ルークはひとつ頷いてみせた。
「確保できる戦力は多いに越したことはない。今回の作戦目標はあくまで飛空艇の確保ですが、ガードロボや機晶姫も可能なら入手してはどうかと思いまして」
「それは確かに……」
 校長は「エリュシオンとの緊張が高まっている今、戦力は少しでも増強しておきたい」と口にしていた。飛空艇の確保に支障が出ない範囲であれば、十分に検討する価値のある提案と言える。
「俺の提案はこうです。まず大岡さんの提案通り、目指すのは確個撃破。できる限り複数人でガードロボと機晶姫を相手取る。この時、リカバリー不能な範囲に及ぶ破壊は避ける。もちろん、仮に一度の攻撃で他のガードロボや機晶姫が集まってくるのなら、あまり長時間この戦い方を保たせるのは難しい。よって北側に警備を引きつけた場合、他の方向に待機していた班が飛空艇へ突入。起動を目指します」
 そもそも広範囲攻撃や飛び道具を制限された作戦だ。一対多数を心がけ、積極的な破壊を避ければ、人的被害を出すリスクはさらに減らすことができる。
 仮に永谷の提案の前提が崩れた場合でも、戦闘班は時間を稼ぐ戦術に切り替え、その隙に飛空艇を起動できさえすれば良い。この作戦なら混乱は最小限に抑えられる。
 戦闘班が警備を引きつけ、突入班が飛空艇の起動を目指す。
 シンプルだが実際的な提案だ。シンプルであるという点も、教導団以外の生徒も多数いる以上、満たすべき要件である。
「良い案だと思います。その方向で作戦を詰めましょう」
 これには機晶姫を破壊することに抵抗のあった面子も同調。
 班の構成、配置をどうするか。基本的に飛び道具は使用できないが、ペイント弾で敵の視覚センサー類を狙うなら飛空艇に被害を出さずに済むのではないかなど、意見が活発に飛び交う。
 作戦の詳細を詰め、ブリーフィングは滞りなく終了した。


  2

「なにか心配事でありますか、少尉殿」
「え?」
 ブリーフィング後、明日に備えほとんどの人員が退室した後の講義室。
 不意に声をかけられた秀幸が顔を上げると、大熊 丈二(おおぐま・じょうじ)とそのパートナー、ヒルダ・ノーライフ(ひるだ・のーらいふ)が近づいてきたところだった。
「い、いえ。別になんでもありませんよ」
「あ、敬語を使っていただかなくとも、自分は二等兵。少尉殿より階級は下であります」
「それに、なんでもないって顔じゃないと思うけど? ヒルダたちで良ければ聞くよ?」
「……ではお言葉に甘えて、敬語はやめさせてもらおうかな。でも、大熊殿が自分より下の階級であるというなら、上官のプライベートな悩みにまで口を出す必要はないと……」
「いいえ。明日に大事な作戦を控えている以上、上官の不安は少しでも取り除くよう努めるのが部下の義務であります。それに、階級はともかく年齢は同じ。上下関係で不足なら、友人として話していただくのもひとつの手かと」
 あくまで生真面目な口調の丈二に逃げ口上を封じられ、秀幸は苦笑する。
 どうやらどうしても放っておけないほど、自分の緊張は表に出ていたらしい。
「……正直に言うと、不安なんだ」
「不安、でありますか?」
「まあ、新入生なら無理もないとは思うけど。でも作戦に参加する面子はみんな腕も確かだし、そこまで気負わなくてもいいと思うな」
「いや、大熊殿やノーライフ殿を含め、皆さんの腕や実績は自分も信頼しているんだ。ただ、だからこそ自分のような新米が指揮を取って、死傷者を出してしまったらと考えると……」
 秀幸の見立てでは、現段階で得られる情報からのこの作戦の成功率は82.4%だ。
 不確定要素を含みつつもこれだけ高い数値なのは、作戦への参加を表明してくれたみんなのおかげである。
 逆に、この作戦の失敗率は単純計算で17.6%になる。仮に作戦が失敗するとすればそれは――指揮を執る秀幸がなんらかのミスを犯すことによるだろう。
 ミスだけならまだ良い。失敗だけなら挽回できる。しかしもし、自分の作戦で、有志で集まってくれたみんなに取り返しのつかないことが起きてしまったら……。
 震える指先を誤魔化すように、秀幸は強く拳を握った。
「なるほどね。けど、大丈夫よ」
 能天気なヒルダの言葉に、秀幸は眉をひそめる。
 彼女の言葉には根拠がない。にも関わらず、そこに浮かんだ微笑に、嘘や慢心は見当たらない。
「自分がかけられる言葉も、ヒルダ殿と同じであります。大丈夫。根拠を言葉にするのは難しいですが……」
 そう言って少し逡巡した後、丈二は穏やかな笑みを見せた。
「明日、実際に現場を体験すればわかることであります」
 丈二の言葉も、やはり秀幸を納得させるに足るものではない。
 けれど、なぜだろうか。
 丈二とヒルダの笑みを見ていると、本当になんの心配もないのだと手放しに信じられる気がして――いつの間にか、身体の震えは治まっていた。