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武装化した獣が潜む森

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武装化した獣が潜む森

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第三章 決着つける者たち

 待ち受けていたのは窮地だった。
 川中で発見したグリズリー、それを追跡した「秀幸組」は、どんどんと川上へ向かって移動していた。
 『パワードレッグ』を装着した者の元へと戻ってくれ! 誰もがそう願いながらに追跡していた。せっかく見つけた手掛かりが『はぐれ』だったなんて悲しすぎる。
「あれは何でありますか?!!」
 先頭を行く大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)がそれを見つけた。川上へ行くにつれて現れた低い岩壁、その中に直径5m程の穴が見えた。
 グリズリーはその穴の前で何かを探すように鼻を地面に寄せ回っていた。しばらくそうしてからは川の中でしていたように呆けてみたり上体を起こしたり屈めたり。
「もうイイでありますな」
 肩を奮わせて剛太郎は言った。
「あの穴の中に首謀者が潜んでいるに違いないであります。ここまで来たら突撃あるのみであります!」
 洞窟に首謀者が潜んでいるという点に関しては皆同意していた。その上で「もう少し様子をみるべきだ」といった秀幸の意見にも。しかし
「武装獣は見つけ次第ブチのめす! そのためにこの森に来たのでありますよぉ!!」
 自分は存分に待った、隊の方針によく従った、しかしもはや我慢の限界だと剛太郎は茂みの中から飛び出した。
 すぐに続いて「やれやれだのう」とパートナーの大洞 藤右衛門(おおほら・とうえもん)も飛び出していった。それらの殺気にグリズリーも気付いたようだ、巨体の背中があっと言う間に大きく伸びた。
「自分はここで」と剛太郎が立ち止まる。
「わしはこのまま」と藤右衛門は突進していった。
「ぬはははは〜」
 『雅刀』を振るではなく藤右衛門は川岸で拾った石をグリズリーめがけて投げつけた。
「ぬはは〜痛いじゃろ〜痛いじゃろ〜て」
 彼も立ち止まり雪合戦のように全霊で石を投げつけていたが、グリズリーの目が完全に自分に向いた事を確認すると、藤右衛門は直角に向きを変えて再び駆けだした。
「ぬはは〜こっちじゃこっちじゃ〜」
 鬼さんこちら、と道を開ける。何の道かって? それはもちろんパートナーである剛太郎の『89式小銃(巨獣狩りライフル)』の射道である。
「狙った獲物は逃がさない」
 もちろん狙いも外さない。装甲に守られた脚部は避け、腹部の一点に狙いを定めた。いかに強固な皮膚をしていようとも、同じ箇所に銃撃を受ければ貫けない事などあるはずがない。
 銃声の直後にグリズリーの呻声が聞こえる、それは『小型飛空艇』で空を飛ぶスノー・クライム(すのー・くらいむ)にも届いたが、彼女の耳にはもう一つ聞こえたものがあった。
「えっ? 数が合わない?」
 それは『適者生存』で従わせていたパラミタ雀たちの声であった。この辺り一帯で起きた異変や目撃情報などがあればと思い聞き込みを行っていたのだが、彼らによるとここ最近に感じていた暴獣の気配は一つではない、それもかなりの数になるという。
「う〜ん、でもどこにも見えないんだよな〜」
 『空飛ぶ箒』で併走するアニス・パラス(あにす・ぱらす)が周囲を見下ろしていった。彼女は『ダークビジョン』を発動していた、茂みの中や岩陰など、暗いところまではっきりと見えるはずだ。
「でもさ〜目撃した人の話によればグリズリーは4体いたはずなわけでしょ? 残りの3体が隠れてたとしても、おかしくはないよね」
「でも聞いた感じだと4体でも足りないような感じなのよね―――」
「あの……ねぇ、スノー…………」
「ん?」
「見つけた……」
「見つけた? グリズリーを?」
「うん……というか出てきた、出てくるよっ!」
「は? …………!!!」
 ワラワラワラワラワラワラワラと。暗い洞窟の穴の中からフサフサの毛をした巨熊が次々に姿を現した。その数5体……いや、6、7……10体にも及ぶ。そのどれもが脚に『パワードレッグ』を装備していた。
 気付いた時には秀幸剛太郎たちも取り囲まれていた。
 巨体、巨爪、そして強化された脚力。しかも獣の方が頭数の多いとなれば……
「一転して窮地とは言うけどよ、急転すぎるだろこれは」
 佐野 和輝(さの・かずき)は出来るだけ声が震えないよう努めて言った。震えの原因はもちろん武者震いだ。
「まともに戦えば死…………これしか無いよな、そうだよな」
 心は決まった。和輝は『カメハメハのハンドキャノン』をしっかりと握り携えると、『小型飛空艇』をグリズリーの頭上まで滑らせていった。大丈夫、ここまで来ても心掛けるは平常心だ。
「すこし早いけど、ゆっくりおやすみ」
 麻酔入りの弾丸をグリズリーの額に撃ち込んでいった。上空を見上げた巨熊を狙撃するのはそれほどに難しくはない、被害を抑えて場を収めるにはこれしかない。和輝の狙いは効率よく、一体また一体と凶獣の群れを沈めていった。
 形勢が傾き始めたのを感じたのだろうか。洞窟から2体のグリズリーが駆け出してきた、その背にはそれぞれ黒幕と思われる男がしがみついていた。
「おぉっと、どこへ行くつもりだぃ?」
 地面に『真空波』を叩きつけてグリズリーの逃走を阻んだ。『仕込み竹箒【朝霧】(ウルクの剣)』と『仕込み竹箒【無光】(無光剣)』で空を切り払うと、朝霧 垂(あさぎり・しづり)は颯爽と男たちの前に立ちはだかった。
「やばくなったら逃げるのかい? 敵役の鏡みたいな奴らだね」
 あえてゆっくりと言ってのけた。そうしているうちに、ほら、グリズリーたちが震えだした。
「武者震いじゃないよ。『しびれ粉』が効いてきたんじゃないかな、心配しなくても直に動けなくなる」
 『真空波』を放った直後に撒いた粉、早くも効果を発揮したようだ。あとは『鬼眼』で威嚇してやるだけで。
「さぁ、もうグリズリーは動けないよ。大人しく来てもらおうか、教導団が歓迎するよ」
 安っぽい軍用服、顔は帽子に隠れているがどちらの男も汚い顎髭をたっぷりと蓄えている。尋問の際に刈り取ってやろうか、とが思った時だった―――
「なっ! ちょっと!!」
 突然に裂いた軍用服、そこに見えた腰巻きの爆弾。グリズリーもろとも、男たちはその身に纏った爆弾を爆発させた。そして爆発はの後方でも同じに―――いや、より規模の大きな爆発が起こった。
 口から火を吐くような爆発だった。岩壁ごと吹き飛ばすような爆発が洞窟内で起きていた。