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――夕刻。

「そろそろ、“強化人間狩り”の起きる時間帯ですね」
 犯行現場の多い、住宅地を巡回しながら神楽坂 紫翠(かぐらざか・しすい)橘 瑠架(たちばな・るか)に言った。
「いい加減に、私達ばかり狙うのはやめてほしいわ。迷惑なのよね」
 と瑠架は憤慨する。
「この事件に便乗するような輩がでないといいですね……。まあ、シュタイナーの囮作戦も開始される頃ですし、犯人が捕まれば事件のあらましを聞けるでしょう」
「こうして巡回しているけど。私は囮にはなりたくないよ?」
「大丈夫ですよ。犯人は一人になっている強化人間しか襲いませんから。もしもの時は自分が瑠架を守りますよ」


 囮作戦は、すでにブラウも準備をしていた。その為に囮になってくれる参加者も複数集まっている。
 “強化人間狩り”が次に何処で犯行を及ぼすか分からないため、囮にはそれなりの人数を要する。犯人が次に現れそうな場所に、強化人間を態と一人配置し、奇襲させ、奇襲の瞬間に逆に自分たちが犯人を奇襲すると言った作戦だ。
 夕刻。すでに囮も奇襲返しをする人員の配置は完了していた。
 あとは時を待つだけ。


超能力も、魔法も、あるんだよ


(オトリ作戦はいいんだが……)
 口に出さずアール・エンディミオン(あーる・えんでぃみおん)は小さなパートナーの事を考えた。少し離れた後ろで自分を尾行している村主 蛇々(すぐり・じゃじゃ)の事を。
(あいつ夜とか暗い所平気なのか?)
 蛇々は臆病だ。パートナーのアールの無言にすら怯えることがあるくらい。
 蛇々は「あんたは私を信じて安心してオトリになりなさいっ!」と大口を叩いていた。事件解決に意気込んでいたのも確かだが、やはり多少不安だ。
(信じないわけではないが、そうだな……俺の方も細工をしておくか)
 

「どうだ? 強化人間に見えるか?」
 リョージュ・ムテン(りょーじゅ・むてん)は吸血鬼である。強化人間ではないが今回は囮となるためにそのフリをする。
「うん。だいじょうぶです。てか、天御柱の制服を着てたらOKですよ。強化人間かどうかなんて、外見からじゃ分からないですし」
 と白石 忍(しろいし・しのぶ)の意見。確かにそうだ。
「普段は制服はんか着ねえんだが……」
 吸血鬼であることが目立たないように着てみた。慣れない服装にリョージュが眉を顰める。彼も学院の生徒ではあるはずなのだが。
「じゃあ、リョージュくん、私の先を歩いてください。私は離れて様子を伺います」
「わかったぜ。襲えるもんなら襲ってみな! 俺は強化人間だぜ!」
 自分から「強化人間だ」と言って歩く強化人間はいないだろうと思いながらも忍は、リョージュの後を遅れて追った。

 今回囮になっているのは、アール・エンディミオン(あーる・えんでぃみおん)蘇芳 蕾(すおう・つぼみ)風祭 凪(かざまつり・なぎ)リョージュ・ムテン(りょーじゅ・むてん)和泉 結奈(いずみ・ゆいな)榊 朝斗(さかき・あさと)、そしてブラウ・シュタイナー本人。
 彼らは各自人気のない路地裏を一人歩きし、犯人の襲撃を待った。
 犯人の行動が決まっているのなら、この中の誰かが狙われるはずだ。
 無論、予測通り囮作戦は成功する。

 ――しかし、それも複数の囮に“強化人間狩り(サイコイーター)”が喰らいつく。