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そんなの、俺が許さない

――昼。空京、東地区、住宅地。

 ブラウに随行する調査員たちも動き始める。もう犯行時刻の増える夕刻にほど近くなってきている。
「なあ。なんで犯人は被害者を重傷で逃しているんだ? 奇襲とはいえ、強化人間をあっさり倒せるんだしよ」
 シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)がそう疑問を投げかけた。
「殺さないのは見せしめのためじゃない? 半殺しにして何か埋め込んでいるとか?」
 サビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)が答える。なかなかにエグイ予想だ。
「理由がわからへんが、犯人が手練ているのは確かや」
 ブラウが言う。
「猛からの情報だと、被害者の体内に何かを埋めこまれたりとかは無いみたいよ。肉体の損傷は皆酷いみたいだけど」
 と、天貴 彩羽(あまむち・あやは)が【テクノコンピューター】《ユビキタス》を駆使して、病院にいる猛との情報を並列化していた。他のメンバーからの情報も全員に共有できるようデータサーバー立ち上げて管理していた。また、地図上で情報を共有するメンバーがどこにいるのかも把握できるようなシステムを組んでいる。
「猛のだいじょぶかな……」
 ベネトナーシュ・マイティバイン(べねとなーしゅ・まいてぃばいん)は病院で忙殺されてそうな研究者のことを思った。
(しかし、ルージュの事件といい、今回の事件といい立て続けに強化人間絡みの事件が起きているのは何かの前触れか?)
 ルージュの関わっている事件とは、昨日一昨日に解決した殺害予告代わりに、ターゲットに対して事前に大金を振り込むという高利貸しをめぐった事件の事だ。
 ブラウの身辺警護に身の入らないベネトナーシュだった。
 シリウスが次の疑問を投げかける。
「じゃあ、なんでエキスパートばかり狙う? 強化人間を危険視している連中なら止めをハズだし……うーん、なんかこう……、誘っているみたいっつーか?」
 考えがまとまり切れない。
「頭を使う時はオヤツを食べるといいですぅ。食べるですぅ?」
 天貴 彩華(あまむち・あやか)がシリウスにお菓子を差し出す。糖質が頭の回転を促すのは確かだ。「ワイにもくれんか?」とブラウが彩華に催促する。
「ブラウさん。事件は夕方から夜にかけてよね? 深夜から朝にかけては発生していないの?」
 十七夜 リオ(かなき・りお)の質問にはブラウが答えた。
「せやな。“強化人間狩り”の被害におーたやつが見つかっとるのは、夕方から夜や」
 ついでに、「呼び捨てでかまへんで」とも答える。リオは遠慮して「ブラウくん」と呼ぶことにした。そのやりとりにリオのパートナーが顔を膨らませていた。
「じゃあ、被害者の襲われた時間は殆ど“夕方のみ”ってことだよね? ワタシらの学校の下校時間に重なってない?」
 フェルクレールト・フリューゲル(ふぇるくれーると・ふりゅーげる)の推測通り、それらの時間はぴったりと重なっていた。
「空京から通う生徒もおるし、その時間は丁度ワイら風紀委員が管理区域を見まわる時間や」
「でも、エキスパート部隊だけを狙っているわけじゃないんだよなぁ……他にも被害者いるし。そういや、凶器が何か分かるか?」
「銃器を使っているらしいわ。おそらく【ハンドガン】タイプってことよ」と、病院からの情報を元に彩羽がシリウスに答えた。しかし、凶器の所持者、銃器の種類はまだ特定出来ていない。
「教導団のお二人を病院に向かわしとるし、何かわかったら連絡がくるやろう」
 と、ここで和泉 直哉(いずみ・なおや)和泉 結奈(いずみ・ゆいな)が合流する。
「すまない。遅れた」
「ええって、まだ始めたばかりや。えーっと」
 ブラウは二人の名前が分からない。
「天御柱学院の和泉 直哉だ」
「……和泉 結奈ですい。よ、よろしく御願します」
「直哉に、結奈ちゃんか。ワイはブラウ・シュタイナーや。よろしくな」
 と、主に結奈に向かって自己紹介をするブラウ。
(犯人の野郎は絶対にとっ捕まえてやらねーとな。よろしく頼むぜ!)
 《テレパシー》で直哉はブラウに意気込みを伝えた。ブラウとテレパス通信ができるかという実験も兼ねてだ。
 しかし、ブラウは「あー、すまんけど、近くにいるときは普通に喋ってくれんか? ワイどーも頭だけで喋るのは苦手なんや……」と断ってきた。無論実力者の彼が《テレパシー》を使えない訳ではない。苦手なだけ。頭で喋っていることが、口にも出てしまうのだ。