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イコン最終改造計画

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イコン最終改造計画

リアクション

「よっしゃあー! 琴音ロボ完成したぞこの野郎!」
「おお〜、お疲れ〜!」
 品評会が始まる前から猫井又吉がずっと組み立てていた琴音ロボの等身大プラモが、この時点でようやく完成したという。
「よし、それじゃ早速改造開始だ! だが、こいつを使う前に、まずは別のことをしなきゃならねえ!」
 言って又吉は【出魂斗羅】のコンテナを開ける。
「さっきも言ったが、まずはパイルバンカーだ!」
「それをリーゼント部分に内蔵するんだよね?」
「そう! 今しがたシールドとかちくわサーベルとか取り付けられたみてーだが、幸いにして場所の邪魔にはなってねえ。だから、内蔵するぜ!」
 だが又吉はパイルバンカーを取り付けるための用意――つまり杭を運べるようなイコンを持ってきていなかった。
「じゃ私たちの出番かな?」
「詩穂もお手伝いしますね☆」
 そうして美羽とベアトリーチェの【グラディウス】、詩穂の【チクワの磯辺揚げ】の手によって、パイルバンカーが要の離偉漸屠の頭部に組み込まれる。
「よし、次は本番、このプラモを頭の上に乗せる!」
「ちくわが乗ってるから、またがるように乗せることになるのかな?」
 要の指摘通り、離偉漸屠の頭の上には詩穂のちくわサーベルが乗っている状態である。元々プラモは「頭の上に乗せるつもりでいた」ため、ちくわにまたがらせるというのは妥当な判断である。
「しっかし、ちくわにまたがった琴音ロボ、か……。絵的にどうかと思うが、ま、この際どうでもいいよな!」
 細かいことを考えないのがパラ実の流儀!
 そうして又吉の指示に従い、2体のイコンは琴音ロボを頭に乗せることに成功した。
「う〜ん、これだけでも随分と大きくなっちゃったね〜!」
「Sサイズの離偉漸屠の上にイコンが持つちくわ、ア〜ンドMサイズの琴音ロボ! またがった分だけ高さは得られないが、それでも合計でMサイズ以上だぜ!!」
「きゃ〜、又吉君最高〜!!」
「わはははは! いいぞ、もっとほめやが、れ……!?」
 そうして大笑いする2人のもとに、イコンから降りた詩穂がまたしても擬音語を背に迫ってきた。
「さっきからちくわちくわ言ってますけど……、いいですか、あれはちくわではありません。ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲です。いいですか、二度と間違えないでくださいね……ッ?」
「は、はいっ!」
 満面の笑みと共にそう主張する詩穂に、さすがの又吉も顔を引きつらせるしかできなかった。

「は〜っはっはっは! イコン魔改造とはなかなかやるではないですか! というわけで、このお茶の間のヒーローがお手伝いさせていただきましょう!」
 魔改造に励む面々の頭上から、そのような高笑いが聞こえてくる。見上げるとそこには、【ドラゴネット(コード:Dragonet)】の【巨大マナ様】に乗ったクロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)が仁王立ちしていた。
「あっ、タキシードか――」
「ストップ! それ以上言ってはいけません! 確かに元ネタはそれかもしれませんが、少なくとも名前をそのまま出してしまってはいけないのです! つーか俺の服はタキシードじゃなくて、イルミンスールの制服です!」
「じゃあ、エンディ――」
「シャーラップ! どっちかといえば俺は前世紀の怪盗なんです! さすがにそれ以上はやめておきましょうねッ!?」
 クロセルの格好に反応した要を制し、彼はその格好のままドラゴネットのパートナーから降り立つ。
「さて要さん、どうやら今回の魔改造の目的は『サイズの向上』とのこと。いやはや敵を威圧する圧倒的なサイズとは、すばらしい発想です! しかし、いえ、だからこそ『最強の武器』を持ちたくはありませんか?」
「え、最強の武器!?」
「ええ、最強です。まあ最強というか、実際にはお茶の間のヒーローたる俺が知る限りの最強の攻撃手段ですけどね」
 実際のところ、イコンが持ちうる攻撃手段はかなりの種類がある。射撃、格闘はもちろんのこと、場合によってはワイヤー射出等「特殊兵装」に分類される物だってある。いずれも一長一短があるのであり、明確な「最強の攻撃手段」は無い。
 だからこそクロセルは「自分が知る限り」と前置きした上で最強と言った。ではその攻撃方法とはいかなるものなのか。
「ま、騙された。あるいは犬に噛まれたとでも思ってお試しくださいな! それじゃマナさん、ひとつよろしくお願いします!」
 ドラゴネットとかいいながら、実際はぬいぐるみのような風貌をした――しかもその上から地球上では3分間しか戦えないヒーローの着ぐるみを着ている【巨大マナ様】が「ぢゅわっち、なのだっ!」とか言いながら、その背に乗せてきた物を手に持つ。
 それは、イコンの内部から外部へと音声を飛ばすための外部スピーカーと、おそらくは接続用のワイヤーロープであった。
「スピーカーとロープ? なんであんなのが最強なの?」
「その辺は追々、説明しますんで。えっとマナさん、とりあえずそのスピーカー……上にまたがった琴音ロボにでもくっつけちゃってください」
「……あれ、あのドラゴンに乗って指示出すんじゃないの?」
「ああ、別に大丈夫ですよ。だってあのドラゴン、ドラゴニュートが一時的に大きくなったものなんですから」
 最近になってわかったことなのだが、パラミタに存在するドラゴニュートという種族は、その時々に応じて自らの体をドラゴンの姿に急成長させ、また元の姿に戻ることが可能である。つまり、イコンや巨大生物と戦う際には「ドラゴネット・モード」に変身し、人間サイズで行動する際には「ドラゴニュート・モード」に戻ることができるというわけだ。しかもその変身は何度でも繰り返し行えるという。
【巨大マナ様】とは、クロセルのパートナーであるドラゴニュートが「ドラゴネット・モード」に変身した姿なのであり、それなりに意思の疎通が可能なのだ。
 さて、そのクロセルの指示によりスピーカーを取り付けたドラゴネットは、一仕事終えたという風に満足そうに胸を張った。
「接続完了、ですね。では仕上げです! というわけで、はい要さん、これプレゼント」
「?」
 言ってクロセルが差し出したのは、ガラス板と釘、そして1本のマイクだった。
「? ナニコレ? ガラスと釘とマイクでどうしろっていうの?」
「マイクは実際にはイコンのコクピットに設置していただきます。だから本命はガラスと釘ですね」
「……おい、まさかと思うが……」
 その様子を聞いていたアレックスが引きつった笑みを浮かべる。
「おや、アレックスさんにはおわかりいただけたようですね。そう! 手に持った釘でガラス板を引っかき、その音をマイクに拾わせるんです!」
「やっぱりっ!?」
 クロセルが提案した「最強の武器」とは、「ガラスのこすれる不快な音」のことであった。
 つまりはこうである。ガラス板――あるいは黒板でも構わない――を釘で引っかいた際に出る「あの嫌な音」をマイクに拾わせ、その音をスピーカーで増幅し、外部に流すということだ。おおよそ通常の聴覚を持った人間ならば、ほぼ間違いなく悶絶するであろう「あの音」を最大音量で流すのだ。はっきり言って、毒電波だの不協和音だの問題にならない。
 それはまさに「無差別破壊兵器」である!
「歩兵はもちろんのこと、高感度センサーで周囲の音を拾っているイコンのパイロット、あるいはドラゴネットやワイバーン、ペガサスといった巨大生物と契約者のコンビ。全員悶絶すること間違いなし! いかがです!?」
 だがこの攻撃には2つほど問題があった。まず1つは、攻撃の際には自らもダメージを受ける可能性があるということ。これについては自分が耳栓をすることで回避は可能である。2つは、実は音を攻撃として転用した武器――ソニックブラスターがすでに存在するということである。
 とはいえ、この攻撃方法は確かに強力であった。何しろ、元々は敵に投降を呼びかけたりするのに使うだけのスピーカーを武器にしてしまったのだから。
「なるほど……、ちょっと使いどころは難しいけど、確かに最強だよね、アレ……」
「ええ、俺だって食らいたくありません。『爆心地』になるのは楽しいですけど、巻き込まれるのは嫌ですもんね」
 互いに冷や汗をかきつつ、それでも含み笑いを隠せない要とクロセルであった。