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【新米少尉奮闘記】甦れ、飛空艇

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【新米少尉奮闘記】甦れ、飛空艇

リアクション

第二章

 援軍のお陰もあり、無事に一行は蛮族を撃退し、ヒラニプラの街に入ることが出来た。
 荷物も当然、無事である。
 負傷者が無いわけではないが、幸いにも死者は勿論、重傷者も出ることなく、傷ついた者は医術の心得や、回復魔法の心得が有る者が応急処置に当たっている。
 だが小暮には、到着した荷物を教導団内の整備場へ運び、飛空艇の修復を行うというもう一つの任務がある。

「今日は、本当にありがとうございました」

 教導団本部に到着すると、小暮は助っ人に来てくれた他学校の生徒に敬礼を持って感謝を表す。
 出掛ける時より幾ばくか揃った敬礼がそれに応えた。
「引き続き教導団の学生は、荷物を整備場まで運ぶようお願いします」
 他校の生徒達が三々五々散っていくのを確認してから、小暮は残った教導団生に声を掛けた。
 とは言ってもトラックに乗っているものを運ぶだけなのでそう人数は要らない。
 整備のために整備場に集まっている人たちも居るので、有志が数人残って手伝うようだ。
「少尉殿、ちょっとよろしいですか」
 整備場へと向かうトラックを見送る小暮の背後から、大熊丈二がぱたぱたと走り寄ってきて何事か耳打ちをする。
 それにそうですか、と応えると、小暮は「ちょっと外します」とその場に居た面々に一声掛けてから、整備工場ではなく教導団の校舎へと向かい歩き始めた。

 入り口からここ――食堂までは、教導団の中でも珍しい、外部に向けて公開されているエリアである。
 小暮が食堂入り口の扉を開けると、中にいた三人がそれに気付いて顔を上げる。
「小暮さん……あ、少尉って呼んだ方がいいのかな? とにかく、久しぶり!」
 その中の一人、蒼空学園の制服を着ている朝野 未沙(あさの・みさ)が立ち上がって手を振った。
 彼女が、飛空艇発掘の際に協力してくれたことは記憶に新しかった。小暮も思わず表情を緩める。
「お久しぶりです。えっと、そちらの方は」
「はじめまして、大久保泰輔いいます」
 大阪弁独特のイントネーションで自己紹介したのは、大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)。薔薇の学舎の制服をサラリと纏っているが、イエニチェリの一人である。
 すると、隣に座っていた讃岐院 顕仁(さぬきいん・あきひと)もまた、小暮に向かい軽く会釈する。
「我は讃岐院顕仁と申す」
「教導団少尉、小暮秀幸です。本日はどのような御用向きで」
 ぴ、と姿勢を正して小暮が問うと、大久保がぴらり、と一枚の紙を差し出す。
「これ見てな、修復の助太刀しよ思って来てみたんやけど……なんか、ここに通されてな?」
 大久保の手の中にあったのは、今日の件の依頼書だった。確かにそれは、他校の生徒にも出されたものだったが。
「……申し訳ありません、今回他校の方にお願いしたかったのは、荷物の護衛の方で……」
「え?! ほんまかいな?」
 大久保が慌てて依頼書を読み直す。
 その表題は確かに、護衛・修復手伝いの依頼、となっているが、注釈として修復手伝いは教導団生に限るという旨が記されていた。
 それに気付いた大久保はがっくり項垂れる。また、あまり顔色は変えていないが、讃岐院もまた不服そうに眉を寄せている。
「ご協力頂きたいのは山々ですが……一応、飛空艇の武装配置などは軍事機密扱いになりますし、整備場への一般の方の立ち入りは禁止されていますので……」
 小暮は申し訳なさそうに頭を下げた。内部用、外部用と依頼書を分けなかった自分のミスでもある。
「やっぱなぁー、教導団が他校生受け入れるなんて珍しい思ったんやー」
「泰輔、依頼書はきちんと読め」
 讃岐院ががっくりと項垂れている大久保をこつん、とつついた。
「特例ー、とかないんか?」
「すみません、どのような場合でも例外は認められませんので……」
 そう言いながら、小暮はちらりと朝野の方を見る。
 彼女は前回、飛空艇の起動に大きく貢献してくれている。今回も活躍して貰いたいところだが、例外は認められない。
「大丈夫、そんなことだろうと思ってね、仕様書書いてきたの」
 小暮の申し訳なさそうな表情で何を言いたいのか悟ったか、朝野はニッコリわらってぱたぱたと手を振った。
「特例で入れてくれるなら頑張って修理するんだけどね。これ、起動時にメンテナンスした箇所の一覧だよ。手を入れる前と、どう手を入れたか、出来るだけ詳しく書いたつもり」
 そう言って朝野が差し出したのは、A4サイズのファイル一冊。かなり詳細にわたって書いてくれたのだろう、数センチほどの厚みがある。
 あの子をよろしくね、と言う朝野からファイルを受け取ると、小暮は感謝の意を込めて小さく敬礼する。
「助かります」
「じゃ、僕たちも退散しますか」
「……そうだな、入れぬのなら仕方がない」
 諦めたように立ち上がる二人に小暮はもう一度頭を下げる。
「ほんとうに、有り難う御座いました。お心遣いに感謝します」
「そんな、かしこまらなくてええよ、間違えたのは僕たちやから」
「じゃああたしももう行くね! ほんとは、完成して、飛んでるところを見て見たいけど」
「それは……現段階ではちょっと、いつになるか分かりませんね」
 だよね、と苦笑して朝野は出入り口に向かい歩き出した。
 その後に、薔薇の学舎の二人も続く。
 三人の後ろ姿を見送ってから、小暮は整備場へと向かった。