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超能力体験イベント【でるた2】の波乱

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第5章 展示された「危険」

 時間を再びイベント開催直後に戻して、展示ブースの様子をみてみよう。
「うーん、展示内容を詳しく調べずに取材にきてしまったが、すごいな、これは」
 木本和輝(きもと・ともき)は、あちこちに檻やカプセルに入れて展示されている学院の「資産」を目にして、戦慄せざるをえなかった。
 危険な存在として展示されているそれらは、精神が不安定だったり、力をコントロールするのが不得手だったりで、すぐに暴走して周囲に被害を及ぼすため、普段は学院の強化人間管理棟の奥深くに監禁され監視されている、秘蔵の強化人間たちだったのだ。
「コリマ校長は、彼等をそのまま監禁し続けるつもりはなくて、力を適切に扱えるように教育したうえで解放するという、一種の『強化人間リサイクル』をやるつもりらしいな。こうして展示するのも、超能力の危険性を参加者に理解してもらいたいからだっていうけど、同じ人間なのに、こんな風にものみたいに扱われるっていうのは、ちょっとね」
 パラミタ全校統一校内新聞の記事にしようとやってきた木本だったが、このどすさまじい光景を前にして、記事をどう執筆するか、方向性が決まってしまったと感じた。
「『こういう扱い方をしていいのか?』と、そう訴える記事を書くしかないな。コリマ校長はいろいろ深い考えを持っている人だというのはわかるけど、衝撃が強すぎるぜ、これは」
 木本は、写真を撮るのもためらわれるが、とにかく、展示されている強化人間の一人をじっくり眺めて、記事を書けるようにしようと、カプセルのひとつに近づいていった。
 カプセルの中には、虚ろな表情で眠っているようにも思えるが、ときおり、近づく人に薄く笑いかけたりしている一人の男性が封印されていた。
 カプセルの側面には、アール・エンディミオン(あーる・えんでぃみおん)と、男性の名前が記されていて、「鏖殺寺院の施設から救出された、出自不明の強化人間」とだけ書かれていた。
「この人は、どんな風に危険なんだ? 確かに、精神が崩壊しているような雰囲気だけど」
 木本は、この男性をネタにどんな記事を書こうと頭を悩ませながら、焦点の定まらないその瞳を、じっとみつめてしまった。
「うん? 誰だ……ふふふ」
 アールは、木本にみられていると気づくと、不気味な笑みを浮かべてみせた。
(いまは醒めない悪夢の続きをみているのか? それとも現実なのか? わからない。ああ、わからないな)
 わ カ り た く も ナ い
 瞼を開いても、「覚めることのない悪夢」をみている。
 それがアールの日常であり、世界というものの全てだった。
「この人、知能レベルは高そうな気もするけど……。元気になって解放されたら、どんな行動をとるんだろう?」
 木本は、アールがこのような姿になるまでの経緯や、今後どのような運命をたどるかといったことについて、あれこれと詮索せずにはいられなかった。
 そのとき。
「あれ? もしかして、これって、アール!?」
 木本の背後から、村主蛇々(すぐり・じゃじゃ)の、心底驚いたといった声があがった。
「お知り合いなの?」
 木本は、村主を振り返って尋ねる。
「知り合いも何も、私のパートナーなんだ。しばらく姿をみかけないと思ったら、こんなことになってるなんて! 私は学院の生徒なのに、教えてくれないなんてひどいな、もう」
 村主はアールのこの扱いに憤慨していた。
「アールって、危険な人なの?」
 木本は尋ねた。
「えっ? う、うん、それは、まあ……よくわからない言動とか徘徊とか、いろいろな精神異常はあったけど、たまに、だしね」
 村主は口ごもりながら答える。
「これからどうするの? パートナーをここから解放するの?」
「できればそうしたいけど。やっぱり仲間だから」
 村主はいった。
「でも、コリマ校長の味方をするわけじゃないけど、解放したら、それはそれでいろいろ危険なんだよね?」
 木本の指摘に、村主はうなずかざるをえない。
「で、でも、こんな、カプセルに入れられた状態で見世物にされてるなんて、嫌だもん!」
 見世物にされるのは嫌だ、という気持ちは、木本も理解できた。
「でも、どうやって出すの? このカプセル、そう簡単には開けられないと……」
 そこまでいいかけて、木本は、ふと気づいたことがあった。
「そういえば、春華はどうしたんだろ? 俺の側にいたはずだけど」
 全く声が聞こえないパートナーの存在が気になって、木本はきょろきょろした。
 木本のパートナー、厳島春華(いつくしま・はるか)は、木本から少し離れたところに立って、カプセルの中のアールをじっとみつめていた。
 例によって、アールは厳島にも笑みを浮かべてみせている。
「あ、あああああ、これは何? 頭が痛いですぅ!!」
 薄笑いを浮かべるアールと目を合わせたまま、視線をそらすことができず、厳島はうめいた。
 厳島もまた強化人間であったが、このとき、アールのカプセルにとりつけられている計測器の針のひとつが、大きく傾いていた。
 パラミタ線の線量増加を示すものだったが、木本たちはその表示が何を意味するのかもわからない。
「様子がおかしい? どうしたんだろう? 春華、大丈夫か?」
 木本はそういって、厳島の肩に手をかけたのである。
 それが、トリガーだった。
「あ、ああああああ!」
 厳島は叫んだ。
 木本に触れられた瞬間、自分の中で、何かが弾けるような感覚が生じたのだ。
「う、うううう、うしゅううう、和輝!」
 うわごとのように呟く厳島の目が、ギラギラと光り始める。
 全く突然に、覚醒は起きていた。
 そして。
 厳島は、カプセルの中のアールに、精神感応で呼びかけていた。
(ねえ、外に出たい? 出せるよ、ねえ? 2秒以内に答えて!)
 厳島の呼びかけに、アールもまた、精神感応で答える。
(うん? これも夢の続きか? そうだな、この中にずっといるのにも飽きた。ちょっと出歩いてみるか。どうせ同じ夢の中だしな)
 アールの答えを聞いて、厳島はうなずいた。
「じゃあ、いくよ」
 次の瞬間、厳島の姿はかき消えた。
「何だ、何が起きたんだ!?」
 木本は慌てて、厳島の姿を探す。
「みて! アールもいなくなってる!」
 村主は、カプセルの中のアールも姿を消したことに気づいて叫んだ。
「あっ、春華、そこに移動してたのか! あれ、アールもそこに!?」
 木本には、目の前の光景が信じられなかった。
 会場内の、ここから100メートルほど先に、厳島が立っていて、そのすぐ近くに、先ほどまでカプセルに入っていたアールが立っていたのだ。
 アールは、虚ろな目で、周囲をみまわしていたが、何事か呟きながら、周囲の生徒たちに近づいていった。
「ア、アール! 何をするつもりなの!? やめて!!」
 村主は、駆け出していた。

「おお、これはすげえぜ!! やっべえ展示ばかりじゃねえか。もともと超能力に興味があるわけじゃないオレからみても、ゾクゾクする企画だぜ!!」
 パラ実生、国頭武尊(くにがみ・たける)は、展示ブースが気に入った様子で、立ち止まって、展示のそれぞれを注意深く鑑賞し始めた。
「にしても、お前ら、いつまでまとわりつくつもりだ!? 監視するなら一人で十分だろうが!!」
 国頭は、イベント会場に入ったときから5、6人の警備員が自分にはりついているのが不満だったが、前回のイベントで自分が起こした騒ぎのことを思えば、仕方のないことだった。
 警備員たちは、国頭の一挙手一投足を監視して、本部に報告し、必要であればいつでも戦車や戦闘機を呼べる準備まで整えている。
 出入り禁止にならないだけ、ましといえた。
「まったく、いち参加者として真面目に見学してるときくらい、監視をといてくれたって……うん!?」
 国頭は、とある展示の前で足を止めた。
 すさまじい糞尿の臭いが渦を巻く鉄の檻の中に鎮座していたのは、南鮪(みなみ・まぐろ)にほかならなかった。
「て、てめえ!! この前はよくも!! こんなところで何してやがる!!」
 宿命のライバルを目にした国頭は、血相を変えて檻の格子にとりつき、鎖につながれて寝そべっている南を睨みつけた。
「うん? ああ、おまえか。みてのとおり、パラミタパンツ四天王の中でも抜きん出た実力を持つ俺は、コリマ校長に目をつけられてモルモットにされたってわけだ。まっ、有名税みたいなもんだな!! はー、この香り、たまらんぜ」
 南は、床にうず高く積みあげてあるパンツのひとつを手にとって、鼻腔いっぱいにその香りを吸い込み、ニヤリと笑った。
「お、そ、そのパンツコレクションは!?」
 国頭は、南のそのコレクションが欲しくて、思わずよだれが出てしまった。
「ワハハハハハハハ! うらやましいか? これは、いままで俺が狩ってきた、無数の女子生徒のパンツだ!! 全部使用済だから、いろんなものがしみている!! 俺の能力と関係があるということで、特別に持ち込みを許可されたんだ。ただ眺めて嗅いでるだけじゃない。サイコメトリを実行することで、ひとつのパンツから、履いていた女の全てがみえてくるのだ!! 床に寝転がってパンツだけみていればいいというのも、堕落したユートピアのようなもんでオツだぜ? メシの心配はしなくてもいいしな」
「ふっ、確かに堕ちたもんだな。檻の中にいたんじゃ、新しいパンツを狩ることはできない。せいぜいそこで、過去の栄光に浸ってマスかいてんだな。ハッ! 今回は俺の勝ちだ! もう確定!!
 国頭は、パンツを頭にかぶってはしゃいでいる南の姿に、嘲笑うかのように鼻を鳴らすと、くるりと背を向けて、勝利のVサインをビシッと決めながら歩き去ろうとした。
「おい、国頭。気をつけるんだな。コリマ校長がどうしてお前を会場に入れたと思う? ひょっとしたら、お前も近いうちにサンプルのひとつとして監禁されるのかもな! ワハハハハハハハ!!」
 国頭の背に、南が不気味な警告の言葉を投げて、洪笑を浮かべる。
「へっ! わかってるって。とりあえず、こんだけ警備がきついと、おもてだっては何もできない。何か問題起こしたら、それを口実に俺も監禁されてデータをとられるからな。待ってろよ、今回のこのイベント、必ず何かが起きて、チャンスはくる。そのときお前のパンツを狩らせてもらうからな、カノン!!」
 南の警告をものともしない国頭。
「おい、いちいち口に出していうな! 全部聞こえてるぞ!」
 警備員たちの怒鳴り声も、ものともしない国頭であった。

「まだ……足りない……スーが、満足しない!」
 展示のひとつとして、檻の中で厳重に拘束され、目隠しと防声具を施された柳玄氷藍(りゅうげん・ひょうらん)は、誰にも聞かれることのない声を、ひそかにあげ続けていた。
 柳玄は、管理棟に監禁された生徒たちの中では、新入りにあたる。
 彼は蒼空学園の生徒だが、突然わけのわからないことを呟きながら天御柱学院の生徒を襲ったところを確保され、母校と学院が協議した結果、しばらく学院で監禁して、経過をみることになったのだ。
 しかし、監禁され、矯正の措置を受けても、柳玄の言動はいっこうに変わる気配をみせなかった。
 それどころか、「悪化」しているとさえいえた。
 柳玄は、次第に、自分のものではない別のものの声さえ呟くようになっていた。
「怖がらんでいい。御霊のもとに……還るだけだ」
 柳玄は、謎めいた言葉を呟き続ける。
「いまならまだ間に合う。だから……」
 学院の教官たちは、柳玄が「スー」と呼んでいるのは、日本神話の神「須佐之男命(スサノオノミコト)」のことらしいとまで、突き止めていた。
 だが、柳玄が実在する「スー」に呼びかけられているのか、あるいは、柳玄自身が勝手な妄想を抱いているのかは、いまだに区別できないでいた。
 ある意味、柳玄は、展示された存在の中では最も不安定要素をはらんだ、危険な存在だったといえるだろう。
「主が望みのままに、俺は動こう」
 真田幸村(さなだ・ゆきむら)は、一般参加者として入場していたが、柳玄が入っている檻の前までくると、立ち止まって、身動きできないパートナーの姿をじっとみつめた。
 だが、いかに真田といえども、柳玄を縛める拘束具より遥かに頑丈な檻に阻まれては、どうしようもない。
 そこに。
「ふふふ。ははははは。お前も、夢の続きをみろよ」
 カプセルから抜け出してふらふらとさまよっているアール・エンディミオンが、柳玄の檻の近くにいる警備員たちに襲いかかっていった。
「なに!? お前は……うわー!!」
 アールの放つ強力なヒプノシスの前に、屈強の警備員たちは次々に倒れて、深い眠りに堕ちてゆく。
「みんな眠らせてやるぜ。はははははは」
 笑いながら、アールは、真田にもヒプノシスを放った。
「む? 俺には、そんなものは通用せん!!」
 主の危機を前に、感覚を研ぎすませている真田は、アールの術もものともしなかった。
「だが、おぬし。ありがたいことをしてくれた。礼をいうぞ」
 そういって、真田は、眠っている警備員の胸ポケットから柳玄の檻の鍵を取り出すと、檻の扉を開いて、拘束具に覆われたパートナーの身体を引きずりだした。
「大丈夫でござるか? いま、解放しよう。はあっ!!」
 気合とともに、真田は柳玄の拘束具に斬りつけ、縛めをといた。
「ふうううううう」
 深い息を吐く柳玄。
 恐るべき存在が、ついに解放されてしまったのだ。
「は、ああああああ、だ、ダメだ、くる、スーが、ああああ! 来い、来るのだ!!」
 柳玄は、解放された喜びに浸る間もなく、異質の存在が自己の中に憑依する感覚に身悶えた。
 黒い霧のようなものがわきだして、柳玄の頭を包みこんだかと思うと、次の瞬間、柳玄の目玉が裏返り、ついに、人格の交代が実現した。
「我、イマココニ、キタレリ。クワセロ、クワセロ!!」
 超能力の研究者たちがその光景をみたなら、設楽カノンの別人格である「死楽ガノン」が出現するときの様子に似ていると感じるだろう。
 真田は、柳玄が解放されたことを確認すると、どこかに姿を消してしまっていた。
 動き出した柳玄、いや、須佐之男命は、会場の中の獲物を探して、ひた走った。
「うらあああああ! 天の厄災みいだしたり! 死ねえええええ!!」
 須佐之男命は、あちこちの生徒や警備員を眠らせてまわっているアールに襲いかかった。
「うん? これはこれは、とんでもない悪夢か? 刺激が強すぎるな。ふふ」
 須佐之男命に気づいたアールは、ちょっと驚いたといった顔をしてみせたが、まるでそうするようにプログラムでもされているのか、他の相手に対するのと同様に、須佐之男命も眠らせようと仕掛けた。
「まやかしの術などきかん! 滅びよ!!」
 須佐之男命に斬りつけられたアールは、ゆっくりと、ドミノが倒れるように、ばったりと倒れた。
「あっ、アール、しっかり!」
 やっとパートナーをみつけた村主蛇々が、倒れたアールに駆け寄っていく。
「夢の中でさらに倒れて夢をみて、俺はどこにいく? ふははは」
 呻いて、アールは気を失った。
「裏切りの子よ、うぬも死ねい!!」
 須佐之男命は、無情にも、アールを助け起こしている村主にも斬りかかっていった。
 その身体が、剣を振り上げたまま、ぴたっと硬直する。
「ぬうう!? この力は!!」
 全身が万力のような力で締めつけられるのを感じた須佐之男命は、うなり声をあげる。
(そこまでだ。学院の生徒を弑するのは許さんぞ。それと、蒼空学園との協議により預ったその生徒の身体を占有することも認めん)
 須佐之男命に、精神感応で語りかける声があった。
狐狸魔(こりま)か。久しぶりだな)
 須佐之男命は、学院の校長を和名で呼んだ。
(知っているだろう? いまの我は、数万もの精霊との契約に成功している。おぬしと出会ったときの我とは違うぞ)
(そのようだな。この力で学院を支配するか?)
 須佐之男命は、コリマに問うた。
(支配などと、幼稚なことをいうな。我の目的は、あくまで、きたるべき闘いに備え、教官たちを、そして生徒たちを導くことにある。敢えて問おう。いまの我をみて、協力しようとは思わぬか?)
(知れたことを。我の望むものとは相容れん! うぬと契約することなど、未来永劫ないであろう!!)
(それでは、単純な力の論理に屈するがよい。我と契約している精霊の中には、おぬしを敵視し、対抗できるだけの力を行使できるものが多く存在する)
 コリマは、恐るべきサイコキネシスの力で須佐之男命の動きを封じると、再び拘束具でがんじがらめにして、檻の中に戻してしまった。
(無駄なことを。我の力はこの器の中で活性化しつつある。当分の間、この器の支配を続けてくれよう。天の厄災、そして裏切りの子に加担するうぬこそ、唾棄すべき邪悪の塊よ!! 覚えておれ、じきに、うぬを殲滅してくれる!!)
 檻の中に入った後も、柳玄の身体は須佐之男命の支配を受け続け、ぎりぎりと歯ぎしりし、恐ろしい声で叫ぶようになってしまった。

「春華、どうしたの? しっかりしてよ。ねえ」
 木本和輝は、アールとともに突発的な瞬間移動を行った後、茫然とした表情でたたずんでいる厳島春華の身体を揺さぶった。
「はああ。何かがみえますぅ……あれは? いったい? 春華ちゃん、寂しいですぅ」
 厳島は、虚空をじっとみつめたまま、うわごとのような言葉を呟き続けている。
「こ、こうなったら、もう、口を塞いでやる!!」
 木本は、厳島の顔をすっと引き寄せると、その唇に自分の唇を重ねた。
「うん!? はああああああ☆☆ 和輝トモキともき……ぷはー!」
 うわごとを封じられた厳島は、ぐるぐると目をまわし、自分が木本とキスをしているのに気づくと、軽いパニックを起こしてから、深く息をついて、正気に戻った。
「あれれ? 春華ちゃん、いったい何してたですぅ? 和輝ー!!」
 さっきまでの自分の記憶がないことに気づいた厳島は、怖くなって泣き出すと、なりふり構わず木本に抱きついていた。
「は、春華!? こんなところでよしてよ。俺が記事にされちゃうよ。うわー! とりあえずよかったー!」
 木本もまた、照れ隠しもかねて、厳島を抱きしめ返し、パートナーの無事を喜んだのだった。
(覚醒して、一時的に「選択権つき瞬間移動」を発動させたか。分析結果が出たな。スペックは……なるほど。自分の周囲半径10メール以内にいる人物で自分に敵意を向けていない者に、自分とともに瞬間移動を行うかどうか精神感応で尋ね、同意した者を自分とともに直線距離300メートルまで瞬間移動させる、か。選択時間は2秒以内。一般市民を攻撃から避難させるなどのサポート向けの能力だな)
 コリマ校長は、校長室にて、採取したデータから厳島が目覚めた力の分析を行いながら、その力の今後の運用などについて想いをめぐらせていた。
(一時的な瞬間移動としてみれば、メルセデスの方が強い力を発揮していた。そういえば、あやつはどうしたかな?)
 コリマは、だいぶ前から監禁されていて、今回のイベントに展示されるところを、狡猾に抜け出したある強化人間の動きが気になった。
(案ずることはない。手は打っておいた。後はパートナーが導きを行うはずだ)
 コリマは、引き続き、成り行きを見守ることにした。