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太古の昔に埋没した魔列車…アゾート&環菜 前編

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太古の昔に埋没した魔列車…アゾート&環菜 前編

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 シャンバラ大荒野の一角に、目指す洞窟がある。荒々しい地形が手荒く出迎えるその場所では、契約者達が目指すものを手に入れるべく奮闘していた。
 物々しくトラックやイコンが佇み、集まる人が洞窟を前にしてざわついていた。
 洞窟に入る前に、閃崎 静麻(せんざき・しずま)が声をはりあげる。
「皆、すまんがガーディアンとまず話をしたい、話をつけて穏便に機晶石を採取できればそれに越したことはないだろう!」
 静麻が他の契約者を留めているその間に、コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)朝野 未沙(あさの・みさ)が洞窟の奥に足を進めていた。
「ごめんなさい、できる限りガーディアンの機晶姫とも戦闘はしないでほしいんだ」
 未沙がそう言葉を残して先に入ったハーティオンの背を追いかけ、静麻もそれに続いた。
 光術を明かりとして翳しながらある程度洞窟に踏み込むと、すぐに一人の機晶姫と遭遇した。じりじりとこちらを警戒して武器を構えている。
「説得が通じるといいんだけど、まず声をかけてみよう」
 決して彼らは盗掘をしたいわけではなかった、洞窟を機晶姫が守っているということは、以前はここに所有者がいたということで、今はどうかはわからないが、正当に許可を得て穏やかに発掘するに越したことはない。
「では行こう。…私は蒼空学園所属のハーティオンという者だ! 機晶石の採掘を行わせてもらいたい!」
 機晶姫たちの反応はない、ハーティオンは両手を広げて敵意がないことを示しつつ、一歩踏み出した。
 途端に激発した機晶姫がハーティオンに打ちかかり、女王のバックラーで防ぐ。他の攻撃的な武装は見えないように仕舞いこみ、盾だけで渡り合う。
「話が通じないようだ、私が押さえ込むので説得を頼む!」
 静麻はワイヤークローを取り出した、クローに仕込んだケーブルで篭手型HCとリンクしてクラッキングを試みる。
 まず前に出たハーティオンに狙いを定めていた機晶姫を、動きが止まった瞬間をワイヤークローで縛り上げる、その隙に美沙が近寄った。
 そうしてサイコメトリで機晶姫のデータを読み取る未沙も、その手ごたえの痛ましい鋭さに悲鳴を上げる。まったく言葉が通じる気配がない。
「ダメだ、頭の中には指令と、戦闘の事しかないみたいだ…!」
 ケーブルを繋いで有線でクラックにかかった静麻も、雨だれのように応答コマンドを要求される、おそらく管理者を示すであろう上位権限コードの入力に一度失敗するとそれまでのルートが封鎖されて、新たなルートを探らねばならない頑なさに手焼いた。思考構造がほとんど命令と戦闘ルーチンで埋め尽くされ、シンプルながら堅牢で他の処理が入り込む隙がない。
「こいつぁ、まるっきり戦闘マシーンだぜ…」
「なんと、この洞窟が誰のものかはわからないのか…」
 解析に手間取っているその隙に、洞窟の奥から新たなガーディアンが現れた。
「危ない!」
 様子を見に来て、割って入った健闘 勇刃(けんとう・ゆうじん)の光術が新たな機晶姫とハーティオン達との間に炸裂する。
「やはり、戦うしかないようですね」
 セレア・ファリンクス(せれあ・ふぁりんくす)が心配そうに問うた。彼女も同胞と切り結ぶのは可能な限り避けたいのだ。君城 香奈恵(きみしろ・かなえ)がふと振り返った。
「…あれ? カルミちゃんどこに行っちゃったんだろ?」
「香奈恵、セレア、カルミがどうした?」
「は、はぐれたかもしれないんだけど…」
 勇刃は少し考え込み、香奈恵に破壊工作で爆弾を用意させた。
「あ、みんな速いのです!待ってくださいのです!」
 アニメ大百科『カルミ』(あにめだいひゃっか・かるみ)はその頃うっかり細い横道に迷い込み、さらにそこで新たな機晶姫に遭遇した。
「はわ、追ってきたのです! きゃあ〜!止めてくださいのですぅ〜!」
 洞窟内を縦横に跳ね回る機晶姫の攻撃をなんとか避けて、元のルートに戻る。遠くで爆発が起きて、香奈恵さんの爆弾だと見当をつけて走り出した。
「カルミ様、ご無事でしたか!」
 爆発の方向に進んで合流できたが、カルミのその背を追う機晶姫へセレアは狙いを定めた。洞窟内で剣を振り回すわけにはいかず、そのままタックルで機晶姫を吹き飛ばす。
 未沙たちが取り押さえた機晶姫や、新たに現れた二人も加え、このままではいくら飛び出してくるかが知れない。
「敵の全容が見えない、この手勢では危ないぞ、一旦引き上げよう!」
 全員一旦洞窟の外へ引き、体勢を立て直した。

 風祭 優斗(かざまつり・ゆうと)ラックベリーに、途中で行き会った目的地が同じ契約者達を乗せて、洞窟にたどり着いた。
 双子の弟の風祭 隼人(かざまつり・はやと)はビリジアン・アルジー採取のほうに向かっていった。パートナーを連れて少し離れた所まで歩くのだ。
「あとで連絡入れるからねー!」
「おう!」
 立ち去る背中がぐっと拳をあげ、優斗に応じた。
「さて、用意するとしますか」
 採掘用の道具もひととおり揃えて気前よくレンタルしていく。大陸横断鉄道なんていう、環菜先輩の夢のある話に参加できるなんてやりがいがある。誰も困ることがないように、救急用具や食料なども備えてあるのだ。
「採掘用のツルハシはお持ちですか? お貸ししますよ」
「自分はゴールドマトックがあります、パートナーにお願いします」
 その後ひとしきり人に世話を焼いた後、自分もなだれ込む人々に続いて洞窟に足を踏み入れた。

「結局機晶姫の説得はできそうにないみたいだから、撃破あるのみね!」
 宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)は魔鎧である那須 朱美(なす・あけみ)を纏い、準備を整えた。
「祥子、何か楽しそうだな。鉄道計画とやらがそんなに楽しみなのか」
 もちろん!という顔で祥子は朱美に答えた。
「汽車の旅は日本人にはノスタルジックなものなのよ、目的地までの風景とか時間とか相乗りした人との触れ合いとか、とても素敵なものだと思う」
 それを作ろうとする環菜様のお手伝いをしたいのだ、と祥子は語る。
「で、行きがけに環菜にちゃっかり、開通した暁にはお駄賃にと第一号の列車の一等席を要求していたのだな」
「ふふっ、どうせならちょっとくらい特権もらってもいいじゃないの」
 レプリカデュエ・スパデの重みを確かめ、ダークビジョンを備え、勇士の薬を飲んで洞窟の前に立った。
「さて、この先私が先行します。露払いをつとめさせていただきましょう」
 外にまで追いかけてはこなかったが、入り口近くで侵入者を待ち構えていた機晶姫の一人を掻い潜り、その俊敏な足を切り飛ばした。

 ダウジングで注意深く進む桜月 綾乃(さくらづき・あやの)の後をついて、邪魔をしないように桜月 舞香(さくらづき・まいか)奏 美凜(そう・めいりん)もそろそろと進む。
 電車が好きな綾乃は率先して鉄道建設に参加していた、その意外な行動力に引きずられるように二人もここにいたのである。
「本当に、勝手に掘っちゃっていいのかしら? ちょっと強盗みたいで釈然としないけど…」
 舞香はそう呟いてどうも気が乗らないが、美凜はそうではなかった。
「私は誰の挑戦も受けるアル!」
 機晶姫達、かかってくるよろし!とシャドーボクシングのように架空の相手を挑発し、やる気に満ち溢れているのである。
 綾乃のほうは最初の意気込みは変わらず、機晶石をあつめて列車を動かすのだという思いがある。
「まいちゃん、ここの主だったかも知れない人はもういないみたいですし、資源は有効活用されるべきです。そりゃあここを守る機晶姫はかわいそうかもしれないけれど、もう開放されていいと思うのです」
 その時、美凜は殺気看破で暗闇の奥から駆け寄る機晶姫を感知し、綾乃を庇うように前に出る。
「下がるアル!」
 蹴りを美凜が鉄甲で受け止め、その隙に舞香は隠形の術で死角に入り込む。鳳凰の拳で吹き飛ばして、相手が体勢を立て直す前に舞香のブラインドナイブスが見舞われる。
 美凜はコンビネーションに満足して胸をはった。再びさっきの順番で歩を進めるが、今度は妨害のせいではなく足を止められた。
「ねえさっき…、機晶姫はどこから来たように思った?」
 ダウジングで探る暗闇の先に足を進めると、二手に分かれていた。綾乃はなんとなく左の気がするのだが、ちょっと自信がなかった。美凜は少し記憶を探って答える。
「…左側からだったように思う…アル」
「じゃあ、そっち行ってみようよ、綾乃が思う方向に機晶石があったら、きっと綾乃は鉄道計画に一番貢献できるってことじゃない!」
 その言葉のおかげで綾乃はときめきに胸をいっぱいにして、足取りをさらに軽くした。
 先に進むにつれダウジングの手ごたえがはっきりして、エネルギーの反応が大きくなっていく。

 清泉 北都(いずみ・ほくと)は銃型HCで洞窟内のルートをマッピングしながら進む。先行する者達が機晶姫を片付けているが、自身も禁猟区で警戒しつつ辺りをうかがった。
 白銀 昶(しろがね・あきら)もまた警戒しながら、超感覚で主にエネルギー反応に対して気を張っている。
「入り口近くはなんつうか、エネルギーの反応はないみたいだな」
「僕は機晶石の形は見たことがあるよ、クリスタルみたいな形をしてるんだ」
「鉱物だとやっぱりにおいはしなさそうかなー」
 昶がうーんと考え込み、反応する場所を探して足を進めるが、いつの間にか別の出入り口にたどり着いていた。
「こっちにも出入り口があったんだね」
 二人は注意深くマップを書き込み、もと来た道を引き返した。案外中は広そうだし、他に出口があるかもしれない、一刻も早く誰かと合流してマップデータを共有しておくべきだ。