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浪の下の宝剣~龍宮の章(後編)~

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浪の下の宝剣~龍宮の章(後編)~

リアクション


3.パイルバンカー防衛



 太陽の光も届かない海の底の底。
 普段は滅多に人は訪れない暗黒の世界に、人工の光で照らされた一団の姿があった。
 龍宮調査隊と、その護衛イコン部隊である。彼らの中心にはミサイルの発射台のような自走式のパイルバンカーの姿があった。先日の武装集団が、龍宮に乗り込むために作られた急造のパイルバンカーだ。
 よく見ると、かなり粗雑な造りで本当に効果があるのか不安になりそうな代物だ。しかし、技術班の報告曰く十分な破壊力があると太鼓判が押されている。最も、中に人を乗せるもので威力を物差しにされても怖いだけなのだが、とにかくこれなら龍宮のシールドを突き破って内部に潜入することができる事になった。はずである。

「けど、なんで新月じゃないとダメなんだろうね?」
 一団から頭一つ抜けた、ポイントマンを勤める部隊のさらに、レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)ミア・マハ(みあ・まは)の駆るラーン・バディの姿があった。
「技術班の話を聞いただけじゃが、月と地球の引き合う力が影響するとか言っておったぞ」
「ふーん。じゃあ、満月の時は超強力になったりするのかな?」
「そういうのは、内部に入る者らが調べてくれるはずぞ……正直、よくアレに乗ろうと決心したものじゃ」
 いくら技術班に太鼓判を押されても、あのパイルバンカーは不安の塊だ。唯一の突入手段という事で持てはやされているが、失敗したら乗組員まとめて海の底へ放り出される事になるかもしれない。
 なにより、護衛のイコン部隊全員に海中での人命救助の仕方の訓練が施されたのが不安を募らせる。万が一の対策だとはもちろんわかっているが、不安を払拭する材料にはならない。
「乗り物酔いで済めばいいんだけどね……そろそろ、警戒区域に入るよ」
 どうやら、レキの不安要素はミアの考えている事とは違うらしい。
 そんなお喋りもここまでだ。何度かの調査で、防衛システムが迎撃を行いはじめる区域は既に判明している。ある程度のブレはあるが、信頼できる情報だ。
「さっそくお出迎えのようじゃな」
 唐突にソナーに何かが映し出される。不自然に現れるソレは、間違いなく龍宮の防衛システムだ。
「やる事はわかっておるか?」
「進路上の敵を誘導して、道を開く! それじゃ、派手にいっくよー!」
 ラーン・バディからニンジンミサイルが射出され、そのニンジンを追うかのようにラーン・バディが突っ込んでいく。下をくぐるついでに一機をウサ耳ブレードで切り裂きながら、派手に敵襲を演出する。他の機体も、倣うようにしてつっこんでいく。
 防衛システムは簡単に囮に引っかかり、レキらポイントマンを追って道を開けていく。後ろにまだ敵が居るかもしれない、なんて考えていないのだ。射程に入ってきた敵を追うという、簡単な命令しかない。
「このまま引きつれて反対側まで持ってくよ」

 レキ達の働きによって、警戒態勢を取っていたほとんどの防衛システムは姿を消した。先行部隊を追っていったのだ。
「ウサギさんをカニさんが追いかけていく姿だけみると、少しほほえましいですわね」
「ミサイルで武装したウサギに、わらわらとたかる機械のカニだぜ?」
 グラハム・エイブラムス(ぐらはむ・えいぶらむす)は同乗するセシル・フォークナー(せしる・ふぉーくなー)に呆れながら、味方の動きを監視していた。二人の乗るセシル専用イーグリットSCは、遠距離射撃型のカスタム機だ。機動性のそがれる近接よりは、最初から距離を取って遠距離からの監視と援護に徹した方がその性能を存分に引き出せる。
「あとは、このまま何事もなく設置できればいいけどな」
 バラバラに海中に設置されていたパイルバンカーの部品の段階では、防衛システムはそれらを無視していた。が、組み立ててみると中々に凶悪なデザインだ。防衛システムが、眼で監視しているのなら攻撃されても文句は言えないだろう。
「今のところ、上手くいってますわね」
 近づくものに反応する防衛システムは、レキ達が引っ張っていったため、今のところ新手もなく順調にパイルバンカーは前進している。このまま行けば、余裕を持って設置できるだろうが、やはりそう上手くは話が進まなかった。
「何かがすげースピードで向かってきてるぞ」
「敵機? 残党ですか?」
「いや、これじゃ早すぎるし、サイズも小さすぎる……魚雷だ」
 ソナーに映る高速移動物体を、セシル専用イーグリットSCが高感度カメラで捕えた。グラハムの言うとおり、小型の魚雷が真っ直ぐに龍宮に向かっている。
「このスマートガンならっ!」
「ダメです、ここで攻撃を仕掛けたら防衛システムが反応してしまいます」
「けどよ、このままじゃ!」
 魚雷の進む道には、味方の機体はない。パイルバンカーにすら掠りもしない。狙われているのは、強固なシールドのある龍宮そのものだ。
 なぜなどとは思わない。攻撃を受ければ、こちら側にも敵が配置されていると龍宮は気付くだろう。既に戦力としては微弱な残党部隊が、準備が整っている調査隊に仕掛けるには、防衛システムを巻き込んで乱戦にする必要がある。
「くそっ、着弾しやがった」
 小型の魚雷程度では、あのシールドはびくともしない。
「さっそく増援が来ましたわね」
 面白いように、ソナーに大量の敵が出現する。一体どれだけ戦力を保持しているのやら。
「さらに向こうもきやがったぜ」
 防衛システムの稼動を確認して、武装集団の残党部隊も姿を現した。補給も修復もまともにできていないのか、腕が一つ足りなかったり、動いているだけでも不思議な機体の姿も見てとれる。
「玉砕でもするつもりかよ」
 あのパイロット達を動かしているのは、契約なのかそれともただの意地なのか。それとも最後の戦場でも探して彷徨っていたのだろうか。
「あまり、気乗りできない相手ですわね……。けれど、護衛対象がある以上、こちらも手を抜くわけにはまいりません」
 戦力の彼我で言えば、防衛システムより残党の方が圧倒的に少ない。だが、考えて行動してくるだけに残党の方が油断できない相手なのは間違い。
 セシル専用イーグリットSCはイコンの部隊に狙いを定めた。
 
 龍宮のシールドを突破する事に特化したパイルバンカーには、身を守る術も攻撃の手段も無い。装甲も必要な場所以外にほとんど無いため、攻撃されたらひとたまりも無い。
 防衛システムが雨のように打ち込んでくる榴弾の一つとして、直撃させるわけにはいかないのだ。
「数が多すぎるよ!」
 セルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)が悲鳴にも似た声をあげる。どれか一つでも直撃したら、大損害となってしまう。そんな攻撃が、数えるのも嫌になるほどの数でまとめて放たれたのだ。
 パラスアテナを操る御凪 真人(みなぎ・まこと)は、新式アサルトライフルを薙ぐようにして銃弾をばら撒くものの、全ては撃ち落せない。
「させません!」
 シールドを担ぎ、機体を前に出す。全て撃ち落せないなら、自らを盾にするしかない。この機体、パラスアテナはシールド装備で装甲も標準機より厚くしてある。多少の被弾なら持ちこたえられるはずだ。
 受け止めきれない方の榴弾には射撃による迎撃を続ける。
「来ますよ!」
「きゃあっ」
 爆発の衝撃が、機体の内部に大きく響く。来ると身構えてなければ、頭を打ったりしたかもしれない。
「……っ、なんとか、シールドで受け止めきれたみたい」
「護衛対象は?」
「健在よ」
 第二派が来る前にと、防衛システムの群れに機体を向きなおす。ショルダーキャノンが防衛システムを睨みつけた。
「ロック完了、やっちゃえ!」
 発射の勢いに少し後ろに流されたが、砲弾は目標に直撃した。さらに、直撃した防衛システムの爆発に巻き込まれて、もう二機もまとめて沈んでいく。三機撃墜だ。だが、この状況ではたったの三機だ。
「第二派、来るよ!」
 また榴弾の雨が来る。
 まだ機体の損傷はほとんどないし、シールドも健在だ。先ほどの砲撃の精度を見る限り、バランサー系も正常稼動している。それで、次は凌げるだろう。だがその次は、その次の次は凌げるかがわからない。
 自分の機体が可愛ければ撤退すればいいのだろうが、そうした結果沈むのはこのパイルバンカーとその中で待機している大勢の調査員達だ。
「あとで怒られちゃうかな、整備の人に」
「怒られるだけ、ずっといいですよ」
 盾を担いで前へ進もうとするパラスアテナの横を、すり抜けるようにしてマジックカノンの砲弾が突き進み、射撃体勢に入っていた防衛システムを貫いた。爆風に煽られて、他の構えていた機体も一度射撃体勢を解除する。
「まだ龍宮に取り付いてもいないんですよ、あまり無理はしないでください」
 通信が入る。SAY−CEエーファ・フトゥヌシエル(えーふぁ・ふとぅぬしえる)からだ。
「そうですね、助かりました」
「まだまだこれからが本番ですよ」

「けど、少し数が多すぎるよね。どうしよっか」
 峰谷 恵(みねたに・けい)はソナーレーダーに表示されている恐らく敵と思われるもの、の数に少し呆れている様子だった。
「弾薬もエネルギーも有限の身としては、嫌でも戦い方を考えさせられますね」
 魔装として恵に装備されているレスフィナ・バークレイ(れすふぃな・ばーくれい)も、表情はわからないがあまりいい気分ではないようだ。
「最悪、先ほどの御凪のように盾になるしかないですね。私の魔力があれば、少しは装甲の足しにできると思いますが」
「やるとしても、最後の手段ですわね。できれば、そんな方法は取りたくないのですが」
 SAY−CEは、装甲を盾にして突っ込んでいくような機体ではない。ある程度の被弾は確かに防げるだろうが、エーファの言うように最後の手段であって、手札の一枚ではない。
「とにかく、攻撃しそうな奴を狙って邪魔して攻撃させないのが一番よね」
 高出力のマジックカノンや20ミリレーザーバルカンを直撃させれば、防衛システムを確実に撃墜できる。既に味方の機体も何機か、敵地に突っ込んでかく乱を始めている。第一波の時のような榴弾の雨はそうそう作れないだろう。
 宣言どおりに、敵の動きを見て危険な相手から狙い撃っていく。
「よし、一機撃墜。次……ヒット! 次……きゃっ!」
 突然、機体を振動が襲った。背後から攻撃されたのか、と危ぶんだが実際はそうではなく、共に敵を迎撃していたパラスアテナが倒れ掛かってきたのだ。
「どうしたんですか?」
 エーファが呼びかけながら、パラスアテナの損傷をチェックする。モニターで見る限り、大きな損傷は無いようだ。
「すみません。どうやら、後ろから一機抜けてきたみたいで……っ、この機体の陰に入ってください!」
 盾を掲げながら、パラスアテナが体を起こす。SAY−CEには直撃していないが、防衛システムの榴弾よりも強力な何かがパラスアテナを襲ったのがわかった。
「後ろにもちゃんと部隊を回してたはずなのに!」
 攻撃を仕掛けてきた相手の位置を予想し、パラスアテナの影から飛び出しながらマジックカノンを放った。予想した地点に居た敵は、その攻撃を最初からわかっていたかのように少し下がっただけで砲弾を避けた。
「……さっそく敵のエースのおでましですね」
 撃墜され鹵獲されてしまったガネットを、既存のパーツで無理やり修復したツギハギの機体。通称、ツギハギガネットの姿がそこにあった。