リアクション
【七夕】(たなばた、しちせき)……地球のアジアの一部における節供、節日の一つで7月7日の夜のこと。笹竹に願い事を記した五色の短冊をつるしておくと願いがかなうと言われている。 ☆ ☆ ☆ 「これで問題ないかな、と…」 手元の書類をいま一度確認し、御神楽 陽太(みかぐら・ようた)はアタッシュケースに入れた。バチンと音をたてて留め金をしっかりかけ、ケースを手に階下へ降りる。 「ノーン、いる?」 「なぁに? おにーちゃん」 「今日、現地会合があって2人とも帰りが遅くなるから――」 声のした部屋の入り口をくぐり、ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)の姿を見た陽太の言葉が、ぴたりとそこで止まった。 部屋中、足の踏み場もないほどきらびやかな衣装が散乱している。 「ノーン…?」 「だいじょーぶだよ! 今日はみんなとセルマちゃんで、一緒に遊ぶ約束があるから!」 ひだの入ったフリフリミニスカを手に振り返り、無邪気に笑うノーン。 ああ、それで遊びに着て行く服を選んでいるのか、と納得した陽太は 「じゃあ、行ってくるから。戸締りよろしくね」 と、家を出た。 彼がノーンの使った言葉のおかしさに気づくには、それから数時間を要したのだった。 ぶん、ぶん、と変な音が先から聞こえていた。 どうもどこかで聞き覚えのある音。 虫の羽音――にしては大きすぎる。空を切るようなこの音は――そう、バットの素振りのような音だ。 (でも、それがどうして庭から聞こえるのかしら?) 高峰 結和(たかみね・ゆうわ)は首をひねりつつ、2階の窓をがらりと開けた。 下ではアヴドーチカ・ハイドランジア(あう゛どーちか・はいどらんじあ)が、首から下げたタオルで汗を拭いている。 「アヴドーチカさん、そこで何をされているんですか?」 問いかけつつ、辺りをきょろきょろ見回したが、彼女以外だれの姿もなかった。 素振りのような音もやんでいる。 「うん? 準備運動だ」 結和を見上げたアヴドーチカの手には、彼女が治療器具と言い張って譲らないバールが下げられていた。 「準備運動、ですか?」 まだ早朝だというのに早くも嫌な予感がして、結和は顔をしかめた。その表情をすばやく見止めたアヴドーチカは眉を寄せる。 「どうした? 朝だというのに顔色が冴えないな」 ――きゃあっ。 バールを握り直した彼女の手を見て、結和はあわてて身を引っ込めた。その先に続く言葉が何か、もう分かりすぎるほど分かっていたからだ。 「お、起きたばかりだからそう見えるだけですっ。私、低血圧の気があってー」 真実かそうでないかはこの際関係ない。バールでぶっ叩かれるぐらいなら、たとえ相手が神様であろうと嘘をつき通してみせるだけだ! 「そうか?」 アヴドーチカはちょっと残念そうに、持ち上げていたバールを下に下ろした。 「それで、準備運動って何ですか?」 ほっと内心胸をなでおろしている結和にアヴドーチカが答える。 「ああ。なんだか今日は、忙しくなりそうな予感がするんだ。胸騒ぎというのかな、これは。目が覚めてから妙に落ち着かない気分で」 「そうですか……それは大変ですね…」 ああ、今日もまたトラブル必至だ。 結和は思った。 皆さん「気持ちが落ち着かないようでしたら私が代わりにアヴドーチカさんに施術を施してあげましょうか」と言えないわたしを許してください。 と。 そして同刻、別の場所では。 「ぶへっくしょおぃっ!!」 セルマ・アリス(せるま・ありす)が盛大なくしゃみとともに飛び起きていた。 「どうしたんですかぁ?」 眠い目をこすりこすり、隣で寝ていた妻のオルフェリア・アリス(おるふぇりあ・ありす)が身を起こす。 彼女の前、セルマは両手を二の腕にあてていた。 「なんだか妙に悪寒がするんだ……夏風邪をひいたかもしれない」 |
||