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至高のカキ氷が食べたい!

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至高のカキ氷が食べたい!
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●外へ行こう!

 博季・アシュリング(ひろき・あしゅりんぐ)は今来た道を走って戻っていた。
(やっぱり、このままじゃダメだよ……)
 それは博季の思い違いなのかもしれないけれども。
「氷精さん!」
 肩で息をし、博季は氷精の下へと舞い戻った。
「なんだ、お前は確かあいつらといた……」
「博季、博季・アシュリングです!」
 氷精は、まあ落ち着けと言わんばかりの態度だ。
「もう用は済んだろう?」
「いえ、僕の個人的な思いです。もしかしたら違っているのかも知れません」
「む?」
 何のことだろうかと氷精は首をかしげた。
「そうだ、先ほどイコナという子から桃を2つ貰ってな、食べるか?」
 そう言って、氷精は博季の手に冷えた桃を1つ乗せた。
「え、あ、ありがとうございます」
「桃でも食べながら、話を聞こう。長くなりそうな匂いがするからね」
 そして、指をパチンと鳴らすと、氷でできた椅子が一脚現れた。
「冷えはしない。遠慮せず座るといい」
 博季は出鼻をくじかれたかのように、話を始めるきっかけを逸した。
 そして促されるまま桃を一口、皮ごと食べる。
 ひんやりと冷えた甘い味が口いっぱいに広がる。
 とても美味しい。素直にそう思った。
「って、そうじゃなくって!」
 博季は本題を思い出す。危うく氷精のペースに流されるところだった。
「僕は、本当は氷精さんが外にでたいんじゃないかと思ったんです」
 ぴくりと、氷精が反応を示した。
「だって、外の話を聞かせて対価として氷を渡す、なんてことは氷精さんが外に憧れているからだと思うんだ」
 氷精は黙り桃を一口。
「“憧れ”を手にするのって、確かに怖いことだと思う……。それに憧れをそのまま憧れのままで終わらせるのも確かに一つに道ではあると思うけど……」
「何も手に入らない、とでも?」
 氷精は愉快そうに口元を歪めた。
「はい。それを行動に移さないということは、すべてを諦めることになってしまう。
 結局、今のあなたに残るのは外から仕入れてきた話でしか聞いたことがない知識ばかりだ。
 ……何も手に入れられない方がもっと怖くありませんか?」
 博季はそう問うた。
 氷精は考え込む。
「博季よ、少し昔話をしよう」
 そう言って、氷精は口を開いた。
「わたしには、古い友人がいた。最初はただの迷子の子供だったから、外へ案内する。それだけだったんだが。懐かれてしまってな。そいつが春夏秋冬関係なくわたしの下に遊びに来るようになったのだよ」
 遠くを見据え、何かを思い出すように話は続く。
「ある日ぱったりとそいつは来なくなった。まあ、そいつは毎回また来ると言っていたから、だからわたしはずっとここで待ち続けている。
 悪者は氷漬けにしてしまえ、というのはそいつの考えだよ。中々に過激だが、悪党に混じって物珍しさに話を持ってくる人間も増えた」
 この話は先ほどマリリンたちがいたときには話さなかった、氷精がここにずっと居を構えていた本当の理由だ。
「それは、何年前の話だろう?」
 博季は疑問を口にする。
「かれこれ、五千年程前になるかね」
「それじゃあ……」
 その約束というのは、つまるところ古代シャンバラ女王ということになる。
 それからずっと、この氷精は約束を守り続けこの場所に留まっていることになる。
「外への興味がないわけではないよ。博季の言うとおり外に出てみたい、外を見てみたい興味は尽きないよ」
「でも、その人はもう……」
「分かっているよ」
 そこから先は言わなくていい、というように氷精は首を振った。
「でも、また来てくれたよ。匂いは薄れていたが、ラズィーヤ・ヴァイシャリー。彼女はあいつの血を引く人間だろう。まあ五千年越しの約束を守ってくれたって所かな?」
 他の人たちの話を聞いているときの態度とは違うように見えた。どこか憑き物が落ち、肩肘を張る必要性がなくなったようなそんな雰囲気だ。
「いつ来るのだろうかと、思ってたけど遅かったなあ……。まあ、これでわたしも安心して遊びまわれるということだね」
「それじゃあ……!」
「わたしを心配して戻ってきてくれた博季の言い分を聞き入れようではないか!」
 微笑み、氷精は立ち上がる。
「でも、氷漬けの人たちは解放しないんですね?」
「あれは、教導団の連中が引き取りに着てくれるのを待つだけだよ」
 氷精の瞳に疑いの色はなかった。
「それにわたしは人が笑っているのを見るのが好きだ。だから悲しみを生み出す争いは嫌いだ」
 そうポツリと氷精は漏らした。
「うん、だから今日は僕と一緒に外へ行ってみましょう!」
 博季は氷精が争いごとが嫌いな意味をはじめて知り、それに共感した。
「アイツの言うカキ氷というものを食べてみたいと思うんだ……」
「分かりました、それじゃあ皆のところに向かいましょう!」
 そして、博季は氷精の手を取り氷精の住処を後にするのだった。
 道中、暑い暑いと駄々をこねる氷精に苦笑して応対したのはまた別の話である。
「ああ、そうだ……氷精さん」
「なに?」
「いや、名前ってあるのかなーって」
 ふと思った疑問を、博季は口に出した。
「…………ティア・フリス」
 ぼそっと、氷精――ティアは聞こえるか聞こえないかの声で答えたのだった。