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至高のカキ氷が食べたい!

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至高のカキ氷が食べたい!
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●ああ、やってしまった……

「俺はこれを話そうかな。もしだが、気に入ってもらえれば香奈恵を開放してもらえないかな?」
 そう言ったのは、健闘勇刃(けんとう・ゆうじん)だ。
「内容しだいだな。どういう話だ?」
「誕生日にパートナーにプレゼントをしたときの話だね」
 氷精の問いに勇刃は簡単に答えた。
「あの時は大変だったんだよねー……」
 冠誼美(かんむり・よしみ)がしみじみとそう言った。
「まあ、そういうなって……この前、咲夜……、咲夜ってのが俺のパートナだね。咲夜の誕生日プレゼントを作りたくて工房に行ったら、「材料がない」と言われたしまったんだ」
「材料が無いというのは、よくある話なのか……」
「どうだろうなあ……俺が作りたかったのはパールのネックレスだから、こんなことになってもおかしくないと思うんだ」
「ふむ……」
「それで、俺は一人で海に行ってようやくパールを手に入れたんだ。もうホント探すのって疲れるんだよなあ……」
 勇刃は心底そのときは疲れたといった様子で、肩をすくめて見せた。
「そしたら今度は途中でパールが奪われてしまったんだけど、奪ったやつらを追いかけて俺は格好よくあいつらをボコボコにしてやった!」
 ぐっと、コブシを握り勇刃は更に話を続けていく。
 その怒涛の勢いはマシンガンのようだ。
「そんで工房に帰って、ネックレスを作ってもらおうとしたら、今度は停電で機械が動かなくなっちまったぜ……、本当は急いで作ってほしかったんだが、仕方なく少し仮眠を取って、電力が回復したらすぐ作業を開始したんだ」
 ばーっとやって、がちゃがちゃっとやって、と擬音を巧みに使い勇刃の話は氷精が一言も口を挟む余裕も無く続いていく。
「完成したらもう三日過ぎてたんだ。家に帰ったら、扉の前でずっと俺を待っていたらしい咲夜は、泣きながら俺を抱きしめてくれたんだ」
 そこで勇刃の話の勢いは落ちる。
「あの時は本当に大変だったんだよー。お兄ちゃんが帰ってくるまで梃子でも動かない感じだったもん!」
 誼美が肩をすくめながらそういった。
 勇刃は話を続けた。
「彼女は、健闘くんが無事なら何よりです、プレゼントなんていりません。って……気持ちがわかるけど、これで俺の努力は無意味な気がしてなあ……」
 思い出してため息を吐く。
 しかし、はたと勇刃はもう一つ思い出した。
「そうでもないか……咲夜は、あれを大事にして毎日身に着けてるし。笑ってくれてるから……やっぱり咲夜の笑顔を見てると、俺も嬉しいな。っとこれで俺の話は終わりだ」
 そういって勇刃は口を閉ざした。後は完全に聞き手に回るようだった。
「……それで? 君は何を得、その話を聞いたことでわたしに何の得があった? ただ話を聞かせるのは簡単だ。そしてどうなった? これでは開放することは出来ないな」
 ぐっと体感温度が下がった気がする。
 冷めた視線が勇刃を射抜いた。
「よくいるのだよ、ただ話をすればいいと思ってるやつが。自分の自慢話を一方的に押し付け、人のことをまったく考えないものが……」
 はあ、っと氷精はため息を吐いた。
 心底呆れているようだ。
「自慢話と他人に聞かせる話。もう少し考えてみるといい。とにかく君の話は徹頭徹尾つまらなかったよ。さあ、次話をするのは誰かな?」
 初っ端から失敗した。
 周りにいる人間はそう思っただろう。
 しかし誰が勇刃を責められようか。
 話を考え披露するだけでも、勇気がいることなのだ。
 それが初っ端なら仕方の無いことだ。
 打ちのめされた感たっぷりの勇刃は、何がダメだったのだろうかと考え込む。
「お、お誕生日つながりで私が話をしようかな!」
 そういって、話を繋げるのは誼美だ。
 今のこの空気で手を上げるのはとても勇気がいるだろう。
 顔は青ざめ、肩も震えている。
「うむ、よろしく頼む」
 氷精は勇刃に向けていた冷たさをあっさり引っ込めそういった。
「私はね、DJを目指してるんだよ! 幸せの旋律を奏でてみんなを幸せの気分にしたいんだー」
「まあ、幸せというのは千差万別で一概にどうとは言えないが……」
「そ、そんなこと無いよ! 私はずっと独りぼっちだったから、みんなが幸せを求めてる気持ち、よく分かるよ!」
「だから……分かってないな……そうやって、人の幸せの形を音楽というもので縛り付けるのは間違っているといいたいんだ」
 こいつも同じだろうか、と氷精は呆れたように頭を抱える。
「幸せの形は人それぞれだ。これは揺ぎ無い。戦いで戦果を挙げることを最大と考えるものもいれば、仕える人間が健やかに成長することに見出すやつもいる」
 氷精の話は留まることを知らない。
「わたしはここに居を構え、氷を求めている人間からさまざまな話を聞いた。例えばそれは客の笑顔を見るの幸せだと答えたやつもいる。音楽や食事それから幸せを見出すやつも確かに居た。それ自体は否定しない」
 だが、と氷精は誼美をしっかり見据えて言う。
「全ての人間が幸せを求めていると決め付けるな。緩く一日を生きているだけで最上の幸せを味わっているものもいる。幸せの気分にしたいというのならもう少し見聞を広げてみたらどうだろう?」
 そこには責める言葉よりも、もう少し外を見ることを進める氷精の優しさがあった。
 しかし誰かは確かにこう思っただろう。

 ――お前が言うな! と。

 次いで出る言葉としては、この引き篭もり氷精め、や、こんなクソ立地の悪いところに居を構えやがって、等。
 きっと皆心の中ではそう思っているはずだ。
 誰も、口にも顔にも出さないだけで。
 そう、口にも顔にも出せないのだ。
「次は誰が話をしてくれるのかな?」
 にっこりと、そんな空気など慣れている様子で氷精は笑みを浮かべて問いかけた。
 場の空気はとてつもなく冷えている。
 そんなときバサリと音がした。
 氷精が音のしたほうへと首を向けるとそこにいたのは、震えているアニメ大百科『カルミ』(あにめだいひゃっか・かるみ)がいた。
 一緒に来た勇刃、誼美の話がウケず、香奈恵にいたっては失言が元で凍らされている。
 恐怖しないわけが無かった。
 そして怯えている中で、自分の持ってきた同人誌を落としてしまった。そんな次第だった。
「どうした? 何をそんなに怖がっている?」
「な、なんでもないです……」
 ぶるぶると震えながらカルミは床に落とした同人誌を拾い集める。
 だが指がうまく動かない。
 そこに氷精がやってくる。
「薄い……本?」
「あ、そ、それは……カルミが、描いた……」
 ぱらぱらと氷精は本をめくっていく。
「絵、か。君が描いたのか。随分と上手いな」
 氷精はカルミと目線を合わせてそう言った。
「どうして、そこまで怖がるのだ?」
「ダーリンたちが……」
 カルミは勇刃を見て呟いた。
「ダーリン……、ああ、君の身内だったのか。それはすまないことをしたな。しかし話の質によってはわたしがああいう反応するという指針になったと思うが。そして君はどんな話をしようとして来たのだ?」
 氷精は形式上だけでもカルミに謝った。
「カルミは、これを氷精さんに上げたくて」
 先ほど落とした同人誌を氷精に手渡した。
「これを?」
 氷精は同人誌を見る。
「そもそも、この薄い本はどういうものなのだ」
 氷精の知識には無いものだ。
「えっと……同人誌と言って、元になる本があるのです。そ、その本の中の登場人物と世界観を使って、自分の好きなように作ったものです……」
 カルミは詰まりながらも、氷精に問われたことをしっかりと答える。
「ふむふむ」
 そして、氷精はなあ、とカルミに声をかけた。
「これの元になったものは、現存するのか?」
「え? 外に行けばどこにでもあるのです」
「そうか。ならば今度持ってきてもらえるかね? それと引き換えに氷漬けにしたやつは解放してやろう。ただし、お前たちが帰るまではそのままにしておくがな」
 開放してやろう、という言葉にカルミの表情がぱっと明るくなった。
「いつでもいい。気が向いたときにでも持ってきてくれればいいよ」
「そ、それなら早いうちにもってくるのです!」
 カルミが同人誌の元になった本を持ってくることで、香奈恵の解放を約束することができた。
 そうして空気が少し持ち直した状態でお茶会もどきは続くのだった。