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【賢者の石】陽月の塩

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【賢者の石】陽月の塩
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リアクション

 
 
 
 ■ シビレル? クラゲ退治 ■
 
 
 
 クラゲを移動し終わるのを待っていては作業が滞ってしまう。
 移動させるのと並行してクラゲ退治も開始された。
「クラゲ大発生かぁ、それだと近くの人も困るよね。よ〜し、突撃魔法少女リリカルあおいにお任せだよ♪」
 海に入るからと一応水着は着てみたものの、秋月 葵(あきづき・あおい)は泳げない。うっかり海に落ちたりしないよう、しっかりとパラミタイルカの背にまたがった。
「葵お嬢様、クラゲが減るまでは無闇に進むとパラミタイルカがクラゲに刺されてしまいます。どうかご注意下さるようお願い致します」
 イレーヌ・クルセイド(いれーぬ・くるせいど)はメイド服姿で小型飛空艇オイレに乗り、それで貸しボートを引っ張っている。手にはしっかりとシルバーナイフとフォークを握り、葵に害なすものがあればすぐさま投げつける構えだ。
「分かってるよー。それよりイレーヌちゃんも乗り出しすぎて海に落ちないようにね」
「お気遣いありがとうございます。あ、葵様、左方よりクラゲが参ります。どうか慎重に……」
「了解だよっ♪」
 葵はふわふわと漂ってきたシビレルクラゲへと紺碧の槍を突き出した。
 深い青の槍が過たずクラゲの真ん中を突き、貫かれたクラゲを槍の持つ氷結の力でカチンカチンに凍らせる。
「大成功♪」
 槍に刺さった冷凍クラゲを葵は高く掲げてみせた。
 いつもはふよふよとしているクラゲも、凍ればしゃっきりとその形を保っている。
「でもこれって、あんまり魔法少女らしくないやり方かなー」
「いいえ、葵ちゃんの勇姿はいかなる時でも魔法少女ですわ。……む!」
 ひゅんとイレーヌの手からナイフが飛び、葵の乗るパラミタイルカに近づいていたクラゲに刺さった。
「イレーヌちゃん、ありがとー」
 葵はそのクラゲも倒して凍らせると、槍からボートの上に移した。これならクラゲの死骸が海のバランスを崩したり、誰かがうっかり触れて刺されたりということも無い。
「なるほど。倒したからといって油断は出来ない。残心怠ることなかれ、だね」
 クラゲの冷凍死骸をボートに積み込んでいる葵を眺め、アトゥはしたりと頷いた。
 海に入ればクラゲに触れてしまう可能性が出てくるからと、アトゥは軽身功で海面を駆けた。
 触れるか触れないかの足が海面に波紋を描き、それをすぐに波が打ち消してゆく。
 シビレルクラゲを見つけると、左右黒白の長い髪を靡かせて素速く駆け寄り、両手に生み出したエネルギー弾をクラゲへと打ち込んだ。まばゆい光と共にクラゲが弾け飛ぶ。
 エノンは上空を強化された光の翼で飛び、波間にクラゲの姿を捜した。
「こちらです」
 発見すると、レッサーワイバーンで海上を飛行している亜璃珠へと手を振って合図する。
「小夜子、行きますわよ」
「はいお姉様」
 亜璃珠がレッサーワイバーンを低空飛行させ、小夜子はルーンの刻まれた杖を回転させる。杖によって高められた小夜子の魔力は氷結の力となってクラゲを氷漬けにした。
 そのクラゲは亜璃珠が漁網で回収する。
「これ、保冷剤代わりに使えないものかしらね」
 常温だとぷよぷよとしていて凍るとカチカチになるところが似ているからと、亜璃珠はクラゲを有効利用することを考えてみた。
「お姉様、触手に毒が残っていますから保冷剤にするのは危険ではありませんか?」
「それもそうね。浜辺に持っていきましょう」
 涼は取れても痺れてしまうのは困る。亜璃珠は網にたまったクラゲを浜に持っていって破壊した。
 
 
 
 海に漂う無数のシビレルクラゲ。
 襲いかかってくるようなことはないけれど、波のまにまに流されて触れる者を麻痺させてしまう。大量発生するとかなり厄介だ。
「なぶら殿。このクラゲを退治するのだな?」
 木之本 瑠璃(きのもと・るり)がクラゲたちを指さす。
「ああ。海辺の人も困るし、アゾートさんの作業にも差し支えるしね」
 相田 なぶら(あいだ・なぶら)に言われ、それならとはりきってクラゲ退治に取りかかろうとした瑠璃は、ふと思いついてなぶらを見上げた。
「ただクラゲ退治したんじゃ面白くないのだ。退治数で勝負するのだ!」
「クラゲ退治勝負か、面白そうだね」
 たまには瑠璃の提案に乗ってみるのも面白いかと、なぶらは頷いた。家長としての懐の深さも示しておかねばならないことだし。
「よしじゃあスタートなのだ! 先手必勝!」
「あ、瑠璃……!」
 なぶらよりも1体でも多く倒す為には少しでも早くクラゲ退治に取りかからなければと、瑠璃はさっそく飛び出していった。
 海面近くを飛んで、漂うクラゲに拳を叩き込む。
「我が輩の必殺の拳をくらうのだ!」
 瑠璃の拳が海に叩き込まれる。
 ……けれど。
「うわ、水はねたのだ! うぅぅ、しょっぱいのだ……」
 自分のあげた水しぶき濡れた顔を、瑠璃はごしごしとこすった。
 水をぬぐって海を見れば、目算を誤ったのかクラゲは平和にゆらゆらと揺れている。
「ちゃんと当たってないのだ」
 瑠璃の後を追ってきた、宮殿用飛行翼をつけたなぶらがおーいと呼びかける。
「瑠璃、大丈夫かー? 勝負は良いけど、あんまり危ないまねするなよー」
「平気なのだ! 次は当てるのだ! おりゃぁぁぁ!」
「わっ、俺まで巻き込むのはやめてくれよ」
 なぶらは身を捻るようにしてズシャッとあがる水しぶきを避けた。
「やったのだ、まずは1体目なのだ!」
 見事くらげの中心を突いた瑠璃が得意げに胸をそびやかす。
「ふふふ、我輩、負けはしないのだよ」
「勝敗はともかく、怪我しないように気を付けろよ」
 また次のクラゲへと拳をみまっては水しぶきをあげる瑠璃に苦笑を向けると、なぶらは空中からクラゲに光術を放って1匹1匹確実にしとめていった。
 
 
 いきなり海に飛び込んでも身体はうまく動かないからと、芦原 郁乃(あはら・いくの)はクラゲ退治を始める前にきちんとウォーミングアップをして身体を温める。秋月 桃花(あきづき・とうか)が暑さに強くなるようにとの祈りを捧げれば、準備完了。
「さぁて、いっくぞ〜っ!」
 意気揚々と波打ち際まで来たものの、その数に郁乃はちょっとひるんだ。
「えっと、クラゲ大発生とは聞いていたけど……多すぎない?」
「かなり発生していますね。これでは周辺の方もお困りのことでしょう」
「これを減らすのは大変そうだね。……まぁ、あれだ。手当たり次第倒していけば良いんだよね、だよね?」
 予想外の量のクラゲを前におろおろする郁乃に、桃花はくすっと笑った。
「ええ、それで良いと思います。けれど気を付けて下さいね」
「じゃあ取り敢えず、やってみるよ」
 ここで見ているだけではクラゲは減らない。減らなければ塩作りの作業も進まないだろうからと、郁乃は手近なクラゲから順に手にした刀で斬っていった。
 
 一抱えほどもあるシビレルクラゲだけれど、契約者の力をもってすれば倒すのは簡単だ。
 けれど、そう言っていられるのも最初のうち。
 一体どれだけいるのかというクラゲをひたすら倒していくのは、体力的にも精神的にも疲れるものだ。
「随分倒した気がするけど……減った感じしないなぁ」
 目に見える成果があればそれを励みに頑張れるけれど、果てが見えないとだんだんだるくもなってくる。
「そういやクラゲって食べられるのもいるんだよね……こいつも食べれたりするのかな?」
 郁乃はぼんやりした目でシビレルクラゲを眺め、そし桃花へと顔を向けた。
「桃花ぁ、これって食べれたりするのかなぁ?」
 スピアでクラゲを突いていた桃花は、郁乃の声に顔をあげた。
「郁乃様、よそ見をすると……」
 危ないですよ、と続けようとした桃花の声にかぶさって、郁乃の声にならない声があがった。
「あひゃひゃひゃ〜い……」
 ザバッと倒れた郁乃の姿が波間に見えなくなる。
「郁乃様っ!」
 クラゲに刺されたのだと桃花は直感した。
(このままでは郁乃様がクラゲに蹂躙されてしまう……!)
 最悪の絵が頭に浮かんだ桃花は、もう何も考えられなくなった。
 郁乃との間に漂い行く手を塞ぐクラゲを粉砕し、一目散に郁乃の傍に急ぐと郁乃を抱き上げて砂浜に戻った。
 クラゲの毒を治療すると、郁乃は痺れから回復してふうっと大きな息を吐いた。
「びっくりしたぁ。桃花に助けてもらってなかったら無事ではいられなかったかも……えっ、桃花?」
 桃花の頬を伝う涙に郁乃は慌てた。
 けれど桃花はすぐにその涙を指で拭いてにこりと笑う。
「ほっとして涙が出ちゃいました。郁乃様が無事で本当に良かった……」
「桃花……ありがと」
 助けてくれたことも心配してくれたことも全部ひっくるめて、郁乃は桃花にありがとうを言うのだった。
 
 
 
「葵様、そろそろ休憩を取った方が良いかと存じますが」
「うん。じゃあボートに載ってるクラゲを浜に置いたら休憩にしよう♪」
 葵はパラミタイルカに沖に向かうように言うと、そういえば、とイレーヌのメイド服に目をやった。
「イレーヌちゃんは暑くないの?」
 葵が凍らせたクラゲも、太陽の熱で溶け出している。水着でいても暑い陽気なのにと言う葵に、イレーヌは即座に首を振った。
「秋月家のメイドたる者、この程度の暑さなどなんともございません」
 暑そうなそぶりも見せず、イレーヌはボートを浜にあげた。
 クラゲが死んだ後もしばらくの間触手は各種刺激に反応して刺胞を発射する。
 波間に漂う死骸に誰かが触れたりしないよう、倒したクラゲはビーチの一カ所にまとめられている。こうして海からあげておけば、太陽の熱がクラゲを日干しにしてくれる。
 次々に運ばれてくるクラゲに目をやった海豹仮面は触手にふれないように気を付けながら、クラゲの傘の部分を切り取ってみた。
「食用になるのか?」
 コアに聞かれ、さあ、と海豹仮面は首を傾げた。
「クラゲの中には傘の部分を乾燥させて塩漬けしておいて、それを水で戻して食べられる種類もいますからな。食べられそうかちょっと試してみようかと思いましてな」
 大丈夫そうなら酢の物にして皆に振る舞おうと言う海豹仮面に、倒したクラゲを持ってきたポーレットが注意する。
「毒のあるクラゲなんだから、中毒起こさないように処理はちゃんとしてよ」
「まあ確かに、集団食中毒だなんて洒落になりませんからな」
 気を付けますよと笑って、海豹仮面はコアに手伝ってもらいながらクラゲの傘の部分を集めていった。
「へぇ、食べられるんだったらあたしも味見してみたいな〜」
「私が毒味してからにして下さいね」
 興味津々な様子の葵に注意しておいてから、イレーヌは持参してきたクーラーボックスを開けた。
「何をお召し上がりになりますか? 冷えた飲み物、シャンバラ山羊のミルクアイス、それから……あっ……」
「イレーヌちゃん、どうかした?」
 クーラーボックスの中身を見て固まったイレーヌの肩越しにひょいとのぞき込んで、葵もまたぎょっとする。
 飲食物を押しのけるようにしてぎゅうぎゅうに詰まっているのはミニ雪だるまたち。
「ついてきちゃったんだね〜」
「お陰でよく冷えているようですわ。葵様、どうぞ」
 雪だるまの間から飲み物を取り出すと、イレーヌは葵に差し出した。