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夏合宿でイメチェン

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夏合宿でイメチェン

リアクション

「すみませーん、お試しチェンジに挑戦したいんですけど――」
 と、顔を覗かせたヤジロアイリ(やじろ・あいり)レト・チョコラッタ(れと・ちょこらった)
 その少年にしか見えない姿に、振り返ったヤチェルは叶月の方を手で示した。
「あちらでどうぞ」
「あ、はい――って、ちょっと待てーっ!
 危うく男子の方へ行きかけたアイリが叫ぶ。
「俺は女だ! 男子グループへ誘導するなっ!」
「あら、女の子だったの? あたしとしたことが……」
 と、ヤチェルは相手の性別を見極められなかったことにショックを受ける。どんな子でも、ショートカットの女の子なら分かる自信があったのに――!
 改めて女子の方へアイリを案内するヤチェルに、翔がハーブティーを用意して持ってきた。
「お疲れのご様子ですね、少し休憩を挟んでは?」
「ありがとう、翔ちゃん。でも大丈夫よ」
 と、ジャスミンの香るそれを一口飲んで息をつく。
 そしてアイリの背後へ立ち、ヤチェルは気分を切り替えるように明るい声を出した。
「それで、どんな風になりたいの?」
「え、えっと……俺、こんな見た目だから、今日は女の子らしくと思って」
 ぼさぼさの黒髪に眼鏡、目つきが悪いことや胸がまな板のせいもあってか、ぱっと見はやはり少年だ。
「髪を伸ばすと女の子らしくなれると思うわ。あと、服もフリルとかレースとか、女の子らしいものにすると良いんじゃないかしら?」
「ボクもそう思う! この機会にスカートを履くのもいいと思うな」
 と、横から口を挟むレト。
 ヤチェルはアイリの髪を簡単に櫛で梳かすと、女子更衣室へ案内した。
 壁際に並んだウィッグへ目をやったヤチェルにアイリは言う。
「あ、あの、ストレートヘアがいいな。お……――いえ、私、生まれつきの癖っ毛だから、ストレートヘアって憧れなんです
 意識して口調を変えてみたアイリに、ヤチェルはにこっと笑った。
「分かったわ、そうしましょう」
 その後ろでは、レトが勝手に衣装を探っていた。アイリに似合いそうな可愛らしい服を選んでいるかと思いきや、お揃いとなるよう自分のサイズもある服を探していく。

 焦げ茶色のストレートヘアの毛先が肩をくすぐっていた。白いフリル付きブラウスはやわらかい素材で、赤チェックのプリーツスカートはミニ丈と、女の子らしさを演出している。
 アイリとまったく同じ衣装を着たレトがその手を引く。
「お姉様、恥ずかしがっちゃ駄目だよ! ほら、会長さんたちが写真撮るって」
「う、ちょっ……ま、待って――」
 両足がすーすーして、アイリはその感覚に慣れなかった。普段からスカートを履いていればこんなことはないのだろうが、歩く度に違和感が自分を襲う。
 スタンバイしたカメラの前に立たされると、アイリはやや自棄になって言った。
「ひ、必要な分だけ撮っちゃってください!」
 隣に立ったレトがにっこり笑ってピースサインを作り、アイリも出来る限り笑顔を浮かべる。
 すっかり見違えたアイリと、笑顔の愛らしいレトを気が済むまで撮っていくヤチェルと里也。やっぱり女の子は可愛い、と、レフ板を持った朔も思うのだった。

「髪を切ってもらいたいの」
 と、席に着くなり綾原さゆみ(あやはら・さゆみ)は言った。
「え、いいの? ショートカット?」
「ええ、ショートカットでお願いするわ。どっちにしてもそうするつもりだったから」
「ありがとう!」
 両目をキラキラ輝かせたヤチェルは、すぐに彼女のポニーテールを解くと櫛を入れた。
 近くに置かれた椅子に腰かけたアデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)は、はさみを手にしたヤチェルの手つきに注目する。さゆみの黒髪がばっさり切り落とされ、見る見るうちに短くなっていく。
 想い慕う相手の変貌ぶりに目を離せなくなるアデリーヌ。さゆみは両目を閉じてなすがままにさせている。
 ある程度短くなったところで、ヤチェルは一度手を止めた。横や前に立ってさゆみをくまなく観察し、この先をどうしようか悩んでいる様子だ。
 それから少しして、再びはさみを取るヤチェル。霧吹きでさゆみの頭を濡らしてから慎重にショートヘアを形作っていく。

 健闘勇刃(けんとう・ゆうじん)が髪を切ってもらう間、彼のパートナーたちは女子更衣室ではしゃいでいた。
「たくさん服がありますね」
 と、感心したように呟く天鐘咲夜(あまがね・さきや)。コスプレの定番服に普通の服、和も洋も揃っておりさすがは同好会だと思う。
「カルミがあなたにぴったりな服を探し出すのですよ!」
 やる気満々のアニメ大百科『カルミ』(あにめだいひゃっか・かるみ)が意気揚々と衣装を漁り出す。
 その様子を見つつ、セレア・ファリンクス(せれあ・ふぁりんくす)は自分も何かイメージチェンジしてみたいと考えていた。髪型を変えるにしても、衣装を先に探すべきなのだが……。
 髪が少し伸びてぼさついた勇刃の頭にはさみが入る。未ださゆみを相手にしているヤチェルを横目に、叶月は何の躊躇もなくはさみを進めていく。
 もみあげの部分がかゆいという彼の希望にもきっちり応え、細かい部分にも手を抜かない。
 それから五分もすると、勇刃のヘアカットが終わった。ほぼ同時に女子更衣室から声がする。
「え、反対じゃないですか?」
「そうですわ、わたくしはそちらの咲夜さんの方が……」
「問題ないのです! このギャップこそ、イメチェンと言えるのです!」
 勇刃は彼女たちの変身を少し楽しみにしながら、衣装担当のブルーズへリクエストを伝える。
「未来風のアクション映画の主人公っぽくしてくれないか? サングラスにブラックコートで」
「ブラックコート? あったかどうかは分からないが、探してみよう」
 と、共に更衣室へ。

「出来たわよ、さゆみちゃん」
 ぱっと両目を開けると、さゆみはヤチェルから手鏡を渡された。そこに映るのはさっぱりした自分の顔。横髪は耳にかけられる程度の長さで、後ろの方は中程でレイヤーがかけられすっきりした印象だ。それに合わせてか、前髪も少し短くなっていた。
「どう?」
「うん、なかなか良い感じ。すごくすっきりしたわ、ありがとう」
 アデリーヌの方へ顔を向けたさゆみは、彼女へ向かってにっこり笑う。
「可愛いでしょ?」
「え、ええ……とっても」
 彼女もさゆみのショートカットには満足の様子だ。
 女子更衣室から出てきた咲夜たちに、さゆみはぱっと目を輝かせた。いわゆるゴスロリに身を包んだ咲夜に、セレアは艶やかな振袖姿だ。最後に出てきたカルミは魔法少女のコスプレをしていた。
「あ、あの、この服に似合う髪型をお願いできますか?」
 と、咲夜がヤチェルに声をかけると、すぐにヤチェルはそちらへ向かった。
 立ち上がったさゆみはアデリーヌを手招きして更衣室へと向かう。
「撮影もしてくれるって言うし、私たちも楽しみましょ」
「ええ、いいですわね」
 と、さゆみの首筋に見とれながら中へ消える。
 中に並んだ様々な服にテンションを上げながら、さゆみとアデリーヌは着替えを始めた。

 咲夜の髪がツインテールになり、セレアがポニーテールにしてもらっている最中、勇刃が男子更衣室から出てきた。
「素敵です、健闘くん! かっこいいですよ!」
 と、近寄っていく咲夜。
 ほぼリクエスト通りの衣装を着た勇刃は、いかにもコスプレという雰囲気を醸し出していた。
「お、咲夜はゴスロリか……洋風の服も似合うな」
「はいっ」
 嬉しそうににこっと微笑む咲夜。
 遅れて寄ってきたセレアに、勇刃は目を向けた。
「セレアは振袖か、こいつは驚いたぜ」
「いかがでしょうか? お気に召しますか?」
 と、少し自信なさそうにするセレア。
「あ、別に似合わないわけじゃないんだ。そうがっかりしないでくれ、よく似合ってるよ」
「そうですか? それなら、良かったですわ」
 と、セレアは安心する。
「で、カルミちゃんはやはり魔法少女か。うん、可愛いぜ」
「ありがとうなのです、ダーリンもかっこいいのですよ!」
 と、カルミも笑った。