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夏合宿でイメチェン

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夏合宿でイメチェン

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「やっと来たわね、遅かったじゃない」
 と、セイニィは到着したばかりの紫月唯斗(しづき・ゆいと)へ言った。
 その後ろにいるパートナーたちの中でも一際目立つ、プラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)を睨み、ぷいっと顔を逸らすセイニィ。
 先日のまたたびトレント花粉事件以来、セイニィはプラチナムに恨みを持っていた。
 そんなことなど知るよしもないシリウスが、
「じゃあ、ねーさんたち呼び戻してくるわ」
 と、その場を離れていく。
 嫌な空気がぶわっと、セイニィとプラチナムの間に流れた気がした。

「今日はこれまでにしましょう」
「ああ、そうだな。……ありがとう、ティセラ」
 優はティセラへ少しだけ笑みを向け、ティセラも互いの健闘を称えるように微笑んだ。
 勝負は引き分けだった。体力的な――否、空腹の限界だったためだ。
 見守っていたリーブラがアイスティーをティセラへと差し出す。
「お疲れ様でした、お姉さま」
 よく冷えたアイスティーを流し込み、ほっと一息つくティセラ。
「とても美味しいですわ」
「あ、ありがとうございますっ」
 ぱっと顔を明るくするリーブラ。
 すると、やって来たシリウスが一同へ呼びかけた。
「バーベキューの準備、出来たぜ。そこのお前らも食べてけよ」
 優たちは目を見合わせ、零が一番先に頷いた。
「ええ、ぜひ!」

 料理上手のエクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)が中心となって動き、次々に肉が焼かれていく。
 ティセラと優たちが先ほどの勝負について盛り上がっている最中、プラチナムはセイニィへ近寄った。
「セイニィ様、酷いです。私はただ、またたびトレントの効果を確かめたかっただけなのですよ」
 と、わざとらしく彼女の頭にその豊満なバストを載せる。
 馬鹿にされているか、からかわれているようにしか思えなかった。セイニィは手にした肉をぷるぷると震わせ、必死で理性を保ったまま言い返す。
「だからって、あれは卑怯よ。しかも、しかもあんなことになるなんて……っ」
「そうですか? ですが、あくまでもその後お脱ぎになられたのはご自分でされた事ですし」
 と、とぼけたように言うプラチナム。
 悪夢を思い出させる発言に、セイニィの怒りが沸点へと近づいていく。
 様子がおかしいことに気づいたティセラがこちらを見て、プラチナムがとどめを刺した。
「そうでしょう、ティセラ様?」
「……え、ええ」
 セイニィの視線がティセラのバストを睨む。あっちもこっちも、でかい胸! しかも季節は夏、見たくもないのに見えてしまう!
 ついにセイニィの堪忍袋の緒が切れた。
「馬鹿にするのもいい加減にしなさいよ!」
 肉を口の中へ放り込むなり、セイニィは唯斗の腕を引っ張った。
「勝負よ、プラチナム!」
「いいでしょう、セイニィ様」
 と、受け入れるプラチナムだが、セイニィの様子を見るとタイマンではなさそうだ。
「やっと修行する気になったか」
「ええ、あの日の恨み、晴らしてくれるわ!」
 唯斗にそう返したセイニィは、すっかり感情的になっていた。修行の一環としても、このままではろくなことがなさそうだ。
「そういうわけですのでティセラ様、ご協力願えますか?」
 と、プラチナム。先ほどの疲れがまだ少しあったものの、セイニィを止めてやりたい気持ちからティセラは席を立つ。
「ええ、分かりましたわ」
 今の様子を見るに、セイニィは負けかねない。そう思った紫月睡蓮(しづき・すいれん)は自分も参加を決めた。
「お助けします、セイニィさん」
 セイニィ、唯斗、睡蓮VSプラチナム、ティセラ
 ――今後のためにも、優は彼女たちから目を離すまいとした。零や聖夜、刹那たちもまた食事をしながらそちらへと目を向ける。
 エクスの手伝いをしながら、どこか楽しそうに眺めるシリウスと裏腹に、リーブラはまた勝負が終わった際にティセラへアイスティーを出せるよう、準備に取りかかっていた。
 星双剣グレートキャッツを発現させたセイニィが構える。
 プラチナムも剣を抜き、ティセラたちもそれぞれに武器を取る。――勝負、開始。
 速さを武器に二人を翻弄する唯斗とセイニィ。ギリギリのところで彼女たちの剣を避ける。睡蓮の『サイコキネシス』で加速させた矢が軌道を修正しながらプラチナムの背後を狙う。それを受けながらも倒れないプラチナムに、セイニィがすかさず爪を立てる。
 その攻撃を剣で受け止めたプラチナムはにやりと笑う。すぐに後ずさったセイニィは、何が何でもプラチナムへ傷を付けたそうだ。
 次々に発射される弓矢をなぎ払っていくティセラ、その隙に攻撃を仕掛ける唯斗だが甘かった。ぱっとかわされてしまい、次はこちらの番とでも言うようにビックディッパーを振るってくる。
 三対二の勝負に目を奪われている一同に、エクスは意識をこちらへ向けさせるように呟きを漏らす。
「デザートに、蜜柑の皮に入れて凍らせたシャーベットがあるぞ。存分に堪能するが良い」

「貴方の顔が見えないのは嫌です。もっと見せて欲しい」
 そう頼まれた清泉北都(いずみ・ほくと)は、前髪を切ってもらおうと同好会を訪れていた。
「これくらいか?」
 と、北都の前髪を取った叶月が問いかける。示されたのは両方の目が余裕で見える長さだった。
「も、もう少し下で……」
 と、お願いする北都。
 長いこと前髪を切らなかったおかげで、北都は抵抗を覚えずにいられなかった。
 後ろで見守っているクナイ・アヤシ(くない・あやし)に言われたことは受け入れたが、あまり短くされても北都が困るのだ。
「これでどうだ?」
 先がまつげに当たるか当たらないかの長さを提示され、北都は頷いた。
「そ、それで……お願いします」
 霧吹きで髪を濡らし、叶月が北都の前髪を櫛で梳く。ヤチェルの腕前もなかなかだが、叶月もまた手際が良い。
 北都がぎゅっと両目を閉じれば、髪の毛の切られる音が耳に届いてくる。ざく、ざく……――他の人たちに顔を見られてしまうけれど、我慢しなきゃ。我慢して、自分に自信が持てるようにならなきゃ。
 普段は一つに結っているだけの長髪を三つ編みにしながら、クナイは北都の様子を見ていた。――可愛らしい顔をした彼が変わっていく。
 叶月がはさみを置き、北都がおそるおそる目を開けた。差し出された手鏡で自分の顔を確認した途端、落ち着きを無くす北都。そわそわしている彼をからかうように、叶月がその前髪を横へ分けて見せた。小さな背中がわたわたと揺れる。それでも慣れてきたようで、北都が叶月へ何か頼む。それを受けた叶月がブルーズに目をやると、ドラゴニュートはすぐに更衣室へ向かって歩き出した。
 その様子にクナイはがたっと席を立ち、ブルーズを追いかける。
「衣装を選ぶのであれば、女性用の可愛い服をお願いできませんか?」
「女性用?」
 振り返ったブルーズが首を傾げるも、クナイは笑う。
「彼はあのとおり、可愛らしい人ですので」
 納得したブルーズが女子更衣室へと方向を変えた。
 その様子を見ていた天音は静かに北都へ近寄り、メイク道具を手にとった。
「せっかくだから、メイクもしてみない?」
「えっ」
 リスペクトする天音にメイクを施されるとは思ってもみなかった。北都はまた、わたわたと抵抗を始めたが、ブルーズの持ってきた衣装を見て理解した。
「そ、それって女の子用の服じゃ……?」
 その場にいた男たちがにやり、笑った。
 天音もまた微笑んで、可愛らしい顔をした北都へ言う。
「今から魔法をかけてあげるよ」

 白いお嬢様風ブラウスにふわりと広がる桃色のふりふりスカート。桃色のパーカーにはうさぎ耳が付いており、ぬいぐるみを抱かせたら女の子にしか見えない。
 ぱしゃり、レフ板の反射する光に照らされた中で写真を撮られる北都とクナイ。
「うぅ、やっぱりもう少し長くしてもらえば良かったかも……」
「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。北都はそのままで十分に可愛いんですから」
 と、クナイが満足そうに笑う。嬉しいけれど、素直に受け取れない北都は両方のうさ耳を前に引っ張って顔を隠した。