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【空京万博】海の家ライフ

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【空京万博】海の家ライフ
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第四章:夏のお嬢さん
 巨大クラゲの激闘から暫し経った頃、モフラ・ハーティオンの竜巻に巻き込まれた客達を陰ながら救っていたのはライフセーバーラルク・アントゥルース(らるく・あんとぅるーす)であった。
「ったく……、暴れるのは良いが、ちと豪快すぎるぜ……」
 平泳ぎで浜へと向かうラルク。浮き輪で浮かぶまだあどけない少女を連れてのんびりと泳ぐ。
「ヒック……おかーさん……おとーさん……」
「お嬢ちゃん。もうちょっとで浜だからな、着いたら親を探してやるから!」
 ハーティオンが起こした荒波により沖にさらわれた海水浴客を、ラルクは先ほどから数名救ってきた。
 何しろ、このセルシウス海水浴場の遊泳場所は、そこから一歩沖に出ると急流になり、ライフセーバーのラルクですら溺れる可能性がある危険があった。
 長身のラルクの足が底に着く位の浅瀬まで泳いだ時、アッシュ・グロック(あっしゅ・ぐろっく)が浜辺からやって来る。
「アッシュ。この子を頼む。どうも親とはぐれてしまったらしい」
「わかった。やれやれ……俺様達の仕事をここまで増やすとは、掃除屋の連中、新手の嫌がらせなのか?」
「さぁな。俺はまた沖で待ってるヤツらを助けなきゃいけねぇ。後は頼むぜ?」
 ラルクが少女を軽々と持ち上げて、アッシュへ渡す。
「おにーちゃん、ありがとう」
「いいってことよ」
 ラルクがニカッと笑い、再び沖へと向かって泳ぎだす。
 その姿が海の中に消えたのを見た少女が、アッシュに問う。
「おにーちゃん、溺れた?」
「いや、アイツは水の中で息が出来るからな……」
「え……? お魚さんなの?」
「それはともかく、俺様の足がまだ着かないところで救助者を渡すとは……これこそ嫌がらせではないか!」
 クールな顔つきは決して崩さないものの、少女の浮き輪につかまるように立ち泳ぎするアッシュであった。


 鮫肌の服で速く泳ぎつつ、水中で息もできるウォーターブリージングリングを装備したラルクが海中を沖へと急ぐ。
 海底の砂が巻き上げられたためか、やや濁った海であるが、視界に問題はなさそうだ。
「まさか、倉庫の在庫の浮き輪を全部持ち出す位の救助者が出るとは思わなかったぜ……」
 先ほど救った少女の他にも、沖合で浮き輪を浮かべて救助を待つ人々がいる。
「バイトといえども人の命がかかってるし、きちっとしねぇとな!」
 神速を使ったラルクが、更に泳ぐスピードをあげる。
 そんな中、ふとラルクの頭に浮かぶとある人物。最初はそのやる気の無さに苛立った時もあったが、何だかんだで面倒見は良い方なのかもしれない。
「めんどいけどよ、まあ、一応誰かがおぼれてねーかだけは、シフト作って見張ってよーぜ」
 彼の提案によってラルクは、アッシュとペアになっていた。
 浜辺と沖との往復は一人でやると、屈強なラルクと言えども骨の折れる仕事である。
「ま、やり方なんて人それぞれってところか……」
 海底の岩を次々と飛ぶようにラルクが泳いでいく。
「ん? ……アレは、人か?」
 ホークアイでラルクが見ると、トーガ姿の男が海中を漂っていた。


「オレは面倒なのは嫌いだぜ?」
「奇遇だな、カールハインツ。俺もだるいのはゴメンだ……。ラルクとかさ、どうやったらあんなに張り切れるのかわからねぇぜ」
「ラルクか……あんたが提案したシフトとペア制。ラルクにはアッシュという組み合わせはある意味正解なのかもしれないな」
「だろ? バイト中は、てきとーにその辺のオンナノコが遊んでるとこでも見といたり、ヤローが多いから多少エロい話をだべったりしたいぜ。まー、男ども見てるのよか楽しいってだけで深い意味はねぇけどな」
「意味はない、とはどういう事だ?」
「特にナンパする気は無いって事だ。むしろ、ナンパする奴らは注意の対象だぜ。別に……嫉妬とかじゃねーよ。万博ってんならガキも沢山来てるだろーし、あんま生々しいのは見せたくねーだけだ」
「ふ……なるほどな」

 端正な顔立ちの男二人が浜辺で朗らかに談笑する。
「しかし、二人一組のシフト制は正解だったかもしれん。クラゲ騒動のせいで、意外に大変だしな」
「そーじゃねーとミイラ取りがミイラになる可能性もあるしな。ま、いざとなりゃ、レビテートで浮いちまえば何とかなるかね?」
「悠司くん、カールハインツくん……そろそろ、いいかな? 助けて貰っても……」
「あ?」
「ん?」
 高崎 悠司(たかさき・ゆうじ)カールハインツ・ベッケンバウワー(かーるはいんつ・べっけんばうわー)が振り向いた先には、ダンクトップ型の水着を着た桐生 円(きりゅう・まどか)が困った顔で立っていた。
「ああ……悪い。カールハインツ、頼むわ」
「あんた。オレが面倒事はゴメンだと言ったのを忘れたのか?」
「こいつを助けたのは、カールハインツだろ? 責任持てよ?」
「……正確に言うと、オレではないんだがな」
 カールハインツが足元に視線を落とすと、東シャンバラ用の新作水着に身を包んだ七瀬 歩(ななせ・あゆむ)がぐったりと横たわっていた。

 話はやや遡る。
 煌めく海を前に、水着の円と歩が並んで立っている。
 その背後には円のDSペンギンが、大きなシャチ型の浮き輪を持っている。夏の暑さは苦手なDSペンギンにとっても海は久しぶりであり、その表情は明るい。
「わーい海だー! ひっろーい、人が沢山ー、人口密度高すぎだろうー、庶民共ぉー!」
「なつー! うみー! うーん、やっぱりテンション上がるなぁ。今日は沢山あそぼーっと!」
 夏の日差しを受けた歩が、ウーンと大きく背伸びをする。
 傍に立つ円が、やや冷めた目で歩の水着、もとい胸を見る。
「チッ……また大きくなってる」
 円が小声で愚痴る。
「ん? 円ちゃん、何か言った?」
「ううん……歩ちゃん、新品の水着なんだね」
「うん……東シャンバラ用の新作水着が可愛かったから、思い切って買っちゃったんだけど、結構恥ずかしいかも? 円ちゃん、これ変じゃないよね〜?」
「似合ってるよ」
「? どうして、そっぽ向くの? あ、円ちゃんの水着も可愛いよね?」
 歩は円のタンクトップ型の水着を見ながら、「前に着てたペンギンのきぐるみはぎゅーってしたくなるくらい可愛かったなぁ……あ、でもあれって水着じゃないし、同じ東シャンバラのかなぁ?」と回想しながら、準備体操を始める。
「海やプールで泳ぐ前には、準備体操は欠かせないぜ? しっかりやりな!」これは先程、監視台で見守っていたラルクがかけてくれた言葉である。
「それにしても素敵なビーチ。よーし、円ちゃん何して遊ぶー?」
 歩が見ると。横に居たはずの円の姿がない。
「あ、あれ?」
 周囲を見回すと、円は既に水辺をパシャパシャと走り、海へと駆け出していた。何故か目を拭いつつ……。
「……って、円ちゃん早い!? お、置いて行かないでー!!」
 大きなシャチの浮き輪を持ってDSペンギンと一緒に海へ突撃していく円を歩が追う。
 その後、暫しは足が着くようなところでキャッキャウフフしていた二人であったが、
「歩ちゃん沖に行ってみよう、沖!」
という円の提案で、歩は渋々沖へと向かう。
 沖合いでは海に潜って魚と戯れたり、楽しい時間を過ごした。
 二人とも泳げないということはない。だが、歩は円の持つ浮き輪に疑問を感じる。
「(円ちゃん、泳げるのに何で浮き輪持ってるんだろ……。うーん、でも似合ってるから良いのかな?)……あれ?円ちゃんいない?……円ちゃん、どこー?」
 その時、巨大クラゲ騒動とハーティオンの起こした竜巻で、穏やかだった海が突如荒れだす。
「ま、円ちゃーん!! な、波が強くて……誰か、たすけ……」
 歩の意識はそこで途切れるのであった。


「う……ううん……」
「歩ちゃん、気がついた?」
 歩のぼんやりした視界が次第にクッキリしていき、心配そうな円の顔が見えてくる。
「ま……円、ちゃん? あたし……? ……あ、あれ、ここって陸? あたし生きてる?」
 歩が起き上がろうとしたが、その肩をカールハインツが止める。
「あんた、結構海水を飲んでたからな、まだ動かない方がいいぜ?」
「カールくん? カールくんが助けてくれたの? あ、ありがとう……」
「別に……これでもライフセーバーだしな」
 プイと顔を背けるカール。
「カールくん……?」
 不思議そうな顔でカールを見る歩の耳に、ラルクの声が聞こえてくる。
「おい、大丈夫か! 俺の声が聞こえるか? 聞こえたら返事しろ!」
 ペチペチと、浜辺に横たわるセルシウスの頬を叩くラルク。
「どうした? ラルク?」
 悠司がラルクの元にブラリと行く。
「悠司。セルシウスが溺れてた。随分水を飲んでやがる」
「……自分の名前のついた海水浴場で溺れるなんて……」
「ああ、洒落にならねぇ……おい! 本当に大丈夫か!!」
 そう言いつつ、ラルクがセルシウスの首筋に手を当て脈を、また胸に手を当て心臓マッサージを行う。
「まさか……心臓が?」
「いや、まだ動いているが脈が弱い……。アッシュ! 病院に連絡してくれ!」
「わかった! 俺様に任せな!!」
 頷いたアッシュが駆け出す。
「お前の医学と武医同術で駄目そうなんて……おい……」
 事態の深刻さに気づいた悠司が、流石に慌てる。
「俺に出来るのは応急処置止まりだ。だが、こういう処置を迅速にするかどうかで結構助かる確率が違ってくるんだぜ?」
「……俺達に出来ること、ねぇのかよ?」
 今までのおちゃらけていた顔と真逆な、真剣な顔つきになる悠司。
「そうだな……悠司。人工呼吸は出来るか?」
「おーし、大変そうなのは任せたぜー」

「……おい! 俺は妻帯者だぜ? いくら、人命救助とはいえ……」
「面白そうだし、助けた奴が責任取れやーっ」
と、悠司が踵を返す。
「ブホッ!!」
 ラルクによる心臓マッサージを受けていたセルシウスが水を吐き出す。
「お! 水を吐いたぜ!! 何とかなりそうだ」
 ラルクの顔に安堵の表情が浮かぶ。