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ムシバトル2021

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ムシバトル2021

リアクション


試合の合間

「実況の茅野瀬 衿栖です。えー、Cブロック開催の前に、お昼休みになります」
 ビジョンには実況席が大きく映されている。衿栖は手元に詰まれている紙に目を通しながら、こほん、と咳払いした。
「それから、ここまで解説していただいたエリザベート校長は、諸般の事情により退席することになりました。代わりまして……」
「か、解説の若松 未散(わかまつ・みちる)だ。こ、ここからは同じ846プロの衿栖と一緒に……に……」
 カメラに向かって笑顔を作ろうとする未散だが、その笑顔は目に見えて引きつっている。
「ど、どうしたんですか、未散さん?」
「わ、私は虫が死ぬほど嫌いなんだよ……!」
 カメラに拾われないよう、ぼそぼそと二人が言葉を交わす。
「ええっ? でも、もう今更引き下がれないですよ」
「それに、落語家は喋りのプロじゃなかったのか?」
 様子を見て取ったレオン・カシミールが、未散のヘッドセットに通信する。未散の握った拳がぷるぷると小さく震えた。
「や、やってやるよ! ここからは846プロのアイドル、ツンデレーションの実況・解説でお送りするからな!」
 びしっ! と扇子をカメラにつきつけ、叫ぶ未散。慌てた衿栖が手元の紙を拾い上げる。
「き、休憩の間、控え室の様子をお送りします。では、Cブロックで会いましょう」


 控え室といっても、そこはイルミンスールの森。大仰な建物ではなく、木々や草花を利用して、虫たちは思い思いに休憩を取っている。
「O’zは、大丈夫なんでしょうね! もし何かあったら……」
 そんな中、近衛シェリンフォード ヴィクトリカは、失神した相棒のバッタの元について、心配げにその姿を見つめている。
「あまり騒がないでくれ。集中できない」
 そう答えたのは、レリウス・アイゼンヴォルフ(れりうす・あいぜんう゛ぉるふ)
 これだけ巨大な虫たちの運搬は、主にイコンを用いて行われるのだが、さすがに触診までイコンで行うわけにはいかない。レリウスはパワードスーツに身を包み、O’zの額に手をかざしている。
「こういってるんだから、素直に黙りなさいよ。ウルシだって、もうすっかり元気になったんだから」
 と、村主 蛇々。
「べ、別に! O’zが動けないままだと困るからいってるだけよ!」
 腕を組んでふんとそっぽを向くヴィクトリカ。
「いいから、むやみに虫を刺激するような大声は出さないでくれよ」
 蛇々の相棒、ウルシの世話をしていたハイラル・ヘイル(はいらる・へいる)が、その背中から飛び降りながら呆れた様に呟く。
「自分で大会に出たくせに負けたら不安がるなんて、まだまだお子様だよね」
 ツインテールにした長い髪を後ろにやりながら、蛇々。かちっ、とどこかで怒りのスイッチが入った音がした。
「誰がお子様よ! どう見てもそっちの方が年下じゃない!」
「私は見ての通り中等部なんだけど! 冗談はバストサイズだけにしてよね!」
「誰の胸がソールズベリー平原よ!?」
 ぎゃあぎゃあ。ツンツンした少女同士の罵り合いが続いている。
「……お前も大変だな」
 その騒ぎのおかげか、治療の成果か、ようやく意識を戻したO’zに、レリウスはぽつりと呟いていた。
「……こ、このように、出場した選手達の体調管理は、専門家のスタッフが万全の体制で行っていまーす」
 放送上は、このように衿栖のフォローが入っている。


「熱くない? 大丈夫かい?」
 色白の少年……ヴァイス・アイトラー(う゛ぁいす・あいとらー)が、パラミタノコギリクワガタの黒鋼にまたがり、周囲の虫に気を配っている。名前に反して温和な性格の黒鋼は、選手として出場することより、こうして選手たちのケアに回ることを選んだのだ。
 ヴァイスは大きな霧吹きを持ち、熱気に虫がやられないように水で冷やして回っている。万全の状態で戦えなければ、きっと選手達にも悔いが残るに違いないからだ。
「おーい、こっちにも来てくれ。うちのが暑がっているんだ」
 と、ヴァイスに声をかけたのは雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)。その傍らにいるムシを見て、ヴァイスはあっと驚いた。
ストライカーだ! 本物が見られるなんて!」
 魅惑の体つきに凶悪なカマを持ち合わせたセカイジュオオカマキリのストライカーは、ムシバトル界隈ではアイドルのような扱いを受けている大人気のムシだ。ちょっとした行動の端々にも色気が漂っている……ように思える。
 霧吹きを浴びてカマを掃除する様子をカメラマンが写している。きっと、どこかの雑誌のグラビアを飾ることになるだろう。
「さすが、ますますすごい人気ですね」
 そのブリーダーであるソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)が呟く。
「今まで頑張ってきた結果だぜ。今年もみんなにムシバトルの魅力が伝わるように頑張ろうな、ストライカー!」
 びし! とベアの腕とストライカーのカマが触れ合う。美しい友情の姿である。
「おーい、こっちもだ! ちょっと来て!」
 と、声をかけたのは涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)。彼が指さす先には、イルミンオオクワガタのテイカーと共に走り込んでいるヴァルキリーの集落 アリアクルスイド(う゛ぁるきりーのしゅうらく・ありあくるすいど)の姿。
「もう一本行くよ! 試合までに体を温めて、全力でぶつかっていくのよ!」
 アリアクルスイドが並んで走っているテイカーに叫んでいる。
「よ、よし! ちょっと待ってて!
 ヴァイスはホットになりすぎたテイカーの熱を下げるため、黒鋼に指示してそちらへ向かわせる。
 ムシバトルに挑むブリーダーとムシたちの戦略は、様々である。