天御柱学院へ

蒼空学園

校長室

イルミンスール魔法学校へ

大廃都に残りし遺跡~魂の終始章~

リアクション公開中!

大廃都に残りし遺跡~魂の終始章~
大廃都に残りし遺跡~魂の終始章~ 大廃都に残りし遺跡~魂の終始章~

リアクション

 
 第18章
 
 
 左之助と別れてから、京子は罠を踏まないように、と我は纏う無垢の翼で飛行状態になり、現在は2階エリアにいた。宣告をした金髪美女は消えたが、傭兵的役割を持っているらしい機械獣や魔物達が追ってくる。『アルカディアに行きたい』という発言をした者達のうち、奥を目指せているのは真達だけだ。追手が多いのはその為だったが、2人は勿論知る由も無い
 地下1階に比べて地下2階は暗かった。少なくとも、街頭の少ない夜の田舎道くらいには。その為、敵の姿も視認しにくい。後方を確認すると、4つの金色の光だけが目に入った。それぞれが上下に激しく揺れている。 
「まだ2体いるな。あと少しやりすごせれば何とかなりそうなんだけど……」
 継続して発動しているトレジャーセンスが、この先に大きな存在があると告げている。それは、多分――智恵の実だ。
「真くん! あそこ……」
 前を行く京子が前方を指差す。真の目にも見えた。道の先に設けられたなだらかな上り階段の先に、大きな両開きの扉がある。火術系スキルを使っているのか、そこは、仄かな朱色の光で照らされていた。ラルク・アントゥルース(らるく・あんとぅるーす)氷室 カイ(ひむろ・かい)ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)エシク・ジョーザ・ボルチェ(えしくじょーざ・ぼるちぇ)を始め、10人以上が集まっているようだ。仕掛けがあるのか、というかあからさまに特別な意匠が施された壁――扉の前で、若松 未散(わかまつ・みちる)が何かを行っている。遠目ではよく判らないが、ピッキングだ。
「うーん、あとちょっとなんだけど……、なかなか開かねえなあ」
「もっと手元を明るくしましょうか? 見づらくないですか?」
「焔のフラワシ使ってるし、要らねえんだけど……、それより、皆を照らしてやれよ」
 未散は鍵穴をいじりながら、内輪会話的にハル・オールストローム(はる・おーるすとろーむ)に言う。だがハルは、ジト目を向けられても気にしない。
「いえ、広く明るく照らせばそれだけ魔物に気付かれる危険があります。ですから、火術も抑えておかないと」
「本当かよ……」
 尤もではあるが、今思いついた理屈のような気がしないでもない。
「本当です! ほら、あのように機械の獣が……、が……?」
 ごく自然に、ハルは京子達を追う機械獣の姿を示した。それから、少し遅れて状況を飲み込み、吃驚仰天した彼は近付いてくる2人に言う。
「! 何で“それ”を連れてきてるんですか!」
 慌てて海神の刀を構え、飛び込んでくる京子達と入れ替わるようにハルは前に立った。通路の先に火術を放ち、炎灯りの中で狙いを定めて乱撃ソニックブレードを放つ。機械獣は2体とも激しく後方に転がり、動かなくなった。浮遊状態から地に足をつけ、真が言う。
「……ありがとう、助かったよ」
「いえ、未散くんを守るためですから」
「この扉の先に、智恵の実があるのかな?」
 真とハルが会話している傍で、京子は扉を見詰める。だがその予測に対し、追跡の特技でここまで来たプラチナムは首を傾げた。
「ライナス様達を追っていたつもりなんですが……」
 勘も多分に入っていたとはいえ、到着先の物が彼と無縁である事などあるのだろうか。
(しかしこれは、やはり智恵の樹だと思いますよ)
 石像のまま運ばれて睡蓮に石化解除された月詠 司(つくよみ・つかさ)が、自らに憑依したサリエルの中からテレパシーで言う。扉に施された意匠は明らかに、何かの植物のものだ。幹と枝、外枠に入りきっていない根と細かい葉。実の姿が見受けられないのは、もったいぶっているのかはたまた現すのに抵抗でもあったのか。
(ところで、智恵の実といえばアダムとイブが蛇に騙されて食べたという事ですが……もしかして、巨大な蛇だか何かが私達を襲ってきたりしませんよね?)
 可能性としてふと頭に浮かんでしまった事。だが、違っていてほしい、という心からの気持ちを込めて司は言う。石化からは何とか無事戻れたが、これ以上の災難は勘弁してほしいところだ。
「あら案外、巨大なじゃなくて、智恵の実を食べて喋れるようになった蛇がワタシ達を騙そうとするのかもしれないわよ。……って言うか、そんなのなら寧ろ会ってみたいわね♪」
 司に比べ、シオン・エヴァンジェリウス(しおん・えう゛ぁんじぇりうす)はやはり楽しそうだった。うきうきとした口調でそんな事を言っていると――
「あ、開きました……!」
 鍵と格闘していた未散が、皆に向けて言う。
「確かに、こういう古代文明な所ってのはガーディアンに守られてたりするんだよな。まぁ、俺の目的はあくまでも智恵の実の検証だし、そんなのがもしいたら俺の拳でぶち倒してやっからよ!」
 扉を押し開けようと手の平を当て、ラルクは陽気に笑う。
「よし、行くぜ!」
 永年開くことなく閉ざされていた扉が、重厚な音を立てて開いていく。そして彼等は――
 横幅2メートル、縦……8メートル程の巨大な蛇を見ることとなった。