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続・悪意の仮面

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続・悪意の仮面

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第四章

「ものすごい植物の繁殖力ですね……」
 道路の真ん中にも拘らず、高く聳えた木や草花を見て、サー・ベディヴィア(さー・べでぃびあ)は感嘆の声を上げる。
「感心しているところ悪いが、どう見たってこれは邪魔であろう」
 水を差すようにルナ・シュヴァルツ(るな・しゅう゛ぁるつ)が答える。
「そうね。確かに見た目は立派だけれど、実際には迷惑にしかならないわ」
 雨宮 渚(あまみや・なぎさ)はルナに同意する。
「それも、悪意の仮面を壊すなりすれば何とかなるだろう」
 彼らのパートナーである氷室 カイ(ひむろ・かい)はそこで一旦会話を止めた。
「この辺の植物を傷つければ簡単に誘き出せるんじゃないか。確か、本人は植物愛がすごいんだろう?」
「そうだな、やってみる価値はあるだろう」
 カイの案にルナが同意する。
 そうして二人が植物を斬りつけた後だった。
「ちょっと、何をしているのよ! 私の大切な植物に傷を付けるだなんて!」
 憤然とした姿で現れたのは多比良 幽那(たひら・ゆうな)
 背後にはパートナーであるアッシュ・フラクシナス(あっしゅ・ふらくしなす)ネロ・オクタヴィア・カエサル・アウグスタ(ねろおくたう゛ぃあ・かえさるあうぐすた)、そして織田 帰蝶(おだ・きちょう)が控えていた。
「来たわね。待っていたわよ」
「この植物を消してもらえないだろうか」
 渚とベディヴィアの言葉に、しかし幽那はさらに気分を害したようだった。
「この植物の素晴らしさが解らないっていうの!? でも、そうね。私の植物を傷つけたんだもの! どっちにしたって成敗するわ! 行くわよ、アッシュ、ネロ、帰蝶!」
「我が母の言葉は絶対だ! 植物を傷つけるものには成敗を!」
「幽那のものは我のものでもあるしな。傷つけるものは許さん!」
「わたくしにはどうでも良いことですわー。それよりもわたくしは眠りたいんですが……いえ、眠らせていただきますわー」
 幽那の言に、同じく仮面を被っていたアッシュとネロは勢いを増す。
 ただ一人、帰蝶だけは乗り気じゃない様子でその場で眠り始めた。
「ちょっと、帰蝶! ……またなの?」
 幽那は帰蝶を揺さぶってみるが起きる気配はない。
「いいわ、私たちだけでやるわよ。帰蝶、せめて武器になってよ」
「……めんどくさいですわー」
「……む」
 まったく乗り気でない帰蝶に幽那はてこずっているようだ。
「いいわ。アッシュ、ネロ。やるわよ」
 幽那の指示に二人は頷く。
「俺は多比良の仮面を狙う。ルナ、お前も手伝ってくれ」
「良いだろう」
 ルナは魔鎧と化し、カイはルナを身に纏った。
「じゃあ、私は打ち合わせ通りに白い髪の彼女につくわ」
「私はネロ殿に」
 渚とベディヴィアも、それぞれの対象に狙いを定める。
 先に動いたのは幽那。
「いきなさい! アルラウネたち!」
 幽那に付き従うアルラウネたちが飛び出す。
 若干、カイの姿を見た途端に鼻血を出したり、幽那に突っかかり始める子もいたが、後は指示通りにカイへとかかった。
「はっ!」
 カイは歴戦の武術を使い、アルラウネたちを蹴散らす。
「ちょっと……。何するの、よ!」
 幽那は【黒薔薇姫の塵地螺鈿飾剪定鋏】を取り出し、カイに斬りかかった。
「お、っと……!」
 さすがに予想していなかった武器なのか、カイの構えが守勢に入る。
 
 一方、渚とアッシュの闘いも始まっていた。
「我は歌おう、聖緑のスコアを!」
 聖緑のスコアに記されていた歌を歌い始めたアッシュ。
 その魔力が効果をあげる前に、大きな銃声が鳴り響いた。
「あなたの歌なんて、私の銃の音があれば十分掻き消せるわ! ……さすがに、これで仮面を狙うなんて出来ないけれど」
 歌声の入る余地を残さないよう、渚は銃を乱射する。
 それに負けないよう、さらに声を張り上げようとするアッシュ。
 音と音の闘いだった。
 
 そして、ベディヴィアとネロの攻防は一風変わっていた。
「じゃからのう、余は最も尊い存在なのじゃ。その余と共にいる幽那のものは余のものということ。余のものということは、最も尊ぶべきものということじゃ」
「は……はあ」
「して、余のものを壊すということは一番の重罪じゃ。わかるか?」
「そう、ですね。え……そうでしょうか?」
 どんな戦法を使うかと思いきや、まったく攻撃を仕掛けてこないところに拍子抜けするベディヴィア。
 その油断(?)に付け込んで、ネロの説法は続いていく。
 ベディヴィアはもうどういう風に対応すれば良いのか判断がつかなかった。

 カイは体勢が悪いせいで、不利になっていた。
「ルナ、合図を出したらすぐに離れろ」
 さらにはアルラウネが近付いてくるのを見据え、カイはタイミングを計る。
 そこへ、空から鋭い声が割って入った。
「今宵は仮面が宙に舞う……仮面に潜む悪意は、私が打ち砕く!」
 空には悪意の仮面とは違う仮面をつけた人が、宮殿用飛行翼を使いこちらを見下ろしている。
「私の名はミオセル! その仮面は私が壊してみせます!」
 言うなり、ミオセルと名乗った赤羽 美央(あかばね・みお)は龍飛翔突で急降下攻撃を仕掛ける。
 それによって幽那は咄嗟にカイから離れる。
「ルナ! 今だっ!」
「了解している!」
 魔鎧から人型に戻ったルナが斬りつける。
 間一髪で避けるものの、今度はカイが続いて斬りかかった。

「母!?」
「幽那!?」
 幽那のパートナーの二人が幽那に気を取られる。
どこからの方角からかブラインドナイブズが飛び込み、アッシュの仮面は砕ける。
「今のうちに失礼します!」
 ベディヴィアはネロとの距離を一気に詰め、彼女の仮面に剣を振るった。
「あ……」
 ネロの仮面も呆気なく崩れ去った。

 幽那は【黒薔薇姫の塵地螺鈿飾剪定鋏】で受け止める。
 そこへ、アルラウネがカイに襲い掛かる。
「任せたわよ!」
 アルラウネたちにカイとルナの相手を任せ、今度は美央に対峙した。
「多比良 幽那さん、いい加減に仮面を外させてくれませんか? このまま植物を繁殖させたって、何も意味のないことはわかっているはず!」
「意味はあるわよ! 私は植物の楽園を作るのだから!」
 美央の説得に幽那は耳を貸そうとしない。
「人の迷惑になるところに根を持ち、人に疎んじられるようなことを植物が望むとお思いですか?」
「っ!」
 何か核心を突いたのか、幽那は反応を示す。
 けれどそれを振り払うように【黒薔薇姫の塵地螺鈿飾剪定鋏】を突き出した。
「あぶな……っ」
 美央は咄嗟に「カナン・ゼフィラス」を突き出した。
「え……」
 幽那の動きが止まる。
 その隙に、アッシュを狙ったのと同じブラインドナイブズが幽那の仮面を砕いた。
「よし、これで仮面は全部外れたかな。……って、あ〜あ。仮面全部粉々になっちゃってるじゃん」
 事が終わり、死角になっていた場所から神条 和麻(しんじょう・かずま)が姿を現す。
「形残ってたら、落とした人探しに行こうと思ってたんだけどな」
 仮面の残骸を見て、和麻は残念そうに零した。
「今のって……。もしかしてさっき私の対峙していた彼女の仮面を落としたのもあなたなの?」
 渚はアッシュの仮面について問う。
「あ、おう。ずっと引き付けてくれてたから狙いやすかったぜ。それより、大丈夫か? もしかして顔にも当てちゃったか?」
 膝をついて黙りこくってしまった幽那に、和麻は心配げに声をかけた。
「いえ。ただ私は何てことをしてしまったのかと気付いてしまって……」
「気付いた?」
 美央の促すような言葉に、幽那は消沈とした声で搾り出す。
「植物の楽園を作れば、私の愛する植物たちも喜ぶことかと思ったけれど……。逆に、植物が傷つく状況を作ってしまったのね……」
「我が母……」
「幽那が落ち込むとは珍しいじゃのう」
 アッシュとネロはかける言葉が思いつかないようだった。
「だが、悪意の仮面を被っていたときは、その欲望が何よりも、植物にとっても正しいと思っていたんだろう?」
「まあ、仮面ってそういうものらしいよな」
 カイの言葉に和麻は同意する。
「だったら、今反省しているその気持ちで十分じゃないですか? 後はこの植物たちをあなた自身で何とかしてあげるんです」
 美央の提案に、幽那は真摯に頷いた。

「――それで、わたくしはもうおうちでゆっくりとしても良いんですのー?」
 その後、目覚めた帰蝶は、マイペースにそれだけを訊いたのだった。