天御柱学院へ

蒼空学園

校長室

イルミンスール魔法学校へ

太古の昔に埋没した魔列車…御神楽環菜&アゾート 後編

リアクション公開中!

太古の昔に埋没した魔列車…御神楽環菜&アゾート 後編
太古の昔に埋没した魔列車…御神楽環菜&アゾート 後編 太古の昔に埋没した魔列車…御神楽環菜&アゾート 後編

リアクション

 黙々と燃料の加工が進んでいるその時。
 ヴァイシャリー湖南の方では…。
「天井の高さってこんなにあるのか」
 出来上がっていく駅舎を小型飛空艇オイレの上から和輝が見下ろす。
「(エスカレーターの材料、これで足りますか?)」
 まさかラックベリーに積んでいる量では足りないとか言いませんよね…、という顔をして優斗がテレパシーを送る。
「(あっ、いや大丈夫だ。でもな…)」
「(えぇ…ひとまず上りだけの方がよさそうですよ)」
 あまり無茶したら倒れそう、と現場にいる者たちを見る。
「(下りは階段があるから平気だけどな。別の機会に店も作るから、上りの方は今のうちに用意しておくべきだと思ってさ)」
「(工程を積んでしまうと、後々大変ですからね。とりあえず、エスカレーターの部品はどうします?)」
「(他の人は忙しそうだから、俺が運んでおく)」
 トラックに詰まれた資材を、ロークで機体にくくりつけて設置場所へ運び、塩ビシートの上に材料をそっと下ろす。
「静麻、エスカレーターの材料が届いたぞ。ここ置いておくから、後は頼んだぞ」
「あぁ、ありがとう。刹那、新しい仕事がきたみたいだ」
「了解だっ」
 にゅっと親指を立てると、さっそく作業にとりかかる。
「マスター静麻は手一杯のようですね」
「―…あ、ごめん。クリュティはレンガの壁造りを続けてくれ」
 クリュティの視線に気づいた彼が指示を送る。
「はい、マスター静麻。外はクリュティと綾乃のみですか…」
「地道に頑張りましょう!」
「俺たちが連れてきたヤツがいるやろ?」
 街で募集をかけた労働者が待機しているはずだ、と泰輔が言う。
「いいえ、いません」
「なっ!?確かトラクターの上に…」
「ん?いなくなっちゃったよ」
 フランツは首をふるふると左右に振り、トラクターの荷台を指差す。
「あっ、あいつらぁあああ!!逃がさんっ」
「無理だと思うよ。気づいたらいなくなっちゃってたし」
「ちくしょぅっ、駅舎が出来なかったらどーするんやっ!!」
「建設に大切なことは何だと思う?」
 トラクターから降りたフランツが、土の上に膝をつきどんよりとしたオーラを放つ彼の肩にポンと片手を置く。
「―…何や?」
「暑くても気にしないメンタルの強さと、眠くても倒れない気合。それと根性だよ!」
「あつっ、暑苦しすぎやないかっ」
 真夏の太陽の下にいてただでさえ暑いのに、一昔のスポコンみたいなセリフに、さらに蒸し暑さを感じる。
「集中していれば、大したことはないですよ」
 綾乃はスポーツドリンクを飲み、早く列車に乗りたい…乗りたい…!という思いを込めて集中している。
「どうしてそんなに燃えられるんやっ」
 その姿がよりいっそう暑さを感じさせる…。







 数日間かけて、やっと2階まで完成した頃、理王は1階の改札の傍に造られた部屋に行き、セキュリティの設定を行う。
「改札をスルーするやつはいないだろうが、ここの方が客の様子も見やすいな」
「チケットの販売システムを造るのも1階だもんね」
 彼の傍らで屍鬼乃がこくりと頷く。
「払い戻しとかも、ここでするの?」
「まぁ、そうなるな。駅のホームでトラブルがあった時も、この位置がベストだろう」
「2階よりも…1階の方がいいんですか」
「すぐに駆けつけるためには、近くの方が救助にも行きやすいんだ」
 目を丸くして首を傾げるヒパティアに理王が説明してやる。
「それが…人と人が助け合うという…ということなのでしょうか」
「誰かが助けを求めていたら、手を差し伸べてやりたい…。それが感情であり心というものだ」
「ヒパティアも、困っていたら助けてって言えば、きっと誰かが助けてくれるはずだよ?例えば…フューラーとか、私や理王とかがね!人ってなんか面倒とか思ったりするけど。ヒパティアとかは…別かな」
「―…この場合は、何と言葉を返すものなのでしょう?」
「一言、お願いします、でいいんだよ」
 口を挟まず3人の会話を聞いていたフューラーが言う。
「お願い…します」
「うん、それでいいんだよ!」
「さて、レールの方もまもなく出来るだろうから。こっちも急がないとな」
 2人の様子をちらりと見ると理王はセキュリティのプログラムを組み始めた。
 灼熱の太陽の現場と違い、クーラーが効いた部屋で燃料加工している方は、快適な空間で過ごしているわけだが。
 向こうは向こうで、かなり難航している。
「せくしぃー…魔法使い…アゾートちゃん、ふぁいあぁいや〜…」
 あの元気いっぱいだった歩夢でさえ、声のボリュームが下がっていき、だんだん元気がなくなっていきている状況だ。
「アゾートさん、容器ごと真列車の燃料入れの中へ入れるんですか?」
「一番外側の容器は、外してね。内側のやつはアルジーの熱で溶けてなくなるし、有害なものは発生しないから、問題はずだよ」
「分かりました」
「ちょっといい?」
「はい、何でしょうか?」
 ドアを開けてひょっこり顔を覗かせる咲に顔を向ける。
「真列車の修理や内装工事がもうすぐ終わるみたいよ。ていうかどれくらい出来たの?」
「熱量を燃やす層と…それが燃えないようにする層はまだなんですよ。そっちが終わらないと、氷の層が解けて、加工したものが燃えてしまうので…」
「あらら…厄介な作業ね。とりあえず伝えたから、後はよろしくね」
 片手をひらひらとふり、咲は部屋を出て行った。







 建設現場に食料を運んできた優斗が、一人一人順番にテレパシーを送る。
「(夕食の時間ですよ)」
 そう伝えると彼はトラックの荷台から、テーブルを降ろして取り皿を並べる。
 環菜と陽太からの差し入れだ。
「クリュティたちは後からいただきます。マスター静麻たちはお先にどうぞ」
「すまないな」
「日が落ちてしまいましたし。少しでも進めておきたいですから」
 クリュティと和輝はパリの東駅のような、大きな半円の枠の裏側に回り、窓を設置する。
「天井は鉄骨で作るのか…」
「その上に、ガラスをはめるようですね。美しさを保つためには、定期的に手入れを行ったほうがよさそうです」
「これは…造って終わりというわけにはいかないだろうな」
 またその工程で数日かかったのは言うまでもない…。
「向こうは難航しているようだな…。なっ…!?」
 コアも彼らを手伝いに行こうとするが、ライブステージをもっと可愛くしたいラブにすぐ捕まってしまう。
「こっちも大事な作業なのよ!私1人にやらせるわけないわよね…」
「ふむ…では…」
「花妖精みたいな飾りをつけるわよ!」
 “ライブステージはまたの機会に…”と言おうとしたその時、無遠慮にネオン造りにとりかかる。
「私好みにもっともーっと可愛くしてあげるわっ。担当は私とコアなんだから、デザインは自由に決めていいはずよっ」
 とはいってもコアの“もう少し控えめな感じにしたほうがいいのでは?”という意見はスルーしている。
 ラブがテンション上げている一方、改札を設置中の3人は淡々と作業を続けている。
「少々一般的な気がするのだが、美しさが足りなくないか?」
 ラデルは紅茶を飲みつつ、パーツを運んでいる光に指示をしている。
「改札まで拘らないだろ…」
「こっちの手間が増えるから、そういうのは無理があるな」
 完成したばかりの窓を開けて理王が言う。
「出資してもらっているとはいえ、見た目が華やかでも、メンテナンスが大変になってしまう…ってことですね」
「だとさ」
 一緒に作業している白竜の言葉に、“そこまでは無理だぜ”とラデルの方を見る。
「―…なら、改札の前にせめて大きなアーチを造るとか?」
「草花で作ったらキレイかもな…。うん、喜んでくれそうだしなっ」
 光はまたもや、もわ〜んと自分の未来の子友達がアーチをくぐる姿を想像する。
「理王、地下室への侵入制限はしてありますか?」
「関係者以外、入れないようにするんだよな。いろんな認証パターンを設定しておこう」
「安全面を考えると、その方がよさそうですね」
「外部の者は関わらせないのが一番なんだけどな。よし…設定完了だ」
 プログラムを組み終わると、フューラーが飲み物を手に戻ってきた。
「お疲れ様、どうぞ」
「ありがとう。他の残っている作業も、もう少しで完成しそうだから、後は皆に任せておこう」
 お茶の入ったカップを受け取り、後は他の工程が終わるのを待つだけだな、と…疲れたようにふぅと息をつき、アイスティーを飲む。