校長室
太古の昔に埋没した魔列車…御神楽環菜&アゾート 後編
リアクション公開中!
清泉 北都(いずみ・ほくと)のアシュラムは主にヒラニプラ側の資材運搬を担当していた。空を飛べるアシュラムなら、山岳地帯でもずっと楽に資材を運べる。ペイロードに関してはどうしてもトラックにはかなわないだろうが、山岳地域で山盛り資材をかかえていたって、思うように身動きはとれないものだ。 「荷物がなければ、けっこういい眺めかもねぇ」 資材をワイヤーロープで纏めて下げ、なおかつ木にぶつからない程度の低空飛行をしているこの視点は、高速で過ぎていく木々の梢がアトラクションのように面白い。鳥の目線ってこんな感じなんだろうか。何度見ても飽きないスピード感である。 「帰りだとゆっくり風景も見られるでしょう。でも日が暮れないうちにもどらないと。資材の追加がくるそうですよ」 そう言いつつクナイ・アヤシ(くない・あやし)が積荷のバランスをとって、低空飛行を安定させる。ちょうどラニプラに帰った頃に、追加の資材が届くだろうという連絡が入っていた。 「へえ、もうこんなにレールが延びてるんだね」 銃型HCで簡単に現状をチェックして、自分達が運んだ資材の、その甲斐を見出して北都は微笑んだ。 「頼めば今からでもレールの組み立てか、駅の建設に参加させてもらえるでしょう、やってみますか?」 クナイがせっかくイコンに乗っているのだからと声をかけてみたが、すげなくかわされる。 「まさか。僕のアシュラムじゃちょっと足を引っ張るんじゃないかなあ」 建築スキル持ちの人に任せたほうが確実に安全だ、とうそぶく。アシュラムはスピードに特化した戦闘スタイルを目指しているのだ。レイピアを正確にあやつれるようなコントロール性の高さにも重きを置いているが、そこをどうすれば建築に生かせるかどうかは、いまひとつ彼には自信がないのだった。 「それに、最初に思っていたよりも資材運搬で手一杯になりそうだよ、ほら」 情報を一手に管理しているヴァイシャリーの本部から、銃型HCに入った連絡によると、今まさに現場からの資材追加のお願いがいくつか届いているようだった。この配達を終わらせて、ヒラニプラ側の資材置き場にとって返し、次の荷物を運び出す算段を話し合う。今すぐくれという緊急度の高いものや、もうすぐ無くなるからそろそろ届けてほしいといった余裕をもった予約をピックアップして、次に届ける予定をたてた。 「資材を途切れさせるわけにはいきませんしね。…おや、目的地が見えてきました」 「降りるよ、荷物のバランスを見ててね」 やがて視界に敷かれたレールが見えてきて、ああこの資材もあれに連なるのだと思うと北都はなんだかどきどきしてきた。 「こっちだー!」 風祭 隼人(かざまつり・はやと)のクェイルは、降下するシパーヒーにハンドサインを送って資材の置き場所を指定した。レールの先端から少しだけ離れた場所に着地する。隼人はアシュラムから降りてきた北都から食料などのこまごましたものも受け取って中身を確認する。 「資材をありがとう」 「ところで、今ここはどのあたりになりますか?」 正確な座標をチェックして銃型HCの地図をすり合わせる、素早い配達は土地勘が重要になるのだ。 隼人達がやりとりする横で、さっそくエヴァルトが翔龍をあやつって、ロープを解かれた資材を掴み上げた。 「先に行っているぞ」 「ああ、エヴァルト、すぐ行く」 がしんと重量のあるイコンの足音がこだまし、コンクリートの板が視界の端で持ち上げられて移動される。 それを半ばぼうっと北都は見上げていた、イコン越しではなく、生身で資材の動きを見ていると、どうにもスケール感が違ったからだ。 「…すごいね。なんだか今頃になって、レールがのびてヒラニプラとヴァイシャリーが繋がるんだっていう実感がわいたかも」 「何いってんだよ、お前もそれをちゃんと手伝ってるんだぞ」 「い、いや…。じゃあ、僕は一端ヒラニプラに戻らないとだから…」 隼人はくつくつと笑って、照れくさがる北都をねぎらって、もう一度ありがとうと言った。 「そういや俺の弟がヴァイシャリー側で運搬やってるんだよな、かち合わないかもしれないが、もし見かけたらよろしくな」 そういってクェイルに飛び乗って、隼人はレールの設置に戻っていった。 「おそいよー、コンクリート板がずれちゃうよー」 合流した隼人に美羽がぶーたれた、彼女らのグラディウス、翔龍、クェイルは力をあわせてコンクリート板を正確に敷いていった。 力の翔龍と、小手先もカバーするグラディウスとクェイルの組み合わせもまた効率がいい、曲線の多い山裾にもかかわらず、ほとんど狂いなくレールが確実に敷かれていき、敷設距離を確実に伸ばしていった。 やがてレールはヒラニプラとヴァイシャリーを、はっきりと形ある線で繋いだ。 綿密に計算されたルートと資材の分配により、誤差はほとんどなかった。自分達の仕事の出来を目の当たりにして、誇らしげな感嘆がもれる、 しかし意外なことに、最後に中間地点でレールが繋がったとき、予測されたような喚声はあまりあがらなかった。それは魔列車が走るときまでとっておこうという意識だったのかもしれない。 実際にレールが完成したとき、見守る人々はすでに次に実際に魔列車が走ることを期待してそわついていたからだ。 完成したヴァイシャリーの駅舎から優雅に滑り出る魔列車の幻想を、すでにして関係者は共有していたのだ。