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リアクション
4.幸福再び
青い鳥を捕まえるには、古来からざると棒と決まっている。
滝川洋介(たきがわ・ようすけ)はそんな古典的な罠を公園の広場に仕掛け、物陰に身を潜めて待っていた。
むやみやたらと追いかけるより効率は良いかもしれないが……。
「うふふ、中には惚れ薬を仕込まれている鳥がいるとか……」
と、危ないことを考える雑賀孫市(さいか・まごいち)。それを洋介に吹きかけ、既成事実を作り出そうと企んでいた。
その企みに協力するは、その昔、愛に生きた直江兼続(なおえ・かねつぐ)だ。
物陰に隠れた洋介に熱い視線を送りつつ、孫市は兼続とともに青い鳥の捕獲に尽力していた。
「う……寒っ」
と、彼女の視線を感じて肩を震わせる洋介。何を考えているか分からないが、孫市の企みが成功する前にこの場を立ち去った方が良いかもしれない。
そうして待つこと数十分――、洋介の仕掛けに青い鳥が近づいてきた。
いつでも捕まえる準備は万端だと、手に汗握る洋介。
青い鳥がいい位置に入った時、洋介は棒にかけたヒモを引っ張った。びくっとした青い鳥は、ざるに捕まる前に外へ飛び出す。
「あ!」
失敗だ。
青い鳥は大空へ舞うと、ぐるり一回転して再び地上へ降りてきた。それを見て美しく腕を伸ばす兼続。
「さあ、この手にとまるのです!」
ロボットでありながら何か感じる物があったのか、その手にとまる青い鳥。
「捕まえましたよ、孫市さん!」
はっとした孫市はすぐに洋介の元へ戻った。
「わたくしの計画を進行させて頂きますわよ、洋介君」
と、有無を言わさず顔を近づけていく孫市。
「え、ちょ、ま――!」
近い近い近い!
やってしまったと言わんばかりの洋介に、兼続が青い鳥を掲げる。中に入っていたのが惚れ薬であれば、逃げ場はもう……ない。
「洋介君っ」
二人がAをクリアする寸前、洋介に吹きかけられたのは解除薬だった。
最後の力で孫市を突き放し、安全な場所へ駆け出す洋介。その様子はいつもと何ら変わりなく、兼続は孫市へ言った。
「どうやら、解除薬だったようです」
「そんな! あと少しでしたのに……!」
と、悔しがる孫市。
「その鳥、解除薬なのか?」
と、パートナーを戻すために走り回っていた勇刃は、兼続の持つ青い鳥を指さした。
「ええ、そのようです」
兼続が返答した直後、勇刃の後を追ってきた咲夜が言う。
「健闘君、恥ずかしがらずにどうぞ、私を……」
と、また胸をちらちらと見せる彼女に、兼続と孫市は状況を把握した。
実際の被害者を目の当たりにして、解除薬を勇刃へ手渡す兼続。
「ありがとう!」
勇刃はすぐに咲夜へ青い鳥を向けた。
ショッピングモールで冬山小夜子(ふゆやま・さよこ)はエノン・アイゼン(えのん・あいぜん)と洋服を見ていた。
早くも秋冬用の新作が並ぶ店内はそこそこ賑わっていた。
ふいに店の外が騒がしくなり、そちらを振り返る小夜子とエノン。
「!」
開いた扉から暴走した青い鳥が店内へと入ってきた!
とっさに身体を縮める小夜子だが、エノンは反応が遅れて薬をもろに受けてしまった。
店内をぐるりと回ると、すぐに鳥は外へ出て行ってしまう。
何が起きたのか理解するまで呆然としてしまう店内。
特に異常事態が起きたわけでもないのを見ると、店内は徐々に数分前の活気を取り戻し始めた。
小夜子もまた、先ほどまで見ていた洋服に手を伸ばしたが、ふと熱い視線を送られていることに気づいた。
どこか様子のおかしいエノンがこちらを見つめていた。
「小夜子さん……っ」
うるうると両目に涙を溜め、エノンは小夜子を押し倒さんばかりに抱きついてくる。
「こんなに、こんなに好きなのに……どうして、どうしていつも小夜子さんは……っ」
「エノンさん……?」
おそらくあの鳥の仕業だろう。
小夜子は何となく状況を理解すると、数メートル先にある試着室に目を向けた。
薬の効果にすっかりやられているエノンを連れて中へ入っていく。
カーテンをきちんと閉めて、抱きついて離れないエノンの首筋に顔を埋める。そっと優しく噛み付いて、小夜子は『吸精幻夜』をエノンにかける。
「ん……っ」
血を吸われてびくっと肩を震わせるエノン。
小夜子は気が済むまで吸血すると、普段は堅物な彼女の身体に手を這わせた。
「あぁ、小夜子さん……小夜子さんのためなら、私は何でもするのに――っ」
「分かってますよ、エノンさん」
「っ、もっと……私のことを……私を見て、ください――っ」
「エノンさん、大丈夫ですよ。エノンさんのことも好きです。だって、私の初めてのパートナーなんですから……」
そして乙女たちは束の間の幸福を楽しむのだった。
清泉北都(いずみ・ほくと)は紅茶の茶葉専門店に来ていた。
シャンバラと地球の紅茶をブレンドするという試みを実行するため、品揃えの多い空京へわざわざ足を運んだのである。ただ、今日は少し外が騒々しい。
ついて来てもらったクナイ・アヤシ(くない・あやし)のアドバイスを受けつつ、いくつか茶葉を購入する北都。
会計が終わるのを待っていてくれたクナイへ振り返り、北都は言う。
「ありがとう、クナイ。行こう」
そして出入り口へ向かう。
その背中をクナイが少し遅れて追っていくと、扉が開いた瞬間に青い鳥らしきものが北都の前を横切っていった。
「うわっ」
思わず身を引いた北都を、慌てて手で支えるクナイ。
「大丈夫ですか?」
「う、うん……」
どこかへ飛び去った鳥を見送る余裕もなく、二人並んで外へ出る。すると北都がぽつり呟いた。
「手、つなぎたいな」
「……は?」
驚いたクナイが北都を見ると、北都は顔を真っ赤にして慌てていた。
「あれ? 僕、今何て……」
どうやら、彼の身に何かが起きたらしい。青い鳥に関する放送が街に流れていることもあり、クナイは何となく状況を察した。
「どうぞ」
と、北都へ手を差し出す。
「え、あ、えっと、手……出されちゃったら、放っておくわけにはいかない、よね」
ぶつぶつと呟きながらぎこちなく彼の手をとる北都。クナイがぎゅっと握ると、北都はさらに顔を赤くし、握り返した。
そしてまた口を開きだす。
「クナイは、いつも僕の出方を見ている。僕の嫌がることはしないよう努めて……でもね、僕はクナイに何されても嫌うことはないから」
彼の心の声が口から駄々漏れになっていた。
普段と違う様子が面白いなと思いつつ、クナイは彼の言葉に耳を傾ける。
「本当はもう少し、積極的になってくれると嬉しい。だって僕は恋愛を知らないから、どうすれば相手が喜ぶかなんて分からない。言葉で、態度で示してほしいんだ。何をして欲しいのか、どうしたいのか……」
「では、恋人つなぎをしてもいいですか?」
「えっ!?」
クナイを見上げて恥ずかしそうにする北都。クナイがにっこり笑いかけると、北都は素直に頷いた。
「う、うん……ポケットに入れた手を恋人つなぎにするくらいなら、他人から見えないからOKだよ」
それを受けてクナイはコートのポケットにつないだ手を入れ、そっと指を絡ませた。
「やっぱり恥ずかしい……っ」
と、俯く彼にクナイは言う。
「……じゃあ、やめますか?」
「ううん、このままでっ」
と、思わず口走ってしまい、北都はまた俯いた。
「へ、変だ……僕……」
自身の変化に戸惑う彼を、クナイは気づかない振りしてにこにこと見守っていた。悪い影響がないのなら、薬の効果が切れるのを待ってもいいだろう。
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