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【蒼空のフロンティア秋祭】秋のSSシナリオ

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【蒼空のフロンティア秋祭】秋のSSシナリオ
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リアクション


◆◇◆◇アップリケへの誘惑◇◆◇◆


「ホント信じられない。何でお祭りでもないのにこんなに人がいるのかしら!」
「(セイニィ、それ思いっきり田舎者の台詞だよ……)」

 空京より新幹線で上野駅に着き、降り立ったセイニィ・アルギエバ(せいにぃ・あるぎえば)の第一声に、武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)は心の中で微苦笑した。
 空京やシャンバラ宮殿付近の方が上野駅より遥かに混んでいるが、人口密度的には構内の方がゴミゴミしていると言える。
 そしてセイニィの性格や性質は不機嫌な山猫のそれであり、基本的に混んでいる所は好まない。
 ロイヤルガードの任務がない時は、ツァンダにあるツァンダ家が用意した別邸にさっさと帰ってしまい、日向ぼっこをしているか身体を動かしているか本を読んでいるか縫い物をしているかのいずれかだと牙竜は記憶している。

「えーと浅草橋に行くには、ここから何線に乗り換えるんだっけ? ったく、何で22番ホームまであるのよ! 地下鉄まであるし! グレーツキャッツで穴開けてショートカットしようかしら!」

 セイニィはホットパンツのポケットから取り出した紙切れを、右にしたり左にしたり、上にしたりくるくる回したりしながら唸る。
 ほとんど八つ当たりだった。

「(慣れない場所は苦手なのか?)ここはシャンバラじゃないんだから、星剣を出しちゃ駄目だぞ。浅草橋に行くのか? 俺がヒーロー用の衣装作る時の材料を買う馴染みの手芸店が日暮里にあるのだが、そこはどうだ? あの店なら退屈はしないと思うぜ?」
「うーん、そっちも興味あるけど、シャーロットが言うにはこの後ティセラやパッフェル達と合流するなら、浅草橋の方が良いらしいのよね」
「なるほどね。じゃぁ地下鉄だな。俺が案内するよ」
「ありがと。今日から牙竜のことを、ナビメンって呼んであげてもいいわよ」
「ナビメンって……何で複数形……」

 牙竜とセイニィは地下鉄に乗り込むと浅草へ向かった。
 浅草は浅草寺前まで来ると、人力車に乗ったシャーロット・モリアーティ(しゃーろっと・もりあーてぃ)ティセラ・リーブラ(てぃせら・りーぶら)が待っていた。
 シャーロットは観光ガイド役を買って出ており、セイニィ達より先に来て、ティセラの人力車巡りに同行していた。
 ティセラはシャンバラで愛着しているリーブラ・クロースだと目立ちすぎるので、シャーロットの見立てて清楚で気品あるワンピースを着ている。

「シャーロットのお陰でアサクサのことが少し分かりましたわ。ゆっくり走るジンリキシャもこういったシタマチ観光には乙なものですわね。今度アイシャ様にご提案して空京観光にも取り入れて頂こうかしら」
「お気に召して頂ければ幸いです」
「本命のお相手でなくて申し訳ございませんが、その分は後程フォローいたしますわ」
「あーもぉ!! 何でこんなに人がいるのよ!!」
「ふふ、セイニィは人混みが苦手ですものね」
「では行きましょうか。今回チョイスした手芸店はここから歩いて15分くらいですから」
「(人いきれが苦手、と。うーん、この分だと俺が出演しているヒーローショーに誘うのは難しいかな)」

 人いきれに辟易するセイニィを、合流したティセラとシャーロットがなだめ、目的の手芸店へ案内し始める。
 牙竜は彼女の横に立ってさり気なく通行人からセイニィを守っていた。

 シャーロットが案内したのは、浅草橋界隈にある手芸用品卸の小売店だった。品揃えが豊富な上に卸値で買えるというお得さが売りだ。

「お望みの物を探すのを手伝うよ」
「ありがと。じゃぁここからここまでの、くまさんのアップリケを探してよ」
「ここからここまでって50種類くらいあるじゃないか。こんなにアップリケを買って何に縫い付けるんだ?」
「ちょ!? ばっ!? ばっかじゃないの!? 何でそんなこと聞くのよ!! エッチスケベ変態!!」
「え゛!? え゛え゛!?」

 牙竜の質問に、折り目を付けておいた『月刊アップリケ―くまさんのアップリケ特集号―』のページを開いて、指差すセイニィ。
 その数の多さに牙竜はちょっとした好奇心から質問したに過ぎなかったが、セイニィは端から見ても分かるくらい顔を真っ赤にして烈火の如く怒った。
 シャーロットもティセラもジト目で牙竜を見ていた。
 セイニィがくまさんのアップリケを何に使用しているか……セイニィをキャラクエに連れて行き、カットインを見たことがある人であれば答えは自ずと分かるだろう。
 牙竜はそれを聞いちゃったのである。

「セイニィ、店員に見繕ってもらいましたが、こんなのは如何でしょうか?」
「ありがと! そうそうこれこれ! この愛らしい円らな瞳が良いのよね。このシリーズ、空京だと売ってないから、どうしても欲しかったのよ」
「俺が思うに、セイニィは気配りや他者を思いやることの出来るってことは、相手のことをちゃんと見てることに通じるから案外、服飾デザインや作成が向いてるんじゃないかな?」
「そんなこと考えたこともなかったわ。縫い物は得意だけど、服飾のデザインはパッフェルの方が得意だし、あたしやティセラが普段着ている服も、ぜーんぶパッフェルの手作りなのよ」
「それは凄いな。だったら尚のこと、試しにパッフェルやティセラのために何かを作ってみたらどうだ? いきなり最初から凄いものを作れとは言わないさ。ハンカチでもエコバックでもいいから、好みのアップリケを縫い付けてレースで綺麗にまとめればいいものが出来ると思うぞ?」
「セイニィの手作りですか……わたくしも1つくらい欲しいですわね」
「わ、分かったわよ。そこまで持ち上げなくても良いから! ティセラやパッフェルだけじゃなく、あんたやシャーロットにも今日の記念に何か作ってあげるから……って、別に勘違いしないでよね!? 今日案内してくれた記念なんだからね!?」
「それでも嬉しいよ」
「私もセイニィの手作りのプレゼントは嬉しいですよ」

 終始買い物は和やかなムードで進んだのだった。

「さて、買い物が終わったからパッフェル達と合流してお茶でも飲もうかぜ!」
「お茶なのですが、パッフェルが秋葉原に行っていますから、このまま山手線で秋葉原まで出て合流しましょう」

 牙竜の提案にシャーロットは先んじて応えたのだった。