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リアクション
貴方への誓い。
瑞々しい緑だった木々が赤く色づき始めて早十日。
残暑もどこかへ行ってしまって、風の冷たさを感じるようになったある日、神崎 優(かんざき・ゆう)は神崎 零(かんざき・れい)を誘ってツァンダの森へと出かけた。
「もうすっかり秋だな」
乾いた空気に乗った金木犀の甘い香りに、優は呟く。
「うん。しっかり着込まないと寒いくらいだもんね」
零が、繋いだ手をきゅっと握り締めて言った。視線は斜め上にある。紅葉を見ているようだった。子供の手のような形の葉が、風に揺れてさわさわと音を立てた。
「寒いから、くっついてもいい?」
「ああ」
頷くと、嬉しそうに笑った零が腕に抱きついてきた。そのまま、ゆっくりとしたペースで森の小道を散策する。
「どんぐりが落ちてる」
「秋だからな。あっちにはまつぼっくりもあるぞ」
「こういうのを見ると、やっぱり秋だって思うよね。なんで行楽の秋、って言葉はすぐに浮かんでこないんだろうね? 見ていても楽しい季節なのに。ヴァイシャリー湖とかも、湖岸に紅葉が沿っていて綺麗なんだろうなあ」
想像しただけで素敵だもん、という零の横顔があまりにも無邪気であまりにも綺麗だったから。
「今度一緒に行こうか」
「いいの?」
「嫌なもんか。ヴァイシャリーに行くなら観覧車も乗りたいな」
「わ。上から見たらまた違って見えるんだろうね。楽しみだなあ……」
楽しそうに笑った零が、「ありがと」と頬にキスしてきた。立ち止まる。
「? どうしたの、優?」
「いや。……礼を言うのは、俺の方だと思って」
お礼? と零が首を傾げた。
「今こうしていられるのは、零が俺に手を差し伸べてくれたおかげだ。
だから俺は、これからも零がしてくれたように、一人で塞ぎ込んで心を閉ざしている人たちに『一人じゃない、共に歩んでいこう』と手を差し伸べ続けて行こうと思う」
こうして心を打ち明けるのは、いつ以来だろう。
なかなか言うタイミングやきっかけが作れなくて言えないでいた言葉。
「零。俺の傍にいてくれて、ありがとう。
これからも一緒に、俺の傍で支え続けてくれ」
感謝の気持ちと、自分の想い。
零からのありがとうに、引っ張られるようにして出てきた言葉だったから、唐突だったかもしれないけれど。
「ありがとう。すごく嬉しい」
頬を赤くして、笑顔で頷いてくれた。
それから、ぴたりと優にくっつき抱き締めて。
「……どんなことがあっても、いつまでも優と一緒だよ」
優にしか聞こえないような小さな囁きを、耳元にこっそりと。
えへへ、と恥ずかしそうに笑う零を、優はしっかりと抱き締めた。
絶対に離すものかと、強く、強く。
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