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【蒼空のフロンティア秋祭】秋のSSシナリオ

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【蒼空のフロンティア秋祭】秋のSSシナリオ
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リアクション


【すれ違う想い、重なる想い】 〜 ヴァル・ゴライオン&キリカ・キリルク 〜

「ワァーーー!!」

 向こうから、大きな歓声が聞こえてくる。

「始まったみたいですね」
「あぁ、そうだな」

 撤収作業中のヴァル・ゴライオン(う゛ぁる・ごらいおん)キリカ・キリルク(きりか・きりるく)は、手を止めて声のする方を見た。
 歓声の後に、いかにもな音楽や、マイクパフォーマンスの声が続く。

 「パラミタの知られざる地域の魅力を広く世界に発信しよう」という狙いの元開催された、『オラの村が世界一!コンテスト』、通称オラコン。その後夜祭(ただ単に、希望者が延長営業しているだけなのだが、みなそう呼んでいた)最大の呼び物、『蒼空戦隊 パラミタファイプ』のアンコール公演が始まったのだ。

 ヴァルはこのオラコンに、【大荒野のジーンズ、アトラス染め】という企画で参加した。
 大荒野の村々が共同で製作した、ジーンズの紹介と販売を通して、自分が開拓を進めている大荒野の現状を広く世間に知ってもらおうと参加を決意したのだが、その目的は十分に果たすことが出来た、とヴァルは思っている。
 人気投票で上位になることは出来なかったものの、思っていた以上にジーンズの売れ行きは良かったし、何より、

「大荒野に人が住んでいるとは思わなかった」
「あんな何もない荒野で、こんな立派なジーンズを作っているとは驚いた」
「このデザインは、地球でも十分通用する」
「初めは対立していた村々が、最後は力を合わせて一つの事を成し遂げていく姿に、感動した」

 こんな言葉を、来場者たちから聞くことが出来たからだ。

 しかし、大荒野の開拓は、まだ始まったばかり。
 これを足がかりに、さらに開拓を進めるには、ジーンズの製作で培った人々の結束をさらに強める必要がある−−。

「ヴァル、どうしました?手が止まってますよ」
「ん?い、いや。何でもない」

 キリカの声に、ヴァルは我に返った。
 来場者たちの声を思い出しているうちに、物思いに沈んでしまったようだ。


 キリカは所用があってオラコンには参加出来なかったが、パラミタファイブの撮影に駆り出されたシグノー イグゼーベンの代わりに、撤収作業を手伝いに来てくれていた。
 調整役として参加していた神拳 ゼミナーも、何処に行っているのか、今は姿が見えない。

「でも、良かったですね、大成功で。キミが『ジーンズを作る!』なんて言い出した時は正直どうなるかと思いましたけど、苦労した甲斐がありました」

 作業する手を休めて、キリカは言った。
 その目は、自然と空へと向けられる。

「もうあれから、何年も経つんですね……」

 キリカは、ヴァルと『契約』を交わした時の事を思い出していた。
 まだ、自分もヴァルも幼かった、あの日。

 自分が『帝王』と呼んでいたあの人。
 誰よりも憧れていたあの人は、ヴァルを庇って死んだ。
 自分の『夢』を、彼に託して。
 だから自分は、ヴァルと契約した。
 それが、あの人の望みだと思ったから。
 そうすれば、あの人の夢を叶えられるんじゃないか、あの人が見たかった景色を、自分も見られるんじゃないかと思ったから。

 キリカは、空に向けた視線を、そっと、ヴァルへと向けた。
 さっきまでの自分と同じように、じっと空を見ているヴァル。
 そこにいる彼は、もうあの頃の彼とは違う。

 昔は自分より小さかった筈なのに、今では、自分を見下ろすようになった。
 肩幅もずっと広くなったし、背中もがっちりとして、逞しくなった。
 勿論、変わったのは体つきだけではない。
 昔キリカは、引っ込み思案で頼りなかったヴァルを、まるで自分の弟のように思っていたものだ。
 正直、「あの人の代わりが務まるだろうか」と疑ったことも、一度や二度ではない。
 しかし今では、こうして多くの人々をまとめ上げ、一つの目標へ向かって邁進させるまでになっている。
 まだまだあの人には及ばないものの、着実に王者の風格を身に付け始めている。

 そして変わったのは、ヴァルだけではない。
 自分もまた、変わってしまった。

 自分が憧れていたのは、あの人。
 自分が見たかったのは、あの人の夢見た景色。

 自分は、あの人のために、あの人の夢を叶えるために、ヴァルの側にいる事を選んだのだ。
 初めは、姉として。
 次に、共に立つ者として。
 そして今は、彼を支える者として。

 なのに−−。

 今では、こうしてあの人の事を思い出すことも珍しい。
 それどころか、キリカは自分が、ヴァルを一人の男性と見始めている事に、気づいている。
 弟だった筈の人がいつの間にか、誰よりも大切な人になっていた。


 だが、相手を異性として見ている自分に戸惑いを感じているのは、何もキリカだけではない。
 それは、ヴァルも一緒だった。

 いつも、側にいてくれた姉。
 いつも、共にある仲間。
 いつも、自分を支えてくれる、かけがえのない人。

 ヴァルの中で、かけがえのない人が、誰よりも愛しい女(ひと)に変わるのに、そう時間はかからなかった。


 同じ『想い』を抱き、誰よりも近しい所にいる、二人。
 だが二人は、その『想い』を決して口にする事はない。
 二人には、何ものにも耐え難い、亡き人より託された想いがある。
 そして何より、「もし本心を告げて、今の関係を壊れてしまったら……」という恐れが、二人を躊躇させて来たのだ。
 しかし−−。

 今日のヴァルは、いつもと違っていた。
「何かを成し遂げた」という高揚感が、そうさせるのかもしれない。
 まるで突き動かされるようにして、ヴァルは口を開いた。


「なぁ、キリカ」

 自分を呼ぶヴァルの声に、顔を上げるキリカ。
 夕日に染まったヴァルの顔が、まっすぐこちらを向いている。

「俺は……。少しは師に近づけたんだろうか。今の俺は、師の夢を叶えることが出来ているだろうか」
「どうしたんですか、一体?こうして企画が大成功したのも、村々をまとめ上げた君の力があればこそですよ」
「そうじゃない、キリカ。俺は、お前の意見が聞きたいんだ」
「ボクの?」
「そうだ。お前から見て、今の俺はどうだ?俺は師に、お前が憧れていたあの人に、近づけているか?」
「い、イキナリそんな事言われても……」

 まるで問い詰めるようなヴァルの口調に、言葉に詰まるキリカ。

「教えてくれ、キリカ。お前の目に、今の俺がどう写っているのか、知りたいんだ」

 そう言って、キリカを見つめるヴァル。
 その表情に、何か懐かしいものを感じ、思わずヴァルをじっと見るキリカ。
 その沈黙を否定と受け取ったのか、ヴァルは、暗い顔になる。

「やっぱり、あの人と俺とじゃ、比べ物にならないか……」
「いえ、そうじゃなくって……」

 そう答えながら、キリカは必死に記憶を探る。
 その脳裏に、一つの顔が浮かんだ。 
 自信なさ気な顔。
 自分の後ろを付いて来る、幼さの残る顔。

(まるで、あの頃のヴァルに戻ったみたい。どうして、こんな……)

 その理由を考えて、キリカは、はっとした。
 ヴァルは、気づいていたのだ。自分が、彼を通して、あの人を見ていたことに。
 自分が、ヴァルの通してあの人の事を思うたび、ヴァルは、亡き師と比べられていた。
 そして、その重圧にずっと耐えてきたのだ。今まで、たった一人で。

 自分の勝手な思いが、最も大切な筈の人を、責め苛んでいたという事実。
 そしてその人が、滅多に見せない不安を、今自分目の前で表しているという現実。
 この2つの衝撃の前に、キリカの身体は、勝手に動いていた。

「き、キリカ……!?」

 キリカは、ヴァルの身体を両手で抱きしめていた。

「ごめんなさい、ヴァル。私のせいで、辛い思いをさせてしまって……」
「ど、どうしたんだ、キリカ?『私のせい』って……?」

 動揺しながら、ようやくそれだけ訊ねるヴァル。

「ううん、何でもない。何でもないんです……」

 こみ上げてくる涙を堪えながら、ヴァルに答えるキリカ。

「あの人と、比べる事なんか無いです。あの人とあなたは、違うんですから。あの人はあの人、ヴァルはヴァルです。」

 涙を拭いながら、ヴァルから離れるキリカ。

「ボクはずっと、君の中にあの人の面影を見ていました。でも、今は違います。今のボクは、あの人と同じくらい、もしかしたらそれ以上に、君の事が好きなんですよ」
「す、好き……?」
「ハイ。だから、もっと自分に自信を持って下さい。ね、ヴァル?」

 莞爾として、ヴァルに笑いかけるキリカ。
 ヴァルは、狐につままれたような気持ちで頷いた。
 キリカの『好き』という言葉が、頭の中に反響(こだま)している。


「なんだ、まだ終わっていないのですか?」

 その声に振り返ると、いつの間に帰ってきたのか、神拳 ゼミナーが立っていた。
 腕を組み、険しい顔をしている。

「てっきり、もう終わっているものと思っていたのに。今まで、一体何をやっていたのですか?」

 向い合って立ち尽くしている二人を、訝しげに見るゼミナー。

「あ、あぁ。ちょっと、話し込んでしまって……」
「『早くしないと、閉場時間に間に合わなくなる』と、言っておいた筈ですが。キリカもキリカだ。わざわざ来てもらっても、話し込んでいるだけなら、却って邪魔になるのだがね」
「ごめんなさい!すぐ、片付けます」
「済まん」

 いつになく厳しい口調のゼミナーに、慌てて作業に取り掛かる2人。

(やれやれ。一体何の話をしていたのやら……)

 肩を竦めると、ゼミナーも作業を手伝う。
 その後ヴァルは、撤収作業の間中ずっと、キリカの言った『好き』の意味を、考え続けていた。