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リアクション
第二章 倉庫の中の戦争 1
こうして、大多数の人々はジョージアの指示に従う方を選んだのだが、それが全員というわけではない。
ごく一部ではあるが、妙なコスプレをさせられるくらいならと強行突破や隠密潜入を図ったものもいたのである。
入り口でまだごたごたしているうちに、こっそりと潜入を図ったのは紅護 理依(こうご・りい)。
これから年末にかけて欲しいものも多数あり、何としてでもアルバイト代は手に入れたかったのだが、そんな彼女を阻んだのがジョージアと、彼女の差し出したバニーガール衣装だったのである。
(冗談じゃないよ……いくらなんでも、あんなの着られないって)
そう考えた彼女は、うまくジョージアの隙をついて横のドアから倉庫内へと潜入することに成功した、のだが。
(なんでこんなにいっぱいいるんだよ……)
見渡す限りどこもかしこも警備ロボットだらけであり、これでは洋服を持ち出すどころの騒ぎではない。
(うう……潜入してきたはいいけど、どうしよう)
そう思いながら、とりあえず物陰に隠れるべく数歩後ずさって……何か堅いものにぶつかったような感覚があった直後、突然自分の身体が宙に浮いた。
「……え? ええ? えええっ?」
おそるおそる、理依が後ろを振り向くと。
警備ロボットよりもさらに数段ヤバそうな、大柄な機晶姫の姿が見えた。
「侵入者発見」
その機晶姫――シャルロット・ルレーブ(しゃるろっと・るれーぶ)、いや、試作型改造機晶姫 ルレーブ(しさくがたかいぞうきしょうき・るれーぶ)の、銀色の「瞳」がぎらりと輝く。
逃げようにも、すでに首元を猫づかみされているので逃げるに逃げられない。
「あああ待った待った待った降参降参降参ー!!」
素直にそう告げること以外に、はたして理依に何ができただろうか。
結局彼女は駆けつけてきた警備ロボットに引き渡されたあげく、倉庫内の着替えスペースに放り込まれ、先ほどのバニーガール衣装への着替えを余儀なくされたのだった。
「うう……無事で済んだのはよかったけど、結局この格好かぁ……」
彼女が着替えを終えてしまうと、警備ロボットは一切反応しなくなった。
こうなったらさっさと仕事を終えてしまおうと思った理依……であったが。
「よりによって、わざわざハイヒールまで履かせなくても……動きにく……って、わあっ!?」
履き慣れないハイヒールに四苦八苦し、素早く動くどころの騒ぎではなかったのだった。
そして、「強行突入派」の本隊は、そのすぐ後に現れた。
「さぁ! 張り切って泥棒しますよっ!」
先頭切って突っ込むのは、リリィ・クロウ(りりぃ・くろう)、ナカヤノフ ウィキチェリカ(なかやのふ・うきちぇりか)、そしてマリィ・ファナ・ホームグロウ(まりぃ・ふぁなほーむぐろう)の三人だった。
彼女たちにとって最初の誤算は、彼女たちに続く者が現れず、敵を全部引き受ける形になってしまったこと。
そして、それ以上の誤算は……なんかいろいろと勘違いしてジョージアの側に肩入れする面々がいたことだった。
世界征服を狙う悪の秘密結社オリュンポス。
構成員現在四名という零細組織である彼らのもとに、ジョージアの噂がいろいろ間違って伝わったのがそもそもの発端である。
「む、制服好きの機晶姫だと!? これは手助けせねばなるまい!」
厳密にはジョージアが好きなのは服全般なのでこの時点ですでに間違っているのだが、ここにさらに勘違いが重なっていく。
「世界征服を企む悪の秘密結社として、同じ征服好きを放っておくことはできん!」
おわかりいただけただろうか。
そう、オリュンポスの大幹部にして天才科学者ドクター・ハデス(どくたー・はです)の頭の中で、「制服」と「征服」がいつのまにかごっちゃになってしまったのである。
何という思考の三回転半ひねり、見事なトリプルアクセルであろうか。もちろんただこんがらかっているのと同義だが。
かくして、ハデスは部下のアルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)、ヘスティア・ウルカヌス(へすてぃあ・うるかぬす)両名を伴って、工場警備の手伝いを買って出たのだった。
なお、ジョージアの「これに着替えてください」は味方であっても一切容赦がなかったらしく、ハデスは「社会人の制服」であるところのスーツ姿、アルテミスはコスプレっぽいミニスカの「女性警官の制服」、そしてなぜかヘスティアだけは制服ではなく「ウサギの着ぐるみ」を着せられていた。
「……って……!?」
真っ正面から堂々と乗り込んだリリィたちの前に、同じく真っ正面に堂々と仁王立ちする三人組。
もう、正直逃げ隠れする以前の問題である。
「さあ、我が部下、人造人間ヘスティア、暗黒騎士アルテミスよ、侵入してきた敵を迎え撃つのだっ!」
ハデスの合図で、アルテミスが大剣を、そしてヘスティアはいきなりミサイルポッドを準備する。
「倉庫内でミサイル!?」
こんなムチャクチャな相手と真っ向からやり合っていては命がいくつあっても足りない。
「とりあえず散開しましょう! 固まっていては危険です!」
とっさに左右の物陰に散るが、こうなると今度は警備ロボットを含めた敵の数的優位が大きい。
「逃がすか! ジョージアの部下の戦闘員よ! お前たちも敵を迎撃するのだっ!」
ハデスがそう叫び……それが、さらに予期せぬ事態を引き起こした。
ここで、時間は少し遡る。
「あなたはこれを着てください」
ジョージアに渡された服を見て、エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は目を丸くした。
この「骨のようなペイントのされた全身タイツ」は、明らかにどこかで見覚えのあるシロモノである。
「これ、覆面とかセットになってなかったか……?」
「覆面ですか? そういえば、確かあった気がします」
ややあって、揃いの覆面がエヴァルトのもとに届けられる。
その覆面を見て、エヴァルトはこれが自分の思った通りのものであることを確信した。
とある特撮番組に登場する悪の組織の戦闘員。
そのコスチュームが、確かちょうどこんな感じだったのである。
そんなことを思い出しながらこの衣装に着替え、彼が工場前に戻ってきた、ちょうどその時だった。
「ジョージアの部下の『戦闘員』よ! お前たちも敵を迎撃するのだっ!」
工場の中から聞こえてきた声。
まさにビンゴである。
「イー!」
エヴァルトは一声そう叫ぶと、ノリノリで「敵の迎撃」に向かってしまったのだった。
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